魔銃使いは迷宮を駆ける 作:魔法少女()
オラリオの中央にそびえ立つ白亜の塔、バベルの入り口前にある噴水。体長1M程の紅の飛竜と1.5M程の灰色の飛竜の二匹を連れた幼女と白髪の少年が悪目立ちしていた。なお、幼女は俺である。
神々の許可が下りたとはいえ、やはり皆警戒しているのか武器に手を伸ばしておっかなびっくりと言った様子でキューイとヴァンの横を通り過ぎていく。まあ、言葉の通じる(話が通じるとは言ってない)俺だからこそ安心して傍に居られるわけで、そうでもなけりゃ近づこうとも思わんか。
片やランクアップ最速記録保持者、片やそれに追いつかんばかりの速度でのランクアップ+竜種二匹を従える小人族。そりゃ目立つわ。
「ああ、居ました。……本当に大きくなったのですね」
驚きの表情と共に声をかけてきたのはパルゥムのサポーター、リリルカである。久々にリリと会った気がする。
片手を上げて微笑みを向ければ、鍛冶師見習いの青年ヴェルフも目を真ん丸にしながらも近づいてくるのが見えた。二人とも、久々に会ったなぁ。ここ四日程会えていなかったのだから仕方ないか。
「お久しぶりですミリア様」
「久しぶりだな」
本当に久しぶりに出会った二人は、これまで通り、というにはヴェルフの距離感は少し近いが。今まで同様にこちらに笑みを向けてくれた。ありがたい話である。
「久しぶり、ごめんなさい。色々と面倒をかけてしまって」
「いえ、別に構いませんよ。むしろミリア様のおかげでパーティとして安定感が増しますし」
「おう、何処のパーティ探したって竜種を編成してる所なんてここぐらいだもんな」
俺がいない数日間の間は、俺抜きでベル、リリ、ヴェルフの三人でダンジョン探索していたらしいが。昨日の神会を終え、漸く俺はダンジョンに潜れるようになった。
「あ、そうだ。二人とも、ミリアの二つ名が決まったんだよ」
「おぉ、流石ですね」
「うらやましい限りだ、んで? 二つ名はどんなもんになったんだ?
噴水の前でのやり取りは、正直小恥ずかしいし、キューイとヴァンを連れているせいか滅茶苦茶視線を集めてしまっている。まあ、慣れるしかないんだが。
「私の二つ名は【魔銃使い】ですよ」
「…………はぁ」
「おう…………」
微妙そうな二人の反応に苦笑を浮かべざるをえない。とはいえ俺はそこそこ気に入っている。シンプルでいて、目立ち過ぎず、背中を掻きむしりたくなるような衝動に駆られない。素敵な二つ名である。
彼の美の女神には感謝の言葉を述べたい所だが────神ロキ曰く『目を付けられとるから気をつけろ』との事なのであまり喜べないらしい。ちなみに、俺はその女神の事を覚えてない。というか神会の時の事すら曖昧である。覚えているのは唐突に神威で押しつぶされそうになって小便チビリかけた事ぐらいである。気付いたら神ロキとヘスティア様が睨み合っており、神ミアハ、神タケミカヅチ、神ガネーシャが呆けた表情で椅子に座り込んでいたのみ。他の神は何処に行ったのかと首をかしげる羽目になった。
特に、俺はごく一般的な魅了耐性しか持ち合わせない為、下手すると『私の眷属にならない?』と声かけられた時点でアウトになるらしい。まあ、現時点ではないっぽいが。第一級まで上がったら確実に狙ってくるそうな……、其処まで行ける気がしない。が、ベルが第一級冒険者のアイズ・ヴァレンシュタインを目指す以上、俺もそこまでいかなければならない訳で……。まあ、ランクアップ重ねれば耐性も少しは伸びるっぽいので頑張って耐えろと言われた。神フレイヤ怖すぎぃ。
「なんというか、地味、ですね」
「ベル程じゃないが、地味だな」
「僕の二つ名、やっぱり地味だよね……」
流れ弾でベルが傷ついてるぞ……。まぁ、この二つ名は二重の意味があるっぽいし。
「魔“銃”でもあり、魔“獣”でもあると。同じ読みで二重の意味を持たせてるらしいですよ。ほら、モンスターを魔獣と呼称する地域もあるらしいですし。なので
「ほぉ、流石神は考える事が違いますね」
「そう聞くと、カッコいい二つ名だよなぁ」
「……あれ、僕の二つ名って……」
ベル、それ以上考えちゃいけない。というかいい加減、視線がしつこいしダンジョン行こうか。ダンジョンに降りる許可は貰ってるしね。
