魔銃使いは迷宮を駆ける 作:魔法少女()
『この近くに居るはずだ、探し出せ!』
悍婦達の荒々しい声が大通りから響いてくる。
非戦闘員の娼婦にも指示が出たのか、煽情的な姿の娼婦達も駆け巡る姿を小径の入口に置かれた木箱の影から伺う。
咄嗟にクラスチェンジでクーシー・スナイパーに変化し、
しかし、ベルとミコトが呆然自失しておりそのままの逃走は不可能と判断し、日差しも入らない薄暗い建物の隙間に逃げ込んだのだ。
通りを隠れて伺う俺の後ろ、通りから見えない影の位置で息を荒げていた。
「自分は……自分達は」
絞り出した様なミコトの声。
ベルの方は灰色の壁に両手をついて項垂れていた。
共に、先のアイシャとのやり取りの後から様子が変だ。何を懊悩しているのかわからない。
「ベル、ミコト、二人ともどうしたの。春姫さんを救うんでしょう?」
疑問を投げかけた瞬間、「ぐぅ……っ!」と噛み締めた歯の隙間から零れるベルの呻き声。
ミコトの方は涙を零しそうな程に表情を歪めて、此方を見ていた。
「ちょっと、二人とも本当にどうしたの。ねえ、黙ってちゃあわからないわ」
何を迷う。何を懊悩する。何をしている。
今直ぐに動くべきだ。時間が無い。俺達はあの優しい
「ミリア、殿っ」
「仲間と春姫さんを天秤にかけて……っ」
ぽつり、と呟かれたベルの言葉に思わず眉を顰め────ようやく、俺はベルが抱えてしまった懊悩を知った。
今回の襲撃の原因はミリア・ノースリスが持つ魔法を奪う為。ならば、真っ先に保護し、守るべき対象は
だから、ベルとミコトは、俺と春姫さんを天秤にかけた。
どちらを優先すべきか。何を優先すべきか。その結果、即座に春姫を救うと叫び返せなかった。
────なんというか、そんな事で懊悩していたのか。
嬉しくはあるが、同時にどうでも良いとも思う。
「はあ、ベル、ミコト、悩むまでも無いでしょう。────
何を迷う。俺なんかより、春姫を、アイシャを、彼女らをこの忌まわしい【イシュタル・ファミリア】から解放すべきではないか。
────目の前の小人の言葉に、少年は自らの抱えた不安が的中した事を知った。
「ベル、ミコト、今からロキやガネーシャに救援を求めて────」
「どうしてっ!?」
ベルがミリアの両肩を掴み、小柄な少女に真正面から言葉を投げかけ様として、言葉に詰まる。
驚きつつも、冷静さを失わない左右で異なる瞳の色を見続ける間にも、目の前の少女は優しい声色で語り掛けた。
「落ち着いて、何が言いたいの?」
柔らかく微笑むその表情が。
その左右で異なる瞳の色が。
優しく腕を掴む異様な白さに右腕が。
真新しく刻まれた傷を覆う包帯の後が。
少年と少女の心を深く抉る。
「どうして、ミリアは……っ」
元は美しい蒼い瞳だった、けれど【アポロン・ファミリア】の襲撃の際に片目は矢で射抜かれ、失われた。今は赤い瞳となり、ちゃんと視力も元に戻った。むしろ前より良く見えるとすら笑いながら語った。
その右腕もまた、襲撃の際にヒュアキントスの手によって斬り落とされた。今は色素異常症を発症した様な白色に染まっていた右腕。
そのどちらもが、少年の心に大きな反響を生む。
「ほら、どうしたの? 大丈夫、作戦ならあるから」
落ち着かせようと真っ直ぐ目を合わせ、優しく語る姿。彼女の瞳に映るのは、大事な
その際、ミリアについて、リューは言った。
『────彼女の瞳には、自分の姿が映っていない』
ミリア・ノースリスと言う少女が誰かを、何かを『救う』や『守る』と決めた時。彼女の瞳から、その思考から『
「どう、して……っ」
何故、其処まで『自分』の事を軽んじる事が出来るのか。
『家族』を、『救う対象』を、それらを定めた時。ミリア・ノースリスは『自分』を軽視する。
きっと、今回もそうなる。そうなってしまう。
「ミリアは、自分の事を
少年が問いかけたその言葉に、肩を掴まれた少女はきょとん、と一瞬呆けた後、首を傾げた。
「いや、どうでも良くはないけど……」
