とある科学の生物兵器   作:洗剤@ハーメルン

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七月十五日

 七月十五日

 相変わらず、厚着のアレックスは荷物を運んでいた。荷物といっても、他人のを運んでいる訳ではない。これから通うことになる学校の、学生寮に引っ越すからである。しかし、服も体の一部であるアレックスに荷物は必要なく、嗜好品などの入った段ボールを二つのみだ。

 八回建ての、ボロいワンルームマンション。しかし、トイレ、風呂、台所があるということからそこまで悪くもない。管理人の男性によると、七階の部屋が当てられたらしい。

 アレックスは機械的に段ボールの角でエレベーターのボタンを押すと、故障しているのか反応がない。アレックスは仕方なく階段を上るが、目的地は七階のため、二段ずつ上ってもなかなか着かない。そして、やっとのことで七階に着き、ドアを開けようとするのだが。

 

 

「……くそったれ」

 

 

 ガチャガチャと金属がぶつかる音がするだけで開かない。どうやら、施錠されているらしい。

 アレックスはこの短時間での不運続きに苛立ちを覚えてしまった。エレベーターが故障しているのなら、階段のカギは開けておくべきである。

 

 そして、見られると色々と面倒になるので、階段の下や上の奥に周りに人の目が無いことを確認すると────小石を蹴るような蹴り方で、金属製のドアを蹴り飛ばした。

 ドアの鍵は耳を押さえたくなるような轟音を立てながら割れ、本体を壁に繋ぎ止めていた金具の限界を越えるようなすさまじい速さで開いた。

 

 

「うぉっ!何ですか!?」

 

 

 すると、ドアの向こう、通路から青年の声が聞こえた。アレックスが通路に出てみると、人当たりのよさそうな顔をした、ツンツン頭の学生服の青年が、持っていたのであろう財布から小銭をばら撒いたまま突っ立っていた。

 そして、アレックスの容姿が約百七十八センチという一般的な高校生にしては高い身長、無表情、夏の服装ではない厚着とフード。更には、外国人ということに二段構えで驚いた様子でもある。

 

 こうなればドアに関しては堂々としていよう。

 

 

「悪い」

 

 

 そう考えたアレックスは、ポツリと何の前触れもなく言った。

 

 

「え、いや。ちょっと前にドアを閉めたときに鍵がかかったのを知っていてほっといたので、私にも非があるというか、私が原因というか……」

 

 

 言葉を掛けられたことによって我に帰ったのか、青年がえらく謙った口調で返答を始めるが、すでにアレックスは聞いていない。段ボールを横に置き、仕方なさそうに小銭を拾っているからだ。

 

 

「あのー、留学生さんでせうか?」

 

 

 沈黙に耐えかねたのか、青年は戸惑いがちに話しかけた。

 高校に入って間もない青年には、強面外国人(無愛想)との沈黙が厳しい物だったようだ。

 

 

「ああ」

 

「日本語……じょうずですね」

 

「どうも」

 

 

 果たして、一方がゴロしか投げてこない言葉のやりとりを会話と言うのか。

 そうアレックスは会話の定義にふと疑問を覚えたが、この数日は別の考えが彼の脳を占めていた。

 

 アレックスはあの事件の後、仕事を、自分を終わらそうとした。しかし、ワクチンを取りに戻るも何一つ無く、その上かなりまずいことが起こった。

 自分の顔を知って事件を生き延びた兵士によって生存を確認された事により、建物だけとはいえ国連本部を含むマンハッタン島を壊滅に追いやったテロ実行犯として再び追われることとなった。

そして、そのアレックスを捜査関係者の抹殺、データの徹底的な削除という手段を用い、ビーカーの人間は学園都市に招き入れた。

 それがスムーズに行われたのは、事態を重く見た捜査関係者が内密的に、そして報復を恐れて慎重に事を進めていたのが幸いした。また、アメリカも混乱の収束をはかり、テロリストは当局によって殺害したと嘘の公表をしたのだ。これにより、アレックスが生存していることを知るのはビーカーの人間と、その他の一部のみになった。

 しかし、元恋人を始めとした裏切りにより、他人との関わりを持とうとは思わなくなってしまった。

 

 そして、自分が殺される手段もアメリカから無くなり、アメリカも先のウィルスの脅威から解放されると同時に「これでケジメはついた。もうこの国から離れよう」そう考え至ったのだ。

 

 

「……すごい力ですね」

 

 

