……焼け付くような痛みが身体中に走る。
(まさ、か……こんな事が…。)
揺らぎ倒れて行く体は、最早私の意志が動かせるモノではなかった。それでも諦めきれず必死で手に、足に、心臓に、力を集中させる。
(そんな、筈がない……進化の秘法を手に入れた私が、こんな……。)
こんな下等な人間に、負ける訳が無い。
……いや。
「…負けて、溜まるものかッ……!」
身体はまだ動く。意識はまだある。
私はまだ生き永らえている。
………ならば、最期まで。
私は血の滴る身体に全力を込めて、両腕の魔剣を力の限り振りかざした。
私の放った衝撃波と勇者の白い光が激しくぶつかり合い、立っていられぬ程の突風が吹き荒れる。
「………っッ……!!」
再び燃えるように痛む身体。霞んで行く視界。しかし勇者も同じ位のダメージを受けている筈だ。
思った通り、勇者は現界を迎えつつあった。よもや回復魔法すらも追いつけずに、両腕は震え、頰は苦痛に歪んでいる。
(……なのに、何故だ。)
今にも崩れ落ちそうな程に弱り、
それでも。
(……何故、その瞳を止めない…!)
勇者の翡翠色の瞳には、まだ生きている。いくら打ちのめしても決して消えぬ強い光が。
……何故。どうして。
私利私欲で「彼女」を手にかけるような、下等で卑劣な生き物。
我ら魔族の足元にも及ばぬ力しか持たぬ、愚かな人間共。
なのになぜそんなにも強い瞳ができる?
(まるで、その瞳は……)
ほんの一瞬脳裏をよぎったその笑顔を振り払い、私は再び腕に力を込める。
「ッっぁあ”あ”あっッ!!!」
渾身の一撃に、勇者の身体はぐらりと傾むいた。
(あと一撃でっッ……!!)
私は勇者に止めを刺すべく、
最期の力を放つ。
……………その刹那。
[………ピサ、ロ、様……。わたしの最期の、わがまま……どうか、野望を捨てて、わたし、と…。]
……記憶の底を漂う透き通った声。
[ーーどうか、
人間の全てを恨まないで…。]
封じ込んでいた温もりが弾け、
同時に弱まる力。
その瞬間、
勇者の放った一撃が私の心臓を貫いた。
「ぐぁァあ”あ”あ”ァああっッッ!!!」
熱く崩れて行く身体。
薄れて行く意識。
憎むべき人間。憎むべき勇者。
彼らを赦すつもりも理解するつもりも私には無い。
(……皮肉だな。)
ずっと分からなかった。彼女が今際の際に零した最期の頼み。
彼女こそが一番人間を憎んでいる筈だった。恨んでいた筈だった。
(……だが、恨むなと。)
今でも分からない。その言葉の真意が。
だが勇者を殺す事を拒んだのは、他でもない。今でも分からぬ最期の「わがまま」だった。
「ハッ……皮肉だな、本当に…。」
彼女の仇を、彼女の「わがまま」により撃ち損ねたのだから。
(……ロザリー。いつか、私にも…)
……わかる日が来るのだろうか。
お前の「わがまま」の、本当の意味が。