Fate / your name   作:JALBAS

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今回は、バーサーカー戦オンリーです。
ただ、途中で三葉と士郎が入れ替わります。
前半は原作アニメの通りですが、後半から展開が変わります。
そのせいで、士郎が殆ど役立たずになってしまいました。




《 第九話 》

私達は、森の中をひたすら走って逃げていた。セイバーはまだ辛そうだが、私が肩を貸し、一緒に走っている。できればゆっくりと治癒してあげたいが、今はできるだけ遠くまで逃げるのが先決だ。

 

 

城内では、アーチャーとバーサーカーの戦いが始まっていた。

バーサーカーが、巨大な剣でアーチャーに切り掛かる。アーチャーはこれを交わしながら、両手にもった2本の剣で切り掛かる。しかし、それらはバーサーカーの剣に弾かれてしまう。交錯して、着地するアーチャー。その肩が、剣圧で切られて血しぶきが上がる。

「くっ……完全に交わしてこれか……」

「いいわ、バーサーカー!早く、潰しちゃいなさい!」

イリヤが、更にバーサーカーをけしかける。

「がああああああああっ!」

アーチャーは、再び両手に剣をトレースする。それを交差して、バーサーカーの剣を受け止めるが……

「うぐっ!」

剣は砕かれ、その勢いでアーチャーは壁に叩き付けられる。壁にめり込み、傷付き跪くアーチャー。しかし、その顔には笑みが浮かぶ。

「……噂に違わぬと言ったところか……」

「?……笑ってる……」

アーチャーは後方にジャンプし、二階の手摺の上に立つ。

「ぐわああああああああっ!」

バーサーカーも、それを追って飛び上がって来る。

アーチャーは、弓と剣をトレースし、剣を矢に変えて構える。

「I am the bone of my sword」

そして、向かって来るバーサーカーに矢を放つ。

「カラドボルグ!!」

その矢は、バーサーカーのみならず、屋敷をも貫いて夜空に閃光を放つ。

 

 

森の中を走る私達は、その凄まじい音に思わず脚を止め、振り返る。

「い……今の音は?」

「おそらく……アーチャーが……」

私の問いに、セイバーが答える。

「行くわよ……」

遠坂さんは振り向くこともせず、再び走り出す。

「遠坂さん?」

「私達は、絶対に逃げ切らなきゃいけないの!」

その言葉に、私達も再び走り出す。

 

 

城内ではバーサーカーが蹲っているが、アーチャーに貫かれた傷は見る見る内に再生していく。それを見詰める、アーチャーが呟く。

「……成程……そういう事か……」

一方、格下のサーヴァントと見下していたイリヤは、思わぬ苦戦に驚きを見せる。

「いったい、何なのあいつ?まさか、宝具を投影して……」

アーチャーは、さっきの攻撃で開いた穴から場外に出る。イリヤの命令で、バーサーカーもアーチャーを追う。追ってきたバーサーカーを予め用意した穴に誘い込み、アーチャーは何本も剣を投影して波状攻撃を加える。そして、最後に鳥の羽のように刀身を大きく強化した“干渉・莫耶オーバー・エッジ”で、バーサーカーを切り裂いた。