言ってる意味がわからない。そんな風に困惑しながらの返事に少年がなんと声をかけるべきか悩み出し、助けを求める様に横で成り行きを見守っていたミコトに視線を向ける。
黒髪の少女は迷い様に視線を彷徨わせた後、ミリアを真っ直ぐ見据えた。
「自分は、ベル殿程付き合いが長くはありません。しかし……」
何をするにしても、家族を────自分以外の誰かを優先する姿ばかり見ている。
ほんの些細な事であっても、仲間を、家族を、皆を、と小人の少女は身を削る様な真似すらして他の誰かばかりを優先する。
そんな事をしている時の小人の眼には、
「ベル殿は、いえ自分も、それが
春姫は救いたい。けれど、救う為に自分を軽視して行動するミリアの姿が怖くて堪らない。
それこそ、下手をすれば『自分が死んでも助ける』等という行動に出そうだから。
「それは……」
その紅い目は、その白い腕は、その献身的な姿勢は、どれもが不安を駆り立てる要因となっている。
そんな風に思われていたのか。と目を瞑って考え込む。
「ミリア、約束して欲しいんだ」
俺自身を蔑ろにして、誰かばかりを優先している。
家族、仲間、救いたいと思った対象。
俺の献身的とも言える行動の数々が、二人を不安にさせていた。
「────自分を蔑ろにしないって」
このまま春姫を救う為に行動を起こした結果、俺が無茶をして死ぬんじゃないか。
二人の心配の内容は、とても嬉しくあり、同時に…………
「わかった。約束する」
「本当?」
「ええ、嘘は吐かない」
どうでも良い。それは、どうしようもない程に俺の本心だ。
俺の身より、春姫という心優しい少女の方が救われるべきだと思った。アイシャと言う、堕とされてなおも救う意思を貫かんとする女傑の方を優先すべきだと思っている。
────でも、家族がそれを望むなら、努力はしよう。
「春姫を救う。その為に動くのは確定で良いのよね?」
「うん」「はいっ!」
本音を言うならば、ベルやミコトだって自分よりも誰かを優先する事だってあると思っている。
けれど、俺の場合はそれが病的だからこそ、そんな心配をされてしまったのだろう。
「作戦を伝えるわ」
頷く二人に、安心させる様に笑いかけてから語りだす。
春姫の奪取をする者。包囲網からの脱出、ロキとガネーシャに救援を求める者。囮として陽動を行う者。
三人でそれぞれの役割を果たす。
「ミコトは春姫の身柄を確保して、ベルは私が陽動してる間に────」
同時に、ベルとミコトが放った手刀が俺の脳天に振り下ろされた。
二人の責める視線を浴びながら、痛む頭を撫でつつ問いかける。
「いや、何が不満なの」
「陽動はベル殿がやるべきです。ミリア殿が脱出すべきかと」
「ボクもそれが良いと思う」
二人の固い決意に満ちた意見に思わず眉を顰めてしまう。
正直、一番狙われているであろう俺が囮を買って出るべきだと思うんだが。一番、重要度が高いのは間違いなく俺であり、【イシュタル・ファミリア】は血眼になって俺を確保しようとするだろう。
ベルが派手に動くよりは陽動成功率が遥かに高く、それにベルの
「以上の事から、ベルが脱出、私が陽動の方が効率が……」
良いんだけどなぁ。
もう一度振り上げられた二人の手刀を見て溜息。
効率重視の何がいけないんですかねぇ────あ痛っ。
「それでおめおめ、『兎』どもを逃がしたっていうのかァ!?」
フリュネの口から放たれる爆音に近い大声に、
数多の
「もとはと言えばそっちが
「馬鹿言ってんじゃないよぉぉぉ~ッ!? 其処の不細工がアタイの獲物を逃がさなかったら、こんな面倒な事にならなかったんだァ!」
蛙を思わせる大きな両眼が、アイシャに庇われる春姫を睨め付ける。
血走った目をしたフリュネが、春姫からアイシャに睨む対象を変える。
「【リトル・ルーキー】は『殺生石』の事を知っちまったんだァ、絶対に逃がす訳にはいかないよォ」
「このヒキガエルが……重要なのは【魔銃使い】の方だろ。あいつを逃がしちまえば『儀式』は行えない。魔法が手に入らなければ、【イシュタル・ファミリア】は終わりだろ」
