お待たせしました。ハノイレンジャー回です。
「……出落ちにも程がありません?」
「当然でしょう。こうでもしておかないと何をしでかすか分かりませんからね」
どうしてこうなったかざっくり説明すると、学校から帰宅した途端クラッキング・ドラゴンが突然『リボルバーが呼んでる!』と察知。皆に連絡する間も無く強制的にInto the VRAINSさせられ現在に至る。
「……さてはアナザーのウイルス使いましたね? 個人の意思ガン無視で強制ログインとか信じらんない。汚いなさすがスペクターきたない」
「裏切り者に汚いなどと言われる筋合いはありませんよ。このまま縊り殺してやりたいのですが……」
ちらり、と真横に視線をずらす。
『ヴーッ! ヴーッ! グルォァウ!』
ガチガチ歯を鳴らして威嚇を続けるクラッキング・ドラゴン。何かあれば即座にスペクターを血祭りにあげそうだ。あらやだ物騒。
「危害を加えてはならない、とリボルバー様の命令を受けておりますので。そのまま無様な姿を晒し続けなさい」
「ちょっとー、おたくの息子さん、私にだけ当たりが強すぎません?」
ぷらぷら揺れながら
それを見ていたスペクターは無言で手をぐっと握り、その動きと連動して締まりがきつくなる。スペクターの危害の定義は私の知っているものと違うようで。
「ちょっ、出る! モツ、モツが出る! 潰れちゃ、いででで」
くつくつと笑う声が届く。ちょっと待った、スペクターの機嫌は大絶賛降下中だ。笑うはずがない。じゃあ一体誰が笑っているのかと見下ろすと、
「あの時と変わりませんねぇ、元気そうで何よりです」
「げっ」
Dr.ゲノムがいつの間にか観戦していた。その後ろにはファウスト。三騎士の一人、バイラは現在収監されている。ここにいないハノイの騎士主要メンバー、残るは当然――。
「――そこまでにしておけ、スペクター」
「はっ、リボルバー様」
かつてと変わらぬ姿のリボルバーが命令を下す。巻きついていた根が緩み、やっと解放された。締められていた部分が地味に痛い。
「久しいな、ヴァンガード」
「リボルバー……様」
「プレイメーカーの仲間達と直接接触する訳にはいかないからな。我々と関わりがあるお前だけを連れてきた」
は、と気付いてデュエルディスクを操作――反応は無い。
「当然外部との連絡、ログアウトは不可能だ。その権限は今、こちら側にある」
暗にその気になればこの空間に閉じ込めることもできる、と脅している。完全に相手にアドバンテージがある以上、今は向こうの要求を呑むしかない。
「案ずるな、手荒なことをする気は無い。……早速だが、今回の件、お前自身はどう考えている?」
今回の件――恐らくサイバース世界の惨状についてだと当たりをつけ、プレイメーカー達にはあまり伝えていない自分の考えを話す。
「恐らく、イグニスの内乱……ですかね」
「…………ほう?」
それを聞いたリボルバーは片眉を上げる。
「ハノイの騎士がサイバース世界を襲撃してから、Aiがサイバース世界を隠していた事で誰も立ち入ることはできなかった。その間、イグニスがただボーッとしていたとは考えにくい。きっと人間に対してどうあるべきかを考えていた。……イグニスは意思を持つAI。意思を持つ以上、対立は十分に考えられる。そこで派閥が分かれ、誰も自分の意見を曲げない状況が続き、このままでは何も変わらないと確信したイグニス――おそらく反人間派――が行動を起こした……とまあ、こんなところですかね」
「成る程、プレイメーカーに何も考えずに付き従っていた訳ではなかった、と」
満足のいく答えを聞けたようで、リボルバーは笑みを深める。ファウストやゲノム等はヴァンガードがここまで考えていたとは思っていなかったようで、少しばかり驚いた様子を見せている。
「プレイメーカー達はイグニスとの和解を求めている。それを崩すような事だから、彼等には伝えてないんですけど」
「和解、か。そう上手くいくとは思えんがな……」
「…………それは、まあ」
あの時見えた、グラドスが風に襲われる光景。風のイグニスであるウィンディの管轄下で、風に。間違いなく、ウィンディは敵と繋がっている。
問題のグラドスは無事だと勘が告げているが、どこへ行ってしまったのかが分からないままだ。
「我々はゲート内で何があったのか、それを知りたいだけだ」
「……それに対して、ハノイの騎士は何を提供してくれるかによりますけど」
ふむ、と少しばかり考える様子を見せる。
「和解などという幻想を壊す十分な証拠……でどうだ?」
「………………それだけじゃ、足りません」
「貴様、リボルバー様に向かって何という口を――!」
飛びかかってきそうなほど身を乗り出すスペクターを、リボルバーは腕で抑えるようにして落ち着かせる。
