Fate / your name   作:JALBAS

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士郎と入れ替わる度に、サーヴァントに命を狙われる三葉。
また、今回も狙われてしまいます。それを助けるのは……
きりが悪いんで途中で切らずに一話にまとめたため、ちょっと話が長くなってしまいました。




《 第六話 》

“無意味な理想はいずれ現実の前に敗れるだろう……それでも振り返らず、その理想を追っていけるか?”

アーチャーの言葉に、俺は義父“切嗣”との最後の会話を思い出す。

 

「子供の頃、僕は正義の味方に憧れてた……」

「何だよそれ?憧れてたって、諦めたのかよ?」

「うん、残念ながらね……ヒーローは期間限定で、大人になると名乗るのが難しくなるんだ。そんな事、もっと早くに気が付けば良かった。」

「そっか……それじゃ、しょうがないな。」

「そうだね、本当にしょうがない。」

「うん、しょうがないから、俺が代わりになってやるよ!」

「ん?」

「じいさんは、大人だからもう無理だけど、俺なら大丈夫だろ?任せろって、じいさんの夢は……」

「……そうか、ああ……安心した……」

 

「士郎?」

「……」

「ちょっと、士郎、聞いてるの?」

「ん?あ……ああ、悪い。」

家で、遠坂、セイバーと今日の事件について話し合っていた。その最中に、俺はちょっとトリップしてしまった。

被害にあった生徒や先生達は、衰弱していたが命に別状は無かった。但し、2~3日は病院で療養が必要だ。だから、藤姉も桜も今は入院している。

遠坂は、一旦家に帰った後、今後の事を相談する必要があると言って俺の家に来ている。

「それで、敵のサーヴァントはキャスターだったのですね?」

「ええ、おそらく新都のガス漏れ事故も、キャスターの仕業だと思うわ。」

「慎二の他に、学校にもうひとりマスターが居たって事か?」

「しかもそいつは、慎二の残した結界を利用して学校を襲った。」

「ゆ……許せない……」

俺は、唇を噛み締める。

「まずは、マスターを突き止めるのが先決ね。」

「キャスターの拠点は、分からないのですか?」

セイバーの問い掛けに、遠坂が即座に反応する。

「おおよその見当はついているわ。」

「本当か?何処だ?」

「おそらく、柳洞寺よ。新都の事故現場からの魔力の流れは、柳洞寺に向かっていたから。」

「ならば、柳洞寺に乗り込んで、キャスターを叩きましょう!」

そう言って、セイバーは立ち上がるが、

「駄目だ!」

俺も立ち上がって、それを否定する。

「何故ですか?士郎はさっき、“許せない”って言っていたでは無いですか。」

「確かに許せないが、用意周到な奴だし敵の本拠地だ、どんな罠を張っているかも分からない。俺達は、まだ敵の情報を知らな過ぎる。」

「恐れているだけでは、敵は倒せません。“虎穴に入らずんば虎児を得ず”日本の諺です。」

「駄目だと言ったら、駄目だ!」

「あなたには、マスターとしての自覚が……」

「ストップ!」

俺とセイバーの口論を、遠坂が遮る。

「セイバー、士郎は、あなたの事を心配しているのよ。」

「な……何故ですか?私はサーヴァントです。そのような心配は不要です!」

「確かに……サーヴァントの身を心配するマスターなんて、聞いた事が無いわ。でもね、セイバー。今回は、私も士郎の意見に賛成よ。」

「ま……まさか凛、あなたまで、私の身を心配してるなんて言う訳では無いでしょうね?」

「まさか、無闇に戦闘を仕掛けて、失敗するリスクを避けたいだけよ。今回の場合は、まずマスターを突き止めて、そちらから攻める方が勝率が高いわ。」

「わ……分かりました。」

「士郎もいいわね?」

「あ……ああ……」

「何?まだ何かあるの?」

「いや……何か、頭に引っ掛かってて……思い出したら、言うよ。」

「とりあえず、3日間は学校は休校になったから、マスター捜しは学校が始まってからね。」

