魔銃使いは迷宮を駆ける   作:魔法少女()

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第三十話

 やだ、頭痛い。何この状況……。

 

 俺の頭の上のキューイが甘える様な声でキュイキュイと檻の中のワイバーンを口説こうとし、ワイバーンが困った様子で俺を窺い。

 ガネーシャ様が何事かと首を傾げ、団員も同じく首を傾げている。

 

 うん、なんかキューイが一目惚れして口説こうとし始めたんだっけか? どうすりゃいいんだこれ。

 

「どうした、何か疲れた様な表情をしているが? 体調が優れないのなら今日は帰って貰っても問題ないぞ」

「いえ、少し頭が痛くなっただけです」

 

 本音を全部ぶちまけるか。嘘言ったってしゃーないし。

 

「なんか知らないですがウチのキューイがあのワイバーンを口説こうとしてます。一目惚れしたと」

「……何?」

 

 そりゃガネーシャでも驚くよね。と言うか団員もポカンとした表情浮かべている。

 とりあえず頭の上のキューイを掴んで引き摺り下ろしてから地面に叩き付ける。

 

「キュッ!?」

「貴方は何時まで私の頭の上で愛を囁いているんですか。やめてください」

 

 しかもなんかすごい台詞が飛び出してたぞ。いますぐ組み敷いて孕ませてほしいとか。ド直球にも程があるわ。と言うか今のキューイは子猫サイズだろ。相手との大きさの差を考えろ。

 組み敷く所かプチッて潰されるぞ。

 

「キュイッ!!」

 

 何すんのとキュイキュイ騒ぎ始めるキューイを無視。と言うか足で踏みつけて地面に押さえつけておく。

 

「……その、良いのか? それは」

「気にせずにどうぞ。何時もの事ですので」

「そ……そうか……」

 

 困惑の表情の神ガネーシャ。そして驚いて目を見開いた団員達。そりゃ驚くよね。ワイバーンを足蹴にして話を進めようとするんだもん。でもムカつくからこのままで。

 

「あのワイバーン、彼が言うには『困り事』があるそうです」

「あ、ああそうなのか。すまないがその困り事について教えて貰える様に言ってもらえるか?」

 

 頭下げないでくれませんかね……まぁ、聞くけど。乗りかかった船だし。つかキューイは何時まで暴れようとしてんだよ。と言うか割と体重かけて踏んづけてるのに割と平気そうだし。やっぱキューイはキューイだわ。

 

「あのワイバーン……えっと、名前は?」

「ふむ、ヴィルヘルムだが」

《私の名か? ヴィルヘルムと呼ばれている》

 

 うぉっ!? 神ガネーシャに聞いたつもりがワイバーン……ヴィルヘルム……さん? が答えてくれた。

 

「あ、ありがとうございます」

《ところで其処な小さき者よ、彼女を足蹴にするのをやめては貰えないだろうか》

 

 なんつーか、もっとこう、竜種だし偉そうな感じで喋ってくんないのかね? 下手に出てくる竜種とかなんかイメージと違い過ぎるし。

 

「わかりました。キューイ、暫く彼と話すので静かにしててください」

「キュイッ!? キュイキュイッ!!」

 

 彼を奪う積りッ!? 絶対に渡さないっ!! って、お前のじゃねぇだろ。どっちかって言うとガネーシャ・ファミリアの――痛っ!?

 

「いたっ!? いたいいたいっ!!」

「キュイっ!! キュイっ!!」

 

 がぶがぶと噛みついてくるキューイ、こいつ……。

 

「っ!!」

「あっ、待って待ってっ! これただの喧嘩でっ!? 痛いなこいつっ!!」

 

 ガネーシャ・ファミリアの団員が唐突に噛みつきだしたキューイに警戒し剣に手をかけたので慌てて制止する。一応ただの嫉妬だろうし。と言うかマジ痛いなコイツ。

 

「キューイっ! やめ痛っ!?」

 

 …………よし。

 

 キューイを踏みつけて動きを止める。頭をぐりぐりーっと踏みつける。

 

「すいません、ヴィルヘルム。見苦しいですがこのまま話を続けさせて頂けますか?」

《…………あ、あぁ、わかった。構わない》

 

 ははっ、ワイバーンにもドン引きされちまったじゃねぇか。糞っ、キューイの馬鹿野郎っ! ……あ、野郎じゃないか。

 

「それで、困り事があるそうですが何ですか?」

 

