さて、件のコスプレ会議の次の日
我々が現在いる場所はアキバのとある雑居ビルの一室。
現在はその中にある異界を探索している最中だ。
今回の異界は、表は普通の書店であったはずなのに、異界の中はなんと森林。
無数の見慣れぬ木々が生い茂り、都会の中にいるはずなのにすがすがしい空気を感じ、建物の中にいるはずなのに暖かな陽気を感じる。
ある意味ではここは過ごしやすく、ピクニックに行くのには最適な場所といえるだろう。
「ギギッ!!ギギギッ!!!ニンゲン、ニンゲン!!!!」
「ウゲッ!!!アホの人間がこんなとこにまで来やがった!!
まぁいい!こちとらイライラしてたんだ、ちょっくら立場わからせてやるよ!!」
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【NAME】≪妖樹≫サンショウ Lv11
HP 133
MP 74
【相性】 火炎弱点 氷結耐性
【スキル】・突撃 (物理属性 小ダメージ クリティカル率は高いが命中率が低い)
・バインドクロー (物理属性 中ダメージ+麻痺)
・バウンスクロー (物理属性 小ダメージ 単体複数)
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【NAME】≪妖精≫ゴブリン Lv3
HP 101
MP 24
【相性】 銃・電撃弱点
【スキル】・突撃
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ただし、それはここに悪魔がいなければの話だ。
さて、ここに入ってから我々はすでに数回は悪魔の群れと会合し、戦闘を繰り広げている。
もちろんここは異界であるので、出現してくる悪魔は基本群れで襲ってくる。
その上前回のゲンブの依頼のように、出てくる悪魔が【凶鳥】オンリーなんて都合のいいことはない。
出てくる悪魔の弱点や種族もある程度傾向はありはするが、それでも結構バラバラ。
もしここを一人で探索することとなったら、相当に骨が折れていたであろう。
「我が秘剣は敵を穿つ……!!ペ・ル・ソ・ナ!!」
「不死鳥ストレッチ!!」
……が、今回に限っては全くそんな危険など訪れなかった。
どうやら、今回の異界攻略は調査段階でここに出てくる悪魔は物理型が多いことと知っての攻略であったらしい。
そのため、今回のパーティの前衛は沖田さん(物理無効)とスーパーフェニックス(物理耐性)の2枚看板であり、全然苦戦のくの字も起きない。
もちろん、自分も邪魔にならない程度に手裏剣や仲魔の召喚でサポートはしている。
が、しかし大体の戦闘が沖田さん&フェニ太郎の全体攻撃のもとに一瞬で一掃されてしまう。
一番役にたっているのがモーショボーによる≪ディア≫というのがいかにこの戦闘で自分に役割がないかをよく表しているであろう。
このままではいけない、このままだとマジで自分は経験値泥棒にしかならない!
というわけで、色々理由をつけてとある悪魔との1対1での戦闘を少しやらせてもらい、自分の近接戦闘能力の証明と、できるなら以降の前線に混ぜてもらおうと思っていたのだが……
「グギッ!!ギギギッ!!!
ナゼダ!!ナゼアタラン!!」
「ほっ、よっ、はっ!!
どうじゃ?案外、儂もやれるもんじゃろ?」
「きゃ~~!!流石ノッブ!!かっこいいし、口調もマジノッブ!
……でも、もう十分大丈夫ってわかったから、さっさととどめさしちゃってもいいんですよ~~!!」
「というか、マジでさっさとやっつけてください!!
見てるこっちがひやひやするわ!
まじで紙一重でかわし過ぎというか……いや、のんきにこっち振り返らなくていいですから!!」
「あ、増援」
「ちょ!!まっ!!」
「大丈夫、大丈夫!こいつ程度の攻撃なら1体でも2体でも変わらん!!
……って、足払いはやめろ!足払いは!!」
結果、問題なくサンショウ2体を倒せたのにより一層強く前線に立つことを禁止された。
その上、手裏剣の援護も禁止された、解せぬ。
「手裏剣の援護禁止はひどくない?
マジで置物すぎて申し訳ないんだけど。」
「さっきの戦闘で、手裏剣をナイフ代わりにして近接戦できること証明しちゃったからね。
しかたないね!」
同じ後列の仲間のはかせがこちらの体をポンとたたいて慰めてきた。
なお、はかせはマジでニート状態の自分とは違い、豊富なMPで存分にフェニックス用ディア要員をやっている。
かなしぃなぁ。
「というか、ノッブちゃん、全然ニートじゃないから。
さっきから、ちょくちょくはかせに来た攻撃をカバーしてくれてるでしょう?