そう言って、遠坂は立ち上がる。

「そうか、じゃあ、もう遅いから送って行くよ。」

すると、遠坂は、何やら大きな荷物を取り出して言って来る。

「空いてる部屋に案内して。」

「え?」

「今日から私、ここに泊まるから。協力する以上は、当然でしょ?」

「ええ~っ?!」

遠坂は、廊下を奥へとどんどん進んで行く。

「工房だけは、自分のを用意しないとね……」

「遠坂、ちょっと待てって、おい!」

「あら、離れがあるじゃない!」

俺の言う事など一切聞く耳持たず、遠坂は勝手に部屋を決め、どんどん工房造りを始めてしまう。

「うん、まあ、これなら何とかいけそうね。」

「おい、俺はここに住んでいいなんて言ってないぞ!」

「ねえ、あのエアコンどう使うの?」

「話聞けって、お前!」

「部屋に関しては、私からも要望があります。」

一緒に付いて来た、セイバーが口を開く。

「私は、士郎と同じ部屋で寝るべきだと思う……」

「何言い出すんだ……ていうか、女の子と一緒になんか寝られるか!」

「睡眠中の警護は、サーヴァントの役割です。」

「そういうことじゃ無くてだな……」

そこに、呆れたように遠坂が口を挟む。

「サーヴァントはサーヴァント、人間扱いする必要は無いんだけど……ま、士郎にそんなこと言っても無駄か?」

そこで気付いた。

「……お前、いつから俺を名前で呼ぶようになったんだ?」

「そうだった?」

「さっきからの違和感は、遠坂が俺を名前で呼んでるからか?」

「話を切らないでもらいたい、私の部屋の問題に、結論が出ていない。」

頑として譲らないセイバーを、何とか言いくるめて、部屋をすぐ隣にする事で妥協してもらった。その代わり、俺にも自分を護る術を身に付けてもらいたいと、その夜からセイバーが俺を鍛える事になった。

 

道場でセイバーにしごかれた後、俺は、土蔵でいつもの強化魔術の鍛錬を行っていた。

「痛たっ……セイバーの奴、やるとなったら手加減無しだもんな……」

しばらく鍛錬を続けていると、

「士郎?」

セイバーが、土蔵を覗き込んでいた。

「鍛錬ですか?」

「ああ……一応、毎日やってるからな。」

「入っても宜しいでしょうか?」

「ああ……」

「士郎の得意な魔術は、強化だと聞きました。」

「まあ得意っていうか……それしかできないんだけどな……」

「強化の鍛錬というのは、どういう風に行うのですか?」

「強化っていうのは単純に物の強度を上げる事だけじゃ無く、物の効果を強める事も含むんだ。」

そう言って、俺は右手に持っていた石をセイバーの眼前に翳す。

「これだとより硬く、」

次に、手前にある電球を指差し、

「あの電球だったら、より明るくするとかだな。物の構成材質をイメージして、その中に俺自身の魔力を通して、強化するって事なんだ。」

「なるほど。」

感心して、セイバーは顔を近づけて来る。あまりに顔が近いので、俺は少しドキッとしてしまう。

「ろ……論より……だな……ひとつ、やってみる。」

少し焦りながら、俺はトレースを始める。

「トレース・オン、」

俺の魔術回路が作動し、石に魔術が送り込まれる。

「基本骨子解明、構成材質解明……基本骨子変更、構成……材質……」

集中力が乱れていたため、思うようにいかない。手は振るえ、顔には汗が流れ出す。

「ほ……補強……」

そこで、石は砕けてしまう。

「うっ!……はあ、また失敗だ……実は、成功率はかなり低いんだ。」

「いえ、先程の士郎は、集中をやや欠いているように感じました。」

確かに、真横にいるセイバーをつい意識してしまう。その目、その口、その……

「ああ……いや、例えば、こういう刃物だと……」

俺は、それを誤魔化して、左手にあるナイフを取ろうとするが、セイバーはすっくと立ち上がって言う。

「やはり、私が隣に居ては邪魔ですね。あまり根を詰めないようにして下さい。」

「ああ……おやすみ。」

セイバーは、ゆっくりと土蔵を出て行った。

俺は溜息をひとつついて、再び鍛錬を始めた。

 

