魔銃使いは迷宮を駆ける 作:魔法少女()
厳重に警備された両扉の向こう側。
むしろ、ギルドやガネーシャファミリアを完全に拒否してる時点で『悪い事してますぅ~』と主張しまくってる訳なんだが、そこら辺を上手く誤魔化してこその…………いや、別に悪行指導する気なんかさらさらないがね。
「……意外と静かだな」
仮面を着けたシャクティさんが貴賓室内を見回して呟く。
彼女の言う通りだろう。一般客が数多出入りするメインフロアよりもかなり狭い室内ではある。それでもその部屋の大きさに対して設置されている
そして、
そして、其処に居る客も表面上の雰囲気は楽し気で、談笑しているが────目は欲望の色に染まっている。
飴と鞭、上質な女性でもてなす飴と、賭博で敗北させて背負わせる借金という鞭。言う事を聞けば飴が、聞かねば鞭が振るわれる。言う事さえ聞いていれば甘い蜜が吸えるとあってか、やはり染まってるか。
「ささ、どうぞこちらのテーブルへ」
案内された先にある
「おや、
「今宵も楽しませて貰っていますぞ。
「そちらの方は……もしや先日の
此方に気付いた贅沢太りした貴族がわざとらしく驚いた表情を浮かべる。既に打ち合わせ済みなのか反応が非常にわざとらしい。
「お初にお目にかかります。
一礼しつつも卓に着く面子を確認。贅沢太りしたヒューマン、中東の民族衣装っぽい服装の小人族、背の高い角刈りのヒューマン、そして歳からくる白髪の獣人。
主犯のテッドを入れて合計5人。これは、厳しいかもしれんな。
「おお、あの【魔銃使い】殿ですか。此方に来たという事は、賭けを?」
既に
「
「なるほど、普通の場ではあまりにも不憫だと」
「いやはや
ふふふ、あははと珍妙な笑い声が響く。茶番劇なら他所でやってくれと言いたいが此方も合わせるしかないか。
「ええ、
「では此方の席へどうぞ」
宛がわれた席は、中央。左端に
小人族用らしい背の高い
「ところで、其方の仮面の方は【魔銃使い】殿の付き人ですかな?」
「一応の護衛ですね。私は魔術師ゆえ前線は苦手でして」
今回この
さらさらとそれっぽく騙っておく。無論、嘘だし、本来ならそんな
「なるほどそういう事情でしたか」
「でしたらここでも同じ
「ええ、その積りですが」
一回勝てば富豪から毟れる。そんな餌にのこのこ釣られてやってきた間抜けな冒険者。そうみられてくれるとありがたいんだがね。舐めてくれてた方が良いし。
「どうぞ」
「っ……あ、ありがとうございます」
微笑みを浮かべたドレス姿の女性。目が全く笑ってないせいで一瞬ゾッとしたがなんとか微笑み返して礼を言えた。
「飲み物はサービスですので遠慮せず飲んで良いですよ」
勧められたし一口────おぉう、これはアレだな。レディーキラー系の
念の入れようが凄いな。少し酔った程度なら予測がズレる事はないが、飲み過ぎると多分ズレる。ましてや俺は体格が洒落にならんぐらいに小さい。一杯飲んだだけで潰れかねないし気を付けないといかんな。
「それにしても、
「ええ、器量良い」
「
…………遠回しに此処で飼われろと言ってるのかね? 流石に露骨過ぎて笑えんわ。
「この様な格式高い場所では肩が凝ってしまいます。私の様な不作法者には冒険者の様な荒事に塗れた生活の方が性に合っています」
言外に『荒事慣れてますよ』と伝えてみるが、反応は無い。多分、見た目が華奢でチビだから舐められてる可能性があるな。特に魔術師って事で魔法詠唱さえ潰せば後は無力化できるとでも思っているのだろう。
どうしてか傭兵である『
「
酒をそれとなく勧めてくるのをのらりくらりと回避して
何事かを伝えているのに耳を澄ませたいが、他の
「……ノースリス、他に
シャクティさんの小さな呟き。この
セルバンティス氏が軽く此方を流し見てから、席を立った。
「失礼、どうやらもう一人招待しなくてはならない客がいらっしゃった様でしてな。【魔銃使い】殿には申し訳ないのですが
「構いませんとも、
一体だれがここに来るのだろうか。巻き込まれるのは若干かわいそうではあるが、俺に出来る事なんか有りはしないので放置だな。この後この場所シャクティさんに滅茶苦茶にしてもらう予定だし。
セルバンティス氏が出て行った後、
「どうぞこちらのテーブルへ」
「ありがとうございます
ふと振り向くと其処には大きな眼帯を付けた美麗なエルフの青年────に扮したリューさん────と、その奥様に扮したシルさんの姿があった。
絶叫を上げそうになる口を強引に閉じて愛想笑いを浮かべた。
なんで二人とも
って、もしかして
理由を考えていると、シャクティさんに軽く背を突かれた。
「不味い事になったぞ」
小声で呟かれた言葉に思わず首を傾げる。何が不味い?
