糸使いちゃんの逆行物語   作:96ごま

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皆さんお久しぶりです、零の最新話で五体満足に生きてるラバが登場すると聞いて急遽雑誌を買いに行った作者ですよ!!(大興奮)

ラバ「今回のお前のテンションの高さがなんか怖い」(ドン引き)

だって戸流先生のラバックが見れるし今後奥の手公開の可能性もあるんだよ!?こんなん興奮するに決まっとるやろ!!
半年振りのラバックくん美味しい!!!((

ラバ「誰かこの変質者を始末してくれねぇかな…?」


新入りを斬る

「はぁ…今すぐ村に帰りたい……」

 

俺の名前はタツミ。重税に苦しむ田舎の故郷に仕送りする為に帝都へ来た筈だったんだが……旅の途中ではぐれた二人の幼馴染みを探さなきゃいけないのに、何故かひょんな事でとある暗殺者集団に仲間になれと言われ、無理矢理このアジトに連れてこられた。

 

「ここは訓練所という名前のストレス発散所だ。んで、あそこで戦ってる二人は…見るからに汗臭いリーゼントがブラート。そいつに必死に食らい付いてるのがラバックだ」

 

アジト内を案内しながらそう紹介してくれたのは、俺の金を騙し取った挙げ句に拉致ってきた張本人のおっぱ…じゃなくて、レオーネさん。

 

彼女が促す先に視線を向けると、体格差のある二人の男女が槍を交えており、その激しい攻防の熱気がこちらにまで届いていた。

 

すげぇ……!ブラートさん、だっけか?あの人の槍捌きもすげぇけど、それを全部防いでる女の子も相当な手練だ…!

 

逞しい肉体を主張するブラートさんの突きや凪ぎ払いなどの素早い技の切り替えには、無駄な動きがほとんどない。それでも負けじと防御に徹する彼女も一瞬の油断も隙も見せず、端から見て防戦一方でありながらもなかなか良い勝負に見える。

 

「ラバの奴、今日も朝から頑張ってるみたいだねぇ」

 

「えっ、あれ毎日やってるんですか?」

 

「ああ。あいつ、うちで一番ビビリなのに意外と負けず嫌いでね。ブラっちに勝つまで諦めるつもりはないってさ」

 

本人達の試合を眺めながら教えてくれたレオーネさんの表情はどこか誇らしげで、まるで妹の自慢をする姉のようだった。

 

「っと、もう決着が着いたみたいだぞ、少年」

 

そう言われて視線を戻すと、ちょうどその女の子、ラバックが持っていた槍が弾き飛ばされ、武器を失った彼女の喉元に矛先が突き付けられいた。

 

「……っだあぁーーー!!!ちっくしょう!!また一撃も当てられなかった!!」

 

「はっはっは!まだまだだな、ラバック」

 

その場で仰向きに倒れ込んだ敗者ラバックが、まるで駄々っ子のように暴れて「うがぁーっ!!」と心底悔しそうに叫ぶ。

 

「おーっす!今日も良い勝負だったねぇ、お二人さん」

 

「おっ、レオーネじゃん。さっきの見てたのか?」

 

レオーネさんが声を掛けに行くと、試合を終えて休憩に入ろうとしていた二人が俺らの存在に気付く。

 

「そっちの少年は……この間の奴か」

 

「?なんで俺の事を…?」

 

「その人はお前を抱えてた鎧男だよ」

 

「鎧……?あっ!あの時の!?」

 

ブラートさんとは面識がない筈なのに、と思いきや、怠そうに上体を起こしたラバックからそう聞いて驚く。

 

「少年、気を付けろ。そいつホモだぞ」

 

「!!?」

 

ちょうどブラートさんと握手を交わしていたその時、耳打ちしてきたレオーネさんの言葉で反射的に手を離してしまう。

 

「おいおい、勘違いされちまうだろ?なぁ?」

 

いや否定してくれよ…!!

 

何故か頬を染めたブラートさんに鳥肌が立つ。なんだか身の危険を感じるのは気のせいであって欲しいと切に願う。

 

そこでふと視界に入ったラバックに意識を向けてみると、彼女が真剣な眼差しで俺を観察するように、見定めるかのようにジッと見つめていた事に気が付く。

 

先程のマインとかいう刺々しい態度の女の子と同じで俺を仲間と認めない、とか言い出すのだろうか?と少し不愉快な気分になって顔を顰める。

 

けれどその子は何事もなかったかのようにニッコリとした笑顔で、

 

「ラバックだ。気軽にラバって呼んでくれ」

 

と、明るい声色で自己紹介を簡潔に述べ、意外にも歓迎してくれているようだった。

 

「さて、軽い自己紹介も済んだし、先に風呂借りるぜ、ブラートさん」

 

「ああ、俺はまだ自主練を続けるつもりだったからな。気にせずゆっくり浸かってくれ」

 

「サンキュ。んじゃ、また後でな、新入り」

 

「いや、だから俺はまだあんたらの仲間になるなんて言ってな……」

 

勝手に仲間認定されてる事に慌てて否定しようとするが、途端にふっと柔らかい微笑みを見せたラバックに思わずドキッとしてしまい、言葉が詰まる。

 

……が、

 

「あ、そうだ。先に言っとくけど、ナイトレイド女子の風呂を覗く時は死ぬ覚悟で挑めよ」

 

「はあぁ!!?」

 

花が綻ぶような笑顔から一変。彼女の表情はゲスな笑い方に変わり、僅かに感じた俺の胸のトキメキは一瞬で消えていく。

 

なんで俺が覗きに行く前提で忠告されなきゃいけないだよ!?俺の外見ってそんなに印象悪いのか!?

