Fate / your name   作:JALBAS

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前半は引き続きFate側の話です。
金色のサーヴァントの事と、10年前の聖杯戦争の事を省く訳にはいきませんので。
後半は、ようやく三葉が登場。
今回は、三葉の心情に迫ります。




《 第十三話 》

 

『ははははははははっ!中々に、面白い見世物であったぞ!』

再び、神殿内に声が響く。今度は、男の声だ。

「だ……誰だ?」

すると、コロシアムの上に、ひとりの男が姿を現す。

金色の鎧を着て、金色の逆立った髪をした男が。

「10年振りだな、セイバー。」

「お……お前は……アーチャー?!」

 

アーチャー?あの男もサーヴァントか?

しかし、何故セイバーは、あの男をアーチャーと呼ぶ?確かにいけ好かない感じの男だが、あいつとは全然違う……て、待てよ、あの男セイバーに“10年振り”って……という事は、まさか?

 

俺は、その男に問い掛ける。

「誰だ?お前は?」

「ふん、雑種ごときに名乗る安い名など無いわ。王の前であるぞ、礼儀をわきまえよ!」

「何だと?」

「少し、躾が必要なようだな?」

すると、その男の背後に幾多もの空間の歪みが発生し、その中から宝具とも思える幾つもの武器が出現する。

「な……あれは?……全部、宝具か?」

「危ない!伏せて!」

セイバーの忠告で、俺は遠坂と桜を庇って伏せる。次の瞬間、それらの武器が一斉に雨のように降って来た。

「はああああっ!」

セイバーが俺達の前に立ち、直撃しそうな武器を弾き返す。しかし、石化したキャスターと葛木は避ける術が無い。たちまちの内に、砕かれ、ただの残骸と化してしまう。そして、砕かれたキャスターの残骸は、塵のように消滅してしまった。

「な……何だ?」

突然、神殿が大きく揺れ出した。キャスターが消滅したため、この神殿も消滅しようとしているのだ。

そんな状況下で、その男は更にセイバーに問い掛けてくる。

「覚えているか?我が下した決定を?」

しかし、セイバーはその男を睨み付けるだけで、何も答えない。

「何だ、その顔は?未だ、覚悟が出来ていないと言うのか?男を待たせるとは、戯けた女だ。」

そうしている内にも、キャスターの造り上げた街が消滅していく。

「このような穴倉では、再会も色褪せる。いずれ会うぞセイバー!10年間の返答、胸に留めておくがよい。」

最後にそう言って、その男は消えていった。

「セイバー、あいつは?」

「話は後よ!」

「急いでここを出ないと!」

俺達は、まずはここから脱出する事にした。

傷付いた遠坂はセイバーが庇い、桜は俺が抱きかかえ、何とか俺達は崩壊する神殿から逃げ延びた。

 

家に着く頃には、もう夜は明けていた。

桜を奥の間に休ませ、俺達は、先程のサーヴァントについて、話し合っていた。

「あいつが“アーチャー”なら、今回呼び出されたサーヴァントじゃ無いわ。おそらく、前回の聖杯戦争で呼び出されたサーヴァントじゃないの?」

遠坂の問いに、セイバーが答える。

「確かに10年前に、私はあのサーヴァントと戦いました。」

「セイバーは、10年前の聖杯戦争でも召喚されていたのか?」

「はい、10年前の私のマスターは“衛宮切嗣”でした。」

「何だって?」

 

セイバーが、10年前の親父のサーヴァント……というか、親父もマスターで、10年前に聖杯戦争に参加していたのか?