「じゃ、ダンジョンに行きましょうか。キューイ、ヴァン、ちゃんとついてきてね」
「キュイキュイ」
《わかった》
前衛のヴェルフ、中衛のベルに加えて前衛にヴァン、中衛にキューイ、そして後衛に俺、そしてリリ。
未だにヴァンとキューイの戦闘能力確認はしていないが、少なくとも
後、クラスチェンジについても色々と確かめないといけない事が多いしなぁ。
中層に挑戦する予定も立ててるし、早めに俺のクラスチェンジについて調べておかないと。中層に行くのに必須らしい
ダンジョン九階層。今日は十階層にまでは下りる予定はない。というかキューイとヴァンの戦闘能力測定の意味もあるので霧が立ち込めていて視界の悪い十階層以降には下りるべきではないとの事。ついでに言えば九階層に出現するのは主にゴブリンとコボルトの二種類。入り口部分と比べりゃその強さは天と地程の差があるが、行動はシンプルに殴る、引っかく、体当たりぐらいなのでキューイとヴァンに任せても問題はない……といいなぁ。
「それで、キューイとヴァンの闘いを見守る訳か……封印解除? ってのはしないのか?」
ヴェルフの言う事は、まぁその通りと言えばそうである。封印解除した方が強いんだが……キューイは『ミリカン』時代の事考えると正直怖いし? キューイがブレスチャージ中に攻撃されると
ヴァンについてはー……。
「元のインファントドラゴンの姿になってしまうと元の姿に戻す事出来ないっぽいんですよね」
一度殺すなりなんなりして再召喚すれば良い話なんだが、レベル2になったとはいえインファントドラゴンとガチンコ勝負とか嫌だよ? いや、『ヴァン、自害せよ』と命じれば自害してくれるっぽいんだけど、死亡した場合は負傷度合いにもよるけど半日から一日の間は再召喚できなくなるっぽいんだよね。前回は封印状態で死んだから半日経てば再召喚可能だったっぽいんだけど、封印解除すると一日は召喚できなくなるらしい? キューイ曰くだけど。
「へぇ、そりゃ面倒だな。と、そういやミリア、武器どうしたんだ? あの赤い剣」
「あー……ヴァン、インファントドラゴンとの闘いの際に刀身が弾け飛んだらしいです」
キューイの血で俺の魔力に適応する様になっていたとはいえ、無茶な魔力込めに耐え切れなかった刀身がパァーンッってなったらしい。散弾みたいに飛び散ったんですって。
「……新しい剣、作るか? なんなら用意してやるが」
「お願いしていいですか? お金は──」
「キューイの鱗数枚くれるなら、それから剣作るぞ」
竜種の素材なんてめったに手に入らないし、それが代金替わりでいいと。ありがたい話である。
「では頼みますね」
「おう、任せとけ」
「ミリア様、ヴェルフ様、モンスターを見つけた様子ですよ」
リリの視線の先、ゴブリンが数匹屯している様子が見える。此処は、とりあえずまずはヴァンを突撃させてみるか。つか、キューイはちゃんとついてきてるよな?
「ヴァンに突撃させますんで、こっちに流れてきたらベル、ヴェルフ、お願いしてもいい?」
「わかった。頑張ってねヴァン」
「おうよ」
頼もしい前衛もいるし。ヴァンは死んでも最悪再召喚でなんとでもなる。まぁ、弱くはないだろうし問題はないだろう。
「と言う訳で、ヴァン。あのゴブリン三匹、片づけられます?」
《余裕だ。この器には慣れんが遅れはとらん》
まぁ、プライドが高いので『闘えない』とは口が裂けても言わないっぽいが。
《いくぞ》
宣言すると共に灰色の飛竜が地を駆ける。その走る姿勢は空を駆るのが正しい飛竜の姿であっても違和感を感じさせないほどに整っている。
元々が地を駆ける竜だったが故に安定しており、相手が気づくより前にゴブリンの至近へと接近。ゴブリンが慌てて構えるより前にヴァンの頭突きが一匹のゴブリンを吹き飛ばす。その反動で動きを止めたヴァンはその場で跳躍。翼で飛ぶ事はできずとも、跳ぶ事は出来ると言わんばかりの切れのある跳躍のまま、バック転の様に一回転し、振り上げた尾が鞭の様に風を斬りゴブリンの二匹目を
隣に立っていた仲間が真っ二つにされて動きを止めたあわれな残り一匹も何をするでもなく着地と同時に身を捻り、横凪ぎに尻尾を振るったヴァンの餌食となった。
……、何あれ? めっちゃ強ない?
