糸使いちゃんの逆行物語   作:96ごま

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ラバックの視点に戻ります。

現在、クリスマスネタの番外編をあっちで投稿したいと思いつつ、内容が思い付かなくて筆が全く進んでいない状態です…orz

誰かオラに妄想力と文才を分けてくれェーー!!!((


誤解を斬る

あれから帝都の街中を歩き回って、陽が落ち始めた頃。ルミちゃんの母親が漸く見付かった。

 

「うちの娘がご迷惑をお掛けして申し訳ありません…。本当にありがとうございました!」

 

「いえいえ、無事に見付かって良かったです」

 

「お姉ちゃんとお兄ちゃん、ありがと!」

 

意外な事に、ルミちゃんはシュラにもすっかり懐いていた。でもシュラはふん、とそっぽを向いていて、それでも彼女はニコニコと嬉しそうに笑っている。

 

よほど彼の肩車が楽しかったのだろうか。相手が相手だからあまり良くないと思いつつ、なんだか微笑ましく思ってしまう。

 

「また会おうね!」

 

「おう!でももう迷子になるなよー!」

 

大きく手を振るルミちゃんに俺も手を振って、別れを告げる。

 

彼女達を見送ったところで、俺もそろそろエスデスのところに戻らないとな、と宮殿の方向へと歩き始めた。ただ……。

 

「……なんでついて来るんだよ」

 

「あ?俺の家は宮殿にあるんだから当然だろうが」

 

なんて言って俺の後ろにぴったりとついて来ているシュラ。人混みから抜けたら俺を襲うつもりなのがバレバレだっつーの。

 

「……にしても、よく人助けなんかやろうと思えるな。あんなのは日常茶飯事だからほっときゃいいだろ」

 

理解出来ない。そんな顔でシュラはそう言った。

 

「……俺も昔はそう思ってたけどさ…ナイトレイドのみんな(あいつら)のお人好しが伝染ったっていうか……。でも、苦労して良い事した後に礼とか言われると、結構気分が良くなるんだぜ」

 

少し考えてから思った事を口にして、ニッと笑う。するとシュラは間を置いてから、「ふーん」と興味無さげに返す。

 

「お前も悪事ばっかしてないで、たまには今回みたいな人助けもやってみれば?そうすりゃ前よりはもう少しまともな人間になれるんじゃねぇの?」

 

その言葉に足を止めたシュラに構わず、俺は再び口を開く。

 

「お前のクソ親父みたいなクズになってないでさ、例えば民の為にもっと努力するとかしてみろよ」

 

こいつの事情なんて何一つ知らない。だから他人事のように、軽い気持ちでそう言ってみた。

 

別に、改心して欲しいとかは一切思っていない。こいつみたいな根っからの悪人には、最初から期待なんてしてないから。けど、もしこれで少しでも大人しくなってくれれば、後が楽になって助かるなとは思ってる。

 

「人助け、ねぇ……」

 

そう呟いたシュラの声は、街中の騒音に掻き消されて、俺の耳には届いていなかった。

 

「そういや、お前今どこで寝てんだ?」

 

何故か避けるように話題を変えるシュラ。けど俺もこれ以上問うつもりはなかったから、何も思わないまま返す。

 

「てめぇに言うわけないだろうが。どうせまた襲う気なんだろ?」

 

「流石にバレるか」

 

「さらっと認めんな。あとこっちに寄るな!それ以上近付いたらぶっ殺す!」

 

「可愛気ねぇなぁ。返り討ちにしてまた犯すぞ」

 

俺がキレている一方で、シュラは何故か平然としていた。こいつはすぐに挑発に乗ってしまうタイプだと思っていたから、実は内心少し驚いている。

 

もう何を言っても無駄かと判断した俺は口を閉じて、再び宮殿へと足を運び始めた。

 

「で?どこに泊まってるんだ?」

 

「!?く、くっつくなこの変態!さりげなく変なとこ触ってんじゃねぇよ!!」

 