まてよ、セイバーはイリヤの父親が親父だって……じゃあ、親父はアインツベルンのマスターとして……

 

「待って、セイバー。あいつと戦って、どうなったの?」

「……私は、彼に勝てませんでした……」

「じゃあ、聖杯はあのサーヴァントと、そのマスターが手にしたのね?」

「聖杯を手に入れると、サーヴァントは現世に残れるのか?」

「いいえ、彼は、聖杯を手にしてはいません。」

『え?』

俺と遠坂が、同時に反応する。

「聖杯は、私が破壊しました。マスターの命令で……」

「何ですって?」

「親父が、セイバーに聖杯を破壊させたってのか?」

「はい、令呪で命じられました。」

「ど……どうして?相手に取られそうになったから?」

「分かりません。切嗣は、何も説明してはくれませんでした。」

あまりの事に驚き、俺達は、しばし言葉が出なかった。

「じ……じゃあ、何であいつは、未だに現世に残ってるのよ?」

「分かりません……」

この謎は、いくら考えても答えが出て来なかった。

「……ところで、あいつの正体は何なんだ?何の英霊なんだ?」

「前回の戦いでも、私は最後まで、彼の正体を掴めなかった……あの英雄には、シンボルとなる宝具が存在しない。」

「だって、さっき山程使ってたじゃない?正体を探るなんて、造作も無いでしょ?」

「では聞きますが、先程の宝具に、ひとつでも見覚えのある物がありましたか?」

「そ……そう言われると、確かに……」

「彼の宝具は、どれも見た事が無い物ばかりです。それに、ひとりの英霊が、あそこまで無限に近い宝具を持てる筈が無い……」

セイバーの言葉で、俺の頭にある事が閃いた。

「もしかして、武器自体は奴の宝具じゃ無いんじゃないか?」

「え?どういう事?」

「セイバーも見た事が無いって事は、そうとう古い物……いや、全ての宝具の原点になった武器かもしれない。あいつは自分の事を“王”と言っていた。大昔に、あらゆる武器を自分の宝とした王、その宝物庫自体が、あいつの宝具だとしたら……」

すると、遠坂がはっとした顔をして言う。

「……世界最古の英雄王……ギルガメッシュ?!」

「おそらく、それがあのサーヴァントの真名だろう。」

「……そういえばセイバー、あのサーヴァント“10年間の返答”とか言ってたけど、10年前に何を言われたの?」

「そ……それは……」

セイバーは、何故か頬を赤らめ、言い難そうに話す。

「わ……私を、妻にすると……」

『ええ~っ?!』

 

その後、遠坂は桜の元に行った。目が覚めた時に、ひとりでは寂しいだろうと。

俺は、どうしても聞きたい事があったため、セイバーと庭に出ていた。

「セイバー、教えてくれないか?親父の事……10年前の聖杯戦争の事……」

セイバーは、俯いて黙り込んでいる。

「どうしても言いたくないのなら、無理強いはしないけど……」

「……衛宮切嗣は……私の記憶にある彼は、一言で言ってしまえば典型的な魔術師でした。己が目的にしか興味が無く、阻む者は何であろうと排除する。残忍という訳ではなかったし、殺人鬼でもなかった。けれど彼は、あらゆる感情を殺し、あらゆる敵を殺した。」   

セイバーの語る親父は、俺の知っている親父とは、全くの別人のように思えた。

「切嗣は、私と直接会話する事は、殆どありませんでした。私と常に行動を共にし、直接指示を出していたのは、切嗣の妻のアイリスフィールでした。」

「あ……アイリスフィール?どっかで、聞いた事があるような名前だけど……」

「イリヤスフィールの母親です。」

「ええっ?」

 

そ……そういえば、クロエが言っていたんだった。“イリヤはアイリの娘”って。

 

「切嗣は、最後の令呪を使って私に命令しました。“宝具にて聖杯を破壊せよ”と、それで契約は切れ、私も消滅しました。あの時ほど、令呪の存在を呪ったことはありません……そこまでして、彼が信じたものが何であったか?私には分からない。彼だって、聖杯を欲していた筈なのに……」

「親父は……聖杯に、何を願うつもりだったんだろう?」

「この世の救済……戦争の無い世界の実現、と言っていました。」

「聞いていたのか?」

「一度だけ、私に語ってくれました。しかし、そのためには、自らが悪を為す事も厭わないとも言っていました。」

その時、かつて、親父が語った言葉を思い出した。

“誰かを助けるという事はね、他の誰かを助けないという事なんだ。”