 

いきなり疑われた事に納得がいかず、なんて失礼な奴なんだと内心愚痴る。

 

けれどその後レオーネさんにまでからかわれて、まだ何もしてないのに覗き魔だのなんだのと、俺は暫く変態扱いされる羽目になっていたのだった。

 

 

 

 

 

~ラバックside~

 

「__よう。待ってたぜ、ラバック」

 

「……こんなとこで待ち伏せしてんじゃねぇよこのストーカー」

 

タツミ達と別れて風呂場へと向かう途中。廊下で待ち伏せしていたシュラと遭遇する。

 

極力会いたくない奴の顔を見て舌打ちするが、ここ数年で慣れたらしいシュラには効果がない。

 

「で、あいつはどうだった?」

 

「……残念だけど、他のみんなと同じみたいだよ」

 

シュラが示す『あいつ』というのは、もちろんタツミの事。『どうだったか』という質問は、彼が俺らみたいに前世の記憶を受け継いでいるのかどうか。そしてその答えはNO。他のメンバー同様、タツミも何も覚えていない様子だった。

 

「タツミも俺らの最期に関わってたからもしかして、とか思ってちょっと期待してたんだけどなぁ……」

 

もし記憶が残っていたとしたら、俺はタツミの事を恨んでなんかいないって、一言伝えてやりたかったのに……。そんな些細な未練すら果たせないという現実に、一人湿った空気に浸ってしまう。

 

「でもま、例え覚えていたとしても、タツミの事だからかなり責任感じて俺に対して変に気ぃ遣っちゃいそうだしな……。ぎくしゃくした空気にならなくて良かった、って事にしとこう」

 

ほとんどのナイトレイドメンバーが何も覚えていないのは残念というか、寂しいけど。辛い思い出が無いと考えれば、これはこれで良かったのかもしれない。

 

だかこうして複雑な気持ちに溜め息を吐いたのはもう何回目だろうか。幸せが逃げちゃうからダメだと自分に言い聞かせつつも、無意識にまた一つ漏らしてしまう。

 

「こんなのはもう慣れただろうに、いつになく落ち込んでるみてぇだな。あいつとそんなに仲が良かったのか?」

 

「……ああ。タツミが来るまで同年代の同性はいなかったからね。あいつは俺の数少ない気の合う悪友(親友)だったよ」

 

シュラの素朴な疑問に答えながら、遠い過去を思い出して懐かしむ。

 

「親友、ねぇ……。それだけなら別に構わねぇけど」

 

「……え、何?もしかしてお前もタツミに嫉妬してんの?やめろよ、そういうのはあんたのキャラじゃねぇって」

 

「だったらそいつの話ばっかすんなよ。今は俺と二人きりだろ?」

 

「だからやめろって言ってんだろうが気持ち悪ぃ!」

 

シュラの口から放たれた『二人きり』という単語を聞いた途端に脳内ではにかむブラートさんの顔が浮かび、失礼ながらつい条件反射で自身の腕を抱き、同時に顔色も青く染まっていく。

 

「っていうか何度も言うけど、俺は例え世界が滅びようとお前を含めた野郎共を恋愛対象として見る気はこれっぽっちもねぇし、そもそもタツミには後々可愛い彼女が出来ちまうからお前が妬く必要はねぇよ」

 

まぁリア充爆発しろっていう意味での嫉妬はあるけどな!!そっちの意味だったら全力で同意するぞ!でも俺と仲が良さそうで羨ましいとかそんな乙女チックな理由で妬くのはやめてくれ。俺とタツミはそういう関係じゃねぇ、想像するだけで気持ち悪いわ…!

 

「けどそれも前回と同じとは限らねぇだろ?お前はこの俺様が認める女だからな、俺の敵が増えても可笑しくはねぇ」

 

「今は女の姿でも俺は男だ、女扱いすんな!」

 

「へぇ、じゃあお前が男だって言うなら俺も一緒に風呂入っても良いよな?」

 

「うぐっ…!!」

 

いやらしく笑うシュラの言葉に思わず狼狽え、半歩後退ってしまう。

 

でも否定しないとこいつなら本気でやりかねないと身の危険を感じた俺は威勢を張る。

 

「お、俺にも羞恥心ってのがあるんだよ!また覗こうとしたら今度こそ首吊りの刑にしてやるからな!?」

 

「おー、怖い怖い」

 

ガルル、と威嚇する俺を恐れる事なく、むしろ小馬鹿にするようなシュラの態度が腹立たしい。

 

「ちょっと、こんなところで何してんのよあんた達」

 

