少佐の点てた茶を味わい、一息つく。
「…ふぅ。結構なお手前で。しかし、なかなか堂に入ってますね。…和装も、似合ってますよ」
目の前の彼女は苦笑しながら答える。
「なに、昔取った杵柄というやつさ。なにしろ無駄に歳ばかり食っているものだから経験だけは長々と積み上げたのでな。…まあ、原初の出身国のことを考えれば、いささか奇妙に思えるかもしれんがね。まだ若く見える貴様なら、なおさらそう感じるだろう?」
なにやらからかうような口調で言われてしまった。…若い、ねえ?
「…若いといっても普通に結構なお婆ちゃんの歳ですけどね、私も。まあ、あなたも含めてこの世界の方々には遠く及びませんが。……では、手を出してください。その方が長々と話すよりも遥かに情報伝達が早いので」
「ああ…これでいいか?」
差し出された手を握る。……暖かい。まだ生きている。…まだ。
「…ええ。ではそちらに流します。どうぞ」
バチィッ!
「ふむ。…ほう。これはまた、随分と変わった世界があったものだな。また懐かしい時代だが……ん?これは……くくっ。かなり引っ掻き回したようだな?なにやら愉快なことになっているようだが」
「…その節はあなたの言葉も勝手に使わせていただきまして…はは」
何やら恥ずかしい。…変な例えだが、母親に黒歴史を余さず見られたような心境だ。
ああ黒歴史、黒歴史。
「構わんよ。まあもっとも、これから言ってやる予定の言葉だがな。まだまだ経験の浅く、未熟だった頃の私には、さぞかし効いただろうな、ふふふ」
…綺麗な笑い方をするようになったものだ。でももう彼女に残された時間は少ない。若者たちに後を託し、最後の炎を咲かせるつもりなのだろう。…残された者たちに教えを残して。
「…あなたは、散るおつもりですね。主君の為、自分の為、仲間の為、そして彼らにあなたの教えを伝えるために。……その、私…私は…。私に何か…」
口に出してから後悔する。余所者の私に何ができるというのだ。ましてこの世界は極めて特異な環境に包まれている。結構な変わり種である自覚はあるが、別世界とはいえ、私の魂も旧世界に属している。私の出る幕などないだろう。
彼女の覚悟を馬鹿にするような言葉を紡いでしまったことを悔い、怒りと共に説教をされるだろうと思っていたが、予想に反して彼女は薄く笑みを表情に浮かべていた。
「…気持ちだけ、貰っておくとしよう。この世界の事は、この世界の者が解決するべき問題であり、世の未来を決める権利は現在を生きる者達にある。余所の者に手を借りる程、人材不足でもないしな」
そう、出過ぎた真似をした私を優しく窘めると、彼女は不敵に笑う。
「…それとも何か?そんなに私が頼りない女に見えるか?昔なら想像も出来なかっただろうが、今では母親などというものまでやっているのだぞ。…母は強し、だよ」
「…少佐」
ポンポンと私の頭を優しく叩いてくる。
「案ずるな。私は…我らは、負けぬさ」
そう、確信のこもった声音で、告げるのだった。
花に囲まれた小さな墓がある。
「龍明殿、それは……」
「黄昏……?」
「いいや」
彼女は爾子と丁禮の言を否定し、答える。
「彼女は違う、太陽だ。ほら、だからこの奥羽は、夜が来ないようになっているのさ。…もう出てきていいぞ」
…隠れるのを止め、姿を現す。私の姿を見た爾子と丁禮は驚きつつも、どこか納得したような表情を浮かべている。
「あなたは…。いえ、聞かされてはいましたが…これは、確かに」
「懐かしすぎますのー!」
…驚きの感情があるのはこちらも同じだ。こうも変わってしまっていると、いささか奇妙な感情に囚われてしまう。
「…そちらもまた、随分と丸くなったようで。私からすれば、つい先日のことですので、なんとも言えない変な感じですね。…会えて嬉しいですよ、初めまして」
なにやら苦笑されてしまった。奇妙に感じているのは向こうも同じらしい。
…さて、用件を済ませるとしましょうか。
目の前の墓の前にしゃがんで『彼女』に挨拶する。
「…初めまして、というのも変な感じですね。後輩達の指導、お疲れ様です。…ごめんなさい。
私は、あなた達に何もしてあげられません。でも、どうか最後まで見届けることをゆるしてください。お願いします」
分かっていても懺悔してしまう。…まったく、情けないですね。
