魔銃使いは迷宮を駆ける   作:魔法少女()

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第四十三話

 さてと、目の前の少女と言うか幼女……幼女か? ベルは人違いだと認識した様子だが……。

 

 はっきり言おう。黒だコイツ。

 

 何故黒だと判断したのかと言えば、彼女の俺に対する反応である。

 

「ごめん、人違いだったみたい……」

「いえ、誰しも間違いはあるものですし。それで、リリを雇っては頂けないでしょうか」

「うぅん……ミリア、どうしようか?」

「……ミリア? ……っ!! え、もしや其方の……方も……仲間?」

「うん、そうだよ。僕と同じファミリアの仲間なんだ」

「うそ……一人じゃなかった……」

 

 ぼそぼそと小声で呟かれた言葉。聞き逃さねぇぞ……なお、キューイが教えてくれなかったら聞き逃してた模様。

 

 こっから俺の予測での話だが、まず彼女はベルの言っていたパルゥムの女の子と同一人物で間違いないだろう。本来の種族が何かは知らんが、多分パルゥムであってる。

 

 んで、彼女がベルが一人でいると勘違いした理由はー……非常にシンプルだが、まず人混み。朝だと言うのに人混みがかなり多かった事。

 次に俺の背が低かったこと。と言うかパルゥムだった事、これが大きい要因だろう。

 

 彼女がパルゥムなのかは知らんが、彼女は背が低い。110cmぐらいだと皆を見上げて生活しているんだろう。んで普段から相手取るのは自分より背丈の高い相手。自分より背の低い相手が冒険者やってるなんて想像もできなかったのではなかろうか?

 

 他にもパルゥムが冒険者に付き添う場合は大きなバックパックを背負って居る事が多いので、バックパックを背負う訳でも無く歩いていた俺が視界に入らなかったんだと思われる。おい、チビって言った奴前にでろ、テメェの×××を撃ち抜くぞ。

 

 彼女の様子を見るにそれなりに人を騙す術を学んだ様子の……言い方は悪いが三流詐欺師かなんかだろう。

 

 昨日の今日で碌に情報収集もせずにカモにしやすそうなベルに接触する辺りもうね、三流も三流だよ。

 

 オラリオの冒険者ってのはファミリアっていう集団の繋がりがあるのが当たり前だ。んで下調べすれば直ぐに情報なんて調べられる。

 駆け出しファミリアの俺の所の情報をしっかり集めてから接触してきたのなら、間違いなく俺の情報も持っているはずだったんだが、こいつは俺の事を知らなかった。

 

 俺ならどんな騙しやすそうな相手だろうが最低三日は下調べする。叶うなら一週間は下調べしたい。背後関係で組織的な物とつながりがあるのなら一ヶ月は様子見をしてから接触する。

 そうしないとあの糞女みたく『騙しやすそうだし適当に金巻き上げよう♪』とかやらかしてコンクリ詰めにされるのがオチと言う奴である。

 

 だと言うのに彼女は碌に下調べせずに昨日の今日で接触してきたのだ。多分だがそこらで適当に冒険者相手に詐欺で稼いでいた小物だろう。

 

 どうするかねぇ。話だけは聞いてやるけど。ベルが気になってるみたいだし。

 

 

 

 

 

 噴水の縁に腰かけて並ぶ。ベルと件の三流詐欺師の小娘の間に俺を挟み込んでおく。

 

「先程は誠に申し訳ありませんでしたミリア様、リリよりも背の低い方が冒険者をやっているとは思わずに無視する形になってしまって」

「いえ、別に構わないですよ」

 

 俺に気付いた時の彼女の表情はある意味で笑える光景だった。顔色が一瞬でみるみるうちに変化していったのだから。まぁ、彼女の不注意が招いた事なので全力で笑う所だ。ぷぎゃー。

 

「改めまして、リリルカ・アーデと申します。サポーターとして雇って頂きたくお声を掛けさせて頂きました」

「あ、はい。ベル・クラネルです」

「ミリア・ノースリスよ」

 

 丁重に頭を下げる彼女。見せつける様に獣耳を出したままだが……さっき触った感じは本物っぽかったんだよな。昨日のベルがパルゥムだと勘違いしただけか……それとも獣人に化けているのか。まぁ、現状は放置だな。変に突っ込んで彼女の後ろからなんか後ろ暗い変なもん(ファミリア)が出て来ても困る。

 

「それで、リリルカさんは何で僕に声をかけてきたの?」

「あ~……それがですね。リリが見た所、お一人で冒険をなされていた様に見えたので……実際はお二人だったようですが」

 

