糸使いちゃんの逆行物語   作:96ごま

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前回の続き。
大したサブタイ思い付かなかったンゴォ……。
悪々戯なんてこの作品でいつもやってる人おるやん()


作品とは無関係な近況報告ですが、前回の更新の翌日に、自宅のすぐそこの近所で家事が起きてめちゃくちゃビビりました(震え)
怪我人が一人も出なかったのが不幸中の幸い……。

皆様も火の扱いには十分ご注意を…!!


悪々戯を斬る

あれから運良く誰も居ない浴場を満喫出来た入浴後。詰所に戻ってきた俺は片手間に髪をバスタオルで乾かしている。

 

「……まだ居たのかよお前」

 

俺が文句あり気にそう言い放った相手は、未だにこの詰所に居たシュラ。

 

なんとか多少は動けるようになったみたいだが、今すぐにでも噛み付かんばかりに俺を恨めしそうに睨んでいる。それでも殴りにこないのは、恐らくまだ先程の痛みが残っているからだろう。

 

「言っとくけど、そんな睨まれても俺は謝らねぇぞ」

 

「はっ、俺だっててめぇみたいなクソアマに謝る気はねぇよ」

 

殴りてぇ…ほんと殴りてぇわこいつ。今度こそ潰してやろうかこのクソ野郎。

 

「喧嘩はもう止しなよ二人共。ここでまた暴れたりでもしたら、ナジェンダさんに怒られちゃうよ?」

 

リネット兄さんの口から出た名前を聞いてすぐにハッとする。

 

マ、マズい……!これ以上暴れたらどころじゃねぇ!ソファーをボロボロにしちまったのがバレたらもうこの時点で怒られる…!!

 

シャワーを浴びた後だというのに、だらだらと大量の汗が全身に流れていくのを感じる。ナジェンダさんのお説教タイムが訪れてしまうのも時間の問題だ。

 

「っていうかラバ、髪ちゃんと乾かさないとダメだよ?風邪引いたりでもしたらどうするのさ」

 

「うわっぷ!!?」

 

兄さんが背後に回り、俺が持っていたタオルを奪って髪を丁寧に乾かし始めた。

 

「ちょっ!?もうガキじゃねぇんだからやめろって兄さん!そんぐらい自分で……」

 

「って言いながらまた雑になっちゃうからダーメ!それに、君は僕と違ってまだ未成年の子供でしょ」

 

言い返せない言葉にぐぬぬと唸る。そのまま我慢して大人しくするが、周囲に居る仲間達からの微笑ましそうな視線が恥ずかしい……。

 

そんな俺と兄さんのそのやり取りを見ていたシュラは、きょとんとした顔でこう聞いてきた。

 

「兄さんって……お前ら兄妹だったのか」

 

「そうだけど何か文句でもあるのかい?大臣の息子サマ」

 

驚いているシュラにジト目で返すリネット兄さん。どうやら俺が居ない間に他の兵士達からシュラが大臣の息子だという話を聞いていたらしい。

 

しかし相手の身分が良かろうとそうでなかろうと関係なく接するのがうちの兄。言いたい事ははっきり言うタチなので、誉め言葉から罵詈雑言までなんでもサラリと言ってしまう。

 

おかげで自分よりも身分の高いお嬢様相手でも、可愛けりゃ無意識に口説く事だってある。それでコロッと落とせてしまうのだから本当に憎たらしいったらありゃしねぇ。いつかこいつにブラートさんを押し付けて困らせてやりたいくらいに。

 

「……確かに言われてみりゃあ、睨む時の目元とか結構似てンな。よく見るとそっくりだわお前ら」

 

シュラにそう言われた途端に「え、そう?」とちょっと嬉しそうに照れる兄さん。だが俺としてはそれは嫌味にしか聞こえないし、

 

「全ッ然嬉しくねぇ」

 

「……それは兄に対して失礼じゃないかな妹よ?」

 

うへぇ…と嫌そうに言ったら悲しみを帯びた目で訴えられた。

 

悪いな兄さん。俺もあんたに似て自分の立場を気にせず言いたい放題言うタイプなんだ、許せ。

 

「つーか、それよりもこのソファーを早くどうにかしねぇと……」

 

逸れた話題を戻して、無惨に破けたソファーを横目で見やる。

 

少なからずとも、任務の作戦会議がある明日にはここに立ち寄るであろうナジェンダさんがこれを見たら確実に叱られるに違いない。彼女にキレられるのだけは本当に勘弁願いたい。でもここには裁縫道具が置いてあるから、それを使えば破けた部分を縫う事が出来る筈だ。

