「再不斬さん、そろそろガトーから命じられた仕事しますか?」
「…ああ」
再不斬は暁との接触以来、己の生きている意味について悩むようになり、ここ暫くまともにガトーからの依頼のことを考えてすらいなかった。
「再不斬さん、昨日から様子が変ですけど大丈夫ですか?僕は…再不斬さん!!」
白が再不斬のことを心配して声をかけていると、突然向かって来る気配を感じ、警戒を強めた。
「ったく…次から次へと何なんだ!」
再不斬がイライラしてそう言うと、二人の面を被った忍が現れた。
「驚かせてすまない。我々は木の葉の暗部。貴方達と交渉をしに来た」
「お前…もしかして昨日の!」
「うちはイタチ…」
再不斬と白は暗部の片方が昨日交戦したうちはイタチであると分かり、武器を持って戦闘態勢に入る。
「待ってくれ。我々は戦うつもりはない」
「巫山戯るな…俺は昨日からイライラしてるんだ。今ここで殺し「ガトーはお前達を裏切るつもりだ」!…何だと!?」
斬りかかろうとした再不斬に対し、イタチは冷静にそう放った。
「何が言いたいんですか?」
本当に戦う気がないことを悟った白は冷静になって尋ねた。するとそれまで黙っていたシスイが口を開けた。
「貴方達がガトーに雇われてタズナさんの暗殺を試みているのは知っている…しかし昨日ガトーのアジトに侵入して盗み聞きしたところ、奴は再不斬と白…貴方達をタズナさんが死んだ直後に襲うつもりだと言うことが分かった」
「はっ…馬鹿馬鹿しい。そんなこと俺が信じるとでも思ったのか?」
「…これを見てくれ」
疑ってかかる再不斬にシスイはヒルゼンの書いた巻物を投げ渡した。
「何だ…!これは!!」
「これは火影様が直筆で書かれたもの…つまり木の葉のトップが直々に貴方達のことを必要としている」
「…成る程。これを見せられたら、まあ信じてやってもいいか。それならカカシ達が俺たちの襲撃を予測できてたのにも納得がいく」
「再不斬さん?」
「これを見てみろ…」
「…!これは本当に…」
再不斬も白も、ヒルゼンが自分で書いた巻物を見てシスイの言っていることが本当だと思うようになった。
「しかし一体火影は何故こんなことを?」
再不斬はそもそもの疑問を投げかけた。
「…火影様は以前より俺をガトーカンパニーへの偵察に命じていた。その時から今回のタズナさんの任務が明らかに危険なものであると分かっていた。そこで火影様は我々に任務の危険性を最小限に抑えた上でガトーの裏での活動を暴くことを命じた。…それと、貴方達の実力を評価して里の戦力にしたがってもおられる」
「ガトーの真の姿を既に知っていたのか…表のトップにしては中々やるじゃねえか」
「僕達のことを評価…」
「こちらの考えは分かってくれたと思うが…答えは聞けるか?」
「再不斬さん…?」
シスイに答えを聞かれた再不斬は、昨日の暁のことを思い出し、悩んでいた。それを見てイタチはこう言った。
「今すぐに答えを出さなくてもいい…ただ、タズナさんの暗殺を巡って争うのは無意味なことだ…お互いにとって」
「そうですね。こちらにも利益がありませんし…」
「ああ、ガトーとの契約は取り敢えず切る。お前ら木の葉と交戦することはしない」
「それは非常に助かる。答えは3日後に聞けるか?」
「いや、2日で十分だ…」
「そうですね…」
「?…分かった。では2日後また来る」
再不斬が2日後で良いと言った意図がわからなかった二人はその場を後にした。
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再不斬と白の居場所から去ったイタチとシスイは一先ずカカシ達の元へ向かっていた。
「なあ…イタチ、どう思う?」
「こちらに付いてきてくれるかということか?」
「ああ。好待遇だし信用があれば二つ返事で来てくれると思ったが、何か微妙な反応だったよな」
「そうだな。彼らにも何か事情があるのかもしれない。何れにせよ俺達には待つことしかできない」
「それもそうか。取り敢えず火影様から連絡が来るまではカカシさん達と合流して待機といったとこだな」
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「再不斬さん…まさか立て続けに二度もスカウトが来るとは思いませんでしたね」
「………」
「再不斬さん?」
「白、お前はどう思う?」
「え、僕ですか?僕は…再不斬さんの選ぶ道と同じですよ」
まさか再不斬が自分に意見を聞くとは思わず白は驚いた。少なくともそれほどに再不斬は己の道に悩んでいるということだった。
「確かに鬼鮫の言う通り、このまま抜け忍としてその日暮らしの生活を続けていてもとは思うが…」
「つまりどちらかの誘いに乗るつもりということですか?」
「ああ…」
「それなら僕は木の葉の方が良いと思います」
「ほう…何故だ?」
