どうも、ハノイの騎士(バイト)です。   作:ウボァー

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慟哭

 勝った。勝ったのだ。倒すべき相手、ヴァンガードに。ハノイの騎士に。喜ばしい事の筈だ。

 

 ――なら、この空虚は一体何だ?

 

「大丈夫か、グラドス!?」

 

「……え、ええ。私自身のデータに損傷はありません。ですが、デッキが……」

 

 無機質な照準が撃ち抜いたのは私ではなくデッキデータのみ。修復することは出来るが、ハノイの塔完成までに間に合わなければ意味がない。何度計算しても帰ってくるのは無慈悲な答えだけだった。ここまで来たのに、最後で戦えなくなってしまった。

 

「申し訳、ありません……」

 

「誰にもあれは避けられなかった。……それに、デュエル以外にもできる事があるはずだ」

 

 デュエルができない。この局面においてそれは致命的だ。はっきり言って邪魔者になった私を、プレイメーカーは見捨てないでいてくれる。ハノイの騎士を止められるのは今ここにいる私達だけだから、というのもあるのだろう。

 

「……プレイメーカー、貴方は……。いえ、やめておきましょう」

 

 ヴァンガードはプレイメーカーの友だった。その衝撃は私が理解しているより精神にのし掛かってくるだろう。今は大丈夫そうに見えても、後でどうなるかまでは分からない。

 スペクターが言っていた。迷いと後悔は別かもしれない、と。……だからこそ、今できる最善を尽くそう。彼に全て背負わせてはいけない。一人にさせてはいけない。そんな気がする。

 

「そうですね、ハノイの塔の完成を妨害する程度ならできる可能性があるかと。……最後まで戦いましょうか」

 

 ハノイの塔は扱いを間違えれば自分も巻き添えを喰らう、とても危険性が高いプログラムだ。万が一に備えて何かしらストッパー、緊急停止等の仕組みはあるはず。それを利用すれば、データとなった人々も戻ってこれるはず。

 

「もう三段目までできちまってる。急がないとヤバイぜ、プレイメーカー、グラドス!」

 

 Aiが言う通りだ。今は前に進まなければいけない。……皆が望むのはハッピーエンドだ。そんな事もあったなあ、と皆で笑い飛ばせるように日が来るように。

 

 橋は崩壊し、彼らは消えた。名残惜しむように私達がデュエルしていた場所を見つめる。物思いにふける時間はそう残っていない。すぐにハノイの塔を止めなければならないからだ。

 

「…………」

 

 ヴァンガードはプレイメーカーを急かした。あのような言い方だったのは、自分がハノイの騎士であり、敵だと認識しているからだ。デュエル中、自分が友である事を利用した揺さぶりもせず。敗北した時に、お前の仲間がお前の友を殺したと責めもせず。最期まで悪になれなかった人。

 

 ――ヴァンガード。もしも、です。もしもあの時に少しでも時間があれば、貴方は最期に何を伝えたかったのですか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「GLAD、OSか……。ずいぶんとふざけた名前だ」

 

『祈りはしない、ただデッキを信じるだけだ!』

 

 普通のAIならば勝つ為の計算を行い、あそこで絶望するだろう。一回休みにより、サイバー流がよく使用するパワーボンドやサイバネティック・フュージョン・サポートでは切り抜けられない状況。心は折れず、逆境を覆せるたった一枚を、オネストを引き当てた。

 

 グラドスの言動の端々に彼女の影を見る。この世界に滅びをもたらすイグニス、と言うよりは一人のデュエリストと言った方がしっくり来る。元がデュエル用のAIだから、なのだろうか。それとも、ハノイの騎士とならなかった可能性、ifのヴァンガードと見るべきか。

 彼女が現実世界でプレイメーカーの友であった。それは覆しようがない事実。私自らハノイの騎士に引き入れなかったなら、プレイメーカーと共に我々に牙をむいただろう。

 

 イグニスはロスト事件の子供達をモデルに造られた。それをなぞるように、グラドスはヴァンガードをモデルとして誕生した。だが、半年という時間はかけず、たった一言で自我が芽生えた。だから、なのだろうか。他のイグニスとは違う、何かを感じるのだ。

 

 ――人間とイグニスとの橋渡し、グラドスはそれを可能にするかもしれない。

 

 だが、いずれ世界を崩壊させる火種となる可能性が少しでもある限り、イグニスは滅ぼさなければならない。

 棺には、崇高な目的のため犠牲となった彼らが横たわっている。この計画が成功すれば、彼らは――。

 コートを翻し、決戦の地へと向かう。

 

「待っていろ、プレイメーカー……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 誰かがデュエルしている、とカエルが指した方向へ向かうと、そこではGO鬼塚とリボルバーがデュエルをしている最中だった。鬼塚のフィールドには剛鬼サンダー・オーガ、ツイストコブラ、スープレックス、ライジングスコーピオの4体が並んでいる。ライフポイントはどちらも4000。デュエルは始まったばかりのようだ。

 

「あいつ! めちゃくちゃ張り切ってんじゃん」

 

「……最初から飛ばしすぎるのも考えものですがね」

 

