とある科学の生物兵器   作:洗剤@ハーメルン

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三か月ぶりとか馬鹿なのか自分は


七月二十四日 part2

  当麻、インデックス、ステイル、火織。連絡をとって、アレックスは彼らを第七学区の外れにある倉庫街へと呼び出した。目的は一つ。インデックスにかかった魔術を解除することだ。

 電灯の灯りも少なく、管理もずさん。交通の便が悪すぎる場所にあるために、スキルアウトもたまり場にしない陸の孤島のような場所。アレックスはこの場所を『レベル6移行計画』の過程で発見し、出入りする者を監視するようなセキュリティも皆無なためにここに決定したのだ。

 魔術を積極的に秘匿しようとしていないステイルたちであるが、知られれば相当困るのは確実である。少なくとも、学園都市を簡単には出られない上条当麻には。それを仕事上、どうにかしなくてはならない上に責任を押し付けられるであろうアレックスには。

 

「先に物をどけて、十メートル四方の場所は作っておいた。真ん中でやれ」

 

「ああ、分かった」

 

 先頭に立ち、後ろに立つ当麻とは違い懐中電灯も持たずに進む。後ろの皆を置いて行かない程度の速さで、カツカツと。

 実を言えば、ここに来たことがないのは当麻だけなのである。

邪魔な物をどける、などの力仕事はアレックスが行ったのだが、魔術の下準備を先にステイルと神裂の二人にしてもらった。

 神裂はともかく、ステイルは準備に時間がかかるというからだ。

 

「それで、手順はどうするんだアレックス」

 

「どうするも何も、そこでお前がインデックスの魔術を解く。お前の役割はほとんどそれだけだ」

 

 やや顔を振り返らせらながら、心底呆れた表情でアレックスは言う。

 もちろんカウンターとして発動する魔術を撃ち消すという仕事も当麻にはあるが、そんなことは本人も重々承知である。

 

「さいで……」

 

 とはいえ、少々その役割を重いと思っていた当麻は思わず肩を落としたのだが。

 

「なんだ、びびってるのかい?

 あれだけ息巻いておきながらそうくるとは、随分と殊勝なことだね」

 

「はいはい。尻尾巻いて逃げた奴に言われたくありませんよー」

 

 挑発するような口調で言うステイルだが、この数日で彼の扱いを覚えたらしい当麻はそれを軽く流して見せた。

 

「何を言っているんだい? あれは戦略的撤退だ。次に、いつでも仕掛けられるようにするためのね」

 

 当麻の背後を歩むステイル。彼の手の中で、ライターが異常なほどの火を放つ。

 そこから始まる二人の言い合い。インデックスが止めるまで続いたそれを上の空で聞きつつ、アレックスは不測の事態への想定をしていた。

 記憶を一年ごとに消さないといけないという魔術をかけたうえで聖人がその任に当たっているのだから、インデックスを殺すようなトラップはほぼ有りえないだろう。

 となれば、残るのはインデックスが実は魔力を――そう、記憶を消す魔術を維持するために――何らかの理由で使っているせいで、インデックスも他の者も存在に気付いていないのだろうか。

「インデックスは記憶を消されているので魔力が”あった”ことに気付いていない」。「神裂やステイルもその処置が行われた後に彼女と出会った」。そう考えれば、この仮説は成り立つ。

そしてこの条件を二人に問うたところ、であった当初からインデックスに魔力はなかったという。この線の色は、極めて濃い。

魔術師とアレックスが行うべきは、徹底的なまでの上条当麻のサポート。いかなる妨害があろうとも、彼に魔術を破壊させればそこでカタが付くのだ。できることなら、最初の接触でカウンターごと破壊してほしいものだ。

 

「上条、インデックスと空地の中心へ行け。俺たちは万が一に備える。

 いいか? 術式にはできるだけしっかり触れ。ゲロぐらいなら吐かせてもいい」

 

「――分かった」

 

 掃除したスペースの中心を指差す。上条はそれに真剣な表情となって答え、インデックスの手を引いて歩みを進めた。

 遠目に見ても彼女の手は震えていたが、何も言わずに手を取る上条は流石である。アレックスも少し呆れてしまうほどだ。

 それはともかく。

 