だが、この攻撃は、アーチャー自らの腕も痛める結果となった。

「う……腕が逝ったか……」

左肩を押さえ、蹲るアーチャー。その目の前で、バーサーカーはまた復活していく。

「……成程……確かに、最強のサーヴァントだ……」

その後は、一方的に攻撃を受け、アーチャーは最初居たホールに落とされてしまう。

「これで、少しは後悔してくれたかしら?」

勝ち誇りながら、階段を降りて来るイリヤ。しかし、また動き出すアーチャーに驚く。

「生きてる?……バーサーカー、遊びは終わりよ!こいつどこかおかしいわ。油断無く、ためらい無く、殺される前に殺しなさい!」

バーサーカーも、そこに飛び降りて来る。

「相変わらず容赦が無いな……イリヤ……」

「え?……イリヤ?」

はっとするイリヤ。両親や士郎以外に、彼女をそう呼ぶ者はいない。

「こちらの敗北は動かないが、終わらせるのは手間だぞ、バーサーカー……せいぜい手を抜け、その間に、あと2つは貰っていく!」

アーチャーは再び剣を投影し、その剣を投げて部屋の灯りを絶つ。

「はっ……何処?」

一瞬アーチャーの姿を見失うイリヤ達だが、直ぐに月明かりが天井の穴から差し込む。その月明かりが、バーサーカーの後方に跪くアーチャーを照らす。

「どうやら、月の女神の加護はもらえなかったみたいね?」

しかし、アーチャーはそんな事には気を止めず、呪文のような言葉を呟いている。そして、最後に言う。

「Unlimited Blade Works」

突然、アーチャーを中心に背景が変化していく。イリヤ達は、無数の剣が刺さった無限の荒野に引きずり込まれてしまう。

「こ……固有結界?」

辺りを見回し、唸るバーサーカーに、アーチャーが言い放つ。

「ご覧の通り、貴様が挑むのは無限の剣……剣撃の極地、恐れずして掛かって来い!」

 

 

「うっ……」

急に、遠坂さんが蹲った。何やら、右手の甲を抑えている。

「ど……どうしたん、遠坂さん?」

良く見ると、遠坂さんの右手の甲の、令呪が点滅しているように見える。

「あ……アーチャーが……」

「え?」

その時、城で交わしていた遠坂さんとアーチャーのアイコンタクトの意味が、ようやく分かった。アーチャーは、逃げるつもりなど毛頭無かったのだ。

「ま……まさか、アーチャーが危ないん?」

遠坂さんは、何も答えない。

「す……直ぐに、呼びもどして!」

「無駄よ……こうなったら、何を言っても聞かないわ……あいつは、そういうやつよ……」

 

そんな……私達を逃がすために、自分を犠牲に……それじゃ、まるで誰かみたい……

 

その時、私は確信した。アーチャーが、何者であるか……

「だめや!このまま、彼を失ったらだめっ!」

私は、涙を流しながら遠坂さんに喰い付いた。

「ここでアーチャーを失ったら、絶対後悔する!呼び戻して!今直ぐ、呼び戻してっ!」

「無理なのよ!いくら呼んだって、あいつは……」

「この令呪を使えば、強制的にここに呼べるんやろ?早く!間に合わなくなっちゃう!」

遠坂さんは、“その手があったか”という感じではっとする。そして、即座に令呪に念を込める。

「アーチャー、来てっ!」

目の前に、突然光の玉が出現する。そしてその中から、瀕死に近い重傷を負い、蹲ったアーチャーが出現する。

『アーチャーっ!』

私と遠坂さんが、同時に声を上げる。

「……凛……君らしくないな、サーヴァントの身を案ずるなど……これじゃ、どこかの間抜けなマスターと同じ……」

言い掛けて、アーチャーは私の方を向く。

「……そうか、君の入れ知恵か……全く、あの馬鹿といい、君といい……」

「アーチャー、直ぐに霊体化して、傷を治すのよ。」

「待て……その前に言う事がある……バーサーカーの、正体が分かった……」

「え、本当?」

「奴は、ギリシア神話の大英雄・ヘラクレス、肉体そのものが“十二の試練”の宝具だ……」

「何ですって?」

「半端な攻撃は通用しない上、倒しても11回完全蘇生する……その上、同じ方法では2度倒せない……セイバーの1回目を含めて、5回までは倒したんだがな……」

「そ……それじゃあ、あと7回、違う必殺の手段で倒さなきゃいけないの?そんな奴、どうやって倒せばいいのよ?」

「一撃で、7回以上奴を殺せるだけの攻撃を加えればいい……」

「で……できるの?そんな事が?」

「できる……対城宝具ならば……」

そう言って、アーチャーはセイバーを見詰める。

「……真名を、明かす時だ……セイバー。」

「気付いていたのか?アーチャー?」

そこまで言って、アーチャーは霊体化した。

 