 

そこまで考えていると、リネット兄さんが俺の髪を乾かす手を止めた。

 

「はい、終わり。これで大体乾いた筈だよ」

 

「ん、サンキュ」

 

「どういたしまして」

 

そしてそのまま、兄さんは髪の水分を吸って湿ったバスタオルを洗濯に出すと告げてドアノブに手を掛ける。しかしそのドアノブを回す前にピタリと止まって、彼はシュラの方へと振り向く。

 

「あ、えっと…シュラさん、だっけ?もう一度言っておきますけど、うちの妹には絶ッッッ対に手を出さないで下さいね?」

 

「へいへい、わーったよ。手ェ出さなきゃ良いんだろ?そんな怖ぇ顔すんなって」

 

ダメ押しとばかりに釘を刺す兄さんに、シュラはひらひらと手を振って適当に返事する。

 

「ほんとにわかってるのかなぁ…?」

 

訝げに呟く兄に同意して頷くが、当の本人は全く気にしてない様子。

 

結局、リネット兄さんはタオルを持って洗濯機のある別の部屋へと渋々行ったのだった。

 

「……なぁ、前も(・・)ああだったのか?あの兄ちゃん」

 

周りに聞こえない小声で、シュラが俺に問い掛けてきた。

 

答えるべきか一瞬迷ったが、仲間達が少し離れた場所に居るのを確認してから首を横に振る。

 

「いんや、前回はフツーのお兄さんだったぜ。帝都には一度も来てない筈だし」

 

「へぇ、じゃあお前が妹になっちまった事でシスコンになった、ってわけか……。なんか、性別変わっただけで色んな奴から愛されまくってるみてぇだな、お前」

 

「そりゃどーも」

 

嬉しくないどころかやっぱり嫌味にしか聞こえない言葉に口を尖らせる。

 

そこで俺は裁縫道具を取り出して、ソファーの前にしゃがみ込む。

 

「そういや、お前の帝具はまだ回収してねぇのか?」

 

慣れた手付きで針に糸を通していると、今度は俺の帝具について聞いてきた。恐らくこの糸を見て自分の最期を思い出したのだろう。

 

「クローステールは革命軍(あっち)で手に入れたからね。俺の相棒との感動の再会はまだまだ先さ」

 

こちら側の帝具の情報は決して吐いてはいけない。けどこいつは俺のクローステールやタツミのインクルシオを既に知ってるから、今更喋ろうが喋らなかろうが関係無いと思い、正直に教えてやる。

 

「なるほどな。それで糸の帝具の情報が今も一つもねぇってわけか」

 

「そゆこと。ま、帝国側に存在がバレたとしても、本部の場所が知られてない限り盗られる心配はねぇし、クローステールにはインクルシオとかみたいな奥の手もないから、革命軍(あっち)にとっては大した損害はねぇけどな」

 

というのは嘘。クローステールにだって奥の手はある。だが流石にそれはバレるわけにはいかないので、まずはあっさり情報を吐いたと見せかけてから簡単に欺けるように仕向けてみた。

 

「口ン中に隠し入れてたアレはちげぇのか?」

 

シュラの指すアレとは、こいつを殺す際に行ったあの騙し討ち。確かにアレは奥の手と思われてもおかしくはないかもしれないが……。

 

「あれは奥の手じゃなくて俺の柔軟な発想力と技量で編み出した超必殺技。ま、初見相手にしか使えないのが欠点だけどね」

 

「超必殺技、ねぇ……。奥の手でもねぇのに自分の身体ン中に帝具入れるって、よくそんな怖ぇ事してたなお前」

 

「一杯で十分な帝具を全部一気に飲み干したり、体内に爆弾仕込むとかいう帝国の狂人共に比べたらまだ可愛いもんさ」

 

それを聞いたシュラは「確かに…」と呟く。

 

そこで俺達の会話は途切れ、俺は黙ってソファーを縫う手を動かした。……のだが、突然シュラが俺の背中に抱き付いてきた。

 

「ッ!!?な、なにしやが……んむっ!?」

 

「おっとぉ、あんまでけぇ声出すと、お仲間さんに聞こえちまうぜ?」

 

抗議の声を遮ぎるように、シュラは俺の口に指を入れてニタリとした笑みを見せる。

 

その後ろでは、こちらの様子に気付かないままいつものように談笑している仲間達の姿が。彼らに助けを求めたいのに、口の中で暴れる異物が邪魔で喋べれない。その邪魔な指を噛もうにも、舌の付け根まで入れられたそれが嘔吐感を促し、それは抵抗を拒むだけではなく目尻に涙を溜めていく。

 

くそっ、完全に油断した…!!やっぱりこいつが何もしねぇわけがなかった……!