「この件に関する間、プレイメーカー達と敵対しない事を。言い換えれば共闘ですね」
「共闘をそちらから持ち出すとはな。それに値するだけの情報がある、と?」
「ハノイの騎士がコレをどう受け取るか、によりますけどね」
共闘を否定しない、ということは向こうもその必要性を認めていると見ていいだろう。
「こちらは既にソウルバーナーの正体を掴んでいる。そのような事だとすれば釣り合わんぞ」
「冗談。そこまで悪じゃないですよ、っと」
私が仲間を売る非情な人間ではないという事ぐらい分かっているはずだ。必要であろう部分を纏めたデータを投げ渡す。
「――――っ!? 馬鹿かお前は!?」
それに目を通した瞬間、普段のリボルバーからは想像もつかないほど慌てる姿に幹部達もどよめく。
「ヴァンガード、リボルバー様に一体何を――」
ファウストが問いかける。それに答えたのは未だ戸惑うリボルバーだった。
「――――ゲート内で何が起きたかに加え、自身のデッキ、サイドデッキの構築を敵に渡すデュエリストを馬鹿と言わずしてなんと呼べと?」
「…………………………今、何と?」
理解できないものを見る視線が私に集まる。
「敵じゃないですよ、共闘相手ですよ。それに、渡したといってもスピードデュエルのデッキだけですし。……ハノイの騎士は、リボルバーは、
この世界で、デュエリストの魂を価値なしと切り捨てる人間などいない。もしいるのならそれは――デュエリストを名乗る資格など無いクズだけだ。
「……謀ったか、ヴァンガード」
「結果的には、そうなりましたね」
顔を歪めるファウスト。優位に立っているのがどちらなのかよく分からなくなってきた。
「SOLのバウンティハンター、サブウェイマスターとしての顔も持つようになったせいですかね? ……うわSOLっぽくなるとか嫌だ」
「…………」
ヴァンガードはデッキの全てを見せ、ハノイの騎士との協力を仰いでいる。つまりそれは、我々がそれ相応の価値を持つ存在だと見ている事に他ならない。
ハノイの騎士は現在、ごく一握りの主要な人物のみで構成されている。そこへヴァンガードの繋がりを使えば、かつて配下だった者も一時的とはいえ集まるだろう。
ヴァンガードの提案はリボルバーにしてみればメリットが圧倒的に大きい。問題なのはスペクターがどうなるかぐらいだが、ヴァンガードもそれは承知の上だろう。
「……いいだろう、共闘は成立だ。詳細は追って連絡する。コレは先に渡しておこう」
自分自身をチップにした博打は上手くいったようだ。リボルバーから送信された証拠とやらは、何か嫌な予感がするのでカフェ・ナギに皆集まった時に開くことにした。
「しかしオルフェゴール、か。既にリンクマジックへの対策を済ませているとはな」
「狙って構築した訳じゃないんですけどね」
敵がリンク状態の時にオルフェゴールは真価を発揮する。リンクマジック対策、と言えるだろう。
「風のイグニスのワールドの奥にリンクマジックを使用する敵が存在した事実、更にマスターデュエルでのストームアクセスとは……興味深い」
ここまで証拠が揃えばイグニスを滅ぼそうとするハノイの騎士としては好都合だろう。
「しかしヴァンガード……貴方、よくもまあこんなデッキを作る気になりましたねぇ?」
「こんなって何ですか、こんなって! 自分でもどうしてフル回転するのかはうまく説明できませんけど!」
精霊憑いてるならいけるだろ! とノリノリで入れれそうなカードを突っ込んだ結果、真面目に「……何だコレ」ってデッキが完成してしまった。
ハノイの騎士時代にメインにしていた闇属性機械族。そこへオルフェゴール、星遺物、出張閃刀姫、闇属性のサポートカードを加え、エクストラデッキにリンクとシンクロ、エクシーズを採用。
コンセプトは『特殊召喚を多用して大型モンスターを出す』それ一点。
デッキをまるっと見せて「どこにメタを張る?」と問いかければ「どこってどこ?」みたいな答えが返ってくる出来となってしまったコレ。実際、構築がバレてもそこまで痛くはないのだ。何が出るかわからないからね。
……え、クリスティア? ロックされたら? 何とかしてくれる。そう、精霊ならね。
「馬鹿にしてます?」
「いいえ? やはり優れたデュエリストだと再確認しただけですが……よろしければDNAを」
『ギャウッ!!』
まだ懲りないDNAクレクレおじさん。こんな話をしている中、只々ヴァンガードに殺気を飛ばし続けるスペクターを皆スルーできるのも慣れというものか。
「……最後に一つだけ問おう。お前の目から見て、ブラッドシェパードはどんな男だ?」