 足下でもぞもぞすんなキューイ、怒るぞ。いや、もう怒ってるから、もっと怒るぞ。

 

《あぁ、私は(あるじ)に屈服させられ服従を誓った身。誇り高き竜種として、一度服従を誓った以上命尽き果てるその時まで尽くす積りだ》

 

 何それキューイに見習わせたい。あのワイバーンの爪の垢を煎じてキューイに飲ませようかな。この色狂いめ……マジで暴れるのやめてくんないかな。と言うか猫サイズなのに本気で踏みつけても死なないとかやっぱキューイは竜種だわ。頑丈過ぎ。椅子として上に座っても普通に平気そうだわ。

 

《だがその忠心を信じて頂けないのかこの通り身を拘束されている。(あるじ)に伝えて欲しい。こんなもの無くとも決して命には逆らわぬと》

 

 話を纏めると、一度屈服させられたから今後は決して逆らう積りは無い。けれどもその忠心を主人……多分調教した主が信じてくれなくて拘束されっぱなしだから不満って事か。

 

「えっと、彼……ヴィルヘルムの主人とは?」

「うむ? あぁ、其処の彼だ」

 

 うむ? えぇっと……誰だ? ガネーシャ・ファミリアは数が多いから覚えきれんのだ。

 

「【火炎爆炎火炎(ファイアー・インフェルノ・フレイム)】イブリー・アチャーだ」

 

 ……はい?

 

「えっと……その二つ名は……」

「うむ? 聞こえなかったか? 【火炎爆炎火炎(ファイアー・インフェルノ・フレイム)】、通称『喋る火炎魔法』だ」

 

 はい? え? 二つ名長ぇなおい。つか知ってるぞ。確か戦争遊戯(ウォーゲーム)の実況者として有名な奴だよな? と言うか通称『喋る火炎魔法』? 聞いた事無いんだが。

 

「あぁ、『喋る火炎魔法』の方は自称なんだ」

 

 ……痛い、痛いよ。さっきキューイに噛まれた足じゃなくて背中が痛痒いよ。

 

 

 

 

 

「なるほど、そう言う事だったのか」

「本当に外して大丈夫なんでしょうか?」

 

 彼、ヴィルヘルムの言葉を主である【火炎爆炎火炎(ファイアー・インフェルノ・フレイム)】に伝えた。納得した表情の【火炎爆炎火炎(ファイアー・インフェルノ・フレイム)】……イブリーが頷いてから檻の中の彼に話しかけている。

 

 その様子を見ながらキューイを持ち上げる。抵抗する気力を漸く失ったのか、それとも俺が恋敵でないと解ったからか大人しくなったキューイだが……うぅん、こいつにヴィルヘルムの爪の垢を煎じて飲ませたい。いや、俺が屈服させて従わせてる訳じゃ無いから生意気なのか? なら一度徹底的に俺が主だと調教すべきか?

 

「問題ないだろう。彼女は嘘を言っていない。拘束を全て外してやれ」

 

 おい神ガネーシャ、流石にそれは俺もどうかと思うぞ。

 

「しかしガネーシャ様……」

「責任は全て、この俺、ガネーシャがとろう」

 

 ……なんでこの神様暑苦しいのにかっこよく見えるんだよ。

 

《小さき者よ、感謝を述べよう。そなたの名はなんと呼ぶのだ》

「え? あぁ、ヘスティア・ファミリアのミリア・ノースリスです」

 

 唐突にしゃべりかけられると吃驚するからやめてほしいんだが。

 

《うむ、ヘルシェファヘミスァのミゥリゥ・ノゥシュルスだな。覚えたぞ》

 

 ……。

 

「あの、貴方の主人の名を伺っても?」

《うむ? ウィビィー・カツァーだが?」

 

 …………。

 

「所属ファミリアは?」

《ヘミスァ? あぁ主が仕えている神の作った群れの事か。グヌァセヘミスァだが?》

 

 ………………もう俺は何も言わんぞ。

 

「あー、キューイ、このファミリアの名前って何でしたっけ?」

「キュイ? キュイキュイ?(グヌァセヘミスァだよ?)