 

 

 

深夜、衛宮家の土蔵の中では、士郎が疲れてそのまま眠り込んでいた。

その土蔵の中に、風のように幾多もの細い糸が流れ込んで来る。糸は、士郎の体に絡み付いていく。そして、士郎の体が勝手に動き出す……

士郎は、夢遊病者のように夜の町を歩いて行き、ある寺の境内にたどり着く。そこで、目を覚ます。

 

「え?こ……ここ、何処?」

何か、お寺の境内のようなところで私は目覚めた。でも、まだ夜は明けていない。

 

え?衛宮くんになってるの?でも、ここ衛宮くんの家じゃ無い……

 

「ここは、柳洞寺よ。」

どこからともなく声がして、突然目の前に黒い霧が立ち込める。その中から、紫のローブを纏った、魔道師のような恰好の女性が現れる。顔は、ローブに隠れて見えない。

「あ……あなた……サーヴァント?」

「ええ、その通りよ。セイバーのマスターさん。」

 

ええっ!私、また襲われちゃったの?な……何で、入れ替ると必ずサーヴァントに襲われちゃうの?衛宮くんって、ひょっとして毎日サーヴァントに襲われてるの?

 

私は、慌てて逃げ出そうとするが、金縛りに合ったように体が全く動かない。

「無駄よ、一度成立した魔術は、魔力という水では洗い流せない。ましてあなたの魔術回路のような弱々しい流れでは……マスター達の中でも、あなたは飛び抜けて力不足でしたから……」

 

そんなの当たり前じゃない!私は、本当のマスターじゃ無いんだからっ!

 

「わ……私を、殺すん?」

完全に女言葉になっているが、策略がうまくいって上機嫌の相手は気付いていない。

「安心しなさい、殺してしまっては魔力を吸い上げられないわ。始めは加減が分からず殺してしまったけど、今は程度良く集められる。もう気付いていると思うけど、新都のガス漏れ事故も全て私の仕業。キャスターのサーヴァントには、陣地を造る権利があるのよ。私はこの場所に神殿を造ってあなた達から身を護る。ほら、見えるでしょ?この土地に溜まった数百人分の魔力の貯蔵、、有象無象の欠片が……」

確かに、この場所からは、異様なオーラのようなものを感じてしまう。

 

こ……この人、町中の人を襲って魔力を集めてたの?最低!なんて酷い……

 

「む……無関係な人を、巻き込んだの?」

「この町の人間は皆、私の物……」

 

なんて横暴なの!ゆ……許せない、この人だけは……

 

「さあ、それでは話を済ませてしまいましょうか?」

そう言って、その女は私の耳に顔を近づける。

「その令呪を、貰ってあげるわ。」

 

 

その頃、異変に気付いたセイバーは士郎が居ない事を知り、魔力の流れを追って柳洞寺の石段の前までたどり着いていた。しかし、一気に駆け上がろうとしたセイバーの前に、ひとりのサーヴァントが立ち塞がった。

「聞こう、その身は如何なるサーヴァントか?」

「アサシンのサーヴァント、佐々木小次郎。」

いきなり真名を言った事に、セイバーは驚く。

「立ち合いの前に名を明かすのは、当然であろう?」

「名乗られたからには、こちらも名乗り返すのが騎士の礼。その上でここを退いてもらうぞ、私の名は……」

「よい!」

そう言って、アサシンのサーヴァントは背中の鞘から長刀を抜く。

「敵を知るには、この刀だけで十分だ。ここを通りたいのならば、圧し通れ!」

 

 