電脳トレジャーハンターで最高のハッキングテクニックを持ち、狙った獲物はどんな手を使おうと逃さない悪評高い男――世間一般から見るブラッドシェパードの評価だ。
SOLで同じくバウンティハンターをする事となったヴァンガード、いやサブウェイマスターは彼の勧誘に応じた。常にこちらの予想を良くも悪くも超えてくる彼女ならば、彼の本心の一端を見ている可能性がある。
「ブラッドシェパード、ですか? 何かとよく気にしてくれるいい人ですけど」
「……ふっ。そうか、感謝する」
ブラッドシェパードに対していい人、と評価を下せるのは後にも先にも今上詩織だけだろう。
パチン、と指を鳴らす音がやけに大きく響いた。ログアウトさせられる直前、前触れもなく視界に大きな物が現れる。だが、誰もそれを気にする様子はない。
「(あれは……)」
スペクターを守るように、うっすらと見える
『――あのこはわるいこじゃないの、たいせつなものをまもりたいだけ。また、まえみたいになかよくなれるはず。これからよろしく、ね』
目を開く。見慣れた自分家の玄関だ。側にふわふわと漂うクラッキング・ドラゴンもいる。
「ねえクラッキング・ドラゴン。あれって、もしかしてさ……」
『……うん、精霊だ。びっくり』
「それもすっごい親バカ……」
『…………うん』
悪い子じゃないんですよ、ってセリフ自体が信用性0に近いんですけど。それに、どこをどう切り取って『前みたいに仲良く』なのか説明してほしい。
「……そういやさ、私のデュエルディスクに精霊がたくさんいるってのは何となく理解してるけど、なんでクラッキング・ドラゴンしか現実には出てこないの?」
『単純に、現代と精霊は相性が悪いから。信仰もかなり減っちゃったし。やっぱり科学とオカルトは馴染みにくいの』
「……クラッキング・ドラゴンって結構すごい?」
『頑張ってます。えっへん』
かつてリンクヴレインズを恐怖に陥れた機械龍はむっふー、と胸を張る。ハノイの騎士の手によって効果を加えられた過去を持つこのモンスターは、オカルトではなく科学寄りの存在だから安定して現実世界に出られるのだろうか。
「それと、なんで私のデュエルディスク? 他にもっと住み心地いい場所あるでしょ?」
『ご主人マジメに精霊信じてるから。そのせいだと思うけど、デュエルディスクの中かなり居心地がいいの。だから皆集まってきたんだよ? ……集まりすぎて中が精霊界みたいになっちゃったのはアレだけど』
「あっそういう理由で? なるほど納得した」
精霊信仰の欠けているこの世界で、精霊の存在を本気で信じているのはほんの一握り……いや、下手すると私だけかもしれない。
それにしても皆集まってきたって、私は珍獣か! いや転生者って珍獣よりもレアか。だが俺はレアだぜ。報酬は高い……あ、ゴーストガールにいつ連絡しよう。もろもろについてはカフェ・ナギ行ったときに相談しよ。
『……で、問題のスペクターの野郎だけど』
「育ちがかなりのオカルト案件だからねぇ……精霊憑いててもおかしくないとは思う」
『へー、そうなの? 知らなかった』
幼い頃のシーンだけならGX出演できるレベルのオカルトっぷり、スペクター。ふと言った後で気づく。やっべなんでスペクターの過去知ってんねんとかつっこまれたらヤババナイト!
「なんで知っているのかは内緒で頼むよ」
『ん! わかってるー!』
尻尾ふりふり。いい子いい子、と撫でるとさらにふりふりが加速する。
――で、デュエルディスクが精霊界に似た環境になってて? グラドスが消える直前デュエルディスクが光って?
「……グラドス、まさか……ねえ?」
サイバース世界だけじゃなく、精霊界も巻き込んだ戦いになるとか笑えない。いっそのこと戦いが終わるまでグラドスを精霊界に逃がしておいた方が良さげな気もする。
「お祓い真面目に検討するかー…………はぁ」
――草薙さんから怒りの電話が届くまで、あと5秒。
ハノイレンジャー回と言ったがあの戦隊ウォークに参加するとは言っていない!まず主人公がクルーザーに乗る事は不可能なので。乗った瞬間にスペクターが海に蹴落とすからね、仕方ないね。
ヴァンガードをログアウトさせた後に、バイラを迎えに行って「今ここにハノイの騎士は復活する!」します。
バイラに面白い土産話ができたね、リボルバー様!(スペクターから目を背けながら)
共闘が早まった事でアレとかコレとかも早まります。わーい。アニメと違う展開に持って行きたいのがバレバレだ。精霊界出してきてる時点で察していた人も多いかな?
アニメでは見れなかったソウルバーナーとリボルバーのデュエルですが、小説でガッツリやった方がいいかな……?リボルバー様のストラクも出ますしね。……あ、もしかしなくてもストラク対決になる……?