糸使いちゃんの逆行物語   作:96ごま

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前回の前書きを書いた後に思い出したんですけど、シュラの顔の傷は旅の最中のやつだとファンブックに書いてあったのを完全に忘れてました。
てことは現時点ではあの傷跡ねぇじゃん…やっちまった()

……ま、いっか(オネスト感)

今回はお兄さん視点です~


夢を斬る

「はぁ~…仕事が見付からない……」

 

やぁ、こんにちは。僕はラバックの兄、リネットだよ。改めて宜しく。

 

この詰所に居候させてもらってから早数日。ご覧の通り、仕事探しは未だに難航中。都会で暮らすのって難しいね。

 

今の生活はとりあえず一日三食作ってみんなと一緒に食事。そして掃除洗濯。当然、給料なんて存在しない。

 

因みに寝る時はソファーで。…居候させてもらってる立場だから口には出来ないけど、毎朝起きると首や背中がとても痛いです。嗚呼、ベッドが恋しい……。

 

おっと、話がズレたね。閑話休題。それ以外の時間帯は帝都で仕事探し。僕の得意分野は料理だから、飲食店を中心に探してるんだけど……。

 

「強面の店員さん達が怖い……」

 

「メインストリートもああ見えて治安が悪いからね。犯罪対策で少しでも強そうな奴を雇う傾向があるんだ。体力だけじゃなくて、無駄なところ以外のメンタルも貧弱な兄さんにとってはあの辺りで働くのキツいでしょ」

 

詰所のダイニングルーム。向かいの席で珈琲を啜るのは、最愛の妹ラバック。無駄なところっていうのは多分妹への愛情とかの事だろう。ちょっと失礼な気がするけど、僕は大人だからね、何も言わないよ。

 

でもラバックの言う通り、犯罪防止の為に雇われたのであろう屈強な男性達に囲まれて働くのは精神的にかなり辛いものがある。なので結果的にどこも長く続けられないのだ。

 

帝都は綺麗な女性が多い。それはとても嬉しいのだが、強面のお兄さんも多いのはノーサンキューである。

 

「他にはどこ見てきたの?選り好みなんかしてないで幅広く探さないとほんとにマズいよ。今のあんたヒモと同じなんだからさっさと働けニート」

 

流石帝都に馴染んでいるラバック先輩。兄だろうが容赦無く罵倒して僕を精神的に追い詰めてくる。このままずっと就職出来ずにいると頭を叩かれたりしてもっとスパルタになりかねない。

 

「こ、今度からは飲食店以外もちゃんと見て行こうと思ってるよ!これでも薬師を目指してるから、薬屋とかそこら辺にね!」

 

得意な事だけやって楽するのは難しい。やっとそれを悟った僕はこれを機会に幼少期からの夢を追い掛けてみようかと思い至っていた。

 

「へぇー、リネットさんって薬師目指してるんですね!」

 

僕らの会話に入ってきたのは、ラバックと仲の良い一般兵卒の女の子。他の兵士達も僕の話に興味を持ったのか、気が付けば周囲から視線を浴びていた。

 

「うん。きっかけは覚えてないんだけど、疫病や不治の病とかを治せるような薬があれば、病に苦しむ人達をみんな救えると思ってね」

 

幼いながらにそんな夢を持っていた僕は、独学だけど薬の知識を実家で少し勉強していた。でもあそこは地方の田舎だから、帝都と比べたら学べる範囲なんてたかが知れている。

 

「!!薬師…その手があったか……!」

 

「ん?どしたの?」

 

「あ…いやなんでもない。夢があるなら兄さんはそのまま働けそうな薬屋を探す方が良いと思うぜ」

 

「?うん、わかった」

 

何かを閃いたかのような反応をしてから後押しするラバックに疑問を抱きつつも、とりあえず頷く。

 

「……もしかして、また予知夢でも見たのかい?」

 

ラバック以外には聞こえないように、小声でそう囁く。

 

話は変わるが、実は何年か昔、僕の妹は予知夢のようなものを突然見るようになって、自分には未来がわかるんだと自慢していた。

 

最初こそはもちろん疑っていたけど、その予知がいくつか的中していく事によって、周りの人間達は彼女を不気味に感じるようになった。でもそれとは正反対に、僕ら家族はラバックの言葉を信じていた。

 

けれど、周囲の怯えた反応のせいなのか、それとも別の理由があるのか。その時からラバックの言動はガラリと変わった。

 

おしとやかで女の子らしかった彼女が、僕ら兄三人の古着を着て、男の子のような荒い口調と性格に。しかし時々、子供とは思えないどこか大人びた雰囲気を纏っていて、本当に不思議だった。

 

そうやって変わり始めてから、ラバックはその予知夢の話をしなくなった。当時気になっていた僕は一度だけ聞いてみた事があるけど……。

 

「またその話か。あれは俺の戯言だって昔言っただろ?誰かに聞かれると恥ずかしいから、いい加減忘れてくれよ」

 

と、今と同じように目を逸らしてはぐらかされた。

 

「そんな事より、早く仕事探せよ。話逸らしても何も進まねぇぞ」

 

目を合わせないまま、話題を戻そうとするラバック。その様子はやはり何かを隠しているようにしか見えない。

 

でも確かに、今回は話を逸らしちゃった僕が悪いから仕方ないか。この件についてちゃんと話し合うのは、帝都での暮らしが安定してからにしよう。

 