突然背後から抱き付き、やらしい手付きで腰辺りを撫でてくるシュラ。まさかここまで粘着質な奴だったとは。

 

「言うまで離さねぇ」

 

「ゃ…っ!エ、エスデス!!今はエスデスの部屋に泊まってる!」

 

ニヤニヤしながら内股を上下にゆっくり撫でられてビクリとし、思わず出てしまった自分の声のせいで顔が赤くなった俺はすぐに観念して白状した。

 

「エスデスの姉ちゃんのところだぁ?なんでお前が……つーかよく生きてるな」

 

「俺もそれは不思議に思ってるけど、やっぱりいつ死んでもおかしくないから一秒でも早く自分の部屋を取り戻したいんだよ!!」

 

目を見開いて驚きを露にするシュラに、若干涙目で同意する。

 

夜までに戻らなかったら何をされるか……。それに、今朝みたいにまた窒息死寸前になる可能性だってある。あそこで待っているのがエスデスだというだけで、怖くて仕方がない。

 

その後も、エスデスに出会った経緯や、前世ではタツミが好かれていたのに、とか。同じ前世の記憶を保持している者であるシュラに、他の人間には言えない、溜まりに溜まった愚痴をつい話し続けてしまっていた。でも、ずっと誰にも言えなかった愚痴も少し吐き出せて、正直すっきりした。

 

……って、なんでこいつに心を開いてるんだよ俺は。こんなヤツと仲良さそうに話しちゃダメだろ。

 

こんな言い方はしたくないが、前世の記憶という同じ秘密を共有している者同士でもあるこの関係が、俺の気を緩くさせてしまったのかもしれない。

 

「なんつーか、意外と苦労してるんだな、お前って」

 

「そうだ、俺は苦労人だ。今まさにあんたにも苦労してるよ。だからいい加減離れろ」

 

白状したら離れてくれると思っていたのに、全く離れようともしないシュラに苛々する。歩き辛いし恥ずかしいから勘弁して欲しい。

 

「そんなにエスデスの姉ちゃんのとこが嫌なら、俺の家に……」

 

「それこそ嫌だね。お前の事だから、どうせ女の俺を抱きたいだけだろ」

 

「まぁな」

 

「おい、そこは即答しないで否定しろよ」

 

「けどエスデスの姉ちゃんよりはマシだと思うぜ?ちゃんとお前にも気持ち良くさせてやるからよ」

 

「イ・ヤ・だ!!!好きでもない奴にまた脚を開くなんてごめんだね!」

 

しつこくセクハラしてくるシュラの手を叩いて、全力で拒絶する。するとやっと諦めたのか、シュラは俺から離れ、つまらなさそうにポケットに手を突っ込んでいた。

 

その後はお互い無言のまま、宮殿へと向かっていた。しかし、

 

「漸く戻ってきたか、ラバ」

 

「ナジェンダさん?……と、エスデス…将軍まで?」

 

宮殿前に辿り着くと、何故かナジェンダさんとエスデスが腕を組みながら堂々と仁王立ちしていた。

 

「こりゃ豪勢なお出迎えだな。そんなにこいつの事が好きなのかよ、あんたら」

 

「今はまだ貴様に用はない。だがその様子……そいつとの噂は本当なのだな、ラバック」

 

呆れているシュラを無視して、エスデスは真剣な目で俺を見る。その隣ではナジェンダさんが附いているが、彼女も何か憤りを感じている雰囲気があった。

 

えっ、な、何?俺何かしたか?なんか物凄く怖いんだけど!?