「令呪を……奪うやて?」

「そうよ、令呪を私のマスターに移植する。そしてセイバーには、目障りなバーサーカーを倒してもらうとしましょう。令呪を剥がすという事は、あなたから魔術回路を引き抜くという事でもあるわ。」

女は少し離れ、その右手を私に翳す。女の右手に、小さな光の球が現れる。それに引き寄せられるように、私の左手が上がっていく。小さな光は女の右手の指先に移動し、その指先が私の左手の甲の令呪に迫る。

「だ……だめ……」

 

これは、衛宮くんの大事な令呪……これを取られたら、セイバーが衛宮くんのサーヴァントじゃ無くなっちゃう!だいたい、こんな酷い人に、絶対にセイバーを渡しちゃいけない!

 

でも、私にはどうする事もできなかった。その時……

無数の矢が、天から降って来た。

「はっ!」

とっさに、キャスターとかいうサーヴァントはそれを交わして私から離れる。

「ふん、とうに命は無いと思ったが、存外にしぶといのだな?」

声のする方に顔を向けると、屋根の上に赤い服を着たサーヴァントが立っていた。遠坂さんのサーヴァント、アーチャーだ。

「ど……どうしてここに?」

アーチャーは、颯爽と私の前に降り立つ。

「なに、ただの通り掛かりだ。で、体はどうだ?キャスターの糸なら、今ので断った筈だが?」

「え?」

私は、自分の体を確かめる。

「う……動く……」

「それは結構、あとは好きにしろと言いたいところだが、しばらくそこから動かぬ事だ。あまり考え無しに動くと……」

「アーチャーですって?!」

それまで冷静だった、キャスターが突然騒ぎ出す。

「ええい!アサシンめ、何をしていたの?!」

思い切りヒステリーを起こすキャスターを鼻で笑い、アーチャーは言う。

「そら、見ての通り八つ当たりを喰らう事になる。女の激情というのは中々に御し難い……全く、少しばかり面倒な事になりそうだ。」

 

 

門の前の石段では、アサシンとセイバーの凄まじい攻防が繰り広げられていた。アサシンは長刀でセイバーの剣撃を全て弾き飛ばし、セイバーはアサシンの間合いの長い剣撃を巧みに交わす。

“どうなっている?重さ、威力、速度、全てこちらが上回っているのに、何故攻めきれない?”

更に激しく攻め込むセイバーだが、やはり決めきれない。激しい鍔迫り合いの後、二人は一旦間合いを取る。

「いや、お見事。その首七度は落としたつもりだが、未だついていようとは……西洋の棒振りにも術利はあったのだな?」

「そちらこそ、小兵な技にしては見応えがある。小細工だけは達者なようだな?」

「おうさ!力も気合もそちらが上、となれば、こちらの見せ場は上手さだけよ。その見えぬ剣にも、直慣れる頃合だ。」

“今の撃ち合いだけで……このサーヴァント、剣技においては私より遙かに上か?”

「では、続きだ。いよいよ、加減の止め時だぞ、セイバー。」

士郎を心配しながら、セイバーは気をひきしめる

 

 