その後、私達は森の中の廃屋に身を隠した。救出に来る前に、あらかじめ遠坂さんがアーチャーに探させておいたらしい。流石に、遠坂さんはこの辺は抜かりが無い。

そこで、私はセイバーの傷の治療に専念した。ひとつだけ残っていたベッドに彼女を寝かせ、ありったけの霊力を注ぎ込んだ。全てを出し切ったため、私はそのまま疲れ果てて眠ってしまった。

 

 

 

 

朝目覚めると、自分の家では無かった。かといって、三葉の家でも無かった。

何か、柔らかい感触の上に乗っている。すごく暖かくて、まるで、母親の胸に抱かれているような……

「え?」

そこは、セイバーの胸の上だった。

「……目が覚めたのですか?三葉……」

「うわあああっ!せ……セイバーっ!」

俺は、慌てて飛び起きた。ベッドに横たわる彼女の胸に、覆い被さるように俺は寝ていた。

「?……士郎……ですか?」

「な……何で俺がセイバーの上に……てか、ここは何処だ?!」

「何?騒がしいわね……」

そこに、遠坂が入って来る。

混乱する俺に、遠坂達はこれまでの状況を説明してくれた。

「全く、こんな大変な時に自分の体を放り出して遊んでるなんて、本当に呆れるわ。」

遠坂に怒られたが、そんな事を言われても、好きで入れ替わってる訳じゃ無い。勝手にそうなるんだから、仕方が無いだろう。ただ、三葉には、本当に申し訳ないと思っている。

それよりも驚いたのは、アーチャーが自ら犠牲になって、俺達を逃がそうとした事だった。何とかギリギリで令呪で呼び寄せ、消滅は免れたみたいだが……俺の行動を否定したくせに、同じ事をやってないか?あいつ?

 

昨夜、三葉ががんばってくれたおかげで、セイバーの傷も回復した。改めて、俺達はバーサーカーを迎え撃つ作戦を練る。

「それでセイバー、もう対城宝具は使えるのね?」

「はい、ですが、聖剣の真の力を発揮するには、十分な間合いと魔力を高める間が必要です。その隙を突かれると、私は対処ができません。」

「私達で、何とかバーサーカーの注意を引付けておくしかないって事ね?」

「ああ、分かった。」

 

その後、俺達は戦い易い場所に移動する。そろそろ、イリヤ達も俺達を見つけるだろう。

「まずは、セイバーと士郎で対峙して。私は隠れて、チャンスを窺う。私の攻撃で奴を引付けたら、セイバーが一撃で決めて。」

「了解しましたが、私はともかく、士郎までバーサーカーと戦うのは無謀です。」

「心配いらない、俺は、あくまで後方支援に徹するから。」

そう言って、俺は足元に落ちている枝を拾い上げる。

頭の中に、アーチャーの言葉が蘇る。

“イメージしろ……想像の中で、勝てる物を幻想しろ……”

「トレース・オン!」

木の枝は、弓矢へと変貌していく。遠坂とセイバーは、驚いた顔でそれを見詰めている。

「コツが掴めてきたみたいだ。これで、あとは矢の方を何とかすればいい。」

「……それじゃあ、私は隠れて気配を絶つわ。イリヤに対しては、士郎がうまく誤魔化して。」

「分かった……遠坂は逃げたと言えば、イリヤは信じるよ。あの子は、人の言葉を疑わないと思う。」

 

しばらくして、バーサーカーを従えたイリヤが、俺達の前に現れた。

「以外ね、てっきり、最後まで逃げ回ると思った……ふうん、セイバーは直ったんだ。惜しいなあ、そんな事で私に勝てると思うのは可愛いんだけど……残念ね、シロウはここでおしまいよ。」

そこまで言って、イリヤははっとする。

「凛はどうしたの?」

「あいつは、俺達と別れた。もうとっくに、森を出てるだろう。」

「そうかしら?この森は、アインツベルンの結界よ。凛が出て行けば、直ぐに分かる。後で捜して、殺してやるわ。でも、お兄ちゃんなら、命乞いをすれば許してあげないことも無いんだけど?」