 

だがシュラの悪戯はそれだけに留まらず、彼は俺の襟を捲り、それによって晒された首元をカプリと甘噛みする。

 

「ッ、あ…!んんっ!ぁ…、うっ!」

 

口内を蹂躙する指がいやらしい音を立てる中、噛み付かれた場所を強く吸われる。更には腰回りを撫でられ、昨夜エスデスに弄ばれたばかりの敏感な俺の身体は僅かな刺激を与えられただけで震え出し、嗚咽なのか喘ぎなのかわからない声を漏らしてしまう。

 

その快楽から逃げるように目の前のソファーに突っ伏すも、既に感じてしまっている確かな熱は誤魔化す事すら出来ない。

 

「ん。ここにあった跡、どうせエスデスの姉ちゃんにやられたんだろ?可哀想だから俺様のに塗り替えてやったぜ」

 

「~~~ッ!!?」

 

襟で隠し通せていたと思い込んでいた赤い跡が気付かれていたという恥ずかしさで、思わずパニック状態に。その様子を見て愉快に笑うシュラが心底憎らしい。

 

「っは、げほっ!げほっ!はぁ…はぁ……っ、ふ、ふざけんな!誰もそんな事頼んでねぇよ馬鹿!!」

 

漸く指を抜いて貰った俺はすぐさま文句を言い、キッ!と睨みつける。だがシュラにはなんの効果もないらしく、奴は俺の唾液を絡めた指を舐めながらニヤニヤとしたゲス顔を絶やさずにいる。

 

「トマトてぇな顔で睨まれてもなんも怖かねぇよ。むしろ潤んだ目と唾液垂らした口端でエロく見えるだけだぜ?あ、それとも誘ってんのか?」

 

「っ!ンなわけねぇだろこの変態!死ねッ!!」

 

ヒュッ!

 

「!!?」

 

ソファーを直す為に用意した針で、背後に居るシュラの目を狙って刺し掛かる。けど風を切ったそれは避けられ、彼の頬に掠り傷を負わせただけで終わってしまった。

 

「チッ!外したか……!」

 

「ほんとおっかねぇ姉ちゃんだな……」

 

俺が心底悔しそうにする一方で、シュラは冷ややかな汗をかいていた。

 

悪いのはてめぇだろうが。マジでそのタマ潰すぞこのゲス野郎…!

 

少し乱れた服装を整える間も針を光らせて牽制すると、シュラは降参だと言わんばかりに両手を上げて離れていく。

 

「洗濯物干してきたよー……って、あれ?どうしたの二人共?また喧嘩したのかい?」

 

何も知らずに帰ってきたリネット兄さんが、俺とシュラの険悪なムードを読み取って首を傾げる。

 

だが俺は不機嫌丸出しな態度で「別に」と答え、何事もなかったかのように作業を再開させ、再びソファーを縫っていく。

 

不思議そうにしている彼は疑問府を浮かべるが、すぐにハッとした様子で何かに気付いた。

 

「シュラさん血!血が出てるよ!?早く手当てしないと!」

 

シュラの頬に伝う血を見て、こいつの本性をまだ知らない兄さんが慌てて救急箱を取り出そうとする。

 

だがシュラはそれを断り、「そこのじゃじゃ馬娘にまた蹴られる前に帰る」と告げて部屋から逃げ帰って行った。

 

それからはまたいつも通りの日常。結局縫い目でナジェンダさんにバレて叱られたが、騒がしい午前中は穏やかな午後へと変わり、今日は平和に一日が終わってくれた。……かと思ったら、夜中にまたエスデスに虐められて寝不足を繰り返したのは言うまでもない。

 




トラウマレベルの出来事があっても懲りないシュラさんが好き()

因みにラバックがこの翌日に行うと言っていた作戦会議の内容は、バン族討伐の増援任務についてです(←思い出したかのように急いでシナリオを進めようとする作者)

確か6話辺りでバン族の伏線書いたのに次でもう17話目だぞ!?この作品gdgdしすぎィ!!!
いい加減寄り道してないで前に進もうよ僕!?←

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