「予定通り、ステイルと神裂は状況に応じた対応をしてくれ。上条のフォローには俺が入る」

 

 それを聞き、神裂は頷いた。

 

「了解しました。ステイル、魔女狩りの女王(イノケンティウス)は?」

 

「入念に準備したからね。瞬きする間もなく発動できるよ」

 

「そうかい」

 

 彼女の問いに答えると言うのに、意味ありげな笑みでなぜかアレックスを見るステイル。それにアレックスは呆れを含んだ溜め息で返答すると、顎で地面に座るインデックスとしゃがむ上条を指した。

 

「あいつらは位置に着いた。急ぐぞ」

 

 アレックスは早足になって上条の横へと歩みを進め、二人は彼らの背後に陣取る形となった。

 何かあればアレックスは上条を連れ、一度距離を取る予定だ。

 

「どうだ、いけそうか?」

 

 後ろから声をかけると、当麻はなにやら不安そうな顔をしながら振り返った。

 

「アレックス……」

 

「何だ?

ああ、心配するな。方法は確かだし、魔術師も腕は確か。俺も手段を選ばなければある程度はどうにかしてやれる。それに、腕がいいって評判の医者も、そいつらがこの時間帯に受け入れてくれるかどうかも調べてある」

 

 インデックスにも上条にも。淡々と言い聞かせるアレックス。

 不安を持たせるわけにはいかない。妙な緊張などをしていれば、思わぬミスをする可能性もあるのだ。

 

「だから後はお前らが腹くくるだけだ」

 だから、いつでもいいぞ。そう付け加え、アレックスはもう何も用はないとばかりに数歩下がった。

 彼を不安げに、数秒見た当麻は顎を引き、インデックスを見る。視線の先の彼女は、また微笑んでいた。

 

「任せるよ、とーま。きっと大丈夫」

 

 そう言う彼女。だが、当麻は見下ろす彼女の手が、真夏にも関わらず震えているのを見逃さなかった。

 

――――そうだよな。一番つらいのは、不安なのは。

 

当麻が前触れもなく両手で思い切り自分の頬を叩くと、彼女はビクリと肩を震わせる。

そんな彼女の肩を押さえながら、当麻は言った。

 

「ああ、任せろ。俺が助けてやるよ、インデックス。こんなバカみたいなこと、これで全部終わりにしてやる」

 

 言葉と共に、伸ばされる右腕。

 それを受け入れ、インデックスは大きく口を開いた。

 ようやくか。などとアレックスが思ったのもつかの間。カメラがフラッシュを焚くようにな突然さで、当麻が弾け飛んだ。

 

「クソッ!」

 

 前に出て彼が地面に落ちる前に受け止めたアレックスは、アスファルトが割れるほどのバックステップで一気にインデックスから十数メートルもの距離を離した。

 

「イ、 インデッ――――」

 

 顔を上げた当麻の目に映るのは、明らかな豹変を遂げたインデックス。その瞳には血のような六芒星が映り、全身からは明らかに科学の範疇にない白い光と気のようなものが放出されていた。

 アレックスの予想は的中したのだ。脳内の魔導書を使えるとなれば、最悪どころではない。

 

「おい当麻、術式はキチンと破壊できたのか?」

 

「ああ、間違いない。手ごたえは確かにあった!」

 

 となれば、あとは脳を制御する魔術の解除。となるのか。

 尻もちをついたまま奥歯を噛み締める当麻をアレックスは引き起こした。同時に。

 

「――警告。第三章第二節。Index-Librorum-Prohibitorum――――禁書目録の『首輪』、第一から第三層までの全結界の貫通を確認。再生……失敗」

 

 いつか聞いた、感情のない声。口走っている内容にしても、その様子にしても、異常としか言いようがない。

 これを聞き、なぜこれを見逃していたのかとアレックスは強い羞恥心に襲われた。こんなこと、考えれば分かるではないか。魔術は瀕死のインデックスの意識を乗っていたほど、強いものがかけられていたと。