「あなたの過去を垣間見た時、正直、私には信じられませんでした。切嗣が、炎の海の中からあなたを助け出し、養子として引き取ったという事が……」

今度は、助けられた時の親父の顔を思い出した。安堵し、救われたのがまるで自分であるかのような、あの表情を……

「セイバー……お前の望みは何なんだ?お前は、聖杯に何を望む?」

「私は……王の選定を、やり直したいのです。」

「選定を……やり直す?」

「私は、結局王に相応しくなかった。私より、相応しい王が居た筈です。それを……」

「馬鹿な?アーサー王は伝説の英雄だ!それより相応しい王など居るものか?」

「いいえ……私は、国を救えなかった……そんな者が、相応しい王である筈がありません。」

「選定をやり直して、それで本当に相応しい者が現れるのか?そいつが王になって、本当に国の滅亡が救えるっていうのか?どこにそんな保証があるんだ?」

その後、俺は何とかセイバーの考えを改めさせようとしたが、セイバーは、頑として聞き入れはしなかった。

 

その夜、遠坂が俺の体を見てくれた。

投影は、魔力の消耗が激しいらしい。俺は、ずっとそれを続けて葛木と戦っていたから。

「驚いた、あれだけの事をやって、どこも異常が無いなんて。」

俺の体を調べて、遠坂が言う。

「でも、どうせ投影するのなら、セイバーの聖剣のような強い武器が投影できるといいのにな?」

「馬鹿言わないで!セイバーの剣の魔力は、士郎のキャパシティを越えてるのよ。それを模造するなんて自殺行為。あんたは、エクカリバーがどういう物か知っていて?」

「エクスカリバーっていったら、アーサー王の代名詞だろ?切れない物は無く、刃毀れもしない名剣だって……」

「やっぱり、そんな事だと思ったわ。いい、本当に大切なのは、剣じゃ無く鞘の方なのよ。」

「鞘?」

「そう、鞘を身に着けている限り、アーサー王は血を流す事も無い……つまり、不死身なのよ。」

「へえ?なら、どうしてアーサー王は死んだんだ?」

「あ……そうだった、伝説じゃ、エクスカリバーの鞘は盗まれたんだ。」

「何だよお前、どうしてそんな事を気にしたんだ?」

「うるさいわね!そうだったら、無敵だなあって思っただけよ!」

「無敵ねえ?」

 

 

 

 

糸守高校の教室で、窓の外を見ながら、私は授業もそっちのけで思い耽っていた。

この間入れ替わってから、また2日が過ぎた。最初の頃は1日おきに入れ替わっていたような気がしたが、最近間隔が長い。聖杯戦争もかなり激しくなってきているので、日が空くと心配になって来る。

 

衛宮くん、大丈夫かな?キャスターとは、もう戦ってるの?

アーチャーはまだ戦えないみたいだし、セイバーだけで大丈夫?向こうは、サーヴァントがふたり居るんだよね?キャスターも、魔力を溜め込んでるみたいだし……

でも、セイバーは伝説のアーサー王なんでしょ?だったら、無敵かな?

 

「宮水さん?」

突然、先生に指名されてしまった。

「え……あ……はい!」

「この章の、出だしの部分を読んで下さい。」

「は……はい!」

私は、慌てて立ち上がり、教科書を持って朗読を始める。

「I’m a great believer in luck, and I find the harder I work, the more ……」

すると、周りからクスクスと笑い声が聞こえて来る。

 

あれ?何か、発音おかしかったかな?

 

前の席を見ると、サヤちんが手でバツを出している。何で?

「宮水さん……今は、古典の授業なんですけど……」

「へっ?」

遂には、教室中が大爆笑になってしまった。

 

昼休み、例によってサヤちんが心配して聞いて来る。

「ほんまにどうしたん?三葉?ここ数日変やよ?」

「面目無い……」

このところ、入替って無い時の方が不審がられてしまっている。でも、心配するなという方が無理だ。冬木では、本気で命の奪い合いをしているのだから……

 

よく考えたら、最初の頃って、衛宮くんが酷い傷を負うと入れ替わってなかった?

