黒羽転生   作:NANSAN

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入学編は少しだけ平和(ブランシュから目を逸らしつつ)でしたね。


という感想を沢山いただきました。



九校戦編
九校戦編1


 ブランシュ事件は一般生徒に知られることなく終わり、暫くが経った。あの後、壬生紗耶香と司甲は重度のマインドコントロールを治療するために入院することになり、司に関しては最終的に自主退学をした。

 なお、勧誘週間で壬生に突っかかっていた桐原武明は毎日見舞いに通っていたようである。あの日にちょっかいを出したのも、マインドコントロールを受けてから鈍っていた彼女の剣にイラついたからだったそうだ。

 そして二人は付き合うことになったのだが、それは余談である。

 今論ずるべき問題は、ネット公開された期末考査の結果だった。

 

 

一位、B組、四葉紫音

二位、A組、司波深雪

三位、A組、光井ほのか

四位、A組、北山雫

 

 

 三位と四位は僅差だったが、三位と二位には大きな壁がある。そして紫音も期末考査ではサイオン量を点数化されなかったことで、無事に一位を獲得した。

 密かに安堵していたのは言うまでもない。

 ちなみにこれは総合成績の結果だ。公開された順位には、理論のものもある。

 

 

一位、B組、四葉紫音

二位、E組、司波達也

三位、A組、司波深雪

四位、E組、吉田幹比古(よしだみきひこ)

 

 

 まさかの二科生が上位ランクインである。

 更に言えば、こちらも二位と三位の間には十点以上もの差がある。紫音はともかく、達也に関しては大いに驚かれた。

 なにせ、生徒指導室に呼ばれて実技で手を抜いている疑惑をかけられたほどである。

 

 

「――ということがあったんだ」

「ほー。達也も大変だな。なまじ勉強ができるせいで疑われるなんて」

「ああ、最終的に誤解は解けたが、四校への転校を勧められた」

「そういえば四校は技術重視だったか。魔工師志望者も多いって聞くし」

「断ったがな」

 

 

 風紀委員会本部で書類整理をしつつ、紫音は達也の話を聞いていた。このぐらいの会話は作業しながらでも並行してできる。これでも二人は理論においてツートップだ。並みの頭脳ではない。

 そして、二人に書類作成と整理を丸投げしていた摩利は達也の話を聞いて興味深げに尋ねる。

 

 

「それはアレか? やはり妹と離れたくないという奴か?」

「そういうことです」

「なんだ? 無表情で肯定されると詰まらんな。少しぐらい恥じらえ」

「自分は渡辺先輩を愉しませるためにここに来ているんじゃありませんよ」

 

 

 的確なツッコミに摩利も肩をすくめる。

 そんな摩利に今度は紫音が尋ねた。

 

 

「それにしても、引き継ぎ資料なんてもう作るんですね。次の風紀委員が決まるのはまだ先でしょう?」

「ああ、それなんだが、やはり九校戦が始まると忙しくてな。メンバーが固まったら練習も始まるし、道具の手配や情報収集と解析、作戦立案、挙げていけばキリがない」

「大変ですね」

「言っておくが四葉は既に出場者に決定だぞ」

「知ってます」

 

 

 九校戦。

 毎年、夏休みに行われる魔法科高校による競技大会だ。全国に九つある魔法科高校が集い、魔法競技で腕を競うのである。

 

 

「見る分には楽しいですけど、出場する側になると大変ですね」

「お、その口振りからすると、四葉は九校戦を見たことがあるのか?」

「昔に一度だけ会場で。近年はずっと画面越しでしたね。去年や一昨年のも一応は把握しています。七草会長はやはり凄かったですね。一番印象深いですから」

「そうだろうな。十師族だけあって、圧倒的だ。七草真由美(エルフィン・スナイパー)は伊達じゃないってことさ」

 

 

 魔法競技というだけあって、九校戦はかなり白熱する。一般人からすれば未知の現象がこれでもかというほど飛び交う大会なのだ。まして、十師族のレベルともなれば興奮もする。

 そして行われる競技は全部で六つ。

 高速で飛び交うクレーを破壊するスピード・シューティング。

 低反発ボールを魔法やラケットで打ち、相手のコートに落とせば勝ちというテニスに近いクラウド・ボール。

 ボードに乗って水上コースを走り、タイムを競うバトルボード。

 向かい合い、自陣にある十二の氷柱を守りつつ、敵陣にある十二の氷柱を倒すアイス・ピラーズ・ブレイク。

 空中にホログラム投影された的をバットで壊して回るミラージ・バット。

 モノリスを奪い合う三対三の魔法戦、モノリス・コード。

 これらは本選と新人戦で分けて行い、十日間で全ての競技を終える。一瞬の油断も許されないハードスケジュールの中、魔法科高校の生徒たちがしのぎを削るのだ。

 