 

「自己再生は不能と判断。『書庫』の保護のため、侵入者の迎撃を開始します」

 

 ギョロリと向いた瞳の魔法陣が、回転を始めた。

 

「突っ込むぞ。右手で自分を守ってろ」

 

「はい?」

 

 続けざま、間を置かぬアレックスの決断。

 ステイルは魔術を使うのに準備を必要としていた。ならば、その隙を与えなければ何をしようとしていようが水泡に帰してやることができるはず。

 左手で当麻の首根っこを掴んだアレックスは、躊躇う事なくインデックスへと猛進を開始した。

 

「侵入者を確認。解析中――」

 

 十数メートルなど、アレックスにとっては遠くはない。そして、当麻にインデックスの頭なり顔なり、脳に関係ありそうな場所を触らせれば終わるはず。だった。

 

「解析完了。対抗術式を『聖ジョージの聖域』に決定。発動します」

 一瞬。その間に解析を終えたインデックスは、彼らに対抗する術式を脳内の十万三千冊の魔導書から選び取る。そして、それは同様の早さで発動された。

 彼女の両目の魔法陣が、焦点を合わせるように広がった。両目から彼女の顔の前に離れたそれの大きさは、約二メートル。

 予想以上の発動の早さに完全に出鼻をくじかれたアレックスは、当麻を後ろに投げた。それを神裂は、刹那の判断で勢いを殺すために触れると同時に体を回転させて彼を受け止めた。

 

「神裂、囮になるから回り込め!!」

 

「アレックス!」

 

 人外の力で突然投げられて苦しそうに咳き込む当麻を抱えながら、神裂は声を上げた。

 『聖ジョージの聖域』。その魔術を知る彼女には、単身で特攻をかけようとするアレックスの判断はあまりにも早計かつ誤ったものにしか思えなかった。

 一方でアレックスの判断はインデックスには一瞬たりとも時間を与えてはいけないというもので、身を案じるような考えは一切なかった。

 アレックスの前方。インデックスと彼との間の空間が、鏡を割るように砕け落ちた。

 

「『聖ジョージの聖域』、発動完了」

 

 パラパラと崩れ落ちる空間。それと彼女を一瞬繋いでいた、紫電。消えた魔法陣。彼女の言葉通り、術は完全に発動したらしい。

 それと同時に、ある変化がアレックスに現れた。

 

「何だ……!?」

 

 体が、ボロボロと表面から崩れる。細胞が、それを機能させているウィルスが、悉く死滅しつつあるのだ。

 当然その部位からの再生はできない。アレックスは急いで体内から新たな細胞を絶え間なく作ることを選択し、その崩壊による体積の減少を食い止めた。

 

「『聖域』か。なるほど、納得だ」

 

 紅い粉となった体細胞は皮膚から湧き出るように排出され続け、アスファルトの上に積もる。

背後から耳を打つ声が聞こえるが、アレックスの興味はそちらには向いていなかった。

 彼の持つ興味は全て、この魔術とそれを発動したインデックスに向けられている。インデックスを助ける対象としか認識していなかったアレックスの認識が、変わりつつあるのだ。

 

「最高だな、インデックス! 

本当に! 魔術ってのは!!」

 

 アレックスは手を降ろしたままだが、確かな歓喜の声を上げた。

 未知のエネルギーと未知の作用。科学では説明できないそれは、アレックスの興味を釘づけにするには十分すぎたのだ。

 狂喜するアレックスの目前で、ボロボロと崩れた空間が”完成した”。強く香る、獣の臭い。

その中から強者の匂いというべきものを嗅ぎ取ったアレックスは、一転して表情をこわばらせた。あの奥には、感染者の変異体をも超えたナニカがいる。

 

「上条!」

 

 振り返ると、当麻が走り出した直後だった。

 その表情はどちらかというと歓喜に染まっており、アレックスとは真逆と言えるもの。流れを掴んだ、とでも言いたそうな顔だ。

 

「アレックス! あいつで終わりだ!