じゃあ、入れ替わらないって事は、衛宮くんは無事……でも、一撃で死んじゃったら、入れ替われないよね?

 

「三葉ってばっ!」

「え?」

どうやら、また考え込んで、サヤちんの声が耳に入らなかったようだ。

 

 

翌日、3日振りに入れ替わりが起こった。

衛宮くんの体で目覚め、無事を確認できて、ほっと一息つく。しかし、入れ替わりが起こって喜ぶのも、変な話だ。本来なら、迷惑な話である筈なのに……

まずは、スマホで衛宮くんからのメーッセージをチェックする。3日分を読むので、かなり時間が掛かった。

何時入れ替わりが起こってもいいように、衛宮くんは毎日メッセージを残してくれる。本当にマメだ。というより、私が困らないようにという配慮だろう。どうして、こうまで人に尽くせるんだろうか?何か、衛宮くんには自分の欲が無いように感じる。

キャスターとの戦い、桜ちゃんの事、10年前の生き残りのサーヴァントの事、この3日間に目まぐるしく状況が変わったようだ。でも、聖杯戦争はまだ終わっていない。

最後に、セイバーの事が書かれていた。セイバーが聖杯に願う望みの事、それについて口論になった事も。

 

衛宮くん、セイバーをサーヴァントとしては見ていないのね?ひとりの女性として、本当に彼女の事を心配している。

もしかしたら、衛宮くんはセイバーの事が?

 

その時、急に胸が苦しくなった。

 

な……何で、こんなに胸が痛むの?別に、衛宮くんが、セイバーの事をどう思っていたって……

そもそも、私は、桜ちゃんを応援していたんじゃなかったの?

 

桜ちゃんは、まだ体の調子が万全では無く、奥の間で休んでいる。遠坂さんも、できるだけ桜ちゃんに付き添っている。

でも、私は……今は、とても顔を出す気にはなれなかった。

 

残るサーヴァントは、セイバーとアーチャーを除けばランサーひとりの筈だった。

しかし、10年前のサーヴァントの出現により、状況は変わってしまった。まずは、このサーヴァントについて調べなければならない。

ただ、今日は、私が衛宮くんと入れ替わってしまったので、その捜索は明日以降に持ち越され、皆、家でのんびりとしている。

 

セイバーは、縁側に腰掛けて庭を眺めていた。

衛宮くんが、セイバーをどう思っているのか?そのモヤモヤもあって、話し掛け辛かった。でも、衛宮くんから聞いたセイバーの望みについて、どうしても言っておきたい事があったので、思い切って話し掛けた。

「セイバー、ちょっといい?」

「何ですか?」

「セイバー……王様になった事、後悔してるん?」

すると、セイバーは一瞬きつい表情を私に向けるが、直ぐに表情を戻す。

「士郎に聞いたのですね?」

「ご……ごめんなさい……」

「いえ……あなたも、士郎と体を共有している……私にとっては、マスターも同然ですから。」

「そ……そんでね、もし、セイバーが思っているように、セイバーが本当に相応しく無い王様やったら、伝説の王様になってたのかなって?」

「はい?……どういう事ですか?」

「もし、相応しく無い王様やったら、後生まで語り継がれるのかなって……皆が慕っていたから、伝説になったんやないのかな?」

「そ……そんな事は……」

「でも、本当にセイバーを慕って、付いていった人々はいっぱい居た筈やよ。そうやないと、国は、もっとずっと昔に無くなってたんやないの?」

セイバーは、そんな事考えもしなかったというような顔をする。

「そんな人達にとって、セイバーは心の支えやった。それを無かった事にするのは、その人達への裏切りにならへん?」

私は、思った事を全てセイバーにぶつけた。

セイバーは考え込んでしまい、その後は何も語らなかった。

 






今回は、士郎と三葉の言葉を借りて、自分がFate / stay nightを見ていて、セイバーに言ってやりたかった事を書かせて頂きました。
はっきり言って、“自分は王に相応しく無かった”と言って選定をやり直すのは“逃げ”でしかないと思います。
“もう一度、王としての自分をやり直す”と言うのなら、まだ話は別ですが……

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