百鬼夜行のヒーローアカデミア   作:ソトン9

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~急展開と可能性~

 前回までのあらすじ。

 

 突如交通事故で死んでしまった私は、何故かあの世に逝くのではなく気付いたら見知らぬ純和風屋敷にいて、そこで現れた2人の妖怪に事の経緯を説明してもらうことに。

 「ある意味奇跡的なインチキ能力」(八雲紫談)によってここ幻想郷へと飛ばされてしまった私は、今後どうするのかと問われ強くなることを決意。同姓同名である鬼の伊吹萃香さんについて修行させていただくことになりました。

 

 

 

 

 

 ――それから半年が過ぎた頃。

 

 

 

 

 

 

 お父さん、お母さん。私は今空を飛んでいます。いや、落下してます!

 

「いやあああああああああ――!」

 

 死ぬ!死んじゃう!ていうかもう死んでるけどこれはもう一回死ねる!パラシュートだって装備していなので、近づいてくる地面を直視できずにギュっと目を瞑る。

 

「もうだめ…!」

 

「――まったく、世話がやけるねぇ」

 

 自由落下を止められず諦めて衝撃に備えて縮みこんでいると、師匠が上から私の服を掴んでグッと引っ張ってくれる。目を開けると地面が目と鼻の先であったことに恐怖しつつ、助かったことに安堵してため息が漏れた。

 怖かった…。 そんなことを思っていると一瞬の浮遊感に続いてドサッと地面に落ちる。そのせいで受け身がとれずフギャっと声が出たのは内緒。

 

 おでこと鼻を抑えて立ち上がると、師匠が胡坐に腕組みで目の前に下りてきた。

 

「嬢ちゃんはあれだな。空を飛ぶ才能がまったくねぇな」

 

 そう言って少し呆れた態度を出す師匠。

 

「うぅ~すみません」

 

 才能がないと言われて涙目な私。でも、ちょっと待ってほしい。普通人が空を飛べるわけがないのに、なぜ私が悪いみたいになってるのか全然わからない。

 だって人って特別な機械とかが無いと飛べないし、単独で飛べたら飛行機なんて開発されてないし、むしろさっきから然も当たり前のように空中に浮いているこの人のほうがおかしい。

 どうやらこの幻想郷の住人は能力があれば飛べて当たり前なのだそうだが、ひと月ほど練習しても習得できそうな気配もない。

 というかその「えーマジ飛べないの?…じゃあ他のとこを重点的に…ブツブツ」とか言ってるけど怖いからやめて!今日はもうずっと飛行訓練という名の紐なしバンジーの連続で、私のライフはもうゼロよ!ここに来たときからだけどね!

 

「伊吹さま!萃香さ~ん!夕ご飯の支度が出来ましたよ~!」

 

 そんなこんなで今日も飛行に関して何も得られなかったことにうなだれていると、お屋敷から私たちを呼ぶ声が響く。私が萃香さんで伊吹さまが師匠だ。ちなみに師匠というのは萃香さんのことで、修行開始初日に「そう呼べ!」と鼻高々に言われたのでそう呼んでいる。あと未だに私が嬢ちゃん呼ばわりなのは、自分で自分の名前を呼ぶのは落ち着かないからだとか。

 

「は~い!」

 

 返事をしながら振り返った先にいたのは、私が今お世話になっているこの白玉楼の主、西行寺幽々子さんの剣術指南役兼庭師である魂魄妖夢さん。銀色の髪をボブカットにして黒いリボンのアクセントが加えられていてよく似合っている。

 背格好や顔を見る限りは中学生くらいの可愛らしい女の子なのだけど、腰に差した2本の刀と彼女の周囲を浮遊する白いところてっ…物体をみればただ者ではないことが窺える少女なのだ。本人に聞いたところ人間ではなく半分人間半分幽霊の半人半霊という種族だとか。

 ただその物々しい出で立ちとは裏腹にとても慎ましく礼儀正しい子で、私の修行にもちょくちょく付き合ってくれる。実戦形式が多いのだけど、受け身や立ち回りに関して的確なアドバイスをしてくれる天使のような存在だ。

 

「しょうがない。飛行の修行はこのくらいにして嬢ちゃんの今後についてでも話すか。幸い密と疎を操ることに関しちゃ出来ることは一通り叩き込んでやったしな、頃合いだろう。んじゃ飯をいただくとするかい!」

 

「ま、待ってくださいよ!」

 