 

 まじ頭痛くなってきた。もう竜語は嫌だよぅ。

 

 

 

 

 

 

 拘束を解き放たれたワイバーンは、その後当たり前の様にイブリーの足元に跪いて指示を待つ仕草をしていた。話を聞くに調教に成功したのは良いものの、やはりワイバーンは強力なモンスターであり、反旗を翻されれば被害は凄まじい事になる可能性が高いので常々拘束具を着けたままにしていたのだと言う。

 ヴィルヘルムは決して反旗を翻す等はせず、命失うその時まで忠誠を誓ったと言うのに信じて貰えぬ事に不満を持ち命令に逆らうと言った反抗をしてしまったらしい。

 それが話をこじらせてしまい、余計に危険ではないかと言う意見が膨れ上がって結局拘束具の数が増えていくと。其れに伴いヴィルヘルムの不満が増えてと悪循環に陥っていたっぽい。

 

 なんつーかな、頭は良さそうだし、丁重でキューイに爪の垢を飲ませたいぐらいではあってもやっぱ人間の感性が理解できないらしく、ちょっとした不満を訴えた積りでも人間側が大きくとらえてしまっていた感じらしい。

 

 言葉の壁は大きいが、其れだけでなく力関係やそもそも容姿が人間じゃないっていうのはそれだけで不利なんだなぁって。

 

「ガネーシャ、超感謝!」

 

 うぅん、この暑苦しさが無ければ普通に良い神様なんだけど。なんだかもったいないよなぁ……。

 

 と言うかヘスティア様と言い、ミアハ様と言い、ガネーシャ様と言い。割と良い神様多くね? 神ロキも一応セクハラ以外は優しい神様だったし。もしかして神様って思ってるより良い神様が多い?

 

「それで、彼女、キューイについては怪物祭(モンスターフィリア)当日までガネーシャ・ファミリア預かりという事で良いだろうか?」

「はい」

 

 キューイはガネーシャ・ファミリアが預かる事になった。理由としては数日後の怪物祭(モンスターフィリア)までにトラブルを起こされても困る上に、今回ガネーシャ・ファミリアに呼び出された事に関しては、他のファミリアにも伝わっているらしいのでその辺りにも配慮した形らしい。

 一応キューイの面倒を見てくれる団員を紹介された。相当な実力者の【剛剣闘士】ハシャーナ・ドルリアと言う人が担当してくれるらしい。

 

 渋い顔立ちのイケメンさんだったよ。第二級(レベル4)冒険者だって、超強いね。キューイ暴れんなよ……。

 

「こいつの好物とかは何かあるか? と言うか普段何を食わせてたんだ?」

 

 今は小さ目の檻の中に入れられたキューイがハシャーナさんの手の中にある訳だが、欠伸をしつつつまらなそうにキュイキュイ(ヴィルヘルム……)と呟いている。お前どんだけだよ、完全に恋する翼竜(ワイバーン)じゃねぇか。

 

「普段はじゃが丸くんを食べさせてましたね」

「は? じゃが丸くん? あのじゃが丸くんか?」

 

 うん、多分其方がイメージしてるあのじゃが丸くんであってるよ。塩だったり栗小倉だったり、味の種類は問わず何でも食う。雑食だしね。

 

「……逆にこちらでは何を?」

「主に肉類だな」

 

 まぁそうだよね。竜種って肉食のイメージだよね。……あれ? 今までキューイって肉食わせたっけ?

 

「好物とかは?」

「林檎が好きですね……肉類は食べさせたこと無いです」

 

 ぼそぼそと果物類を与えてみるかと呟くハシャーナさん。他にもブラッシングや鱗磨き、爪磨きなんかについて尋ねられたが、そもそもそんな事一回もしてないんだけど……しいて言うなら熱湯風呂(キューイ鍋)

 今までのキューイの扱いの悪さにハシャーナがよく暴れなかったなとか呟いてるけど……十分暴れてんだよなこいつ。つか何度も噛みつきやがって。ガネーシャ様が気を使って回復薬(ポーション)用意してくれたりしちまったじゃねぇか。

 

「話は済んだか?」

「はい」

「うむ。二日後に怪物祭(モンスターフィリア)が開催される。円形闘技場(アンフィテアトルム)の関係者用区画まで訪ねて来て欲しい。その際にはこの仮面を付けてくると良い」

 

 神ガネーシャから手渡されたのはガネーシャ・ファミリアの団員が身に着けている仮面。ただ最初に貰った物と違って質感がかなりしっかりしている。

 

「それは団員に与えている物と同じ物だ。当日はそれと……そうだな。衣装もそのままというのは不味いだろう。何か良い衣装はあるか? 無いならこちらで用意するが」

 

 もしかしてガネーシャ・ファミリアの団員が身に着けているチュニックにトーガって恰好? あれ少し恥ずかしいんだが……かといって良い衣装なぁ……あ? ゴスロリ風ドレス? あんなもん着れるかアホ。

 

「すいません、お願いしても良いでしょうか? ファミリアに余裕が無くて」

「そうか、判った。当日には用意しておこう。今日は突然呼び出して済まなかったな。彼女を送っていけ、それとヴィルヘルムの件の礼も渡しておく様に。では私はこれで失礼しよう。怪物祭(モンスターフィリア)に向けて円形闘技場(アンフィテアトルム)の清掃を行っていたのだ」

 

 うん? 清掃? 神様が自ら?