そんな私に『彼女』は答えてくれた。
―――大丈夫。みんな負けないよ、きっと勝つ。だから、そんなに自分を責めないで。……あなたの世界、仲間を大切にね。
「……本当、強いですよね。眩しいです。あなた達は……」
…また格好悪い真似、してしまいました。
そんな私の背中をトントンと爾子と丁禮の手が叩いてくれる。…はは。
「…触れても、砕けないんですね」
私の言葉に苦笑しつつ、彼らは私に言葉をかける。
「我らは自身の望み、本当の渇望を得ています。…もう、間違えませんよ」
「抱きしめてほしいですのー!」
「…黄昏でなくて、申し訳ないですが」
二人を自分なりに抱きしめる私に、彼らは…。
「…あなたの世界で会うことがあれば、抱いてやってください。きっと、喜びますよ。…心配は無用です。勝ちますよ、我々は」
「勝利を我らにー、ですの!」
「…ああ、負けは、しないさ」
…そう、告げるのだった。
「家族を犠牲にして……それでも生き残らなくてはいけない。そういうことを、もうわたくしは出来ないのです……あなた達もまた」
戦いは激しさを増す。
「聖槍十三騎士団黒円卓に連なる者ども―――第五、第六、第八、第十一!レオン、マレウス、ゾーネンキント、そしてバビロンに申し渡す!…その存在は世界に容認されていない!受けよこの一矢!天魔覆滅!」
散っていく。
「共に逝こうか、アンナ。これも腐れ縁だろう」
英雄たちが。
「わたしが守り通した、つまらない意地を―――永遠にしてくれて、ありがとう」
旧世界の者達が。
「知らなかった。私たち、揃いも揃って立派な親馬鹿だったなんて―――もっと早く……気づけば、よかったかな」
黄昏の英雄達が。
「
散っていく。
「……」
一人。
「帰ろう、あの優しい黄昏に」
また一人と。
「うん、ずっと、一緒に」
黄昏の残滓が消えていく。
「消え失せやがれ幻がッ!俺の、俺たちの魂は、てめえらの搾りカスなんかじゃねえんだからよォォオオ――ッ!」
『綺麗なベイなど断じて認めん。気味が悪い』
「…いや、それは……よく似た別のだれかですから」
「涙が止むまで好きにやりな。そしていつか、嘆きに飽いたその時は――いつかの面子でまた騒ごうや」
次代に託すために。
「ではな、今度こそ、最期の別れだ……兄弟」
新世界の為に。
「――私、今、だれよりも幸せ」
…愛する者のために。
「―――そうだ。それでいい。…おまえの、勝ちだよ」
―――そして。
…最期の一人がこれから本当の戦いに挑むであろう者達へ言葉を送り、逝く。
皆、見事に逝ってしまいましたね。
分かっているけど、見ているだけなのが口惜しく、佇む私に消えゆく彼の視線が向く。
…私を、見て、いる?
―――見届けてくれて、礼を言う。ありがとう。…自分の世界と仲間を、大切にな」
「…皆、同じことを言って、くれるんですね……」
苦笑いが零れる。皆、逝った。もう私にこの世界ですることは残っていない。
…いや、最後に、一つだけ。
「…いいですよね?メルクリウス」
『わかっているよ』
花嫁がブーケを投げる。
…彼らの『再会』と、彼らの結婚式を見届け終わった。
これも一つのハッピーエンド、か。
「では、帰りましょうか、元の世界へ」
「もういいのかね?ずいぶんあっさりとしているが、彼らに、嫉妬の一つでも感じたりはしないのかな?」
…そりゃまあ、少しは妬けますけど、でも。
「私には私の彼がいます。…それに、彼らがずっと、頑張り、想いあってきたのは知っていますから。あなたこそ何か思ったりはしないんですか?」
逆に水銀に質問を返す。
「…以前にも言っただろうが、私は女神亡き世界など御免こうむる。ああ、心底どうでもいいともさ。だが…」
珍しく、本当に珍しく何も裏のない笑みを浮かべて言った。
「認めよう。彼らは実に素晴らしい。誰にも彼らを否定することなど出来はせんよ」
珍しくいいこと言いましたね、この人。
「…では、行きますか」
最後に彼ら、新世界の八百万達にエールを贈ろう。
「…がんばれ、後輩」
そうして私は、この世界から姿を消した。
「……ん?今何か聞こえたような」
「どうした、覇吐?」
「いや、なんでもない」
…なんか分からんがやる気が出てきたな。ようし、いっちょ頑張るとしますか!
