「そっか、でも面白い店だな」
店を見回して、魔理沙ちゃんは自然な感じで呟きました。その言葉に自然と顔がぱあっ、と明るくなって、「そうでしょうそうでしょう!」と思わず食い気味になります。
「ですから、絶対売れ……人気になると思うんです!」
「(今絶対売れるって言おうとしたな)」
「(別にそこは、素直に売れるって言っても問題ないと思うけど)」
二人のジトーっとした生暖かい目から、心の声が聞こえてくるようです。いいんです、商売人として、少しでもがめついというイメージは減らしておきたいので。
「そんなわけで、この面白くて売れそうな店、人里とかに宣伝していただければなー……と思うんですがっ!」
期待と興奮に満ちた瞳を、魔理沙ちゃんと霊夢ちゃんに向けてみます。二人して仲良く「えー」って言いたげな微妙な表情をしました。どうしてですか。
「えー、そこは宣伝してあげましょうよ! 私が喜びますよ?」
「あー? 労働を頼むなら、対価があって然るべきだと思うんだけど」
「そ、そこはほら! 友達のよしみと思って、ロハで!」
「駄目だぜ、友達だからってそういう所をなあなあにしてたら。親しき仲にも礼儀あり、だ」
「じゃあ物を無断で借りてくのは何なのよ」
「物の貸し借りは友達としてのマナーみたいなものだろ」
「一言断るのがマナーでしょうが」
「断ってるだろ、ちゃんといつも」
「断ったら断られそうですね」
文字にするとややこしそうな感じの会話になってきました。それにしても、お二人の会話は漫才みたいで、本当に仲がいいんだなーということがよく伝わってきます。私まで少し、ほのぼのした気持ちになってきます。
「ということで私としては、このお地蔵さん貰えれば引き受けてやってもいいぜ」
「あ、全然あげますよー」
「意外とあっさりあげるのね、もうちょっと粘るかと思ってた」
「確かにお金は大切ですが、別にないと死ぬものでもないのです」
「ご飯食べられなくて死んじゃうぜ?」
「雑草食べればなんとかなります! ……時々お腹を壊しますが」
「経験済みかよ」
うんうん、と何故か頷く霊夢ちゃん。経験者なのでしょうか。同じくその道の先輩として、師事を仰ぎたいです。
「こほん、お金はなくてもいいのです。私はそれよりも、お宝と、人との出会いを大切にしたいのです」
人と人との出会いは、一期一会。同時に、人と物との出会いもまた、一期一会なのです。物というのは、大切にされればされるほど輝きます。しかし、持ち主の成長や変化、物自体の劣化、故障のせいで、一度宝物になったものでも、容易にガラクタに成り果ててしまいます。そうなってしまっても思い出として大切に取っておく人もいますが、みんながみんな、そういう人というわけではありません。大半はなくなってしまったり、捨ててしまったりするでしょう。
――でも私がこうして拾い上げて店に並べておけば、魔理沙ちゃんのように気に入ってくれて、再び意味を与えてくれる。ガラクタを、宝物に昇華してくれる。だから私は、この"たからものや"を、開いたのです。
思っていたことを喋っていただけですが、言い終えるとなんだか、いいことを言ったような気がしてきました。魔理沙ちゃんと霊夢ちゃんもしみじみと、心なしか尊敬の念が篭った瞳で、私を見つめています。あれ? もしかしてめちゃくちゃいいこと言ったんじゃないですか?
「なんか、普通にいい話でびっくりしたわ」
「ああ、私もだぜ」
「えへへへへ」
「あー……このお地蔵さん、借りてくのはやめとくぜ。きっと私より、もっと大切にしてくれるやつがいると思うからさ」
「別に遠慮しなくてもいいのですよ? 開店記念サービス兼宣伝料金ということで、お二人共一品好きなものをプレゼントです☆」
「ならその権利、いつかの出会いに取っとかせてもらっていいか? ちゃんと宣伝はさせてもらうからさ」
「ええ、もちろん! 霊夢ちゃんはどうします?」
「私は……んー、この傘と扇子……どっちにしようか……」
霊夢さんは藍色の、先程話に上がった和傘と、綺麗な紫色の扇子で迷っているようでした。扇子は棚ぼた商品ですし、出血大サービスといきましょう。
「その扇子を選ぶとはいいセンスです、ぷぷぷ。ということで出血大サービス! 両方ともあげちゃいます!」
「え、いいの!?」
「いいんです!」
もしかしたら紫ちゃんが取り返しにくるかも知れませんが、その時はその時ということで。霊夢ちゃんの顔が一気に明るくなりました。うんうん、商売人として嬉しい限りです。
「霊夢に二つあげて私に一つって、ちょっと不公平じゃないか?」
「……あ、言われてみると確かに……で、でも魔理沙ちゃんは取り置きじゃないですか! 取り置き料金ってことで!」
「今すぐ選べば二つになるなら、迷いなくそっちにするぜ?」
「むー……じゃあ魔理沙ちゃんも取り置きで二つでいいです。おっけー!」
「やったぜ!」
「ののは甘いわね……どうせ大量にパクられるわよ……」
「死ぬまで借りてくだけだぜ」
決め台詞を言って、魔理沙ちゃんは笑います。私と霊夢ちゃんもくすっ、と笑いました。友達っていいなあ、と思う開店初日の夕方でした。