 

(確か九校戦は国際犯罪シンジケート無頭竜(ノーヘッド・ドラゴン)が暗躍するんだったかな? そろそろ調べておいた方がいいかもしれないね)

 

 

 紫音は密かにそんなことを考えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 九校戦の出場メンバーに選ばれるというのは名誉なことだ。

 試合で活躍すれば成績加算されるばかりか、夏休みの課題免除、評価も一律Aになるという学校からの特典も凄い。逆に言えば、それだけ九校戦に力を入れているということだった。

 出場するだけでステータスになる。

 故に無様な姿は見せられず、代表選手も慎重に選ばれる。本選、新人戦に男女十名ずつなので、選手としては合計四十名。ここに作戦スタッフや技術スタッフが加わることになる。

 そして、その選考会議が今、開かれようとしていた。

 

 

「それでは九校戦メンバーの選定会議を始めます」

 

 

 真由美の宣言と共に始まる。

 部活連本部で行われているこの会議では、既に内定しているメンバーを含め、かなりの大人数が参加している。当然ここには紫音も出席しているのだが、その出場者の席には一人だけ二科生がいた。

 勿論、達也である。

 

 

「なぜ二科生がその席にいるんですか?」

 

 

 とある生徒からその質問が飛ぶのも無理はない。

 風紀委員として活躍する達也は、上級生から意外な高評価を受けている。だが、やはり二科生ということで否定的な目を向ける者が多いのも事実。

 そこで、真由美は事情を説明することにする。

 

 

「司波達也君は技術スタッフ枠です。彼の理論成績を知っている人は理解できると思いますが、競技出場者としてならともかく、技術面では一科生すら凌駕するというのが私たちの考えです」

 

 

 当然である。

 達也の正体は謎の天才魔工師トーラス=シルバーの片割れ、ミスター・シルバーである。圧倒的なプログラミング技術を保有し、CAD調整に関して言えば比肩できる者を探す方が難しい。寧ろ九校戦などでその技術を振るうならば、オーバーキル過ぎて笑いが込み上げてくるほどである。

 勿論、そんなことを知らない一科生の生徒たちは激しく反論する。

 

 

「しかし前例がない」

「いくらなんでも二科生を出すなんて……」

「CADを二科生に預けるのはちょっとね」

「いや、だが理論成績が良いのは事実だ。技術スタッフぐらい……」

「だが―――」

「しかし―――」

 

 

 議論は達也一人のために白熱し、次第に収拾がつかなくなる。

 そこで紫音が立ち上がった。

 

 

「少し宜しいですかね?」

 

 

 その一言で一気に静まる。

 悪名を轟かせる四葉が相手では、流石に逆らうことは出来ない。たとえそれが下級生であったとしてもだ。紫音と同じ一年生はともかく、二年生や三年生までも黙り込んでしまったことには達也も呆れていた。

 一方、紫音はゆったりとした口調で話し出す。

 

 

「個人的な意見ですが、自分としては司波達也にCADを調整して頂きたいですね。どうやら、司波深雪さんは彼にCADを調整して貰っているそうですよ。総合成績二位になるような人物のCADを普段から扱っているのは事実ですから、九校戦で起用しても問題ないのではありませんか?」

 

 

 紫音の要望、そして実際に深雪のCAD調整をしているという事実。

 会議の雰囲気を傾けさせるには十分だった。

 そこで十文字克人も助け舟を出す。

 

 

「二科生だからというくだらない理由は却下だ。しかし、実力に問題があるというのなら、今ここで試してみればいい」

 

 

 紫音に続き、克人までもそんなことを言いだしたので、もはや反論できる空気ではない。静まり返った会議室の中で、摩利は克人に尋ねる。

 

 

「具体的にはどうするつもりだ?」

「実際に調整をさせてみればいいだろう。なんなら、俺が実験台になろう」

 

 

 CADの調整は魔法師にとって重要なことだ。

 魔法の設計図である起動式を高速処理して読み込む以上、魔法師側への精神的負荷は計り知れない。それを緩和するために、個人に合わせた調整が必要となるのだ。

 仮に合わないCADで魔法を発動した場合、不調や幻覚症状が出ることもある。高度な機種であるほど細かな調整が必要であるため、それを他者に任せるというのはかなり勇気のいることだ。

 

 

「いえ、彼を推薦したのは私です。実験台は私がやりましょう」

 

 

 真由美が今度は立候補する。

 十師族の二人が名乗りを上げる以上、この時点で達也の実力は証明されているとも言える。日本を支える魔法一族の者たちが信頼すると言っているのだ。加えて、紫音も達也にCAD調整を任せてみたいと言っているほどである。