~おまけ・上位世界にて~
「あの戦いの時の服装で行けっていうからそうしたけど、本当に大丈夫なのか?俺はともかくおまえの格好は浮きまくってるんじゃないか?」
なにやら不安気味な蓮に言葉を返す。
「大丈夫ですよ、この街ではね!」
そう、今私はあの街、上位世界(現実世界)は秋○原に来ているのだ!
「あーすいませんお二人さん。お写真、撮らせてもらっても良いですかね?ベアトリスと蓮のコスプレでしょ?すごく良くできてるなー!」
カメラ小僧君が湧いてくる。まあ、ここでこの格好してればそうなりますよね。
「何言ってんだ。駄目に決ま「はいはーい!じゃんじゃん撮っていいですよー!ただし、五分だけねですよー!」…おい」
蓮がジト目を向けて抗議してきますがなんのその。
「こういうのはノリですよノリ。さ、かっこいいポーズの一つでもとってみたらどうですか?」
「おいおいマジか…」
「ありがとうございます!では失礼して!皆撮るぞー!」
「「「おー!!!」」」
わ、いつの間にか野次馬もいっぱい寄ってきましたね。
…腕とか組んじゃいましょうか。
「おおー!腕組んじゃって、なんかお暑いですねー。リア充ですねー。けっ」
「浮気じゃないんですかー?」
「練炭xベア子…ありだな!」
なんだか賑やかなカメラさん達ですね。
「あはは、浮気じゃないですよー?そうです、私がルートヒロインです!」
「…誰に向かって言ってるんだお前は」
シャラップ!
「…いやーそれにしてもお二人ともホントにそっくりですね。声まで似てるなんてまるで本物みたいですねー」
本物です。
「いやあ、それほどでもありますよー、あはっ!」
閑話休題。
撮影タイムも終了し、買い物をする。
「えーと、水銀に頼まれたサントラは…と、これね」
「…あいつCDなんて聞くのか?とてもそんな奴には見えないんだが」
訝しげな表情でなんか見てくるので答える。
「なんでも今度趣味の歌劇だかなんだかに使うとか言ってましたけど」
「…劇?またぞろ悪趣味な脚本でも書いたのか?…出演者が哀れだな」
…言えない。水銀が怒りの日をリアルに撮影しようとしてるなんていえませんね、はい。
「あ、私の抱き枕カバー発見。うーん、嬉しいような、悲しいような複雑な心境ですね…。いります?」
「いらん」
即答。なんだか地味にショックですね…。
「…本物が、いつも傍にいるからな」
不意打ちですね、わかります。
「ま、またそういうことをさらっと言っちゃいますか…。この人は、まったくもう!」
…悔しい。やられっぱなしは性に合わない。なにかないか……あっ、ニヤリ。
はい、この本どうぞ。あなたも出てますよー(棒)。
「…ん?なんだ、漫画か?俺と、司狼に…ミハエルもか。随分薄く出来てるなこれ。…ふむ。……ん?…!……!?」
なにやら顔がだんだん蒼くなってきてますねーあはは。あっ、いいこと考えました!