 

「ラバ、悪い事は言わん。今すぐにそいつとは縁を切れ」

 

やっと顔を上げたナジェンダさんは、昨日みたいにまた帝具の銃口をシュラに向けそうな空気を放っていた。

 

「まずは何の話をしてるのか聞かせろよ姉ちゃん達」

 

「ロリコンは黙れ」

 

「ああ?誰がロリコンだコラ」

 

将軍二人に物怖じせずに聞いたシュラが一瞬だけすげぇと思ったけど、すぐにエスデスにロリコンと呼ばれたのはちょっと笑いそうになってしまった。

 

「あのー、噂って何の話なんですか?」

 

先程からそれが凄く気になっていたので、手を上げて訊ねてみた。

 

「ラバックと大臣の息子が街中で夫婦のように子供を連れて一緒に歩いていた、と聞いてな……。大臣には義娘と孫がいたという噂が帝都で広がっているんだ」

 

半分は事実だったが、最後は根も葉も無い噂話に振り回されていたらしい二人の将軍の話を聞いて、俺とシュラは顔を見合わせる。

 

「「夫婦……?」」

 

今目の前にいるこいつと俺が?

 

言われた事を理解した途端に、俺は彼と過ごした夜を鮮明に思い出してしまい、耳までの顔全体に熱を感じた。

 

「ま、孫!?い、いや、一回だけでそんな……!」

 

「「「?」」」

 

不覚にもシュラとの子供を抱く自分を想像してしまった俺は、一人で混乱して目を回す。

 

いやいやいや、まずこんなゲス野郎に惚れるわけないし、それ以前に俺ノーマル!ノーマルだから!!……あれ?でも今の俺は女だから、恋愛対象が女の人だと……あれ!?今更だけどよく考えたら俺ってノーマルの道が無い!?薔薇と百合の二択だけとか嘘だろ!?

 

「ラバ?どうした急に?」

 

「え!?あっ、な、なんでもないですよ!?」

 

不思議そうにするジェンダさんに声を掛けられた事によってテンパり、声が裏返ってしまった。

 

「先程からどうしたのだラバック?そんな可愛い仕草をする程私に甘えたいのか?」

 

「どう考えたらそうなるんですか!?全然違いますからね!?あとくすぐったいからそれやめて下さいっ!」

 

横から抱き付いてすりすりと頬擦りをしてくるエスデスに、赤面したまま思わずツッコム。

 

「……なぁ、ナジェンダの姉ちゃん。あれって本当にあの帝国最強のエスデスか?」

 

「ああ。信じ難いだろうが、ラバックが関わると、あいつはいつもああだ」

 

「マジか」

 

「マジだ」

 

エスデスのデレデレっぷりにドン引きするシュラに頷いて同意しているナジェンダさん。でも俺から言わせて貰うと、そんな事はどうでもいいから早く助けて欲しい。

 

「と、とりあえず!俺には子供なんていませんからっ……!それはただ迷子の女の子の母親を一緒に探してただけです!」

 

「そ、そうか。それなら良かった」

 

急いで話題を切り替えるように、話を戻して説明する俺の必死さに少し押され気味なナジェンダさんが、ホッと胸を撫で下ろす。

 

その一方でまだ俺に抱き付いているエスデスはというと、「だから言っただろ」と何故かナジェンダさんに呆れていた。

 

「噂の真偽はよくわかった。だが、これからは勘違いをさせるような行動は控えてくれよ?」

 

「そうだな。危うくそこに居るゲスをこの場で殺すところだったぞ」

 

「アッハイ」

 

頷くしかなかった。けど、俺の隣にいるバカは違った。

 

「あ?俺は大臣の息子だぞ。それに今回は俺は悪くな……」

 

「何か言ったか?」

 

「……なんでもねぇ」

 

シュラは不服そうに訴え掛けたが、二人に睨まれて畏縮してしまう。

 

知らないところで変な噂が流れていたっていうのもそうだけど、やっぱり一番怖いのはこの二人だなと改めて思う。この二人が組んで革命を起こそうとすれば、簡単に帝国を滅ぼせるに違いない。

 

そして後日には、大臣に孫が出来たという噂はデマだという話がいつの間にか帝都に広められ、大臣の孫騒動はすぐに収まったのだった。

 




ラバックのおかげで再び死亡フラグを回避出来たシュラ。(だが今回のフラグは無理矢理手伝わせたラバのせいでもある)

しかし、そろそろナイトレイド編に移りたいと思っている作者によって、次はエスデスと共に暫く出番を失うかもしれないという新たなフラグが待っていた……((

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