「……強い、というか、凄い動きだな」
「ヴァンって、すごく強いの?」
いや、俺に聞かれてもわからん。封印状態とはいえゴブリン三匹をあっという間に仕留めたぞ。
《ふむ、それなりに動けるな。だがやはり重いな。主よ、もし全力を尽くしてほしくば、枷は外してくれ》
「あ、はい」
りょうかいですヴァンさん……。ヤバいよ、俺でも倒せるぐらいに弱化してるはずなのに強いよヴァンさん……。
……これは、キューイも期待していい感じ?
「えっと、じゃあ次キューイが行きましょうか」
「キュイ?」
「えぇ、敵を探してー、え? 見つけました? じゃあそれを倒してくれます? ……面倒? いやお願いですから働いてくださいよ」
なんかキューイが凄い気怠げな感じ。疲れてる?
結論から言おう。キューイは強かった。
まぁ、なんだ。強かったんだよ。うん……キューイがね、ブレスでね、モンスターをね……消し飛ばすんだよ。わぁ強ぉーいと喜んだのは束の間。リリの『……魔石、消し飛んでますね。素材も、一緒に』という言葉で正気に戻った。威力過多過ぎて魔石も素材も消し飛ばすのだ。モンスター諸共。
強い、のは良いんだが、加減してってお願いしても『え? 無理』と叩き切られるし。
どうにも最低威力の
逆にキューイは近接戦が微妙。ワイバーンらしく空中に飛び上がっての急降下体当たり、空中でサマーソルトの様な動きをして尻尾を叩きつける攻撃等、ヴァンと比べるとバリエーション自体は富んでいるが威力がいまいちなのだ。空を飛べる分キューイの近接格闘能力は低く、代わりに
これは、近接型のヴァンと遠距離型のキューイで良い感じなのでは? 耐久の方はどちらも高く、ゴブリンに殴られようが、コボルトに引っかかれようが二匹とも気にした様子はない。
安定した囮としての能力が高い前衛。最悪の場合肉壁に出来る後衛。最高やん? まぁキューイの火球は威力過多過ぎるからちょっと遠慮願おう。
……俺の『ショットガン・マジック』もランクアップの影響で威力過多気味なんだよな。魔石を消し飛ばしてちゃ収入がなくなっちまう。残念だが『ピストル・マジック』でいくしかあるまい。
とはいえ『ピストル・マジック』も威力は十分で消費も少ないし、やっぱ常用として使うなら『ピストル・マジック』である。『ライフル・マジック』は、正直使い処に困る。
「それで、クラスチェンジだっけ? 試すの?」
「……ベル、一応同じパーティとはいえステイタスの情報をペラペラしゃべるのは感心しないぜ」
「あ、ごめん……」
ベル、不注意! まあ、リリとヴェルフは信用できるし問題はないだろう。リリは俺に恩義を感じてるし、ヴェルフの方は『竜の素材を受け取れる』という恩恵でニコニコしてるし。他の見習い鍛冶師処か、上位鍛冶師からも妬まれてるっぽい? というか『竜の素材を少量とはいえ分けて貰える』と自慢してるらしい。まぁ別に構わんが、あんまり嫉妬を買う事はしない方がいいと思うがね。
……主に俺の方に『あんな鍛冶師より俺と専属契約してくれ』と詰め寄ってくるのが現れるから。
つか、俺はヴェルフと専属契約はしていないのだ。あくまでも『ベルと契約している専属鍛冶師』と『同じファミリアに所属しているから面倒見て貰っている小人族』という関係であってだな。
まあ、周りが勝手にヴェルフと専属契約してると勘違いする分には構わん。新米鍛冶師避けになるからな。上級鍛冶師? そっちは普通にお断りしてる。鍛冶狂いかなんか知らんが、竜の全身の素材を採取したいっていう上級鍛冶師が多すぎる。
爪や鱗ならまだしもだよ? 『木箱一杯に鱗をくれ』等、全身の鱗剥ぎ取っても足りないわボケェってぐらい素材要求量が多いわ、『火竜の脊髄が欲しい』『飛竜の頭骨を採取させてくれ』って、脊髄とか頭骨なんて引っこ抜かれたら死ぬだろ、キューイやヴァンを何だと思ってるんだって要求の上級鍛冶師多すぎる。まあ、其処ら辺の無茶な要求してくる奴はリストアップしてガネーシャ様に報告してるが。
ガネーシャファミリアの保有扱いのキューイ&ヴァンの命を脅かす要求をするなんて命知らずにも程があるでしょうに。
ま、そんな事よりクラスチェンジである。とりあえず昼食をとりながら話そうか。
……ベル、俺はその弁当はいいや。リリに保存食の缶詰を分けて貰うからさ。遠慮? してないしてない。それはシルさんがベルの為に作った代物で────え? 俺の分もある?