この後に及んでもなお、ベル・クラネルに対し執着心を見せるフリュネに対し、呆れ混じりの嘲笑を返すアイシャ。
「あんたがおめおめと逃がした所為だァ! アタイは悪くないだろォ!」
「もとはと言えばそっちが
幾度目かのやりとり。何度も繰り返されるフリュネの『自分は悪く無い』と言う意見にアイシャもいい加減うんざりし始めた所で、部屋の扉が勢い良く開かれ、一人の女戦士が入室してきた。
「やっほー。ミリア・ノースリス捕獲作戦の為に人を借りに来た……んだけどぉ~? 何この空気?」
普段通りの空気を読まない発言は途中で途切れ、三人を遠巻きに見ていた
彼女は小首を傾げつつ、ぽん、と手を打つと睨み合う三人の間に割り入った。
「わかったぁ。責任の押し付け合いだね?」
「五月蠅いよォ。無関係な奴は黙ってなァ!」
殺伐とした空気を無視し、雲のようにふわりとフリュネの前に姿を晒したレーネ。彼女は
「ねぇねぇ、人貸してぇ~」
「邪魔するんじゃ無いって言ってるだろォッ!?」
無視された事に腹を立てたフリュネに対し、レーネはくるりと振り返ると両手を広げた。
「何? 私を殴る? 別に良いけど? ────代わりに、
女神に命令された事を忠実に実行すべく行動しているだけであり、恥ずべき事も、遠慮する事も無いと胸を張って宣言するレーネ。
ただ責任を押し付け合う様な真似をしているヒキガエルとは違うのだ。と胸を張って言い放つと同時、彼女はフリュネを見上げて口元を隠してくすくすと笑う。
「別にぃ? 不毛な争いしてる暇があるならぁ、さっさと捕まえに行って来ればいいのにぃ、なんて思ってないよぉ~? ほんとほんと」
今まさに置かれている状況は、【イシュタル・ファミリア】が滅ぶかどうかの瀬戸際。
だと言うのに不毛な争いを率先して起こす
「レーネ、何人必要だ」
ただでさえ、儀式の準備と、【ロキ・ファミリア】や【ガネーシャ・ファミリア】に対する警戒の為に人員の殆どを裂く中、人員を寄越せとせびりにきたレーネに淡々と問いかけるアイシャ。
レーネは顎に手を当てると、口元に笑みを浮かべて手を上げた。
「人質と~、後は私の所の
「人質を連れていくゥ!? 馬鹿言ってんじゃあないよォ!」
即座に罵倒を返すフリュネ。面倒そうに耳を塞いでやり過ごしたレーネはアイシャに向かって両手をすり合わせて頼み込み始めた。
「お願ぁい。絶対にミリア・ノースリスを確保して見せるからさぁ?」
「駄目に決まってるだろォ!?」
人質をレーネに任せる事に反対するフリュネ。彼女が吠えたてる中、アイシャは眉間を揉むと頷いた。
「好きにしな。ただし────」
「────人質を逃がすな。でしょ? わかってるよ」
許可を得た。そう勝手に解釈したレーネが嬉しそうに笑顔を浮かべると、ぴょんっと軽く飛び上がり、大部屋の窓の方へ歩いていく。
「アイシャ、あの裏切り者に人質を任せるのかァ。正気とは思えないよォ」
「……じゃあ、アンタが【魔銃使い】の捕獲に行くかい? アタシは遠慮するよ」
責任重大とも言えるその役目を押し付けられたレーネと変わるか、と問われたフリュネが表情を歪ませる。
ヒキガエルが騒ぎ、女傑がやり過ごす間に、レーネは窓を大きく開いて娼館街を見回す。
「よし、じゃあ
確認する様に呟きつつも、返事を待つより前に彼女は窓から身を投げた。
最上階付近とも言える大部屋の窓から飛び降りた事に何人かの
宮殿の外壁、其処に施されたほんの小さな突起に鞭を巻き付けて勢いを殺しながら地面に一直線に向かう姿に
「アイシャ、あの裏切り者の不細工に任せるだなんてなァ」
「…………はあ、別に、レーネは裏切っちゃいないだろ」
「自分の派閥の仲間を皆殺しにして入団してきた裏切り者だよォ? よくもまあ信じる事が出来るもんだねぇ?」
厭味ったらしい
「何処に行くんだァ」
「春姫を部屋に連れて行く。もちろん、逃げられない様に見張りも付けるさ」