 ご飯に釣られて駆け出していく師匠の背中を追いかけながら私はこれまでの修行を振り返る。

 最初のころは「密」で自分や物の質量を増やしたり、応用で熱を発生させたりするだけだったのだけど、途中から師匠曰く「じれったくなってきた」とのことで実戦的な内容が増えていった。

 耐久力の実験で地面に叩きつけられたり、2メートルほどもある岩を投げつけられたり、巨大化した師匠に踏まれそうになったり、とそれはもうPTAが黙ってないような内容盛りだくさん。…あれ?これって質の悪いイジメより酷いんじゃないかな…と思う私。間違いない。

 どうやら死んでいても危機感というものは残っているようで、ある日わたしはバランスを崩して転倒した際に師匠に押しつぶされそうになったことがあった。壁が落ちてくると錯覚するほどの恐怖に咄嗟にすり抜けたり霧になったりすることを思い浮かべた時、意識も感覚も薄くなって自分がなくなるような状態に陥ったことを思い出した。

 あの時は気絶しただけかとおもったけど、師匠や駆けつけた紫ちゃんが言うには、あまりの危機的状況に「疎」の力が覚醒して制御できずに存在が散り散りになって無くなってしまうところだったんだそうだ。

 それを聞いて青い顔をしていた私に「普通は相手の力や衝撃を霧散させるのが優先なんだが、怖がらせちまったね」と師匠から申し訳ないと謝罪されてしまった。

 私としては新しい力に目覚めたのだから結果オーライだと思って水に流した。 

 ちなみにこのときネックレスがなくなって焦っていたら鏡を持ってこられ、左右の耳たぶにピアスのようななにかがあることに気付かされた。

 

 右耳に赤色の三角錐

 左耳に黄色の球体

 

 それぞれ密と疎を意味していて、私の能力がまた一つ覚醒したのだと師匠に教えられた。顔を左右に振るたびに鎖の先端に垂れ下がったそれが揺れるところをみて妖夢さんが「綺麗ですね」なんて言ってくれたのが嬉しくて思わずはにかんでしまった。

 1日様子を見て、それからの修行は尚苛烈で何度天に召されたいと思ったかしれない。

 日々ダメージを霧散させたり、分身したり、巨大化したり、基礎的な運用方法から様々な応用まで、余すことなく叩き込まれた。

 おかげで能力の幅が増えたことで多くの技を習得したけれど、ただひとつ。体を「霧化」させることだけは師匠にも紫ちゃんにも使わないよう約束をさせられた。下手をすれば以前のように元に戻れず消えてしまうため、自身を確立するまで使用は認められないとのこと。

 たしかに、私としてもそんなことにはなりたくないし今の私には到底扱えるものではないので使わないことを誓った。

 師匠から免許皆伝(仮)を頂いてからここ1か月ほどは空を飛ぶ訓練をひたすら頑張っているけど、今日の結果を見てわかる通りまったく上手く行っていない。

 そもそもどういった原理で浮いてるのか。始めた当初から何度か聞いているけど、なぜか全員回答が感覚的すぎて要領を得ない。

 曰く、「魔法だから」「奇跡だから」「メイドに不可能はないから」「勘」…うん。こうやって思い返してみると感覚的とかそういう問題以前に、聞く相手を間違えていたということがよくわかる。バカだな私!

 

 妖夢ちゃんに続いて部屋に入ると幽々子様がすでに席について夕食を食べ始めていた。

 

「っ…おかえり妖夢~。萃香ちゃんも先にいただいちゃってごめんなさいね~」

 

「もぉ~幽々子様!はしたないですよ!」

 

 ニコニコと謝りつつも次々と料理を口の中に放り込んでいく幽々子様にプンプンとご立腹モードの妖夢ちゃん。それでもちゃんと席に誘導して「どうぞ」と座布団を整えてくれるところにグッとくる。

 今日の料理はご飯に味噌汁にアジの開きに筑前煮等々、日本料理の定番といえるものばかりだ。

 

「こんばんわ~」

 

「夜分遅くに失礼いたします」

 

「あら~いらっしゃい紫」

 

「んお?なんでぇ藍も一緒とは珍しいじゃないか」

 

 早速食べ始めようとしたところにスキマが開くと紫ちゃんと藍さんがニュッと現れる。ホントにこの人はどんな時でも急に現れるものだから、驚いて手に持った器からお味噌汁が零れるところだった。