 あいつを越えれば、インデックスを救える!!」

 

 当麻の言葉。本人にとっても何の確証もない言葉であるが、預言じみた確信のある言葉だった。

 これを口にしたのがそこらの奴らなら、アレックスはその首根っこを掴んで安全なところへ投げるか囮にしていた。

だが、『原石』の当麻なら。魔術だろうとなんだろうと打ち消せる右手が生まれつきあるなら、そんな確信をしてもある意味おかしくない。

 

「よし、行け」

 

 アレックスは両腕を爪に変え、亀裂を睨んだ。威嚇するような唸り声が漏れ出る、魔物が住む場所を。

 魔物が、息を大きく吸い込んだ。

 

「来るぞ!!」

 

 叫ぶ。発声器官を最大に使い、声を張り上げた。

 何かが来る。その警鐘をアレックスをつくるウィルス全てが鳴らし、アレックスは咄嗟に地面に左の爪を差し込んだ。

 グランドスパイク。アレックスがそう呼ぶ、地中で爪を肥大化させる技。数メートルにもなる筍のような大きな棘は、装甲車を貫く強度を持っている。

 今回はそれを、盾にするのだ。

 地面から直径三メートル前後。高さ数メートルの黒々とした円錐形の硬質物が飛び出すのと、亀裂から万華鏡色と言える光線が飛び出るのは同時だった。

 

「くっ……!?」

 

 咄嗟に右手も差し込み、その壁を強固にする。

 なんせ、SFのレーザー光線がドアを溶かすような、圧倒的な熱量で分解されかけたのだ。火花が散るように棘はその表面を四方に飛ばし続け、四散する光線も加わってインデックスがすっかり隠れるほどになった。

 彼の肉体の変化に唖然とする三人の目を覚まさせるように、再び声を上げる。

 

「おい! 神裂、ステイル! 上条を連れて回り込め!!」

 

 声を受け、神裂は駆けた。

 その足は速く、忍者のように一瞬で当麻を脇に抱えてアレックスの真横を通り抜けた。

 

「Fortis931(我が名が『最強』であることをここに証明する)!!」

 

 同時に、ステイルの魔術が発動した。

 アレックスの前方。彼と棘の間に、突然目を焼くような炎が生まれる。それは徐々に形を作り、数秒で二メートル強の巨人となった。

 

「■■■■■■■■■■!!」

 

 そして、咆えた。

 絶叫と言うべきその咆哮と共に、全身から吹き出す熱量。そのあまりの熱量にアスファルトは沸騰し、辺りに石油のにおいが立ち込めた。

 

「『魔女狩りの王』。もしその棘が消えても、しばらくは持ちこたえられるよ」

 

 キメ顔でそう言う魔術師を、後で殴ろうと思いながらアレックスは顔の火傷を再生する。

 とはいえ、予想以上の実力者であったことは確かだ。肌で感じる熱気からして、あの人型の炎は3000度を超える。あの炎の剣と同じように、きっと質量もあるのだろう。

言葉通り、これならば持ちこたえることも可能かもしれない。

そうと決まってからの、アレックスの行動は迅速だった。

 

「頼むぞ」

 

「お、おい!?」

 

 アレックスは地中で指先を切断させることで両腕を自由にし、光線の真横を走る。その傍ら、再び爪を”伸ばそう”と細胞を活性化させた。

 同時に、先を行った神裂を視認する。その足は、右手を彼らに伸ばすインデックスから数メートルの位置で止まっていた。

 

「魔弾、対象に効果なし」

 

「上条当麻、下がってください」

 

「すまん!!」

 

 インデックスの周囲に浮遊する、サッカーボールほどの大きさの魔法陣。紫に輝くその数は、七門。

 それはひとたび光れば数十の魔弾を打ち出す銃口であり、抜刀した神裂はそれを身一つ、剣一振りで完全に防いでいた。

 とはいえ、インデックスの対応は早い。

 

「眼前敵に対しては火力不足と判断。増強します」

 