 おべっかを使うかのようにへりくだる彼女。なんつーか年相応に表情をころころ変える癖に、口調なんかは全くらしさを感じない。言ってしまえばチグハグな演技をしてる。やっぱ俺と同類っぽいんだよなぁ。

 

「それで、冒険者様自らがバックパックを装備してらっしゃったのでサポーターとして雇って頂けるのではないかなと」

「あぁ……なるほど」

 

 よく見てる。ベルの腰の()()()()()()()()を。

 

 彼女と出会った時の反応で最も気になったのは俺の腕に装備した竜鱗の朱手甲を見た瞬間である。目を見開いた後に値踏みするように見て来た。

 これはー、狙いは金目の装備と言った所か。ベルのナイフ狙いだったんだと思うんだが、俺の手甲にも目をつけたか? まぁ、諦めろ。絶対盗らせんし。

 

「それで、どうでしょう。冒険者様お二人とはいえバックパックを冒険者様が背負うのもおかしな話。此処で一つサポーターとしてリリを雇うと言うのは」

「うぅん、どうしようかミリア」

 

 俺に相談するのか。率直に言えば『無し』だ。あからさまに此方を騙しに来てるし、狙って声を掛けて来た時点でアウトだろうし。

 まぁ、判断はベルに任せるが。

 

「ベルはどうしたい?」

「できれば欲しいかなぁと」

 

 まぁ、だろうな。俺もサポーター()欲しいと思ってたし。但し所持品をくすねようとする奴はお呼びじゃねぇ。

 

「本当ですか! でしたら是非ともリリを連れて行ってくれませんか!」

 

 食い気味に話す彼女。なんつーか必死だな。

 

「リリは貧乏でお金も少なくて……」

 

 同情を誘う様な仕草。なんつーか手馴れてる。ただ、詰めが甘いので三流詐欺師も良い所。と言うかよくこんな行き当たりばったりみたいな方法で生き残って来たな。あの糞女でさえ行き当たりばったりで相手を騙そうとして潰れたのに。

 

「それに……男性の方にリリの大切なモノをあんな風にされたのは初めてで……責任をとっていただかないといけませんね」

 

 甘える様に、上目使いでベルに言う彼女。自らの耳を撫でてベルが先程不用意に彼女の耳に触れた事を意識させる様に動いてる。吐き気がする程の演技だ。いますぐ顔面に拳を叩き込みたいが我慢。ベルの判断に任せよう。

 ナイフ狙いなら俺が監視してれば問題ないだろうし。

 本音を言うなら今すぐぶちのめしたい。絶対しないけど。ベルが驚くだろうし、現状彼女に手を出す理由が俺の私怨でしかないからだ。

 

「あぁ……その、ミリア、良いかな?」

 

 真っ赤になって此方に尋ねるベル。ベルの不用意な行動が原因とは言え其処を攻めてくるこのクソ餓鬼には凄くムカつく。ベルには不用意に女性の体に触れない様に言っておかないといけないなこれ。女ってのは手に触っただけで責任うんぬん騒ぐ奴もいるし。

 

「いいですよ、とりあえず本格的に雇うかは別として今日一日お試しでサポーターとして雇いましょうか」

「ありがとうございます!」

 

 綺麗な()()()()()()()笑みを浮かべた彼女を見て、どうも吐き気が込み上げる。

 前世の俺の笑顔が脳裏に浮かぶ。鏡に向かって、どう笑みをうかべれば自然に見えるか練習し続けたあの頃。糞女監修で行われた()()()()()

 

「ミリア? どうしたの?」

「……何がですか?」

「…………いや、なんか嫌そうな顔してたから……嫌だった?」

「大丈夫ですよ」

 

 吐き気がする。

 

 

 

 

 

 二重の意味で驚きを隠せなかった。

 昨日見た白髪の少年。彼の持つナイフは駆け出しとは思えない程の物で、自身の目的の為にそれを盗むと決意を抱いて次の日にバベルに向かう人混みを監視していれば、思惑通り彼を見つける事が出来た。

 

 彼に声を掛け、思惑通りに接近する事に成功したが、ここで思惑とは違う状況に陥った。

 

 彼に仲間が居たのだ。一人なら騙すのは容易いと近づいたのに……。

 気付かなかった原因は主に二つ。まず一つ目は彼を見つけた状況。周りには多数の冒険者が歩いており傍に誰が居るのか確認した積りだったが人混みで気付けなかった。人混みで気付けなかった事に付け加えて言うなら彼女が自身よりも背が低かったこと。