泰然と言い返し扉に手をかけた所で、アイシャは肩越しに振り返って淡々と告げた。
「ああ、言い忘れてたけど」
「あぁン?」
「来るよ。あの坊やと小娘、どっちも」
「何を根拠に……」
訝しむフリュネから視線を外し、窓から一望できる空を見据えてアイシャは告げた。
「【リトル・ルーキー】は雄の顔はしていなかったが、目は違った……あれは、諦めの悪い冒険者の目さ」
空に広がっていく蒼い闇、はっきりと姿を現し始める真ん丸な黄金の月。
「【魔銃使い】は真実を知らない。だが、いずれ知る所になるだろう。もし、そうなれば────」
────きっと【イシュタル・ファミリア】に明日は来ない。
側に立っていた春姫だけが聞き取れたその言葉。目を細めるアイシャの横顔に、彼女は一人、様々に交じり合う感情に表情を揺らした。
静寂に包まれる室内。
閉め切られたカーテンの隙間から覗いていた茜色が、青白い光に変わりゆくさまを見続けていた少女は、部屋の扉に背を預けたまま膝を強く抱え、縮こまった。
【ヘスティア・ファミリア】
エルフの少女との相部屋である室内には、二つのベッドと、机、衣装棚等が置かれている。
部屋の明かりはつけられておらず、薄暗い部屋の中でボロボロの姿のまま、狼人の少女は静かに嗚咽を零した。
【イシュタル・ファミリア】の強襲、それから命からがら生還した
「…………」
仲間の命を奪った敵に対する憎悪。
連れ去られた仲間の安否への心配。
頭の中を駆け巡る様々な感情、その全てを塗り潰す第一級冒険者への恐怖。
身体は硬直し、呼吸する事すら忘れてしまいそうな恐怖。寄り添う者もおらず、一人膝を抱えて震える。
「あんなの、知らない」
彼女が所属していた【ロキ・ファミリア】にも、第一級冒険者は居た。
皆が尊敬する団長【
その元、幹部でもある【剣姫】、【
所属する派閥であるがゆえに、そんな彼らの強さは目に焼き付く程に覚えている。
────覚えていた、積りだった。
殺気すら向けられる事無く、路傍の石ころを蹴飛ばす様に致命傷を負わされたあの瞬間までは。
彼女の知る『第一級冒険者』と言う虚像が弾け飛び、敵対した際に与えられる恐怖を真正面から受け、心が折れた。
第一級冒険者に鍛錬して貰った事すらある。
その際に感じた、第一級冒険者の強さ。フィアが圧倒されたその強さですら、第一級冒険者からすればきっと加減に加減を重ねたモノでしかなかったのだ。
本気で戦う第一級冒険者の姿を見る者は、例え同じ派閥の仲間ですらも珍しい。
相応の敵がいなければ、本気を出すまでも無く倒す事が出来る。そして、Lv.2でしかなかったフィアは第一級冒険者が本気を出す様な場面に出会った事は一度も無い。
────だから、知らなかった。
第一級冒険者が持つ上限が、どれほど果てしないぐらいに高いのかを。
「…………」
ふと、静けさの中に何かが混じる。
静寂を引き裂く様な足音と、声。
フィアは静かに顔を上げ、聞き覚えのある声に目を見開いた。
扉の外側、廊下をドタドタと騒がしく駆ける音と、扉を力強く開ける音、そして皆を呼ぶ声。
「おーい、おーい誰か居ないのー!?」
扉の向こう側から響いてきたのは、致命傷を負って【ディアンケヒト・ファミリア】に担ぎ込まれた
聞き耳を立てるまでも無い、階下から響く音に反応しかけ────合わせる顔が無いとフィアは再度膝を抱えた。
他の仲間が本拠に居ない理由は連れ去られた仲間の救出。
あろうことか、フィアは敵の第一級冒険者に怯え、震え、部屋に閉じ籠ってしまった。
仲間を見捨てたと後ろ指を指されても否定できない、最低な行為をしている。そんな自分が、彼女に合わせる顔が無いと、扉に背を預けて黙り込む中、扉を開け放つ音が近づいてくる。
間も無く、鍵を閉め切り閉じ籠るフィアとメルヴィスの相部屋の扉に、サイアの手がかかった。
ガチャガチャガチャガチャ、と無遠慮に
「おーい、誰か居るの? ねえ開けてよー!」