「この本持って帰って絶賛転生中の皆さんの家に送ってみましょうか?あっ!双首領閣下の本までありますよ!後で嫌がらせにわたそうっと!」
「やめたげて!?」
その後必死で止めてきたので勘弁してあげました、まる。
~おまけ・悪夢のヤンデレ~
腹部を剣が貫通し、地面に縫い止められる。
「がああああああぁぁあああぁ―――ッ!?てッ、でめええぇ!!ヴァルキュリア、このクソアマがああああ―――ッ!!」
ヴィルヘルムは地面に留められたまま杭をベアトリスに向かって射出する。誰が見ても避けようがない距離で必中するコースをとっていたし、実際寸分違わず杭はベアトリスの胸に吸い込まれた。
……だが、戦乙女を傷つけることは叶わない。
「なあッ!?」
ヴィルヘルムは驚愕した。それを責めることなど誰にもできはしないだろう。…なぜなら命中したはずの杭がベアトリスの胸をまるで、水面の月に石を投じるが如く、すり抜けて行ったのだから。
「…なんなんだよ…てめえはあああ―――ッガッ!?」
「うるさい」
ベアトリスはヴィルヘルムの首を軍靴で踏みにじり、おどろおどろしい憎悪を宿した声で言葉を紡ぐが、その眼は足蹴にしている男を見てはいない。
美しい碧眼を濁らせ、虚空を見つめながらぶつぶつと呟き続ける。
「…あぁ、ごめんなさい、戒。ごめんなさい螢。あああ…ごめんなさい、蓮。痛かったよね?怖かったよね?…辛かったよね?なのになのに私はわたしはなにもなにもなにもなにも蓮蓮蓮蓮レンレン蓮れ…」
みしみしと容赦なく首にかかる圧力が増していく。
「ぐがっ…ぎえッ!」
絶え間ない苦痛の中ヴィルヘルムは意識を薄れさせながら、この女が狂ってしまっていることにようやく気付いた。
…だがもう遅い。
「蓮レンれん蓮蓮レン蓮私は私はわたしは私はわたしは私はああああぁ――――ッ!!!!」
思い切り足に力を入れられ、首が骨ごと踏み潰されて頭と胴が泣き別れし、それと同時に腹部に突き立っていた剣をそのまま払い、心臓を両断されて吸血鬼は完膚なきまでに絶命する。
大量の返り血を浴びるが、それにも全く気を留めることなくふらつきながら歩き始める。
背後で魂が散華するが全く反応がない。
「…そうだ。回帰すればいいんだ。あはは。…邪魔するモノは全部殺せばいい!そうだ永劫回帰すれば全部元にもどるんだ、はは、あはは。最初からこうしておけばよかった!あははあはあはあははははははははああああああああああ――――ッ!!!!」
彼女を止められる男は、もういない。
オチ
ヴ「…ッ!?……はあッ、はあッ…ゆ、夢か…」ガバッ
ベ「ベイ?副首領閣下が呼んでますよ?って…」ガチャッ
ヴ「うおああああ!?でたああああッ!?」
ベ「な、なんですか人の顔みていきなり…。失礼ですね!」プンプン
また時間を無駄にかけてしまった…。
あー疲れた。
はい、今回はkkkでしたが、さらっと流しました。ベア子はただ見守るのみです、はい。
秋葉は…自分のBL同人誌を練炭に見せてみたかったのでついやっちゃいましたw(おい
ヤンデレは夢オチですwシュピーネさんのバイオレンスな処刑シーンを見直してたら、あれ、なんかベア子ヤンデレ入ってね?と思い立ち、書きました。これは序盤で蓮が死んでしまったらというIFです。実際には練炭はもちろんベア子にも大いに水銀の加護がついてるのでこうはなりませんので、夢オチです。殺ったのはヴィルヘルム。これで完全に気が狂ってしまったベアトリスはとりあえずヴィルヘルムをバイオレンス処刑しました。ヴィルヘルムファンの皆さん、すいませんw
ヴィルヘルムの攻撃が通用しなかったのは狂ったベアトリスがなんか色々覚醒したせいです。ベアトリスの魂は元々この世界に存在した魂と上位世界(現実世界)の魂が非常に高度なレベルで完全に融合したものです。つまり、ベア子の魂はDies世界の魂であり、同時に上位世界(現実世界)の魂という矛盾した存在です。絵の中の人間が現実の人間を殺すことは不可能ですが、現実の人間は絵を破壊できる理屈で、ヴィルヘルムの攻撃は全く通用しないが、ベアトリスの攻撃は通用するという一方的な状況が生み出されました。チートですね、はい。ちなみに上位世界の人間がそのまま来ても普通に弱いです。これは、上位世界の魂と、Dies世界の原作キャラであるベアトリスの魂が非常に高度なレベルで完全に融合したからこその強さです。縮退炉を積んでいても、それが普通乗用車だったら意味がないのと同じ理屈です、はい。
この後病みベア子は邪魔な黒円卓を血祭りにあげた後、水銀を無理やり引きずり出して半殺しにして永劫回帰させます。ループして戻ったらヴィルヘルムは眼が合った瞬間にバラバラに分解したレゴブロックの如く一瞬で四分五裂にされることでしょう。練炭は逆レ○プされるかな(え
ふう。あーとうとう電池切れた。誰か続き書いて投稿したら教えてくださいお願いします。
皆さん!もっとDiesのss書いてください!切に願ってます。…では失礼。
GAME OVER
CONTINUE EXIT
『応答しろ、yoshiaki!! yoshiaki、yoshiaki―――ッ!!!』