 そんな事をアレックスが考えている内にも、青年はドアのかなりへこんだ部分を眺めながら話しかけようとしている。

 煩わしいとアレックスは思いながらも、自分の蹴ったドアに目を向けた。

 

 ドアの下の方なので目に入りにくいはずなのだが、パッと見ただけで靴の跡とそれを中心としたヘコミがくっきりと分かった。

 

 

「…………まあな」

 

 

 床と接したままの靴底の形を、全く違う形に変えながらアレックスは返答した。

 

 アレックスは肉体の硬度、質量を操れる上に、遺伝子情報を元にした他人への擬態や、正確な寸法が分かれば擬態もできる。

 なので、今のアレックスは、ちょうど高校生くらいの年齢の時のアレックス・マーサーを再現した外見をしている。服などはケーキにクリームを塗るように、それに合わせてサイズなどを決めて擬態したというだけだ。

 

 

「これで終わりだな」

 

 

 アレックスは視界に小銭が無いので拾い終えたと判断し、立ち上がると再び段ボール箱を抱える。それを見て、また自分でも確認をした青年が立ち上がった瞬間、

 

 

「ええ、そうみた──——」

 

 

 プラスチック製の定規を折ったようなバキッと響く音がした。その音の源は、立ち上がる際に半歩引いた青年の右の足の靴の裏らしい。

 

 

「まさか……!?」

 

 

 ジト目でアレックスが見る中で青年は慌てた様子で右足を上げると────

 

 

「うわああああ!?」

 

 

 圧死したキャッシュカードが姿を覗かせた。

 アレックスは突然叫んだ青年を煩く感じながらも、元をただせばその原因が自分なだけに少し同情するのであった。

 

 

「え!?」

 

 

 更に、青年の視界に自分の腕時計が目に入ると、これまた奇妙な声を出した。

 

 

「不幸だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 青年はキャッシュカードの破片を集め、それをポケットに押し込むと、アレックスに目もくれずにかなりの速さで階段をかけ降りて行った。寮というのは、基本的に一つの学校が所有している。そして、同じ寮に先ほどの青年によると今日は遅刻なようで、アレックスも同様だろう。

 しかし、アレックスはビーカーの人間からの仕事をすれば良いわけで、学校への遅刻なんていうのはどうでもいいと考えている。無論、車よりも速い彼が走れば間に合うだろうが、何十キロもの速度を出しながらマラソンをするその姿を見られれば、能力者だらけの都市とはいえどもアウトだ。それに、アレックスの全力疾走は体を安定させるために質量を上げる故か、その脚力故か、一歩ごとにコンクリートが割れてしまうのだ。

 

 慌てるどころか、急ぎもしないアレックスは自室のドアの前に行くと、管理人から受け取った鍵でドアを開けた。フローリング張りの、住むだけなら何も問題の無いワンルーム。特に家財も必要としないアレックスにとって、これで十分満足だった。

 フローリングの上に適当に段ボールを置くと、そこから制服を引っ張り出す。そして、一度衣服を体内に取り込んでから着替える。それに平行して、段ボールから教科書類を鞄に詰め込む。

 通学方法は電車が禁止。そして、この高校が推奨するスクールバスというのもあるが、料金が普通のバスよりも高い上、この遅刻組の時間帯には当たり前のことだが走っていない。

 のんびりとした遅刻前提のアレックスは制服は体格に合ってはいるとは思いながらも、デザインからの窮屈さを感じた。しかし、それは制服である上はどうしようもないので、そのままビーカーの人間の部下から貰った地図を頼りに高校へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 『なんの変哲もない』という言葉がここまで似合う学校をアレックスは見たことがなかった。余りにも平凡すぎて、個性がない。余りにも平凡というのも、学園都市でしか見られないのではないのだろうか?と言う学校に一部の地図記号が理解できずに困ったが、なんとかたどり着くことができた。

 校門は閉じていたが、アレックスは何食わぬ顔で開けて入り、その際に生徒指導部主任である無差別ゴリラ級に遭遇した。しかし、初登校の上に日本の地図記号が分からず道に迷った、ともっともらしい言い訳をしてなんとか納得させたのだ。

 

 職員室に入ったアレックスの目の前に、小学生にしか見えない先生がいた。

 

 

「これからあなたの担任を務める、月詠小萌です。困ったことがあれば、何でも相談すると良いのですよーっ!」

 

 

 ドアを開けると目の前に彼女は居たのだが、二人の四十センチもの身長差がアレックスを危うく小萌に衝突させそうになった。

 