ヒステリーを起こしているキャスターに、アーチャーが言う。

「アサシンの事ならば、奴は、セイバーと対峙している。あの侍何者かは知らぬが、セイバーを圧し留めるとは大した剣豪だ。むしろ、褒めてやるべきではないか?」

「ふん、ふざけたことを……あなたを止められないようでは、英雄などとは呼べない。あの男、剣豪を名乗らせるには実力不足です。」

「その言い振り、やはり協力し合っているのか?君達のマスターは?」

「協力し合ってる?」

そこに、私が口を挟む。

「ああ、門の外を護るアサシンと、門の内に潜むキャスター、この両者が協力関係なのは明白だろう……別段珍しいことでは無い。現に、お前と凛とて手を結んでいる。」

「ふっ……あはははは……」

しかし、キャスターはそのアーチャーの言葉を笑い飛ばす。

「私が、あの犬と協力ですって?私の、手駒に過ぎないアサシンと?」

「手駒だと?」

「そう……そもそも、あの犬にマスターなど存在しないのですからね。」

その言葉に、アーチャーは顔を顰める。

「キャスター……貴様、ルールを破ったな?」

「うふふ……魔術師である私が、サーヴァントを呼び出して何の不都合があるのです?」

「きゃ……キャスターが……アサシンを?」

私は、訳が分からずに呟く。

「サーヴァントが、サーヴァントを呼び出した?」

「全うなマスターに呼び出されなかったあの門番は、本来のアサシンでは無い。ルールを破り、自らの手でアサシンのサーヴァントを呼ぶ。この土地に居を構え、町の人間から魂を収集する。自らは戦わず、町中に張った目で戦況を把握する。セイバー等三大騎士クラスには、魔術が利き難い。魔術師のクラスである貴様が、策略に走るのは当然という訳だ。」

「うふふ……」

キャスターは相変わらず笑っている。

「だが、それは貴様の独断ではないのか、キャスター?」

「何の根拠があるのかしら?」

「マスターとて魔術師だ。自分より強力な魔術師を召還したのなら、例え令呪があろうと警戒する。その状況で、貴様だけの手足となるサーヴァント召還を認めるとは考え辛い。となれば、この間抜けなマスターのように、とっくに操り人形にされてると予想はつくさ。」

 

ま……間抜けって……相変わらず、酷い言われようね。どうしてアーチャーって、衛宮くんに対してこんなにきついの?何か、恨みでもあるの?

 

少し間をおいて、キャスターが答える。

「聖杯戦争に勝つ事なんて、簡単ですもの。私が手を尽くしているのは、単にその後を考えているだけ。」

「ほう?我々を倒すのは容易いと?逃げ回るだけが取り得の魔女が……」

すると、この言葉にキャスターが大きく反応した。再び、さっきの激昂した口元を見せる。

「……ええ……ここでなら、私にかすり傷さえ負わせられない。私を“魔女”と呼んだ者には、相応の罰を与えます。」

「かすり傷さえと言ったな?では、一撃だけ……それで無理なら、あとはセイバーに任せよう。」

一瞬間をおいて、アーチャーは素早くキャスターに切り掛かる。しかし、マントを残して、キャスターは煙のように姿を消してしまう。

「残念ね……アーチャー!」

突然、蝶のように翼を広げ、上空に姿を現すキャスター。その前に、幾つもの魔方陣のようなものが現れ、私達に向けて攻撃を放つ。

「うっ!」

「きゃっ!」

アーチャーは、何とか攻撃を受け止める。私は、爆風で少し吹き飛ばされて尻餅をついてしまう。

「空間転移か?固有時制御か?この境内なら、魔法の真似事さえ可能という事か?……見直したよ、キャスター。」

「私は見下げ果てたわ、アーチャー。使えると思って試してみたけど、これではアサシン以下よ。」

キャスターはまた攻撃して来る。アーチャーは素早く避ける。更に、雨あられのように降り掛かる攻撃を、アーチャーは巧みに避けて行く。

「女狐め、余程魔力を溜め込んだな。」

「逃げ切れると思って?……?!」

その時、キャスターが私の方を見た。

 

え?今度は、私が標的?あ……あんな攻撃、私じゃとても避けられない!

 