 現れ、回る、彼女の瞳の魔法陣。

 それを号令に浮遊する魔法陣はその数を倍に増やし、その照準を神裂に向けた。

 クジャクの羽模様のように並ぶそれは、凶悪性さえなければさぞ感嘆に値するものであっただろう。

 

「おい、インデックス!」

 

 このままでは、二人が殺される。そう考えたアレックスは足元に転がるアスファルトの塊を掴み、インデックスの頭部を狙って剛速球を放った。

 だがそれも魔法陣より出でた散弾のようなものにことごとく迎撃され、塵芥となってその姿を消した。

 その際に飛来した魔弾がアレックスの肌を叩く。威力は拳銃弾程度といったところで彼にはあまり効果的なものでもない。神裂と上条は、アレックスを一瞥した後インデックスへと更に前進した。

 問題は、この後だ。

 

「再補足。両者を殲滅するため、魔術式を組み替えます」

 

 キュルル。とモーターの駆動音がしてもおかしくないような回転と共に、魔法陣の色が紫から白色へと変わった。

 如何に見ようと、確実にアレックスを殺すための――殺菌するためのものである。指向性がある分、サウナの中にいるような『聖域』とは違い熱湯を浴びせられるようなものであるはずだ。

 

「照準……完了」

 

 殺人ロボットのような淡々とした様子で、インデックスは声を発する。声に連動するのは、宙に背負う魔法陣。彼女とアレックスの腕。両者の腕は姿見越しのように相手へと向けられた。

 こちらを一斉に睨んだ。そう錯覚を覚えるような魔法陣。

 それらにはインデックスの号令や、アレックスが仕掛けるのを待つような機能はなく、突然というのが正しいほどに全ての砲門から連続的に魔弾が発射された。

 数百の魔弾。そのすべては彼一人を狙ったものであるが、面制圧のようにインデックスの前方に殺到した。

 避けようのない、圧倒的な物量。一つ一つが深さ数センチにわたってアレックスの体を消し飛ばすそれを受ければ、彼はそれこそ塵となるだろう。

 

 だが、その射出と同時に、アレックスの腕も突如として変化していた。

 

 腕が爪に変わるように、その腕が巨大な棘となるように。その体積は爆発的に増幅し、密度を増し、彼の全身を隠すように広がった。その色、質感は当てはめるとするならば鋼。形は、受け止めるために戦車の装甲板のように厚い。

 続く着弾。数十発の聖なる魔弾は変化した腕を叩き、その表面を削る。

 しかし、異常なまでに圧縮されたそれ。比べるなら石炭とダイアモンドのような密度の差があるそれは、通常の数センチに値する量のみを消滅させながら消える。不動のアレックスが行うのは、細胞の生成により一層の努力をするのみ。

 無数の魔弾の嵐の中。盾に直撃する音のみが耳を支配する。そんな中。

 

 大きいと言うわけでは無かった。だが、確かさと高い響きを持つ崩壊音が、その場の全員の耳へと飛び込んだ。

 

 幻。インデックスの行ったものはそれだともいうように、裂けた空間からの灼熱の光線も、無数の魔弾も、アレックスの身を削り続けていた『聖域』までもが影も残さず消滅した。

 当麻はやった。そう確信したアレックスは、前面に展開していた盾を撒き戻すように消した。彼の目に映るのは、寝息を立てるインデックス。彼女を撫でる満身創痍の上条当麻と、彼に手前側で肩を貸して支える負けず劣らず傷だらけの神裂火織の姿だ。

 とはいえ、左目でインデックスを、右目で二人を見る限りは両者ともに頭部や胴体からの出血は見られない。大きな事も無く、終わったのだ。

 

「当――――」

 

 

 呼びかけようとした途端。当麻の手が止まった瞬間。当麻の足から力が抜けた。

 彼を支えていた神裂が取り乱した様子でしゃがみ込み、彼の名前を何度も呼んでいた。

 こちら側へと倒れた彼。見えた、彼の右側。

 その側頭部が、真っ赤に染まっている。もしかすれば、その傷の深さは――――。

 

「当麻!!」

 

 眼をむいたアレックスの声も、上条当麻には届かない。


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