 

「アレックス・マーサーだ、よろしく頼む。日本語はまだ完全に使えないが、そういう部分は割愛してくれ」

 

 

 本当の事を言えばできるのだが、それは参考書通りの話であって生の日本語ではない。その為の予防線としてアレックスは伝えたのだ。

 もっとも、留学生が日本語ペラペラなどとは普通は思わないため、アレックスは別にそう考える必要もなかったのだが。

 

 

「分かったのです。でも、今でも十分上手ですよー」

 

 

 小萌は出席簿などの入ったカゴを持って言う。その出席簿が大きく見えるのは彼女との対比だろう。

 

 

「ささっ、早く教室にいくのです。みんな待っているのですよ」

 

 

 そう言うと、アレックスにとってはそれほどでもないが、かなりの急ぎ足で職員室を出た。そして、アレックスはその遠足に行く子供のように受かれている背中を、保護者のように追いかけた。

 

 

「ここですよ」

 

 

 ある教室、一年七組と書かれた教室の前で小萌は立ち止まった。その教室からはやけにうるさい声が、授業が始まっているにも関わらずよく聞こえた。それと反対に、隣の教室はまるで彼らに元気を吸い取られたかのように静かである。

 

 

「では、前置きをするので待つのですよ」

 

 

 小萌はそう言うと、教室へと入った。すると彼らが静まり返ったので、生徒も事の分別ができる類いらしい。

 

 その間もアレックスは悩んでいた。ビーカーの人間の本当の目的は何か、ということについでだ。なぜ、主導権がグリーンから自分に移り、更に危険な存在になったにも関わらず、学園都市という約二百三十万もの巨大都市に自分を招き入れられたのか。なぜ学生として暮らさせるのだろうか、と。

 彼が自分に言った内容はイマイチ決定打に欠けており、アレックスは納得できなかったのだ。なんせ、ここは科学の街であり、アレックスは科学の産物だからだ。研究し、利用しようという魂胆は間違いなくあるだろう。

 

 

「アレックスちゃん、どうしました?」

 

 

 考え事の最中であったアレックスは軽く肘をつつかれたのでそちらを見ると、ドアから半身を出した小萌がいた。

 どうやら、前置きというのが終わったらしい。

 

 

「何でもない、ちょっとした考え事だ」

 

 

 『ちゃん』という響きにむず痒さを感じながらも、アレックスは思考を現実へと切り替える。

 

 

「大丈夫ですよ!みんないい子ばかりですから」

 

 

 何か考え事をしていたという様子を不安を感じていると彼女は思ったのか、小萌は励ますように言った。

 

 

「いや、大丈夫だ」

 

 

 アレックスはその小萌の純粋な思いやりを分かりつつも少し裏を疑ってしまい、数秒で済むほどの自己嫌悪をした。

 

 

「では、自己紹介をお願いするのです」

 

 

 そして、小萌はアレックスの肘をつかむとやや強引に教室に引っ張り込んだ。

 

 

 

 

 

 連れられた常時無表情のアレックスを見て、ざわざわと話し出す生徒たち。その内容は、言語についてであれ、奇妙な時期の留学生の理由についてであれ、様々な話題が上がっていた。

 

 

「はーい、静かにするのです」

 

 

 小萌が手を叩きながら言うと、思いのほか静かになった。そして、小萌はそれを満足そうな顔を、アレックスに向けてきた。恐らくは、自己紹介しろということなのだろう。その意図を汲み取ったアレックスは口を開いた。

 

 

「アレックス・マーサーだ。よろしく頼む」

 

 

 そう言うと、アレックスは小萌に自分の席を聞き、期待に満ちた目をする生徒を放置し、ポカンとする小萌に聞いて空いた席に座ってしまった。

 アレックスの記憶に転校や、転校生が来たことのある人物はいるだろう。しかし、個人を選んで記憶を覗くという、手間をかけてまで最適な自己紹介などはすることではないと、アレックスは判断した。たかが三年だが、高校に通い直すというのが馬鹿馬鹿しいのだ。

 

 

「…………え?なんや、終わり?」

 

 

 青い髪にピアスの男子生徒が、ポツリと言った。

 

 

「そりゃないぜい!」

 

 

 それに続いてサングラスをかけた金髪を逆立たせた男子生徒も、抗議かどうかが口調のせいで曖昧なことを言った。

 このままだと伝播してクラス中から言われるとアレックスは判断し、それはあまりに煩わしいので打開策を打つことにした。

 