ガチャガチャガチャ、ドンドンドン、何度も何度も繰り返される音にフィアは耐えきれずに声を上げた。
「いるよ」
「んー、その声はフィア?」
聞こえる声は元気そのもの。いつも通りの能天気そうな声にフィアの口元がほんのわずかに緩む。
死んだかと思っていた。死んでもおかしくない重傷だった。そんな彼女が元気一杯に話しかけてきている事に喜び、同時に仲間を見捨てて閉じ籠っている後ろめたさを感じて身を強張らせる。
「ねえ開けてよー。どうしたの? 皆は何処行ったの?」
ドンドンドン、と扉を叩きはじめるサイアの行動。彼女は現状を理解していない可能性もあり得る。
真っ先に、反応も出来ずに致命傷を負わされ気絶していたのだ。治療院で目覚めて即座に此処に足を運んだのなら、きっと状況もわかっていない。
「ねぇー、フィアー、フィーアッ! 開けてってー!」
繰り返し扉を叩き続けるサイアの行動に対し、フィアは沈黙で応える。
合わす顔も無い、交わす言葉も、無い。
逃げ出した臆病者の自分が言える事は何もないと膝を抱え蹲る中、サイアは扉を叩くのを止めた。
「……えっと、ねえ、皆何処行ったの?」
「………………」
「じゃ、じゃあさ、えっと……何があったの?」
困惑混じりのサイアの声に、口を開きかけたフィアは奥歯を噛み締めた。
仲間を見捨てた臆病者に語る資格なんて無い。そう言い聞かせ、彼女は強く膝を抱きかかえる。
「目が覚めたらさ、なんか【ディアンケヒト・ファミリア】に居てね。絶対安静にしてろって言われたんだけど、何があったのか聞いてもこたえてくれないんだよ!」
だから抜け出してきた。と軽い調子で言い放たれたサイアの言葉に、フィアは静かに呟く。
「安静にしてろって言われたんだろ。だったら直ぐに戻った方が良い」
「えー? でも皆居なくなってるんだよ? それに、なんか襲われた気がするし。えっと、同族がいっぱいいた気がするよ」
記憶の混濁か、サイアは襲撃直後の状況を理解していないのだろう。
だからこそ、部屋に閉じ籠るフィアの行動が理解できず。同時に、彼女を責め立てる事もしない。
「気のせいだろ。今すぐ治療院に戻って、
「………………」
誤魔化す様に、扉越しにフィアが語り掛ける。
すると、先ほどまで騒がしかったサイアが突然沈黙した。
何が起きたのかと一瞬顔を上げ、もしかして倒れたのかと耳を澄ませる。彼女は止み上がりも良い所のはずであり、何かあったら一大事だと青褪め始めるさ中、泣きそうな声が扉越しに響いた。
「……ねぇ、フィア」
「な、なんだよ」
「皆は、何処に行っちゃったの?」
治療院で目覚めると同時、皆に心配かけたかもと不安になりながら治癒士に訪ねれば、『今は安静にしていてください』の一点張り。
どういう状況で負傷したのか、記憶も曖昧で分からない。最後の記憶は、無数の同族が道を塞ぎ、皆が武器を構えている光景が朧げに浮かび上がるのみ。
不安を覚え、治療院を抜け出して本拠に帰ってみれば、明かりはついて居なかった。加えて、声を張り上げても誰も返事をしない。
唯一見つけたフィアも、扉越しにしか対応してくれず様子がおかしい。
「どうしたの? ねぇ、何があったの?」
「サイア、お前は……死にかけたんだ」
「何で?」
「…………今は、治療院に戻れ」
「むぅ……」
徐々に溜まっていく苛立ち。
どうして顔を見て話してくれないのか。
どうして皆が何処に行ったのか答えてくれないのか。
どうして戻れと繰り返し続けるのか。
明らかに様子がおかしいのに、何も教えてくれない事に腹を立てたサイアは扉を軽く蹴り、駆け出した。
「……もう良いよ!」
何が起きたのか自分で調べる。
その為にサイアが駆け出したのを音で感じ取り、フィアは静かに膝を抱え直した。
「むぅ~……確か、18階層でぇ~……えっとー」
眉間を揉みながら廊下を歩いていたサイアは、最後の記憶に繋がる朧げな欠片を引っ張り出しては唸るという動作を繰り返していた。
「何があったんだっけ?」
武器を構えた所までは記憶にある。そこから先がぶっつりと不自然に途切れている。