 リンク3のモンスターを出しているにも関わらず、フィールドに4体もモンスターがいるという事は、恐らく剛鬼再戦を使用したのだろう。リボルバーが使う恐ろしいカードが何かわからない今、高リンクモンスターへ繋げられる残り2枚の剛鬼再戦は使い所を見極めないといけない。

 

「出遅れたなプレイメーカー。生憎だがリボルバーは俺が倒す。お前はそこで黙って見ていろ」

 

 GO鬼塚は自信満々にそう言い切る。彼はトップクラスの腕を持つカリスマデュエリストの一人、勝つ可能性は十分にある。なのに、何故だろうか。胸騒ぎがする。

 

「それでも、今は私に出来ることをするのみです」

 

 ハノイの塔を解析する。ありとあらゆるデータを吸収しているそれに隠されているだろうプログラムを探し当て、起動させる。ここにいる私にしかできないこと。

 

「貴様はヴァンガードがなした策によってデュエルはできない。だからハノイの塔そのものを止めにかかった、か。……無駄な事を」

 

「無駄かどうかはやってみなくてはわからないでしょう?」

 

 リボルバーはそれを聞くとふん、と鼻で笑い、デュエルが再開した。

 

 剛鬼サンダー・オーガの効果でトリガー・ヴルムを。トポロジック・ボマー・ドラゴンに対して剛鬼ジャドウ・オーガを。互いに相手のカードを利用した戦術。これが世界の命運がかかった戦いでなければ拍手喝采が起きていたであろう。だが、ここに彼らを応援するファンはいない。

 リンク・プロテクションの効果により、鬼塚はフィールドに4体のリンクモンスターを揃えなければ攻撃できないロックを仕掛けられた。ならばあと2体増やすまで、と鬼塚が動く。

 

「……お見事!」

 

 鮮やかに、たった1ターンでリンクモンスターを2体増やし、合計4体。複数のリンクモンスターを出させること。それが、リボルバーの仕掛けた罠であると気付くのはすぐだった。

 

「底知れぬ絶望の淵へ、沈め!」

 

 ――聖なるバリア -ミラーフォース-。

 

 ゴーストガールが伝えた、リボルバーの恐ろしいカード。フィールドは一掃されたが、それが逆にGO鬼塚の闘志を燃やすきっかけとなった。その不屈の闘志に敬意を表し、リボルバーもヴァレットモンスターを使用する。

 

 自分自身の為だけに戦うGO鬼塚、目的の為に戦うリボルバー。対照的な二人のフィールドには剛鬼ザ・ジャイアントオーガとヴァレルソード・ドラゴン。ともにリンク4の切り札。一度は攻撃を凌いだが、ヴァレルソード・ドラゴンの二回目の攻撃が迫る。

 

「電光の、ヴァレルソード・スラッシュ!!」

 

 ヴァレルソード・ドラゴンの剣がザ・ジャイアント・オーガを両断する。

 ――鬼塚のライフはゼロになった。赤い光のかけらが舞う。

 

「プレイメーカー、俺が出来るのはここまでだ」

 

「GO鬼塚、お前のおかげで奴の手の内を知ることができた」

 

「ふっ……後を頼む」

 

 最期の言葉を残し、GO鬼塚は消滅した。彼が消えるのを目の当たりにして、感情がぐつぐつと沸き上がる。激情のまま叫ぶ。

 

「ふざけるな! リボルバー!」

 

「グラドス、お前……!?」

 

 ぎょっとした目でこちらを見るAi。誰もこんな事を望んでいない。私が学んだデュエルは、皆に希望を与えるものだ。笑顔を、未来を、絆を。決して、世界を混乱させる道具ではない!

 

「……こんな、こんなものが! デュエルであっていい筈がないッ!!」

 

 怒りと悲しみを含んだグラドスの慟哭がリンクヴレインズに反響する。

 

「貴方にも同じ信念の元に戦った仲間がいる! それを全て自分の手で消して、孤独になる事の何が正義だ! 答えろリボルバー!」

 

「黙れ! 私を倒せるデュエリストはプレイメーカーただ一人、戦えぬデュエリストの戯言に耳を貸す気はない!」

 

 何故、なのだろう。ヴァンガード、貴方が言いたかった言葉が分かる気がする。それは、貴方自身が彼に伝えるべきこと。私の意思の元になったのが貴方ならば、これは貴方の怒りでもある。今ここにいない貴方の代わりに私は叫ぶ。必ず、ハノイの塔を止めてみせる。

 

 ――貴方はきっと、彼にハノイの塔を止めてくれと頼んだだろうから。




今更ですが、アニメに追いつきすぎて書くのが大変です。早く書きたい書きたいとどんどん更新して追いついた時はあっ……てなりました。
アニメがイグニスについて情報くれたのでちょろっと絡めたり。グラドスはヴァンガードをモデルにして誕生したイグニスだったんだよ!これ母と子の関係ってよりもう一人の僕の方がしっくりくるな。

Ai<我は汝、汝は我……。
遊作<チェンジで

あと幼少期リボルバー様かわいい。こんな衝撃を受けたのはIII以来だ……。

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