 

 まさか自分と同じパルゥムが冒険者として活動しているとは思わなかった。

 

 暗褐色のローブに同色のとんがり帽子。まるで童話の中の魔女を思わせる服装でありながら、左手には竜の鱗を思わせる朱色の手甲を、右手には同色の皮手袋。腰には剣、背中に長杖と言う戦闘方法の判別がつかない彼女。

 金髪に碧眼と言うオラリオでは見慣れた髪色に目色。顔立ちは整っておりほっそりとした手足。背は100Cが良い所でパルゥムの中でも小柄と言える。

 大人しそうで人見知りしていそうな感じであった。目を合わせたら直ぐに俯いて帽子で顔を隠す仕草等からそんな印象を受けた。

 

 見た目で判断するなら彼女は魔法が使えるのだろう。見た限りでは無視する形になったはずだが不快感は感じていない様子で助かった。だが彼からナイフを奪う難易度は上がってしまった。

 

 とはいえそればかりではなかった。彼女の持つ竜鱗の朱手甲。何処からどう見ても駆け出しの彼女が持つのに相応しくないそれ。売れば相応の金額にはなるだろう。

 とは言えパルゥムの中でも特別小柄な彼女に合わせて作られた防具なので彼の持つナイフ程は売値は余り期待できない。

 それでも盗めれば上々と彼らと共にダンジョンに潜った。

 

 そして、向かった階層に目を見開いた。

 

 彼らの話によれば冒険者になってまだ一ヶ月も経っていないらしい。駆け出しも駆け出しと言うのに彼らが潜る階層は七階層。本来なら三階層辺りをうろついていてもおかしくはないのに。自意識過剰な冒険者かと予測し、いつでも逃げられる様に覚悟だけはしていたが、それは裏切られる事になった。

 

 まず彼、ベル・クラネルは一人でキラーアント七匹を倒せる程に強かった。並の冒険者なら七匹同時に戦うなんて絶対にしないキラーアント相手に引くでもなく突っ込んで掃滅してみせたのだ。

 

 次いで彼女、ミリア・ノースリス。此方はある意味で予想通り、ある意味では予想以上であった。

 上級冒険者であっても習得している方が珍しい二重詠唱の技能を当たり前の様に使いこなして戦う彼女の姿に思わず度肝を抜かれた。

 其れで居ながらベルの援護に回った彼女はまるで人が変わったみたいに良く動き、魔法を連発する。

 

 それだけでは無い、彼女の索敵能力は獣人として変身している自身よりもはるかに高い。ミリアが敵を見つけ、ベルが前衛で足止めし、ミリアが援護する。そんな戦闘スタンスを既に完成させているらしく、自身がモンスターの接近を警告するより前にミリアが敵の接近を察知してしまうのだ。活躍の場は落ちている魔石やドロップ品を集める事のみ。

 

 魔法も持っている癖に、索敵のスキルまで持っているなんて……。

 

 彼女の持っていた剣、あれはどうやら魔法の補助用らしく、本来なら長杖の方が魔法の補助に使用されるはずが、剣を魔法の補助道具として使用していた。長杖は振り回して敵の牽制を行うだけに使うのみで、それ以外は剣を魔法発動の触媒にして戦っていたのだ。

 これは嬉しい誤算だった。彼女が魔法の触媒として剣を使っていると言うのであれば、あの剣は特殊な触媒によって作られた剣と言う事になる。魔法の触媒として使用される素材はどれも高価であり、彼女の剣は見た目は普通の剣だがその材質は魔法の触媒で作られたモノだろう。売れば相応の金額になる。

 腕に着けた手甲を盗むより腰にある剣を盗む方が何倍も簡単だ。

 

 隙をみて彼女の剣と彼の短剣を奪う。

 

 

 

 

 

「お二人ともお強いんですね!」

「リリが居てくれるおかげだよ。戦闘に専念できるからね」

 

 なんつーか、リリルカはどうにもこっちをおだてて持ち上げようとする感じが強すぎる。ベルは騙されてる様子だが……吐き気が酷い。彼女を見てると昔を思い出す。キューイがさっきから注意してくれるからなんとかなってるが……注意力散漫過ぎるな。痛い目見る前になんとかしないと。

 

「いえいえ、これだけのモンスターをお二人で、それも無傷で倒すなんて凄すぎますよ」

「そうかな」

 

 おだてられて嬉しそうなベル。まぁ、褒められて悪い気はしないだろう。俺と同類にやられると吐き気がするだけだが。

 