しかし、アーチャーがそれに気付いていた。

「ちっ……あの間抜け!」

キャスターの攻撃が、私を襲う。私は思わず目を閉じてしまう。

凄まじい爆発。

「ふん。」

キャスターは鼻で笑う。

でも、私は間一髪でアーチャーに助けられて、襟首を掴み上げられて本殿の屋根の上に居た。

「あ……ありがとう……」

「何?!」

素直にお礼を言った瞬間に、アーチャーの目の色が変わる。

「お……お前、まさかあの女か?」

「あ……あの女とは何よ!ちゃんと、“三葉”って名前があるんやからっ!」

「ちっ……全く……」

アーチャーは、私を抱えて着地する。

「キャスターには、気付かれていないな?」

「うん……多分……」

「仕方が無い、この場はとりあえず退くぞ。」

「え?やって、あの女をこのままにしたら……」

「君を巻き込む訳にはいかないだろう!」

「えっ?」

そこに、またキャスターの攻撃が来る。

「いかん、離れろっ!」

アーチャーは、私を突き飛ばす。

「きゃっ!」

地面に酷く体を打ち付けられて、私はムッとしてアーチャーを見る。

「えっ?」

アーチャーの体は、何やら紫の霧状のオーラに包まれていた。

「気分はどうかしら、アーチャー?如何に三騎士とはいえ、空間そのものを固定化されては動けないのではなくて?ふっ……これでお別れよ。」

 

も……もしかして、私のせいでピンチなの?そ……そんな……

 

その時、アーチャーの口元が動いた。でも、声が小さくて言葉が聞こえなかった。

「何かしらアーチャー、命乞いなら聞いてあげても……」

「戯け!“かわせ”と言ったのだ、キャスター!」

すると、いつの間に放っていたのか?アーチャーの2本の剣が、キャスターに襲い掛かった。

「ちっ!」

キャスターは何とか攻撃を受け流すが、魔方陣は消え、アーチャーの体も自由になる。更なるキャスターの攻撃を交わして、アーチャーは弓を出す。そして、魔力を込め、剣を弓で矢のように放つ。キャスターは目の前に魔方陣を敷いてそれを防ぐが……

「ああっ!」

凄まじい爆発が、キャスターを包み込む。

 

 

石段上では、境内の戦闘に気付いたアサシンが、境内を見上げながらセイバーに言う。

「上は上で騒がしくなって来たようだが、この期に及んでも宝具を明かさないのだな?」

セイバーは、何も言わずにアサシンを睨みつける。

「これは、生半な手では崩せぬな。」

アサシンは、セイバーと同じ踊り場まで石段を降りて来る。

「頭上の有利を捨てるのか?何のつもりだ?」

「無名とはいえ、剣に捧げた我が人生だ。死力を尽くせぬのなら、その信念、力尽くでこじ開けようか?」

アサシンは剣を両手に持ち、大きく引いて構える。

「秘剣!」

その瞬間、セイバーの脳裏に、自分が切られたビジョンが浮かぶ

「はっ?!」

慌てて、セイバーは剣のカモフラージュを解く。

「燕返し!!」

「遅かった?」

アサシンの必殺剣が、セイバーを切り裂く。

セイバーはそのまま倒れて、石段を転げ墜ちる……が、直ぐに起き上がって身構える。鎧の胸の部分は、今の攻撃で大きな傷が付けられている。

「凌いだな……我が秘剣を……」

“何だ今の剣は?全く同時に、三つの剣撃だと?今のは、時限屈折現象……何の魔術も使わず、ただ剣技のみで宝具の域に達したサーヴァント……”

更に警戒を高めるセイバーだが、アサシンはその剣を鞘に収めてしまう。

「何をしている?アサシン?」

「どうやら今宵は、ここまでのようだ。」

空を見上げるアサシンにつられて、セイバーも空を見上げる。二人が見上げる上空を、アーチャーが飛び去って行く。その傍らに、衛宮士郎を担いで。

「アーチャー?……士郎?!」

「あの女狐の肝を冷やそうと見逃したが、我が身可愛さで逃げ帰ったか……主の元へ戻るが良い、セイバー。」

「私を見逃すのか?」

「私はここの門番だ。ここを圧し通るつもりの無い者を追う気も無いし、追う事もできない。」

「そうか……あなたとの決着は、必ず果たそう。この聖杯戦争が、どのような結末を迎えようとも。」

そう言い残し、セイバーはアーチャー達を追う。

 

 