「イリヤ、こんな戦いを止めるわけにはいかないのか?」

「できないよ!お爺様の言いつけだもの。バーサーカーが居る限り、私はアインツベルンのマスターなの。他のマスターを殺して、聖杯を持ち帰らなくちゃいけないんだから。」

「俺は、セイバーのマスターだ。お前が、マスターを止めないって言うのなら、バーサーカーを倒して止めさせる。」

「そう……なら、本気で殺してあげる。」

突然、イリヤの体に魔術刻印が浮かび上がる。それは服を通しても、しっかりと体全体に浮かび上がっている。並みのマスターとは比較にならないほど、巨大で力強い。

「遊びは、これまで……」

「がはあああああああああああっ!」

そして、バーサーカーが雄叫びを上げる。体全体から、強力なオーラを発して。明らかに、能力も上がっていた。

「皆殺しちゃえ!バーサーカー!」

「ぐらあああああああああああっ!」

遂に、戦闘が開始される。

突進して来るバーサーカーに、セイバーが立ち向かう。

「たあああああああっ!」

だが、相変わらずバーサーカーの強大な腕力に翻弄されてしまう。明らかに、セイバーの方が圧されている。

「力の差は明らかね?ちょっとでも剣が触れれば、お兄ちゃんのサーヴァントはズタズタになるわ。」

バーサーカーの猛攻は続く。セイバーはできるだけ剣を交えるのは避け、巧みに交わしているが徐々に追い込まれていく。

「トレース・オン!」

俺は、拾った枝を矢に変えて、弓を射る。命中率だけは良いので、矢はバーサーカーに直撃する。もちろん、ダメージは何も無いが、バーサーカーの気が逸れる。

「バーサーカー、シロウなんて放っておきなさい。セイバーを殺した後で、いくらでも料理できるんだから。」

しかし、イリヤが居るのでうまくいかない。

更に押されていくセイバー。だが、うまく遠坂が隠れている木に近づいてくれた。

「くらいなさいっ!」

木の上から、遠坂がありったけの宝石でバーサーカーを攻撃する。流石にそれでも倒れないが、完全に動きは止まる。

「今よ、セイバー!」

「はああああああっ!」

セイバーは間合いを取って、聖剣のカモフラージュを解く。両手で剣を上段に構え、魔力を高める。剣は激しく輝き、凄まじい光の帯が天に向けて立ち登る。

ようやくバーサーカーは体勢を立て直すが、もうセイバーの準備は整った。

「エクス……カリバアアアアアアアアアッ!!」

光の剣が、バーサーカーに降り掛かる。

「ぐぬぉわあああああああああああっ!」

光は、バーサーカーの体を両断する。そればかりか、遥か後方まで地面を大きく抉り取ってしまった。

「す……凄い……」

俺と遠坂は、そのとてつもない威力に茫然としていた。

真っ二つになったバーサーカーは次第に姿が霞んでいき、やがて、塵のように消えていった。

 

 

しかし、その光景を、水晶玉を通して監視していた者が居た。

紫のローブに身を包んだ、魔道師のような女のサーヴァント……キャスター……

 

 

「うそ……バーサーカー……死んじゃったの……」

イリヤは、バーサーカーの消失のショックで、その場に蹲ってしまう。もはや、戦意は全く無い。

「……」

セイバーは、一瞬躊躇したが、再び剣を構えてイリヤを討とうとする。

「駄目だ、セイバー!イリヤには手を出さないでくれ。バーサーカーが居なくなったんなら、イリヤは……」

そんなセイバーを、俺が制止した。

セイバーは、逆らおうとはしなかった。おそらくセイバーも、イリヤを討つのは本意では無かったのだろう。

イリヤは、もう何も言わず、いつまでも、バーサーカーの消えた跡を茫然と見詰めているだけだった……

 




ライダーが早々にリタイアしたので、ここで“エクスカリバー”のお披露目です。
この話では、士郎の魔力は弱いですが、完全にセイバーに魔力提供ができないという訳ではありません。
ですので、エクスカリバーを放っても、直ぐにセイバーが魔力不足で倒れる事はありません。

原作と違い、アーチャーは生き残ります。まあ、三葉が居るからという事もあるんですが、アーチャーにはこの後にまだ大事な役目があるんで。
但し、士郎との戦いではありません。

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