教室には私達三人だけ。帰る準備終わったところを見計らって島君が切り出した。
「なぁ、このままただ傍観してるだけでいいと思うか!? プレイメーカーやブルーエンジェルはハノイの騎士と戦ってる!」
「それが?」
君の目の前にいるのがプレイメーカーです。その隣にいるのがハノイの騎士です。デュエル部にはブルーエンジェルもいます。やだ、この学校有名人多すぎ……?
「今デュエル部は休部状態だけど、ここはデュエリストとして俺達も……」
「やめた方が良い」
「んー、今は無理しなくてもよくない?」
というか、二人とも絶対に参加できません。正体がアレですから。
「何でだ!?」
「理由は三つある」
指を立てながら冷静に説明する遊作君。どれも図星だったのか、反論の言葉からは焦りが見えた。
「なっ!? 俺が怖がってるだと? 今上はどう思ってるんだ!?」
「みーとぅー、かな。ハノイの騎士との戦いにデュエリスト一人増えても大して状況は好転しない。それに、島君みたいな人ネットに一杯いるし、結果出せてるのは一握り。もしかしたら人質になって利用されるかもしれない。……プレイメーカーに迷惑かけたくないでしょ?」
こう言った方が島君には効く。憧れの人にみっともない姿は見せたくないからね。島君は予想通り言葉に詰まった。
「それと遊作君、その言い方煽ってるように聞こえたよ」
「そうだったか?」
「無自覚かー」
言い方変えればよかったけどなー。本心を人にずかずか言われるのきっついよ?
「っ、相談する相手を間違えた!」
「あ、ちょっ……」
手を伸ばしても止められず、島君は教室を出て行った。
「……絶対無茶するよね、あれ」
「だろうな」
誰もいない部室に一人、島直樹はうずくまっていた。
「今上がいれば百人力だったのに……」
はあ、と溜息をつく。彼女――今上詩織は数々の大会で結果を出しデュエル部の期待を背負っている。対して自分はどうだろか? 熱さと意気込みだけ、形や格好ばっか。リンクヴレインズにログインしたことが一度も無い。今まで機会は何度もあったというのに。
「いざとなると……」
二人の言う通りやめておこうか、そう思った最中勝手にダウンロードが開始される。何だ何だ、と止める間は無くダウンロードされたのはサイバース・ウィザード。何故このカードがダウンロードされたのか。それを自分がプレイメーカーに選ばれた男だと勘違いした彼は、その後押しを受けログインした。
ヴェルズ使いの部下から連絡が入る。なんでも自称プレイメーカーに認められたデュエリストがいるとか。
「サイバース・ウィザードを持ったロンリーブレイブ……」
ワー、イッタイダレナンダロウナー。
「……とにかく、今ファウスト様が正体調べてるから何とか時間稼いで! デッキ回して!」
えっ、とか言ってた気がするけど気にしない。頑張れ、きっと君ならできるさ。
「時間足りなかったら私も後で行くから、頑張って!」
遊戯王史に残るぐだぐだデュエル。どっちの手札も知っている身からするとあの命令は凄く気まずい。あ、あれグレズ様呼ばずにインヴェルズ・オリジンで良かったんじゃとか言っちゃダメよ? グレズ様にはロマンが詰まっているのさ……。
「マックス!」
「マックス!」
彼は助け出した人々に取り囲まれていた。今ここに受け継がれる万丈目サンダーの系譜。
「へー、ハノイの騎士一人倒しただけでここまで盛り上がれるんだ。それなら次は私が相手になろうかな?」
「…………え?」
歓声が一瞬で静まり返る。ぎぎぎと効果音つけてもいいぐらいの動きで、ブレイブマックスがこちらを向く。
「お久しぶり、リンクヴレインズの皆さん」
あの後からめっきり姿を見せなくなったデュエリスト。俺、参上! ……なんちゃって。
「な、あ、ヴァンガード!?」
にっこりと笑いながら、す、とデュエルディスクを掲げて近寄る。
「部下以外でこのデッキの相手になれるのは君が初めてだよ、ブレイブマックス。……君を倒したらプレイメーカーも出てくるのかな?」
まあ、遊作君達はこの映像見ているとは思うけど。
「……んー、別に逃げてもいいんだよ?」
「え、う……っ」
目に見えてわかるほどに戸惑っている。向こうは私が問答無用でデュエルしかけてくると思っていたかもしれないけど、怯える友人に手を上げるってのはさすがにね。そんな静寂を割いたのは私の着信音。
「……はい、はい。……了解です」
ファウスト様から連絡。ブレイブマックスの正体分かったから時間稼ぎ終了していいよとの事。
