糸使いちゃんの逆行物語   作:96ごま

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ラバック受けもっと増えろ…((


プロローグ
少女になった元少年


__アレ(・・)を思い出したのは、まだ10歳にも満たない年だった。

 

裕福だけど退屈な日常から一転。一人の女性への一目惚れで始まった、生と死の境目での人生。

 

突然夢に出てきた遠い過去の記憶に、俺はひどく混乱していたのをよく覚えている。……いや、当時はまだ『私』だったか。

 

この先に起こる未来と運命。そしてそんな自分の最期。その全ての記憶が毎晩夢に出て、『ナイトレイドのラバック』という人格を取り戻した。

 

一番印象的で、今も何度も夢に出てくるのは、月に手を伸ばす己の血に染まった右手。あの人の綺麗な白銀色の髪とそっくりな満月に伸ばした最期の瞬間。

 

殺し合って、他者を殺して、殺され掛けて。仲間もたくさん殺されて、大勢の人間が傷付いた。

 

いつ訪れてもおかしくない死の恐怖と戦って抗い続けたけれど、結局自分も、呆気なく殺されてしまった。

 

それは殺し屋である自分の報いだとわかっている。それでもやっぱり、まだ死にたくなかった。どんなに苦しくてもまだ、俺は生きていたかったんだ。

 

 

もちろん、最初はその記憶を信じられなかった。

 

自分はどう見ても女だ。なのに夢の中の自分は男で、よく可愛い女の子をナンパしたり、女湯を覗いたりしていたなんて……。

 

確かに自分は可愛い女の子が好きな自覚はある。でも、今は恋愛対象として見ることは出来ない。だって……

 

 

夢の中で一目惚れしていたはずのあの人(・・・)と遂に出逢えたのに、俺の胸にはトキメキがなかったから……。

 

 

でも、それと同時に夢の出来事が現実に起きていく事によって、その記憶は前世の自分なのだと信じざるを得なくなっていた。

 

「ってことは……俺はこれから、帝国の兵士になるのか…?」

 

夢で見た出来事は、不思議と今も鮮明に思い出せる。楽しい事も、辛くて苦しい事も全部。

 

あの人……ナジェンダさんに出逢った俺は、二つの選択肢を選ばなければならない。

 

夢で見た前世という血だらけの暗い泥道を歩くか、その未来から逸脱して、このまま地方商人の娘として退屈で明るい箱庭の中での日々を過ごすか。

 

でもその答えは、『お嬢様のラバック』ではなく、『ナイトレイドのラバック』としての人格が甦った時からもう決まっていた。

 

 

もう一度、この退屈な日々を抜け出して、ナジェンダさんと……ナイトレイドのみんなとまた出逢いたい。一緒に笑っていたい。

 

だから、今度は俺がみんなを護ってみせる。誰一人死なせたりなんてしない。そして今度こそ、俺自身も生き残ってみせる。あの先にある筈の朝日を、みんなと一緒に見るために……!

 

 

 

その決意が、何故か女になって逆行した俺の物語の、始まりの鐘音だった。




時間軸はラバックの帝国兵士時代辺り。ナジェンダ将軍に仕えている頃辺りです。

因みに、ラバちゃんはナジェンダさんの事はもう恋愛対象として見てませんが、当然尊敬はしています。

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