だから、無理して貢献しなくていいから、ね?」
「そうですよ!ノッブはいざというときの保険係でもあるんですから!
だから、後方でドーンと構えていてください!」
本当にできた人たちすぎて辛い。
というか、本当にできている人すぎて、特にフェニ太郎さんなんて前線で肉盾兼矛もしてくれている都合上、頭も上がらな過ぎて困る。
「……ところで中島さん、なぜわざわざ近接戦を希望するんですか?
単純な親切心だけだと返されたら、はっきり迷惑だと返させていただきますが」
「実はちょっとだけ、同レベル帯や集団戦での近接の役回りを練習したかった。
このパーティなら、いざ自分が失敗してもうまくフォローしてくれそうだしっていう下心はあった。
って、言ったら怒る?」
「ほう!いえ、むしろ安心しました。
マジモンのシリアルキラーかカオス志向的な何かと思って、ひやひやしましたから。
実際、今の我々は、安全な状態で戦闘訓練なんてなかなかできるもんじゃないですからねぇ。
そういう心情ならよくわかりますし、非常によい心がけだと思いますよ。」
なお、フェニックスさんも近接戦すぐあとしばらく無口になってましたが、本音でしゃべったら許してくれました。
いい人たちすぎて、ビビる。
「それじゃぁ!自分も前線で戦ってみてもいい!?」
「それはだめだ、おとなしく後列にひっこんでろジェロニモ」
「辛辣!」
「あ、この先ボスいるよ」
「マジか」
「マジだ」
かくして特に何の感動もないまま、この異界の最深部まで到達してしまった。
しいて言うならレベルが1つだけ上がったことと、途中でディア要員を一人仲魔にできた程度だ。
無論、命乞いでである。
「……では、どうしましょうか?」
「どうするって言うと?」
「倒すか倒さないか、そういうことです。」
さて、いざどうするかといわれると結構困る質問である。
目の前にある木のつたでできた扉はそこそこ厳重そうであり、本能に訴えるピリピリした気配を感じる。
COMPについているエネミーソナーもこの先にいる敵がただ物でないことを表すかのように【この先からとてつもない強烈な気配がする……】と表示されているほどだ。
おそらく、この先にいる悪魔は強力な悪魔なのであろう。
もしこれが、ただの現実や平穏時であるなら危険は避けるべきである。
「やっぱり、ボスって経験値とかおいしいの?」
「あ~~、中島さんは異界攻略まだ1回目でしたっけ?
なら言っておきますが、はい、ぶっちゃけうまいです。
【クエスト】をよく調べておくとわかると思いますが、実は【異界のボス】は倒すごとに我々は特別報酬を得ることができます。
しかも、それで出るアイテムは大概かなりのレアなものです」
「ふむふむ」
「ですが、1回目は固定みたいですが2回目以降はランダム。
ただの大量のマッカかもしれないし、はたまたは逆に超絶レアアイテムかもしれない。
私の場合はこれで予備の【マガタマ】を手に入れましたし、今回もできることならやりたいのが本音ですね」
「ガチャか」
「そういわれるとそうですね。
悪魔の命でガチャ……っふ、そう言われるとなんだかとっても背徳的ですね!」
壷に入ったのか、フェニックスがいい笑顔を浮かべてくる。
いや、なにこの【こいつうまいこと言ったな】みたいな顔は、別に受け狙いで言ったわけではないのだが。
「それに純粋に、経験値もうまうまです!
このレベルの異界のボスならもう+1レベルは手堅いですよ!」
う~~む、そう言われるとなかなかに悩む。
しかし、こちとら一回目のあの【ノズチ】はなかなかにトラウマである。
確かにこの集団だとよっぽどの敵でもない限り負けそうにもないが、果たして安易に突撃しても大丈夫なものか。
「というわけで、不安そうなノッブちゃんのために扉の外からボスをアナライズしてみたよ~~!!」
「マジで!そんなことできるの!!」
「できるのだ!!」
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【NAME】≪幻魔≫タム・リン Lv18
HP ??
MP ??
【相性】 物理・破魔耐性 呪殺弱点
【スキル】 ??
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「ふええぇぇ……物理耐性はもうお腹いっぱいだよぉ……」
「物理耐性大安売りのオンパレードだね!」
博士に見せてもらったそのアナライズデータは確かに色々たりないが、それでも耐性や名前がわかるのはありがたい。
【タム・リン】、たしか色素の薄いクーフーリンみたいな悪魔でそこそこレアな悪魔であったような気がする。
「お~~、タム・リンか。
たしか、物理タイプの悪魔だったような……違うか?」
「あ!これ私知ってますよ!
