魔銃使いは迷宮を駆ける 作:魔法少女()
ヘスティアファミリア本拠前、
「それじゃ、行ってきます。神様」
「いってきますね」
「キュイキュイ」
中層に挑むのに必須であるとエイナさんが何度も言っていた
「うん。それにしても……明るい所で見ると中々目立つね、そのサラマンダーウールは」
満足げにうなずいてしみじみと言った様子でベルと俺を見たヘスティア様。
いつも通りの濃い色合いのローブに竜鱗の朱手甲、革ブーツ。魔法使いっぽいとんがり帽子。その上にまとうのは
光沢に溢れた赤い生地。少しひらひらとした薄い作りは、外から見る分にも重さというものを感じさせない。色合いからして合わないとは言わないが、かといって似合うかと言うと……。赤色が強すぎる気はする。赤魔法使いかな?
「中層に行くなら、必ず装備しなさいってエイナさんに言われたんです。少し派手かなって思うんですけど」
其処らの道端歩いてる冒険者の方がよっぽど目立つ装備してる時あるからなぁ。これまでのベルの装備って地味とまでは言わないけど目立ち難い感じだったし。俺の場合は……うん。一般的魔法使い……じゃあないな。
ローブの下に鎖帷子装備してる魔法使いっているんかね。それに背中には銃っぽいモノを背負って……。
魔法使い+軽戦士+銃使い? なにそれ職業特盛過ぎじゃない?
「ま、あのアドバイザーくんの言う事だ。聞いておいて間違いはないだろう。キューイくんとヴァンくんは良いのかい?」
ワイバーン用の
「二人とも自信あるみたいなんで大丈夫だと思いますよ」
キューイに関しては火で怪我する光景とかうかばんしね。
「それもそうか。とにかく、君たち二人とも、レベル2になったからって無茶するんじゃないぞ」
「はいっ」
「わかりました」
わかってますよ。大丈夫です。
「……本当にわかってるのかい? 特にミリアくん」
いや、まぁ確かに無茶ばっかしてきたけど、其処まで疑わなくても……。疑われる原因がある以上なんともなぁ。
「ミリアが無茶しようとしたら。僕が止めますんで」
「…………ベル君も無茶する方だからなぁ」
あはは……。仕方ないっちゃ仕方ないか。
上層の最下部。十二階層から十三階層へ通じる階段の前の大部屋でモンスターを倒し終え、小休止をしつつも四人で顔を突き合わせて話し合いを行っている。
「では、ここで最後の打ち合わせを行います」
リリルカが広げた十三階層の地図を眺めつつ、今回何処まで進むのかを決めておく。中層には『縦穴』が無作為に現れたりするらしい。飛び降りれば下の階層へ行けるらしい。命の保証はないが。
「あそこを抜ければ十三階層。中層です」
「中層以降は炎なんかの遠距離攻撃手段を持つモンスターも居るみたいだし、離れてても油断は禁物だな」
「そうだね。サラマンダーウールがあるからって油断はダメだね」
「地図は十三階層までのしかないの?」
リリの広げた地図の描かれた紙束は、一階層から十三階層までの分しかない。十四階層以降の地図は持ってないのか?
「そうですね。サラマンダーウールの方を優先したので十四階層以降の地図は余裕が無かったので」
ま、そうなるか。地図に関しては今回の中層進出の稼ぎで買えばいいし。慌てて十四階層に降りる必要もないな。
「では、定石通り、ここからは隊列を組みます」
前衛はヴェルフとヴァン。ヴェルフは大刀で、ヴァンは体術(?)でそれぞれモンスターを止める役割。
中衛はベルとキューイ。ベルは敏捷を活かし、キューイは小火球での援護が主に。負担が大きい役割だが、同時に重要な役割でもある。
後衛は俺とリリ。俺は消費の少ない『ピストル・マジック』をメインに援護。リリは『リトル・バリスタ』による援護だが威力は期待できない上、持ち込んだボルト数も限りがある。
バランスはそこそこだが、何処か一人が崩れると一気に崩壊しそうな危うさが残るのがなんとも。
ヴェルフが潰れればヴァンの大味な体術ではモンスターを止めきれず。ベルが潰れればキューイは細かな援護なんぞ出来ず。俺が潰れれば前線を押し戻す火力が不足するし、リリが潰れると治療用の道具類が全損する。
キューイが潰れれば索敵能力が失われるし……。そう考えるとヴァンが潰れても被害は少ないか?