「残念だけど予定入っちゃった。デュエルはまた今度ってことで。それでは皆さん。ハロー、そしてグッドバイ!」
そおい、とヴァンガードが何処からともなく取り出したレスキューフェレットを上へ放り投げる。まさか投げられるとは思っていなかったのか、涙目になったフェレットが発光し、視界が光に包まれて……その場にいた全員を強制的にログアウトさせた。
「さーて、ファウスト様の所行きますかー」
ブレイブマックスを強制的にログインさせる地点の情報も来た。クラッキングに乗って移動、ビルの屋上でファウスト様の出待ち。数分して、ブレイブマックスを連れて現れた。
「あ……あんた誰なんだよ!」
「我が名はファウスト」
「そして私の上司でもあります」
空を見上げる。
「プレイメーカー、私と勝負したまえ。拒むのであれば、この男を倒しサイバースのカードはいただく」
「余ったブレイブマックスはクラッキング・ドラゴンのおやつになるかもねー。……いや、拷問ってのもアリかもしれない」
シャアア、と口を開けてブレイブマックスに寄るクラッキング・ドラゴン。彼はひっ、と息を飲んだ。じりじり後退し、後一歩で転落するところまで来てしまった。
「だ、誰か! 誰か助けてくれよ!」
ちゃんと決断待ってあげたり、ブレイブマックスの分もデュエルボードも用意するファウスト様。良い人、だよね。……五年前、本当に何をしたんだろうか。
「お前の相手は俺だ!」
「あ、来た」
データストームに乗って現れたプレイメーカー。助けを呼んだらヒーローがやって来るって、島君ヒロインかな? テンション上がった島君がわやわやしていたけど、後は任せろ、とブレイブマックスとの会話をすっぱり切ってこちらに話しかけてくる。
「お前がアナザー事件の首謀者最後の一人か? 随分手の込んだことをしてくれたな」
カードデータを盗んだのはハノイの騎士だ、と言いがかりをつけてくるプレイメーカー。
「何のことだ?」
「やったことの無い悪事を押し付けるのいくない。完全に濡れ衣ですー」
何!? と驚くプレイメーカー。そして会話に急に参加して方向転換を促すAi。……これ、絶対犯人Aiだよね。怪しすぎる。
「灯台下暗し、君が犯人だったりするんじゃない? イグニス」
「何を根拠に言ってるんだよ、ハノイの騎士の癖に。それに! 俺にはAiって立派な名前が」
「あ、そこはどうでもいい」
ちょっとでも遊作君に疑問の種を植えておきたい。ベクター的展開、主に裏切りに耐性をつけてあげないときついよね、遊戯王って。そして、原作通りデータゲイルは発動され、デュエルが始まった。二人の後ろ姿を見送る。
「……どうかご武運を、ファウスト様」
はい、ブレイブマックスとヴァンガード、二人ここに取り残されてしまいました。
「……って、もしかしてお前が俺とデュエルするのか!?」
慌てるブレイブマックス。
「いや、君とデュエルはしないよ? 本命のプレイメーカーも出てきたことだし」
「そうか、よかった……」
ほっとした表情のブレイブマックス。
「ブレイブ、なんて名前の割に臆病だねー。大丈夫?」
「ぐっ……それは、その……」
「勇気、ね……えー、こほん」
深呼吸してあのセリフを思い出す。遊戯王作品ではないけれど、あの作品も名作です。
「勇者とは勇気あるもの! そして真の勇気とは打算無きもの! 相手によって出したり引っ込めたりするのは本当の勇気じゃあないっ!」
ぽかーん、とした顔のブレイブマックス。
「ま、よーするに君に足りないのはかっとビングだね」
「? か、かっと……?」
「かっとビング、それは勇気を持って一歩踏み出す事。それはどんなピンチでも諦めない事。それはあらゆる困難にチャレンジすること」
遊馬先生ほどのカウンセリングはできないけど、友達の悩んでいる姿を放ってはおけないよね。
「かっとビング……」
「余計な事言っちゃったかな。きっとファウスト様が勝つだろうし、それじゃ私は裏技使ってログアウトしとくかー」
レスキューアニマルを全員集合させて、全部の強制ログアウトプログラムを起動させる。データゲイルの中でもこれならログアウトできるんですよね。
「バイバイ、ブレイブマックス。君がハノイの騎士に来るなら歓迎するよ?」
「な……誰がハノイの騎士なんかに!」
だよねー。ハノイの騎士はテロ組織ですから。あの変態が特例なのかなやっぱり。明日学校で会ったら人として、デュエリストとして一皮剥けているのを待ってますよ、島君。
ダイの大冒険読んだことあるJK、それがヴァンガード。