 

「神ガネーシャが自らですか?」

「当然だ、眷属(子供)だけに任せていては群衆の神の名が泣くからな」

 

 ……かっこいいなぁ。かっこいいけどこんな風にはなりたくないな。

 

 

 

 

 

 丁重に借り物の仮面を付けてガネーシャ・ファミリアを後にして報酬を受け取った。と言うか報酬が『ガネーシャの仮面(模造品)』を真顔で渡されたんだがマジどうすりゃいいんだコレ。

 無論それ以外にもちゃんとヴァリスの入った袋は貰った……貰ったが、なんか反応に困るんだよなぁ。

 

 とぼとぼと一人で大通りを歩く。もう日暮れの時間で意外に時間が遅くなってしまった。

 うぅん、やっぱりお腹の辺りにキューイが居ないと違和感あるなぁ。ベル君は何処に居るんだろ? もうダンジョンから上がってるんかね?

 

「あ、ミリアさん」

「ん?」

 

 大通り、『豊穣の女主人』の店の前で手を振ってるシルさんを見つけたのでとりあえずそっちに近づく。

 

「こんばんは」

「こんばんはミリアさん、この前は大丈夫でしたか? ベルさんから大丈夫だとは聞いていたんですけどやっぱり心配で」

 

 心配そうな表情を隠しもせずに此方を見るシルさん、優しい人だな。

 

「はい、その節ではご迷惑をおかけしました」

 

 バイト、だったんだろうが途中で投げ出す形で制服を脱ぎ散らかして逃げ出してしまったからな。まあ、ミアさんは『行く当てがなければウチに来な。コキつかってやるよ』って言ってたから怒ってる訳じゃなさそうだが。と言うかまだミアさんにお礼を言ってなかったな。

 

「シルさん、今時間良いですかね?」

「え? そうですね、もう直ぐ帰り組の冒険者が沢山来るので長時間と言うのは無理ですけど構いませんよ」

 

 あ、そうか。この時間って帰ってきた冒険者がギルドで換金を終えてさぁ飲むぞーって時間帯だったか。しまったな。

 

「ミアさんに少し話があるのですが、無理そうですかね?」

「ミア母さんにですか? 良いですよ、付いてきてください」

 

 シルさんに案内され店内へ、相変わらず人混みがーと思ったがまだ時間より少し早いのか人は少な目だな。

 そんな店の中でこれから来る冒険者に向けた料理を厨房で豪快に作っているミアさんと目があった。

 

「アンタ来たのかい。主神に心配かけんじゃないよ」

「はい、色々とごめんなさい。ありがとうございました」

 

 なんか全てを見抜いてそうだなこの人。あの時も俺が唐突に『もう帰ります』って言っただけで頭をガシガシ撫でてきたし。

 

「まあ、元気そうで何よりさ……それより暇なら手伝っていきな。もちろん小遣いぐらいはやるよ」

 

 前回はアレだったしなぁ……まぁ、手伝うかなぁ。あーベルに伝えてないからアレか。

 

「すいません、ベルに何も言ってないので帰らないとなんですよ。今回来たのはお礼を言う為でしたし」

「そうかい、アンタも冒険者なんだからちょっとしたことでうじうじすんじゃないよ」

 

 頭をガシガシと力強く撫でてきた。ぐわんぐわんするけど悪い気分にはならん。

 

「ま、なんかあったらウチに来な。面倒みてやるからね」

 

 ニカっと笑みを浮かべたミアさんに頭を下げる。

 

 なんかオラリオに来てから頭が上がらない人やら神様やらが凄まじい勢いで増えていくなぁ。此処に来て本当に良かったよ。




 GW中に怪物祭編は終わらせたい(願望)

 多分無理。進撃の巨人2買っちゃったし。メタルギアサバイブやってるし。SAOフェイタルバレットのレジェ堀したいし。

 あくまで願望。(出来るとは言ってない)

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