「ミリア様も、敵を感知するスキルでもお持ちなのでしょうか」

「ステイタスの詮索は無しで……」

「あ、ごめんなさい、つい」

 

 てへっと惚ける様に笑みを零しながら魔石を拾い集めるリリ。あわよくば情報を引き出そうとしているのか? にしては……嫉妬心でも抱いてるみたいなんだがなぁ。

 俺の索敵能力はキューイ便りだから自慢出来るもんでもないし、魔法も『ミリカン』の物だから自前の物かっていうと疑問が残る。

 唯一胸を張って自前のスキルだって言えるのは『家族/眷属(ファミリア)』ぐらいか。絶対胸を張って言えない奴じゃないか。恥ずかし過ぎるぞ。

 

「まあ、ベル様の方は若干武器に寄る所があるのでしょうが」

「あぁ……やっぱりそうかな、僕もちょっと思ってたんだ。このナイフに頼り過ぎかなって」

 

 おだてるだけじゃないのか。若干引いて……目つきが怪しい。彼女の悪い癖を上げると、彼女は俯いて表情を崩す事が多い部分だろう。

 彼女が今まで相手にしてきた冒険者は彼女よりも大分背が高いが普通な訳で、少し俯くだけで表情を隠せる。その所為か彼女は少し俯いて心を表情に移す事が多い。なんつーか甘いんだよな。俺に見られてないか時折ちらちらと確認するのも甘すぎる。見ると言う動作は意外と勘付かれやすいのだ。さっきからベルのナイフに注視してるの丸分りだ。

 

 ただ一つ疑問。俺の剣にも注視してるっぽいのはなんでだ? 只の剣なんだが。

 

「ベル様、そのナイフはどうやって手にいれたのですか? ミリア様の手甲もそうですが……少し不相応な装備品ですよね」

 

 気になるから聞いた。と言うより話半分で聞いた感じだな。話題を探してるっぽい。積極的に話して明るい印象を植え付けようとしてるんだろうか?

 

「あぁ、僕のファミリアの神様に頂いたんだ。ミリアの手甲もそうだったよね」

「はい、そうですね」

「そうなんですか」

 

 ニコニコとした張り付いた笑み。見続けると吐き気が込み上げてくる笑みだ。仮面()見てるみたいで気持ち悪い。

 

「そういえばリリは? 何処のファミリアなの?」

「…………」

 

 ん? 雰囲気が変わった? さっきまで食い気味に明るく振る舞う彼女のテンションが一気に下がった様な気がする。

 

「はい、ソーマ・ファミリアに」

 

 ……ソーマ・ファミリア? おい、そこのファミリアってアレだろ。ガネーシャ・ファミリアが警戒する様に言ってた要注意ファミリアの一つだったはずだ。

 確か……ファミリア内での格差が酷く、搾取する側とされる側に分かれているファミリアだとか。

 

 ガネーシャが注意する様に言ってきたのは搾取される側、彼らは稼ぐ為に多少の悪事を働く事が多く、目を着けられると厄介だとかどうとか……。

 

 もし、もしもだ。彼女が搾取される側の人間で、悪事に仕方なく手を染めているのならそれは……。

 

 前世の俺と同じく仕方なく……いや、前世の俺はその後も悪事に手を染めるのをやめられなかった屑だしな。彼女がどうかは知らんが調べる必要が出て来た。

 

 まず彼女は搾取する側かされる側か。搾取される側を装って居ないとは限らない。立場を見極めてから判断しないと痛い目をみそうだ。

 

 もし彼女が搾取される側の人間で、悪事に仕方なく手を染めざるをえないのなら、どうにかしてあげたい。前世の俺は勝手に搾取する側の糞女が死んだからその関係が終わったが、ファミリアと言うしがらみから抜け出せずに困っているのなら、手を貸したい。

 

 …………無理か。彼女がもし搾取される側の人間だったにせよ、人間不信になっている可能性は高い。前世の俺もそうだったんだ。だとすると単純に助けようと手を差し伸べるのは間違いだろう。

 

 まぁ、ここらの話は彼女の本当の立ち位置が判別できてからだ。




 リリルカは搾取される側の人間として冒険者を騙して奪う様な真似をしている。

 主人公は搾取される側の人間として人を騙して奪う様な真似をしていた。

 違いは、主人公は搾取される側の人間では無くなって以降も、人を騙すのをやめられなかった事。

 リリは搾取される側の人間でなくなって以降はすっぱり騙すのをやめてましたし。

 やっぱ本作の主人公って屑だったんやなって。

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