 

「なら、聞きたいことを質問してくれ。正直、緊張している」

 

 

 無表情かつ一定の心拍数を刻む心臓を持ちながらアレックスは言った。

 だが、それを聞いた金髪の男子生徒の目が怪しく光ったのが見え、アレックスは嫌な奴の一人に彼を加えることを決めた。悪乗りが激しいタイプだと判断したのだ。

 

 

「レベルはいくつなのかにゃー?」

 

「自動再生のレベル3だ」

 

 

 レベル3、一般的に五段階に分けられる中のちょうど真ん中だ。しかし、この平凡すぎるこの学校には、ほとんどいないレベルである。その為、それを聞いた生徒たちはザワザワと騒ぎ始めた。

 もっとも、これはアレイスターに与えられた過小評価もいいところであり、事実はこれよりすごいのだが。

 

 

「ほんじゃ、いつ開発したん?」

 

 

 青い髪の生徒が、それにかき消されないような若干張り上げた声で言った。

 

 

「三ヶ月前だ」

 

 

 なんとなく三か月である。

 

 

「三ヶ月でレベル3!?」

 

 

 それを聞いた生徒の一部は、さらに大きな声が教室に響かせた。

 アレックスは煩わしく感じながらもそちらに目をやると、寮にいたツンツン頭の生徒がいた。同じ寮なので同じ学校と言うのは当たり前だが、同じクラスだとは思っていなかったのだが。

 

 

「お前は寮にいた……」

 

 

 アレックスがつい呟いた言葉に、他の生徒たちが反応した。

 

 

「わいは友達やで…………」

 

「…………流石、一級フラグ建築士にゃー」

 

「上条当麻!貴様は何を考えている!?」

 

 

 上条当麻と呼ばれた生徒は、転校生のみに利くフラグを立てたと勘違いされての罵声の総攻撃や、哀れみの目を向けられた。

 

 

「違っ、そんなことは事実無根だ!そうですよね!アレックスさん?」

 

「知るか。そもそも、フラグって何だ?」

 

 

 アレックスは会話の流れから『フラグ』を和製英語だと判断し、返答を放棄。煩すぎて関わりたくないと思ったのか、眉をひそめて当麻から顔をそむけてしまった。

 

 

「不幸だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 上条当麻は午前中に二度目の絶叫をすることになると共に、汚名を手に入れたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――昼休み――

 

 様々な研究者や、軍人などから知識を得たアレックスにとって、あれからの平均的な高校程度(アレックス・マーサー比)の授業は、退屈しかなかったと述べておく。しかし、アレックスは自分の質量保存の法則を初めとした様々な法則を無視していることについて深く考えてしまい、物理の時間に大いに悩んだのだが。

 

 そして生徒は各自で昼食をとる昼休みなのだが、アレックスは学園都市に入るまで人間を吸収することで養分を取っていた。その時も場合も選ばなかった習慣からか昼食を持ってきておらず、購買にて買おうにも現在の所持金である奨学金は全て銀行である。通常の人間ではないので何週間かの絶食は可能だが、問題は昼食を取らないのが回りからどう見られるかである。

 

 アレックスはその対処として散策がてら校内をうろつき、すでに食べたと思わせることにしようとした。しかし、この平凡すぎる学校に散策などはあまり必要なかった。朝、職員室に迷わず行けたように、配置にも大体の予測がつくのである。その為、アレックスは教室に留まることになった。

 

 

「えっと、アレックスさん?」

 

「アレックスでいい」

 

 

 アレックスが頬杖を付きながら座っていると、案の定、朝のツンツン頭の男子生徒、上条当麻に話しかけられた。それを、金髪と青い髪の生徒がツンツン頭の生徒の背後から見ていた。

 

 

「飯は食わないのか」

 

「ああ、奨学金が銀行だからな。それに、何日か抜いても問題ない」

 

 

 それを聞いた当麻は、少し驚いたような様子だ。

 

 

「おいおい、大丈夫なのか?学園都市って急に不良に追われたりするぞ?」

 

「問題ない」

 

 

 当麻は咄嗟に力が出ないことを案じたのだろう。しかし、急に不良に追われたりするのは、当麻の性格が原因だ。

 それに、アレックスを追いかけたとしても、空間移動系能力者以外はすぐに撒かれる、もしくは行方不明だろう。具体的には、人目に付かない場所に入った時点で姿を消すことになる。

 

 

「自己紹介したいからこっちに来てくれないか?」

 