 紫ちゃんの横にいるのは八雲藍さん。金毛九尾の妖狐という妖怪と言われていて、その証拠にお尻の上あたりから九本のモフモ…尻尾が伸びている。紫ちゃんの部下らしいのだけど性格は正反対に真面目で、私の修行を見てくれた人物の一人でもある。

 

「ふた月ぶりだな翠よ。息災か?」

 

「あ、は、はい。おかげさまで!」

 

 師匠たちが話しているところを通りすぎて藍さんが傍へ来て声をかけてくれるのだけど、頼れる大人の雰囲気と綺麗な顔立ちで微笑まれるとドギマギして思わず背筋がピンと伸びてしまう。

 

「ふふ、そう畏まらなくてもいいと前にも言ったが相変わらずだな。それにしても最後に会ったときから随分と見違えるほどに成長したようで最初は誰かわからなかったぞ?」

 

「えへへ、ありがとうございます」

 

「修行は怠らなかったようで何よりだ。…さて今日は何をしにきたか話さなければな」

 

「そうでしたわ!」

 

 いつの間にか師匠とご飯の奪い合いをして暴れていた紫ちゃんは藍さんの言葉で何をしに来たか思い出したようで、持っていた器を師匠に返してこちらに戻ってくる。

 

「萃香ちゃん、今日はあなたにお話しがあって来たのですわ」

 

「私にですか?」

 

「えぇ。あなたを、その魂を転生させるための準備が整いました」

 

「私の…転生?」

 

「そうだ。翠よ、ここへ最初にやってきたとき紫様がお前になんとお話しされたか覚えているだろう。ここは死者の魂が転生と成仏をするまでを過ごす冥界と呼ばれる場所であるということをな。そしてお前が並行世界(パラレルワールド)から来た存在だということも」

 

「あ…」

 

 思い出した。たしかに私がここへ来てすぐ説明を受けたのを覚えている。私はすでに死んでいて、この能力と師匠との繋がり、そして私の想いや様々な偶然が重なってここへやってきたのだと。

 

「あなたがこちらの世界に来た時点で、ここには伊吹萃香が2人いるという理の矛盾が常に働き続けています。本来であれば世界の修正力によってあなたはすぐ消えてなくなるはずだった。ですがここが幻想郷であり、あなたが肉体を持たぬ魂のみの存在であったことが幸いして、その影響をあなたはほぼ受けずに済んでいるのですわ」

 

”異なる世界間の境界は間違ってもお互いの影響を受けることのないようとても強固なものであり――

   ――下手をすれば世界のズレによる修正力がお互いに干渉し合い同時に消滅ということだって考えられます”

 あれはこういう意味でもあったんだ…。

 

「しかし、それももう誤魔化せないところにまで迫っている。翠、お前はこのままではあと数日と持たず消滅してしまうだろう」

 

「数日」

 

 まさか何も知らない間にそんなことになっていたとは…。せっかくの修行も、ここでの半年間もこれでは意味がなくなってしまう。

 どうすればいいのかわからず顔を上げられないでいると、藍さんが私の肩に手を置いて「だが」と話を続ける。

 

「一つだけ方法がある。…これからお前を強制的に転生させる。それと同時に世界の境界に干渉し、お前がまだ生まれていない異世界へと飛ばす。そこで生まれるはずのお前自身に魂が宿ることで、記憶と能力を失うことなく再びこの世に生を受けることができるだろう」

 

「でもそれだとそこで生まれてくるはずの元の私はどうなるんですか?」

 

「そこは心配はありませんわ。魂が生まれる前ににあなたを定着させますので、その世界におけるあなたはあなただけになります。

 未来に何が起きるかはわかりませんが、あなたが転生してくるという世界も必ず存在するのですわ」

 

 紫ちゃんはそれを確信しているように言うとパチンと扇子を閉じて私を見る。

 

「可能性は示しました。あとはご自分で決断することですわね」

 

「今少し、猶予はある。翠。私はお前が消えない未来を選ぶことを信じるとしよう」

 

 最後にそれだけ言うと、紫ちゃんと藍さんは来たときと同じように、スキマを開いて中に入るとスッと消えた。




今回はなんというか、端折ったのに全然進まない文が続いてしまったかなと。

書きたいことが上手く表現できなくて、終始ウンウン唸ってました(笑)

次か次の次にはヒロアカいけるかな。

誤字とかあれば教えてくだしい。あと良かったらご感想も書いていってください。それを読んで力にできればと思います!

ではでは

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