やったぁ……。リリ、こっそりその缶詰分けて……。あ、ヴェルフ、このお弁当食べりゅ? 女の子の手作りだよ。遠慮しなくていいって────チッ、仕方ない。キューイちょっとこっちに、逃げんなよ……。
あ、ヴァン? ちょっと口開けろ(命令)。
「それで、試すといっても何を? リリはどういった効果なのか想像もできませんが、参考程度に聞いてもよろしいでしょうか? 勿論、誰にも言わないと誓います」
「そこの辺りは信用してるわ。で、クラスチェンジについてなんだけど」
クラスチェンジ。一言でいうと『ステイタスを切り替える』らしい?
正確に言うと『魔法とスキル』が変化するっぽい。基礎アビリティ、発展アビリティに変化はない。
現在変化出来るのが『クーシー:アサルト』『クーシー:スナイパー』『クーシー:ファクトリー』『ドリアード:サンクチュアリ』の四種類。
一度に変化出来るのは一種類のみ。んで、こっからが面倒な仕様なんだが、
語弊がありそうなので訂正しよう。
クラスチェンジ後のクラス選択は
「えっと、それはどういう?」
「ステイタスの更新の際に変更後のクラスを選択するんですよ。ヘスティア様が」
要するにヘスティア様が『クーシー:アサルト』を選択した場合、俺が何しようが『クーシー:アサルト』以外のクラスに変化はできない。
まあ、俺が『このクラスにしたい』って言えば変更してもらえるのだが。それでも
超近接特化の『クーシー:アサルト』
超遠距離特化の『クーシー:スナイパー』
特殊戦特化の『クーシー:ファクトリー』
補助特化の『ドリアード:サンクチュアリ』
そして汎用型であり常用していると言える『ニンフ型』。
現在の俺は『ニンフ型』を基礎にミリア・ノースリス、『フェアリー:ドラゴニュート』の専用魔法であった『サモン・シールワイバーン』を習得している形である。
ニンフ型は、弱くはない。けれど特化型と比べると劣るのは仕方ないと言えば仕方ない。
つまり敵が近づいてきたら『クーシー:アサルト』、敵が遠くに居るなら『クーシー:スナイパー』にクラスチェンジしてなんて言う使い方はできない。
『クーシー:アサルト』を選択しているのなら、それでの戦闘範囲外である場合はニンフ型で対応しないといけない。
「それで、今回のクラスは何にしているのでしょうか?」
「『クーシー:アサルト』ね」
ミリカン*1においてのクーシー:アサルトの立ち位置は、建物内等の閉所空間での制圧作戦向きな能力をしていた。ナーフ*2前には強すぎてぶっ壊れとして嫌われていたクラスである。
ナーフ後はナーフ後で色々と揉めたが。
「その、くーしー、あさると? というのはどういう能力なのですか?」
「あー、簡単に言うと
ミリカンの登場初期の頃は『短距離転移で唐突に背後に現れて尻にショットガンぶち込んでくる頭おかしいシノビ系犬っ娘』等と言われたが、アプデで敵の正面にのみ転移可能というナーフを食らって返り討ちに遭う犬っ娘が増えた。
正面に出てくるだけなら散弾銃を装備しておけば即座に対応できる。流石に至近距離散弾耐えれる耐久は持ち合わせていないからなぁ。ナーフ前はシノビ犬が居る場所では背中を壁に着けたまま横移動しろとまで言われたし。
「へぇ……その、アサルトステップって何かわからないけど、強そうだね」
強いかどうかで言うと、どうなんだろうか。ミリカンの中では背後に転移を連続で行って3~5人ぐらいのプレイヤーなら瞬殺できてたけど……モンスター相手だとどうだ? そもそも、正面にしか転移できないとかだとだいぶ使い辛い。
「とりあえず、試すしかないわね。さて、ご馳走様。キューイ、さっそくで悪いけどモンスターどっかに居ない?」
「キュイ? キュイキュイ」
三匹でうろついてるのが居る。ねぇ……三匹ならなんとかなるでしょ? 多分。
「ミリア、大丈夫?」
「初めて使うスキルや魔法には十二分に警戒を、逆に危機的状況に陥る事もありますので」
わかってるわかってる。
正面方向、距離にして凡そ30M程、3匹のコボルトが警戒心むき出しで歩いてるのが見える。後ろを振り返ればベルとヴェルフが頷き、キューイが欠伸している。リリとヴァンは少し離れた所で待機。キューイ、テメェは欠伸してんじゃねぇぞ……。
「えっと、詠唱の必要はないのよね」
頭の中にスイッチを思い描いて、それをオンにする感じ。……えっと、スイッチ、スイッチ?