うんうんと唸りながら、サイアは
「なんか、フィアが泣いてた気がする様な? で、メルヴィスが『死なないで』って……」
死にかけた。そう言われても実感が無さすぎてわからない。
彼女は自身の体を見下ろして首を傾げた。
「確かに、なんか腰からが腕みたいに白くなってるけど……うーん、半分無くなったのかなぁ?」
臍の辺りから下、下半身がまるまる白くなっている。
その特徴は自らの両腕にも該当しており、サイアはそれが『再生薬』の『ふくさよー』と言うものだと知ってはいた。だからこそ、治療されたのは理解している。
しかし、其処に至る経緯がさっぱりわからない。
「むむぅ! むむむむぅっ!! むぁっ!?」
酷く唸りながら
「痛ぁっ、何、なんで……あれ、これって鍛冶師君の大刀? こっちはサポーターちゃんの……うぅん?」
部屋に無造作に置かれていた破損した大刀、敗れたバックパック。
明らかに状態が悪いそれらに首を傾げ、サイアが身を起こして中央の卓を見て気付く。
「んむ? あー、私の予備の大剣! それにフィアの槍も置いてあるし……なんでこんな所に?」
卓の上には、新品同然のサイアの大剣、そしてフィアの槍が置いてある。
倉庫にしまってあったはずのそれらが何故ここに置いてあるのか首を傾げつつも大剣に手を伸ばし、紙切れに気付いた。
「…………置手紙?」
書かれた文字を見て、サイアはうーんと小首を傾げる。
その内容を読み取ると同時、彼女は紙切れを投げ捨て、大剣を背負ってフィアの槍を手に持つ。
「よし、フィアを叩きのめそう!」
行動を決めるのと同時、彼女はフィア・クーガが引きこもる部屋目掛けて一直線に駆け出した。
自分の事度外視で色々やらかす事から、仲間から『不安だ』と直球で言われてるの草。
アイディア募集します。
内容の方は『クーシー・ファクトリー型』の【魔弾】【設置罠】【奥義】の三種類。
解答はTwitterにて、DMで送って頂けると助かります。
https://twitter.com/P38_Lightning_L
【魔弾】
特殊な効果を持つ弾丸。一発ずつ装填して使用。
『貫通弾』や『麻痺弾』、『属性弾』(火や雷、氷等の属性付き弾丸)。
そういった特殊な弾丸で面白そうなモノ等あれば是非に。
『名称』『効果』『消費』『一言』をお願いします。
例
名称『
効果『弾丸が着弾する、または一定時間経過で爆発を起こす』
消費『小~極大』
一言『爆発威力は消費した弾数によって変動。最高威力でも装甲までは破壊できない』
【設置罠】
こちらも同様『
設置型で良い感じの案があれば是非に。
『名称』『効果』『消費』『一言』をお願いします。
例
名称『
効果『飛び道具を防ぎ、敵対者の移動を阻害する障壁。一応、味方の攻撃は通す』
消費『マガジン1つ』
一言『使い勝手の非常に良い罠。発動は自動ではなく設置者が起動する必要在り』
【奥義】『第七の魔弾』
クーシー・ファクトリー型の奥義は『特殊弾の合成』。
6発の魔弾を合成し、混ぜ合わせた効果全てを発揮する弾丸。
特殊弾の種類だけ、合成の種類があるのでかなりの種類にのぼるが、効果的な選び方をしないといけないので難易度は高め。
テンプレの様な合成弾から、ネタに走った合成弾まで多種多様。な感じで()
例
名称『
弾丸『
効果『壁に当たる度にバウンドする上、弾丸が増殖して最終的に爆発する』
一言『狭い室内で使うと自爆確定な狂気的弾丸。ミリカンにおけるファクトリーの十八番。迷惑過ぎるので他の仲間が居ない所で使おう! 屋外だとほぼ無力な事に注意』
名称『
弾丸『麻痺弾』『猛毒弾』『出血弾』『沈黙弾』『盲目弾』『石化弾』
効果『状態異常詰め合わせ特別贈呈品』
一言『シンプルながら強力。間違っても味方に当ててはいけない』
合成弾は開発者名も居れていいです(小声)
もう一度言いますが、Twitterの方のDMにお願いします。
感想の方ではないので注意してください。