「うーん…じゃあまずは本屋にでも行って、本格的に薬の勉強でもしてみようかなぁ」

 

「その本を買う為の金はどうすんのさ?」

 

「…………」

 

さぁやるぞ!と意気込んだ途端に、ぐうの音も出ない一言がグサリと胸に刺さる。何も反論出来ずに黙り込むと、優雅な朝食タイムだった筈の空気が一気に沈んでいった。

 

「……ほんの少しだけでいいので…仕事が見付かったらちゃんと返しますのでお金を貸してくれませんか?ラバックさん。どうか僕にご慈悲を……」

 

「知ってた。その代わり、買ってきた本を読み終わったら俺にも貸してくれよ」

 

「どうぞどうぞ。ラバはほんとに本が好きだねぇ」

 

「まぁね。学んで損する知識なんてないし、むしろ今後の役に立つと思うからね」

 

妹から本数冊分のお金を借りて周りにも失笑される兄。なんて無様な姿だろうか。

 

やっぱり妹離れなんて出来ないよ。僕はこれからもラバックが居ないと多分生きていけないんだと思う。

 

「ラバック、時間的にもう準備した方がいいんじゃないか?」

 

一人の兵士の言葉に、ラバックは時計を見やる。

 

「おっと危ねぇ、もうこんな時間か。悪いな兄さん、俺らそろそろ次の任務に行かねぇと……」

 

「ああ、わかったよ。色々ありがと。気を付けてね」

 

「はいはい、今日も安全第一に頑張るよ」

 

残った珈琲を飲み干したラバックは席を立ち、いつものヘルムを頭に被る。

 

「んじゃ、行ってくるわ」

 

「行ってらっしゃーい」

 

最後にそれだけを交わすと、ラバックは他の兵士達にも声を掛け、彼らを先導して詰所を後にした。

 

一般兵卒の小隊を指揮して上司を支える下士官の彼女は、低い階級でありながらも充分忙しいらしい。

 

「さて、掃除と洗濯も終わってるし、早速本屋にでも行こうかな!」

 

よっこらせ、と年寄り臭い声に合わせて立ち上がり、玄関に行く。

 

詰所を出た途端に、冷たい外気が頬を撫でる。でもその冷たさは気持ちの良いものではなく、チクチクと刺さるようで少し痛い。

 

「買い物が終わったら、みんなのマフラーでも編んでみようかなぁ……あっ!でもその前に今晩の献立考えないと…!」

 

暫くずっとぶつぶつと独り言を呟いている間に宮殿の敷地内から出ると、目的の本屋がある帝都のメインストリートにはすぐに着いた。

 

ここは一見賑わってるように見えるけど、みんなどこか暗い表情をしているのが印象的だ。以前、何も考えずにそれを口にした際に見せた妹の神妙な面持ちは、今も忘れられない。

 

 

 

 

 

「__あ、これも持ってないやつだ!」

 

流石帝都。自分の故郷では見た事のない本がたくさん並んでいる。様々な資料から創作本まで、品揃えがかなり豊富だ。眺めているだけでも新しい発見があって楽しい。

 

「むむむ…どれを買おうか悩むなぁ……ん?」

 

壁際の本棚の前で唸っていると、ちょうど隣に立っていた紳士的な雰囲気のおじさんが、一冊の本を持って真剣に見つめていた。

 

何故その男性が僕の目に留まったのか。それは、その手に持っている本が……

 

 

長い水色の髪が特徴的なお姉さんが、首輪と手錠を付けられた緑髪の女の子に迫っている表紙だからだ。

 

 

見てはいけないような光景を目撃してしまった僕は酷く後悔する。

 

ギャップとかそういう問題じゃない…なんか凄く犯罪臭がするよ!!?

 

思わず固まって凝視していると、こちらに気が付いた様子のおじさんと目が合ってしまった。

 

「あ…えと……」

 

「…………」

 

しどろもどろとする僕のリアクションに反して、おじさんは目を逸らして無言のままその本を元の位置に戻す。

 

なんだろう…冷静なのが逆に怖い……。

 

するとおじさんは何も購入しないまま店から出て行ってしまった。

 

……僕は何も見てない。そう、何も見てないんだ。SM系の百合漫画を手にしたダンディなおじさんなんて見てないよ…!

 

明らかにヤバい趣味を持っているとしか思えないその怪しいおじさんが帝国軍に所属する凄い人物だっただなんて、この時の僕には知る良しもなかった。

 

 

 

 

 

「__あっ、リヴァ!買い物はもう終わったのー?」

 

「やっと戻ってきたか……って、何も持ってねぇじゃねぇか。欲しいモンはなかったのか?」

 

「……まぁな。だが気にするな。その内エスデス様から休暇を頂いたらまた改めて探すつもりだ」

 

「そーなの?まぁ、リヴァが大丈夫だって言うなら別にいいんだけど……」

 

「でもよ、本に興味がねぇ俺らでも手伝えそうだったら遠慮無く言えよ」

 

「ああ、もしもの時はそうさせて貰う(…あの本、やはり買っておけばよかったな……)」

 




おや?リヴァのようすが……デッデデッデデッデデデーデッデd…

ラバ「Bボタン連打アアアァーッ!!!!」

※Bボタンなんて存在しません

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