「どうしたのミリア?」
「……。よし、少しスキル発動に癖があるけど平気そうよ」
こう、スイッチをイメージ。カチッて切り替える感じで────パチンッと何かが切り替わる感触。
ぐっとお尻が伸びた様な感触と共に、帽子がずれ落ちた。後、ビリィッて何かが破れる音がしたわ。
「え?」
「おい、なんだ……耳? ミリア、お前、耳生えてんぞ?」
耳が
顔の横、耳はちゃんとあるし、生えた? 意味わからん。つか帽子落っことして────頭の上に何かついてる。つかローブがきつい? 後股がスースーする。ナニコレ?
「ミリア、何か落としたけど……え?」
ベルが俺の足元から何かを拾い上げる。白い、布切れ。……見覚えのあるその布切れは、俺のパンツだぁぁぁあっ!? ベルの手から素早くパンツを回収。なんか尻の辺りが破れて──えぇ? なんかローブの中でもぞもぞ動いて、俺の尻尾? え? なんで尻尾生えて? 頭? 頭の上のコレ何?
「ミリア、落ち着け」
「ちょっ、意味わかんないんだけど、私の頭どうなってんの? 私の頭大丈夫?」
「大丈夫だから落ち着いて、ってコボルトに気付かれてるぞっ!?」
「僕がなんとかするから、ミリアは、その──とにかく行ってくる」
ベルがコボルトの対応に飛び出していくのを見送る。俺の頭大丈夫? 変なもん生えてるけど大丈夫? 後尻尾も生えてるけど大丈夫? 頭と尻がおかしなことになってるけどナニコレ? クラスチェンジの影響? パンツ破れたんだけど? 聞いてないよこんなの。
「ミリア様、どうし────えっと、ミリア様も変身魔法を覚えたので……?」
「いや、違うんだけど、私、どうなってる?」
リリとヴェルフの方に向き直ると、二人が顔を見合わせて俺の頭を指差した。
「なんか、犬人みたいな耳が生えてますね」
「普通にヒューマンの耳もあって……耳が四つになってるな」
何それ化け物? 確かに顔の横に人間の耳があって。頭の上に、獣っぽい耳がある。犬耳? クラスチェンジで生えてくるとか何なの? 後、尻尾も……うん、生えてる。尻尾生えてるよこれ、生えた位置が悪かったのかパンツ破れたんだけど?
「…………。すいません、ちょっと混乱しているので一度クラスチェンジ解きますね」
「あ、っはい」
「おう……」
頭の中のスイッチをー、オフにするっと。パチンッという感触と共に頭のケモミミっぽいモノと尻尾がにゅっと消えた。気持ち悪い感触である。
「コボルト、片づけ終わったよ。ミリア、大丈夫だった?」
あー……パンツが破れたぐらいの被害で済んだかな? 耳と尻尾生えるなら先にそう言ってくれよ……獣人用の下着類買っておかないと使えないじゃんクラスチェンジ……。
つか、『フェアリー:ドラゴニュート』になんてクラスチェンジしてたら、背中から生えてきた竜翼と尾骨が伸びて身長と同じぐらいの尻尾ができるって形になって……服をパージしてた訳か。ははぁん……クラスチェンジの調査は次回以降に回そう。耳と尻尾が厄介過ぎる。
「リリ、獣人用の下着類を扱ってる場所、わかる?」
「今日の探索切り上げて行きます?」
「いや、とりあえず今日はクラスチェンジ無しで……あー」
ノーパンで探索? パンツ破れて装備不可能になってるんだけど。
「ミリア様、とりあえず応急処置で縫いますのでそれを此方に……」
「お願い……」
うわーうわー、酷い絵面過ぎるぅ……。格好良く『
パンツは犠牲となったのだ。尻尾生える為の犠牲にな……。
服装はインナーシャツ、鎖帷子、上から大きめのローブ。魔女っぽいとんがり帽子、左腕に竜鱗の朱手甲。右手に緋色の皮手袋、革製のブーツ。
武装は背中に鉄杖(キューイの血で変質済み)と駆け出し用のナイフ。
……軽戦士というか、魔法使いというか。魔法戦士というか。
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