境内の中、爆風が晴れたところで、キャスターはもぬけの空の境内を見詰めて歯軋りをする。かすり傷どころか、かなりの深手を負ってしまっている。

「おのれ……アーチャアアアアアアアッ!」

 

 

柳洞寺から少し離れたところで、アーチャーは着地する。

「直ぐにセイバーもここに来る。後は、セイバーに護ってもらえ。」

そう言って立ち去ろうとするアーチャーを、私は呼び止める。

「待って、アーチャー!」

「何だ?」

「何であなたは、衛宮くんに冷たく当たるん?」

「同盟関係とはいえ、最終的には敵になる男だ。当たり前だろう。」

「それだけや無いやろ、中身が私と分かった途端、急に態度変えたやないの。」

「君はマスターでは無いだろう?妙な入れ替わりのせいで、巻き込まれているだけだ。」

「でも、この体は衛宮くんの体やろ?マスターとしての衛宮くんが邪魔なら、中身なんて関係無いやろ!」

「うるさい女だな?そっちこそ、私が衛宮士郎をどう思っていようと関係が無いだろう!」

「あなた、昔から衛宮くんを知っとるんやない?」

「何?」

「だって、私が衛宮くんと入れ替ってるの、直ぐに気付いたやろ。」

「だから、それは私が霊体も同然だから……」

「ううん、ずっと一緒に居たセイバーは、全然気が付かへんかった。今迄私を襲った、どのサーヴァントもそうやった。衛宮くんをよく知っとらんと、気付く筈が無いに……あなた、まさか……」

「いい加減にしろ!私はもう行く。」

そう言って、アーチャーは霊体化して消えてしまった。

「士郎!」

そこに、セイバーが駆け寄って来る。

「大丈夫ですか?士郎?」

「ええ……また、助けに来てくれてたんやね。ありがとう。」

「え?……もしかして、三葉なのですか?」

「うん……て、セイバー、怪我しとるの?」

私は、セイバーの胸の傷に気付く。

「ああ、このくらいは、大した事ありません。」

「大した事無いわけ無いやろ!ちょっと待ってて。」

私は、セイバーの胸に手を当てる。そして念を込める。

「え?」

少しずつ、セイバーの傷が塞がっていく。

「三葉、あなたは、治癒魔術が使えるのですか?」

「う~ん、魔術というより、私の場合は霊能力というか……これでも一応、巫女の卵やし。」

 

家に戻ると、玄関で遠坂さんが私達を出迎えた。

「アーチャーに聞いたわ。まんまとキャスターに誘い出されるなんて、本当に未熟なマスターね。」

「え?遠坂さん?な……何で、遠坂さんが衛宮くん家におんの?」

「今更何言って……て、まさか、あなた三葉?」

「そうやよ。」

「あ……アーチャーのやつ、何で、そんな大事な事言わないのよ!」

「そ……それより、何で遠坂さんが、こんな時間に衛宮くん家に?」

「え?……ああ、今夜から私、ここに泊まる事にしたの。共闘する上で、何かと都合がいいでしょ。」

「ええ~っ?!」

「そういう訳だから、三葉も宜しくね。」

「え……衛宮くんが、それを認めたん?」

「ええ、もちろん。」

そう言って、遠坂さんはにっこりと笑う。

 

な……何考えてるのよ、衛宮くんは!セイバーだけじゃなく、遠坂さんとまで同居なんて……桜ちゃんはどうなるのよ?ほんとに……ほんとに……

 

「衛宮くんのばかああああああああああっ!!」

 

遠吠えに近い叫び声を上げる私を、セイバーと遠坂さんはきょとんとした顔で見詰めていた。

 





この話のメインヒロインは三葉ですので、アーチャーの正体にいち早く気付いていくのは三葉になります。

今回も、冬木の話だけになってしまいました。
Fateの方が内容が濃いので、メインストーリーを平行して進めると、どうしても序盤は冬木が中心になってしまいます。
糸守のメインは彗星落下が近付いてからですが、その前に少し波乱が起きます。

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