確か妖精の騎士とかそういうのはず。
さらに言えば、こんなイケ面顔してますがかなりの肉食系!
ぶっちゃけ、イケメンレイパーです」
「……つまり、ここは妖精の森?
ここが森なのや出てくる悪魔でゴブリンとスプリガンが多いのはそういう理由だったのか。
の割には、物理型ばっかりで1匹もピクシーがいないから気づかなかったが」
さて、この先に待ち受けているボスもわかり、対策もなんとなくはわかった。
もちろん、今のメンツは物理型が多いゆえ、苦戦は必須であろうがそれでもこちらもそれ以上に硬い。
なおかつ相手が本当に物理タイプ攻撃ならば、それこそいざとなれば沖田さん一人で倒せるだろう。
なにせ、物理無効である。
「……で、どうしますか?
私としては、中島さんさえよければ今回はこのタム・リン討伐に挑戦してみたいのですが」
「あ!はかせもはかせも!
これぐらいなら多分、最悪フェニちゃんと私だけでも何とかなるレベルだし!」
「あ!沖田さんもやりたいです!
悪魔との剣豪勝負ってかっこよくありませんか?」
どうやら、今回の面子はみんなやる気らしい。
ならば自分も水を差すことはしない方がいいだろう。
しかし、その前に一つだけ言いたいことがある。
「これ、いざというときはちゃんと逃げられるよな?
【残念!大魔王からは逃げられない!】みたいなことはないよな?」
「あ、それならはかせが『トラエストストーン』がもってるよ。
だからいざというときはパパっと異界の外に脱出しちゃお!」
「それならよし!」
かくして自分たちは、胸を張ってボス悪魔の部屋へと突入したのであった。
ある種の勝利を確信しながらである。
が、その予想は悪い意味で覆されることとなった。
「ふっ、はっ!!必殺≪魅了突き≫!!」
「不死鳥乱心波~~!!!」《魅了状態!》
「ちょ!!あいつ、女好きの悪魔のくせにフェニックスさんを狙って魅了しましたよ!!」
「うわっ、ホモだ!!エンガチョエンガチョ!!」
確かに今回のボス【タム・リン】は、基本攻撃方法が物理だけなのは間違いなかった。
ただし、それと同時に【状態異常付加】の攻撃をしてくるが故、【バッドステータス弱点】なフェニックスさんが魅了されることされること。
前線2枚看板が実質1枚、いや、魅了されて相手に手勢が増えていることを考えるとマイナスに入る勢いである。
「だ、だまりなさい!!
私だってできれば、貴方達麗しい女性の誰かを我が槍で骨抜きにして差し上げたいのです!!
なのに、まともに我が槍が当たるのがこの肉達磨しかいないとか……」
「なっ、わが盟友よ!!
つれないことを言うな、俺とお前の仲ではないか♪」《魅了状態!》
「やっやめろ~!!
その体格で抱き着くのは、唇は……ウゴ、ウゴゴゴゴゴゴ!!!!!」
「おえっ」
「うわ~~~……」
「やっぱり、ホモは二次元に限る。
はっきりわかんだね」
「そうですか?沖田さん的には割とオモローでグットですが」
「そ、それより早く治してあげるにゃ!
色々見てられないにゃ!!」
なお、こんな状態でもあるのに戦況は悪い意味で拮抗していた。
その理由としては無敵の沖田さんの【物理無効】と相手が魅了突きをするたびにセルフで精神的ダメージを負っているが故である。
この誰も得をしない、負のスパイラル。
無論、こんなグダグダした状態で物理耐性持ちのボスを物理攻撃がメインの自分たちが倒せるわけもない。
「こ、こんな空間にいられますか!!
私は別の場所でこの心の傷を癒させてもらいます。
というわけで後は任せましたよ、我が盟友たち」
すると今まで見なかった【ピクシー】や【ナパイア】といった女性妖精たちが無数に現れ、入れ替えるかのように姿をくらます幻魔タム・リン。
「あっ、やべっ!!あいつ逃げる気だ!
追えっ追えっ!」
「父さん、母さん!オレはこの一撃で貧乏生活からおさらばだ―――っ!!」《魅了状態!》
「こらっ、フェニ!!
マジでいつまでも洗脳されてるな!!
メパトラストーンも安くないんだぞバカッ!!」
そして、その妖精軍団と洗脳されたフェニ太郎を治しながら迎撃したため、当然終わったころにはタム・リンは逃走済み。
こうして、自分にとっての2回目の異界攻略及びボス戦は、相手ボスの逃走という何とも締まらない結末に終わったのであった。
※なお、当作品には同性愛への侮辱や差別する意図は一切ありません。
どうか、ご了承ください