まぁ、そもそも被害を出した時点でお察しではあるんだが。
「それでは。隊列は以上です。何か質問は────
「ふふっ」
リリが言葉を続けようとしたところでベルが急に笑い出した。おかしな事でもあったのかとベルを伺えば、リリが諫める様に口を開いた。
「何笑ってんだ、ベル」
「ベル様、緊張感が足りていないのではないですか」
「ごめんごめん」
照れた様に笑いつつも、ベルはこちらを見回して口を開いた。
「こういうの、わくわくしてこない? 皆で力を合わせて冒険しようって」
ふぅむ。わくわく、かぁ。しないかなぁ。
無論、理解はできる。そういう
「あっはっはっは、そうだよな。わかるぜ。わくわくしなきゃ男じゃないもんな」
「リリは賛同しかねますが。お気持ちはわかります」
「そうですね。私もリリと同意見ですよ」
バベルの前。数多くの冒険者がダンジョンに向かうのを見つめつつも拭い切れぬ不安感を抱いたヘスティアが冒険者の流れを眺めていると、親友の神の声が聞こえた為に其方を向いた。
角髪の男神は腕を組み。正面に居る眷属達に激励の言葉を送っている所であった。
「ミコトもランクアップしたからって、力み過ぎるなよ」
「はいっ」
生真面目そうな少女。最近ランクアップを果たし【絶†影】の二つ名を得た神タケミカヅチの眷属の姿を見て、ヘスティアは自身の眷属の二つ名が平凡な物である事に安堵の吐息を零した。
「それでは行ってきます。タケミカヅチ様」
「おう」
タケミカヅチに頭を下げてダンジョンに向かう姿を見てから、ヘスティアはタケミカヅチに声をかけた。
「ふぅん。あれがタケのファミリアの子供たちか」
「おう、ヘスティア」
ファミリアの子供の後姿を見つつも、ヘスティアは質問を飛ばした。
「中層へ向かうのかい?」
「ああ。お前の所の【
「……正しく、今日が初挑戦さ」
ヘスティアの表情を伺ったタケミカヅチが口を開きかけ、閉じる。ヘスティアの表情にはありありと『眷属が心配だ』と書かれている。
「今朝早く出発していったよ」
「ま、心配してても何もはじまらないからな。俺たちは信じて待つだけさ」
「うん」
タケミカヅチの言葉にヘスティアが頷くとほぼ同時に、地面がかすかに揺れる。鳥が一斉に飛び立ち、周りの冒険者も立ち止まって周りを見回す者が居るのを確認し、それが気のせいではないと認識したヘスティアが呟く。
「地震?」
「最近多いな」
「そうだね。たまたま続いてるだけだとは思うけど」
周囲を囲む壁も、床も、天井も岩盤で構成されており、どこか湿った空気が漂っている。何も知らなければ、天然の洞窟と思わせる中層域最初の領域。冒険者の間では
そんな洞窟にしか見えない一本道を真っすぐ愚直に走ってくる大型犬の様な生き物。らんらんと輝く赤い瞳が、その犬型の其れがただの生き物ではなく、人に殺意抱く迷宮の怪物なのだと知らしめてくる。
突っ込んでくる数は八匹、上層では
「『ファイア』ッ」
詠唱と共に放たれた『ピストル・マジック』の弾丸が一匹の犬型モンスター、
直線通路の為、狙いやすいのだがそれでも数で押されると厳しいモノがある。
飛び込んできた二匹にヴァンが突っ込んでいき、ヴェルフが一匹を迎え撃つ。フリーの五匹の内、キューイ狙いが三匹。ベル狙いが二匹だ。
先程からキューイが『バーカバーカ』と挑発紛いな事を言いまくっている所為なのか、キューイを狙おうとする個体が多い。こいつらキューイの言ってる事わかるのか? ……いや、雰囲気か。なんかいかにも馬鹿にしてますよって雰囲気で鼻で笑ってるやつが居たらねぇ?
中層に侵入して初の戦闘ではあるが。そう難しい事はない。火を吹こうとあからさまに動きを止めた個体は容赦なく撃ち抜かせてもらい、ベルが遊撃を担当。キューイが挑発で敵の動きを攪乱し、ヴェルフとヴァンで数を減らす。俺は節約思考でいかないとなので今回は最低限の補助のみとさせてもらっている。
最後の一匹をヴェルフが真っ二つにし、中層初の戦闘が終了した。
感想を言わせてもらうとするのなら────純粋に数も能力も上層と段違いだ。
「よし、中層で最初の戦闘にしては、上出来じゃないか」
「うん、全然歯が立たない相手じゃない」
確かに、歯が立たない相手ではない。それはそうなんだが……。
「キューイ、敵は?」
「キュイキュイ」
めっちゃいっぱい。だとさ、やっぱ数が多い。能力的にはそう難しくはないが、総合すると『難しい』としか言えないんだよなぁ。
「キュイキュイ? キュイ?」
はい? ベルがいっぱい? ちっちゃいベル? なんだそりゃ。いや、敵だろ?