「火影からの直々の要請ということで信用できる…霧隠れとの共謀とは流石に信じ難いですから。あのイタチなら先程我々を幻術に嵌めることは出来たはずです。それに待遇もこの上なく良い…」
「そうだな。確かに俺らを陥れるつもりは無さそうだったが…余りにお人好し過ぎないか?他里の抜け忍に対してここまでやるのか木の葉は」
「…もしかしたら何処かの里と対立状態にあるのかもしれません。とにかく里の戦力強化が必要なのかも」
「そうか…まあ、明らかに暁よりは条件も良いからな。追い忍と遭遇するリスクも減る。自明な選択だな」
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ーー波の国の街中にて
「全く…シケた国だなここは」
「そのガトーとやらの支配で波の国は大名ですら大して金を持っていないみたいですね」
「少しくらい金になるのがあるかと思ったが…これじゃあ無理だな」
「そうですねえ…となると」
「ああ…はたけカカシしかねえな。建設中の橋にいるだろう。さっさと行くぞ」
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第七班は建設中の橋でタズナ達の護衛を続けていた。
「カカシ先生ー、全然敵出て来ねえからつまんねえってばよ!」
「馬鹿言うなナルト、何もないのが一番だよ」
再不斬と白との接触以来ガトーからの刺客の来襲は無く、タズナ達は橋作りに勤しんでいた。
「カカシ先生、もう私達は本当に再不斬達と闘う必要はないの?」
サクラがカカシに質問する。
「イタチの話からするとそのようだ…な、サスケ?」
カカシはサクラに答えながら、遠くから異様な気配を感じ、サスケに顔を向ける。
「ああ…分かってるぜ」
サスケもそれに勘付いたのか、戦闘態勢を整えながら、タズナ達作業員の方へ向かう。それに気付いたナルトも準備を整え出した。
「あれ、皆なんか急に雰囲気変になったけど…!!」
3人の纏う雰囲気が一変したのをサクラも疑問に感じたが、直ぐその理由を理解して、警戒態勢に入った。
暫くして、2人の大男がカカシ達の前にゆっくりと姿を現した。
「…案外直ぐ勘付かれてしまいましたねえ。はたけカカシ以外の3人も、少なくとも忍者の端くれってことですか」
「…ったくどこに来ても金の匂いがしねえシケた国だ。さっさと仕事してここから出るぞ」
「誰だってばよお前ら!」
ナルトが2人に向かってそう放った。
「お前はまさか…霧隠れの怪人、干柿鬼鮫!」
カカシは思ってもいない強敵の登場で驚いた。
「ほう…私の名前も案外知られているのですね、写輪眼のカカシにまでも」
「干柿鬼鮫…?」
まだ忍になって間も無いサクラが知るはずもなく、思わず口に出してしまった。
「霧隠れの抜け忍だ…水の国の大名殺しや国家破壊工作を行なったS級犯罪者。まさか、お前らもガトーの手先か?」
カカシがサクラに答えつつ、鬼鮫達に尋ねる。
「あんな雑魚に仕えるなんて、再不斬じゃないんですからね…」
「おい鬼鮫、俺のことを放っておいてグダグダ敵と話してるんじゃねえぞ…まとめて殺ってやろうか?」
我慢出来なくなった角都が周りに殺気を出した。
「おっと失礼…そちらは知らない顔だが、一体何の用だ?」
カカシが軽く殺気を流しながら、二人の目的を尋ねた。
「俺の名は角都。大した用はない…ただ暇潰しに賞金首でも狩って行こうかとな…」
「それって俺のことだよね…やっぱこの任務受けなきゃよかったなあ…」
再不斬達がもう手を出して来ないだろうと言うことでただのCランク任務になったと思いきや、この二人の大男。干柿鬼鮫は言わずもがな隣の男も再不斬より明らかに強い雰囲気を纏っている。部下の3人もその実力はもはや下忍のそれでは無いと言うものの、流石にここまでの敵が来るとは想定外である。
Aランク…いや、もしかするとこれはSランク任務と言ってよいかもしれない。
…そうカカシが考えていると、その優秀な部下がカカシに尋ねた。
「カカシ先生!よくわかんねえけどとっととこの訳わかんねえ黒コートのおっさん倒せばいいのか?」
「待てナルト。こいつらは前回の奴等と格が違う…今のお前らでもタズナさんを護りながら闘うのは無理がありすぎる」
「だがカカシ…向こうはそれを望んでるみたいじゃねえか。それに俺達も退く訳にはいかないだろう?」
サスケの言う通りである。波の国の作業員がいる手前、これは防衛戦と言ってよい。少なくともこちらは相手を退けるしか手は無いのだ。
「サスケ、お前の言う通りだ…だがそれでも今回ばかりは厳しい闘いになる。サクラ、お前はタズナさんの護衛に回れ。ナルトとサスケで大刀を持っている方を相手にしろ。再不斬と同じく忍刀七人衆の一人だ…近距離戦には警戒してくれ。もう一人は俺が引き受ける」
「「「了解!!」」」