突然聞こえた声に振り向くと、そこにはシェーレさんを連れたマインちゃんが居た。

 

廊下のど真ん中で通行を妨げていた俺らに邪魔だと訴える彼女は、シュラを見た途端に呆れ顔になる。

 

「あんたまたラバにちょっかい出してるの?ほんっと懲りないわねぇ……」

 

「てめぇには関係ねぇだろチビ」

 

「チビって言うんじゃないわよ悪人面」

 

「マイン、シュラ。喧嘩はダメですよ」

 

元々相性の悪いマインちゃんとシュラが喧嘩を始めそうな空気に、困った様子のシェーレさんがおどおどしつつも間に入って宥めようとする。

 

だがしつこく絡んでくるシュラにうんざりしてた俺としては有難い流れだ。

 

「聞いてよマインちゃん。こいつまた風呂覗こうとしてたんだぜ?」

 

「うわぁ、相変わらず最低ね……。いっそここで殺す?」

 

「それ賛成」

 

「ああ?やんのかてめぇら」

 

「あ、あのぉ…シュラも一応私達の仲間なんですから、ね?皆さん仲良く……」

 

「「こいつとだけは無理(です/よ)」」

 

いくらシェーレさんの頼みでもそれは無理だ。奴と居るだけで不快なのに仲良くなんて出来るわけがない、と俺とマインちゃんの意見が見事に合致し、シェーレさんが苦笑する。

 

「シュラ、まだ覗くつもりでいるならあたしのパンプキンでその脳天撃ち抜いてやるわよ?」

 

「……ちっ、今回はやめといてやるよ」

 

二対一では不利だと悟ったシュラは、女の敵に容赦はしないつもりのマインちゃんの脅しで漸く諦め、悔しそうにこの場を去って行った。

 

「いやぁ、助かったよマインちゃん。あのバカを追っ払ってくれてありがとね」

 

「別に。見てて不愉快だったから早くあたしの視界から消えて欲しかっただけよ」

 

ふんっ、とそっぽを向くマインちゃんは相変わらず素直じゃない。お礼を言うのも言われるのも苦手で、つい刺のある言い方をしてしまう彼女らしさは今も健在だ。

 

「そういえばラバ、タツミにはもう挨拶したんですか?」

 

「うん、ちょうどさっきね。今頃は兄さんのとこにでも行ってるんじゃないかな?」

 

そして姐さんに遊ばれているであろう、とからかわれるきっかけを作った俺は内心ほくそ笑む。

 

「ふふっ、これからまた賑やかになりそうですね」

 

「はぁ…なんでみんなして歓迎ムードになってんのよ。あたしはあんな田舎者なんて認めないんだからね」

 

「そう言うなってマインちゃん。せっかくの貴重な人員なんだぜ?シュラは無理でも俺らと同年代のタツミとは仲良くしなよ」

 

「まぁ流石にシュラ(アレ)程とは言わないけど……でもやっぱりあんな生意気な奴と仲良くする気はないわ」

 

生意気なのはマインちゃんも同じでしょ、と思って呆れるが、口にしたら俺が怒られるので黙っとく。

 

だがマインちゃんがタツミを毛嫌いするのは想定内。でもこれが後に恋人関係になるのかと思うとやはりタツミが憎い。

 

ん?タツミを憎んでなんかないってさっき言ったばっかりだろうって?それとこれはまた別だよ。俺のモテ男への憎しみは永久に不滅だからね。

 

まぁそんな俺の心中は置いといて。マインちゃんとシェーレさんの二人と別れた俺はそのまま目的地の風呂場へと再び向かった、のだが……。

 

「……念の為、罠でも張っとくか」

 

これまでに何度も風呂場に突撃されたせいで未だにあいつを警戒している俺はこの後、散々自分が行ってきた覗きスポット全体に帝具で罠を仕掛けた。

 

しかし周囲に張り巡らせた糸には最後まで誰も掛からず、俺の心配は杞憂に終わる。おかげで罠を張った労働と時間が無駄になり、ナジェンダさんからの召集に遅刻しないよう入浴時間を短くせざるを得なくなってしまった。

 

「あーもう!!!なんで俺は毎回あんな奴に振り回されなきゃいけないんだよ!?」

 

姐さんを始めとした他の女性陣も懲りずに覗き行為をしてきた俺に対してこんな気持ちだったのかと思うと、殺さずに済んでくれていた彼女達の優しさを改めて思い知る。

 

でもやっぱり性欲に逆らえないのは女好きの元男として首を何十回も縦に振れる程理解出来るから超複雑なわけで。精神と肉体の性別が不一致である限り、誰にも理解されないこの苦悩は一生絶えなさそうだ。




【ボツ設定】

『実はアニメ版のタツミが逆行している』

ナイトレイド編突入前に浮かんだけどすぐにボツになったやつ。
再会した二人がお互いの記憶と辻褄が合ってない事に気付いて「俺の知ってる世界線と違うだと!?」みたいな展開にしてみようかと思ったんですけど、これ以上ややこしくなると管理出来る自信がなくて……。
なにより、だったらアニメ版のタツミが主人公で良くね?っていう結論に至ったのでやめました()

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