「ともかく、開けた場所に急ぎましょう。この細い通路で何度も戦闘は厳しいでしょうし……ん?」
「リリ、ヴェルフ、ベル。気を付けて」
「どうしたのミリア?」
「何かいたのか?」
視線を向けた先。キューイ曰く『小さいベル』が数匹、暗闇の中からするりと這い出てくる様子が見えた。小さなベル、言い得て妙である。
長い耳に、白と黄色の毛並み、ふさふさの尻尾。 額には鋭い一角が生えており後ろ足で地面に立っている兎型のモンスター。確か、名称はアルミラージだったかな? 首狩り兎とかだったらアレなんだが。
三人も気付いたのか其方に視線を向けて呟く。
「……ベルさま?」
「うん、ベルだな」
リリ、ヴェルフ。確かに第一印象がベルと一緒だが……。
「アルミラージだってばっ」
ベルの言葉に反応した様に、小さなベル、アルミラージが片手斧を取り出して跳躍、とびかかってくる。兎っぽい見た目を裏切らない跳躍を以てして突っ込んでくる姿は、失礼な話だがベルの姿と一瞬被る。いや、ベルはあんなに興奮しながらとびかかってきたりはしないんだろうが。
「ベルきた」
「ベル様、せっかちですね」
「だからアルミラージだってっ!」
すまん。割と真面目にベルにしか見えなくなってきた。攻撃するの躊躇いそうになる。
《死ね》
「キュイキュイ」
…………。ヴァンの無情な尻尾攻撃で一匹の頭骨が弾け砕ける。続く流れる様な一撃で別の一匹の胴体がへしゃげ折れる。くの字になって吹き飛ぶ個体。
そしてキューイの無慈悲な噛みつきで一匹の肩が抉れる。そのままキューイがバリバリとアルミラージの体をかみ砕いて──お前ら容赦ねぇなっ!?
大広間となっている空間。俺の張り巡らした『
ぶっちゃけて言おう。中層舐めてたっつーか、想定より数が明らかに多い。
「ぜぇ、はぁ……糞、ここまで数が多いのかよ」
「皆、無事?」
大刀を杖代わりにすがりつくヴェルフに、膝を突いて荒い息を零しながらも声かけをしてくるベル。リリは邪魔になりそうな死体なんかを必死こいて運び、キューイとヴァンは周囲を警戒している。
俺は、なんとか銃剣を杖代わりにしつつもトラップ設置中。残りマガジン2つしかないよ。
「ミリア様、
「ありがとリリ」
リリの差し出してきた薬を一気飲み。何度か攻撃を食らったが、火にしろ物理にしろ『マジックシールド』が罅割れる程度で砕ける所までいかなかったのは幸いである。とはいえ本当に数が多かった。
「しっかし、ミリアが居なかったら囲まれてたぞ」
「うん。ミリアの仕掛けた、この……」
「『
「そうそれ、それのおかげでモンスターに一気に襲われなくてすんだよ」
『
おかげで一気になだれ込んできて囲まれるといった事態にもならず。背後に設置しておけば壁代わりに背後からの攻撃に気を使わなくてよくなるなど、使い勝手は良好。若干、コストが高いのが難点だが。
「ふぅ、それで。どうする? 進むか? この数を相手にし続けるんだったら、かなりきついぞ」
ヴェルフの言う通りだ。今回であった数は、少なくとも五十は居た。其処からさらに追加で四十近くのモンスターがやってきて……。散見される魔石の数だけ見ても、うんざりする量のモンスターが居た事は間違いない。
多分だが普通に百を超えてたと思う。
なにより恐ろしいのは、上層では『
「うぅん。確かにきついけど、注意すればなんとかなりそうなんだけどなあ」
「ベル様、油断は禁物です。今の量は中層では普通目なのです。むしろ少ないぐらいと考えた方が良いでしょう。進むのはよろしいですが、その前にミリア様が回復しきるまで待つべきかと」
回復、というかマガジンを作成しておかないと、次きたら死ねる。
「とりあえず予備マガジン作成しますので、周辺警戒を──キューイ?」
「キュイキュイ、キュイ」
うん? 怪我人抱えた間抜けがモンスターの大群に追われてる? いや間抜けって言いすぎ。
「ミリア様? どうかなさいましたか?」
「報告、こっちに冒険者が向かってきてる」