 

 当麻は後ろの金髪と青い髪の生徒を指差して言った。

 することも得になく、脳内で記憶を見て回るほどだったので、アレックスはそれを了承した。

 

 

「土御門元春だぜい、よろしくにゃー」

 

 

 まず、金髪グラサンの長身の生徒が言った。

 

 

「わいは「青髪ピアスだにゃー」……それでいいわ、よろしゅうたのんま!」

 

 

 続いて青い髪の生徒が言った。妨害が入ったように思えるのは気のせいだろう。

 

 

「俺は上条当麻。よろしくな」

 

 

 そして、元春たちの会話から名前はアレックスも知っているが、当麻が改めて言った。

 

 

「上条当麻に土御門元春、青髪ピアスだな? よろしく」

 

 

 アレックスは青髪ピアスに本名を名乗らせない元春に対して疑問を覚えたが、得に問題無さそうなので触れないでおいた。

 

 

「よおし!個人的な質問タイムにゃー。どこから来たんだにゃー?」

 

「アメリカ、アリゾナ州だ」

 

 

 アレックスは、質問のために自分は呼ばれたのかと多少不快に思ったが、暇潰しにはちょうどいいと思った。

 

 

「次は俺だぜい。好きな食べ物はなんだにゃー?」

 

「特にない」

 

「自動再生のレベル3ってどれくらいだ?」

 

 

 アレックスはそれを聞き、どう答えるか迷った。レベル3と言うからには、そこそこの怪我を治せるのだろう。しかし、変に答えればボロが出る可能性がある。そのため、曖昧な返答ではぐらかすことにした。

 

 

「どれくらいかはうまく言えないが、これで十分だ。荒事をするわけでもないしな」

 

「便利なんだなー」

 

 

 三人の中に、アレックスの発言を怪しむ者はいなかった。どうやら、うまく誤魔化せたらしい。

 

 

「よっしゃ、二回目の質問は…………ズバリ、何フェチや!?」

 

 

 初対面の相手にこのような事を質問するというカルチャーショック的なものにより、アレックスの思考は停止した。

 だが、固まったアレックスをピアスは悩んでると判断したのか、このようなことを言い出した。

 

 

「何でもいいんやで、義姉義妹義母義娘双子未亡人先輩後輩同級生女教師幼なじみお嬢様金髪黒髪茶髪銀髪ロングヘアセミロングボブ縦ロールストレートツインテールポニーテールお下げ三つ編み二つ縛りウェーブくせっ毛アホ毛セーラーブレザー体操服柔道着弓道着保母さん看護婦さんメイドさん婦警さん巫女さんシスターさん軍人さん秘書さんロリショタツンデレチアガールスチュワーデスウェイトレス白ゴス黒ゴスチャイナドレス病弱アルビノ電波系妄想癖二重人格女王様お姫様ニーソックスガーターベルト男装の麗人眼鏡目隠し眼帯包帯スクール水着ワンピース水着ビキニ水着スリリングショット水着バカ水着人外幽霊獣耳娘まで色々あるさかい、なんでもいいんやで?」

 

 

 まるで機械のように息継ぎをせずに言いながらも、確かな情熱を込めて言うピアス。ハッキリ言って異常である。

 

 

「黙れ青ピ!明らかに引いてるじゃねえか!」

 

 

 当麻はアレックスを指差しながら、笑みを浮かべるピアスをガクガクと揺すった。

 

 

「気にしなくていいぞ、アレックス!」

 

 

 上条がそう言いながら妙にキレのあるヘッドロックを青ピにかけた瞬間、予鈴が鳴った。どうやら、彼の頭が砕かれるのは次の機会らしい。

 

 

「次は移動やから、はよ離しい!」

 

 

 ピアスは当麻の腕をタップしながら言った。

 アレックスはそのまま砕いてしまえばいいと思いつつも、その言葉を発することはなかった。

 

 

「質問しきれなかったけど、仕方ないにゃー」

 

 

 元春はそう言うと、当麻たちを放置して教室から出ていったので、アレックスもそれに続くことにした。

 

 

 

 その後は、当麻とピアスが次の授業に遅刻する以外は大した事もなく、アレックスは帰宅した。

 

 本来なら放課後に銀行やコンビニで金を下ろす予定だったのだが、明日が土曜日と言うことと、学校が思いのほか疲れたので明日行くことにした。無駄な事を進んでする彼らのような人間との会話は、かなり久しい事だったのだ。


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