 この時点で反対意見を出せる者がいれば、それはそれで勇者だ。

 その後、結局、桐原武明が立候補し、実験台となった。彼は勧誘週間で達也に痛い目に遭わされた経験を持つが、壬生の話を聞いて一目を置くようになっていた。

 そして達也と桐原の事件は周知の事実。

 しかし、勧誘週間のことしか知らない周囲からしてみれば、達也にとって不利になる人物が立候補しているように見えた。逆に、だからこそ客観的な意見となる。結果として達也が桐原専用にCADを調節した結果、非常に良い出来栄えと称賛される。

 当然、九校戦の技術スタッフへと加わることになるのだった。

 

 

(原作通り、シルバー様が加わったな。他の魔法科高校さん、ご愁傷様)

 

 

 そして、密かに他校に対して冥福を祈る人物がいたとかいなかったとか。

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 九校戦選手団発足式。

 通常授業の四時限目を削ってまで生徒がホールへと集められたことから、どれだけ学校が九校戦に力を入れているのか理解できる。

 そして今年は第一高校にとって三連覇がかかった年だ。

 去年、一昨年から……つまり真由美、克人、摩利の三巨頭が入学してからの快進撃は誰もが知っている。更に言えば、今年は四葉紫音という新たな十師族が新入生として入ってきたのだ。他にもA級ライセンス相当といわれる者たちが多いので、特に期待されている。

 仮に賭け事がされるとすれば、もはや成立しなくなるほど一校が人気となるだろう。

 それだけのメンバーだった。

 だが、それだけに注目を浴びるのが達也である。

 

 

(居心地が悪い)

 

 

 達也は無表情を貫いていたが、あまり気分が良いとは言えなかった。

 石や魔法こそ飛んでこないものの、突き刺さる視線からは様々な感情が読み取れる。それは主に、選ばれなかった一科生による嫉妬だ。

 なぜ二科生が選ばれるんだという憎悪にも似た目を向けられる。それが心地よいはずもない。

 紫音は心労軽減のために思念リンクを図る。

 

 

(おーい、大丈夫か達也ー)

(……予想はしていたが、歓迎されていないようだな)

(一科生からは嫉妬、同じ二科生からも羨望に似た嫉妬……敵だらけだな)

(恨むぞ紫音。なぜ会議の時に俺を推薦した)

(…………すまんな達也。深雪から頼まれてたんだ)

 

 

 あの会議の時、深雪は生徒会室でお留守番だった。会議中にも生徒会としての仕事は必要なので、下っ端は処理に励むのである。

 だからこそ、紫音は深雪からひそかに頼まれていた。

 お兄様を推薦してあげてください、と。

 深雪は既にアイス・ピラーズ・ブレイクとミラージ・バットへの出場が決まっている。だが、そうなると兄こと達也と離れ離れになるのは確かだ。そこで、達也を技術スタッフとして起用することを望んだのである。

 それに事実、深雪のCADは達也が調整している。

 九校戦でも万全の状態で臨めるように、CAD調整を達也にして貰いたい。そう思うのは当然である。

 だからこそ、会議に出られない深雪は紫音に頼んでいたのだ。

 

 

(―――ってことがあってな)

(前から思っていたが、お前は深雪に弱すぎないか?)

(……あの有無を言わさない笑顔。真夜様を思い出すぜ……ははは)

(…スマン)

 

 

 深雪は四葉真夜からすれば姪にあたる。また、深雪の母親である深夜は真夜と双子だったので、似ている部分があってもおかしくない。

 妙な所が似ている深雪に、紫音は逆らえないのだ。そう、本能的に。

 

 

「では、選手紹介を始めます。まずは―――」

 

 

 発足式という名の選手お披露目が始まり、真由美がプレゼンターとして選手紹介をしていく。選手は合計して四十名、これに加えて技術スタッフもいるのだから結構な人数だ。

 そして、その一人一人に競技エリアに入場するためのIDチップを仕込んだ徽章が付けられる。見栄えの良いという理由で選ばれた深雪が、一人一人の左襟へと付けていくので、彼女にとっては結構な手間である。

 しかし深雪はこれでも淑女教育が施されている。

 この程度のことなら、笑顔でやり遂げる事も難しくない。

 そして紫音へと徽章を付けるとき、誰にも聞こえないように呟いた。

 

 

「ありがとうございます紫音さん」

「喜んでもらって何よりだ」

 

 

 同じく紫音も深雪にだけ聞こえるように返事する。深雪も徽章を付け終わった後に少しだけ微笑み、次へと移っていった。

 

 

(喜んでもらえて何よりだよホントに……)

 

 

 兄を敬愛する深雪にとって、公的に達也が認められることは非常に嬉しいことだ。その証拠に、最後の微笑みは心の底からのものだったと分かる。

 最後に深雪が達也へと徽章を取り付けるときも、本当に誇らしげな表情を浮かべていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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