ヴェルフとベルが首をかしげてるが、リリルカだけは察したのか目を細めて拾った魔石やドロップ品を収集袋に手早く収めた。
「状況は?」
「完全によくない。モンスターの群れに追われてる上に、怪我人まで抱えてるみたい」
怪我人を抱えてる、という一言にベルが目を見開き、即座に口を開いた。
「助けなきゃっ」
「……ベル様」
リリルカの苦虫を噛み潰したような表情に、ベルが驚きの表情を浮かべる。正直言えば、俺もリリと同じ感想を抱かざるを得ない。
「ベル、それ本気で言ってるのか?」
「ヴェルフ?」
「同じパーティならまだしも、他のパーティを助けるのはなあ」
そりゃそうだ。ダンジョンに潜る冒険者の鉄則。自己責任って言葉もあるのだ。怪我人が居るからと言って助ける為に手を伸ばすのは感心しない。
「でも、怪我人が居るならなんとかしてあげないと」
「ベル様、お言葉ですが。推奨できません」
きっぱりと、リリルカが言い切る。むしろ言い切ってあげないといけない場面か。
「ダンジョンに潜る以上、自己責任としか言えません。そのパーティは、運が無かったのでしょう」
ベルの表情が見るからに苦々し気に変わる。アイズさんに助けられた時の事でも思い出しているのか。
「それに今、私たちのパーティはモンスター二匹を編成しています。他のパーティにどう思われるか」
その問題もまぁ、下手したら助けてあげたのに『あのワイバーンに襲われた』なんて言っていちゃもんつけられても困るし。
「とりあえず現状、出せる選択肢を上げるわ」
一つ、助ける為に動く。
二つ、見捨てて逃げる。
「一つ目の案は、リリの言う通り、おすすめはしないわ。相手の素性がさっぱりだし、変なファミリアだったら
「二つ目の案は、堅実ですね。冒険者の殆どがこっちを選びます。確かに見捨てる事による罪悪感はありますが、確実で安全です」
見捨てる罪悪感はあるだろう。だが、こっちの選択肢を選ぶのが一般的だ。
普通なら
「助けよう」
まっすぐ、迷いなく呟かれたベルの言葉に思わず吐息が零れ落ちる。
呆れた様な表情をしつつも、何処か嬉しそうなヴェルフ。やっぱりそちらを選ぶのかと呆れつつも納得した表情のリリ。キューイが『馬鹿なの』と呟き、ヴァンは目を瞑って身を休めている。
そりゃ、普通なら見捨てるしかない場面であったとしても、ベルなら必ず『助ける』っていうだろう。
ベルの
とはいえ、このまま普通に助けるっていうのは流石に危な過ぎる。助ける相手について最低限の情報収集は必要だし。後ろ暗いファミリアが、意図して
「ベル、助けるのは良いですけど、最低条件を設けさせてください」
まず一つ。『ファミリアの確認』、ブラックリストに載ってる様なファミリアなら迷わず逃げる。そうでないのなら交渉を始める。
次に向こうと連絡をとりあって『共闘する意図』の有無の確認。擦り付けられてはいおしまいでは笑えない。
ベルが『助けよう』と言ったのなら、仲間として全力で支えようじゃないか。うん、その優しさを貫く為にもね。
ヴェルフも、リリも、呆れた様な、けれども不快感の無い表情で頷き合う。
「それじゃあ」
「おう、とりあえず交渉次第だな」
「確認に行くのは冷静なミリア様が良いでしょう」
「ヴァンを連れていくわ。此処にはまだ罠も残ってるし、迎え撃つならこの場所で、もし決裂したらキューイに伝えさせるから、即座に撤退よろしく」
さて、いきますかね。
アルミラージの特徴
・兎のモンスター。
・長い耳に、白と黄色の毛並み、ふさふさの尻尾。 額には鋭い一角が生えており後ろ足で地面に立っている。
・見た目とは裏腹に非常に好戦的。
アニメ版だと角生えてなかった気がしたんだが。そっか、角生えてるのか。
いや、だから何だって話なんだが。別に角の有無でストーリーが変わるとか無いしね。
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