「ここで何か
ガネーシャファミリアの立てた作戦では、何かしらの証拠を掴んでから
保護、身分を、かく……にん? …………身分偽ってるエルフを拘束してしまったら不味いよな? しかも、それが指名手配犯でもある【疾風】リュー・リオンだとしたら?
…………嘘だろ、暴れられないじゃん。暴れたらリューさんを豚箱行きにする事になるし。
なんとか外の団員に連絡をとって作戦中止を伝え────無理じゃん、現状既に
「ノースリス、勝てるか?」
「……無理」
いや、普通に無理なんですけど。
だって、俺は
というか前世で調子に乗って
当然、いくら馬鹿でも場末の酒場でやってるような協力者同士で
つまり、数で押される可能性が高い。
「隣、失礼しますね」
「ええ、どうぞ」
俺の隣、角刈りのヒューマンとの間にリューさんが腰掛け、シルさんの分も場所が空けられリューさんと並んで腰かける。これで
リューさんにも
「
「彼女達は、まあ聞こえは悪いかもしれませんが、私の愛人たちです」
リューさんが自然に飛ばした質問に
「自分で言うのもなんですが、多情な男である
多情? 下半身が反応する美女を片っ端から攫ってるのでは? それは愛情ではなく性欲だろうに。ましてや応えざるを得ない状況に陥れて強引に連れ去ってそれは無い。
「しかしそんな美姫達を独り占めしようものなら美の女神から小言が飛んでくることでしょう」
下種を見る目で見下されそうです。
「そこで僭越ながら皆様の目を潤す一役になって頂ければと、こうして酌に協力して貰っているというわけです」
作り物の笑みを浮かべている美女を見て何が楽しいんだか。純粋に
どうにもおかしいな。セルバンティスに扮するテッドという人物。調べた限りでは特に特徴らしい特徴の無い小悪党といった情報しか出てこない。にしてはだいぶ立場が高い、というか能力不相応な身分に収まってる。だからこそ能力隠してるかもと警戒してるのに、リューさんの大根役者な演技すら見抜けない。もしかしてわざと?
「なるほど、そういう事でしたか」
「いやぁ、本当にうらやましい! せめて一日でも私の相手をして欲しいものだ」
贅沢太りの男の言葉にリューさんが下種を見る目を向けてるのに、誰も気付いていない。むしろ気付かぬふりをしてるのか? もしこれが演技だというのなら、俺ですら見抜けないぐらいに完璧な演技だ。
敵の数が多いし、此処は引きたい。むしろ入ってくるべきではなかった。
口々に
「……そういえば、ここに来る途中、
「おお! 私も聞きましたぞ。なんでも遠い異国から娶ったと」
「どうか我々にも見せていただきたい!」
この
というかリューさんが視線で人が殺せそうなんだけど。アレ、
「がっはっはっは、皆さんも耳が早い! ええ、仰る通り新しい愛人として迎えたのです。せっかくですので紹介しましょう」
……むしろ、この
美しい女性が立っていた。ただ、眼が死んでる。物憂げな表情を浮かべた美女だが、両親の顔を思い浮かべると本当に血が繋がってるのか疑問を覚えるぐらいに美しい。まあ、稀にあるぐらいの感じだが。
「初め……まして。アンナと申します」
視線を合わせる事もせずに、床に視線を落としたまま彼女は囁くような小さな声で挨拶の言葉を落とす。どう見ても、不本意なのが見て取れるし、気分がすぐれないのがわかる。
「これはまた……器量良い」「ええ、麗しい」「女神が地に賜った美とはまさにこのこと」
テッドの
「
ああ、やっぱりどういった経緯で彼女がここに連れてこられたのか知ってる。脅されているだけではない、秘密の共有者として甘い蜜を吸う事を目的にしてるのが丸わかりだ。反吐が出る。
「がははっ、実は異国の地で偶然巡り合いましてな」
絶対嘘だぞ。だってコイツ、最近ここに籠って外に出てないし。
「きっと神のお導きだったのでしょう。この愛らしさと美しさに私も虜になってしまったのです」
下半身がビンビンに反応したんですね。なんでこう、権力を握ると性欲に忠実になっちゃうのかなぁ。
「【魔銃使い】殿、彼女の顔に何か?」
アンナさんの表情を伺っていたら
「いえ、同じ女性として羨ましく思う程に綺麗だったもので」
まあ、その所為でこんな所に攫われてしまってる訳だし。あんま羨ましいとは思わんのだけどね。もっと、地味で目立たない方が色々とやりやすいのだ。
「【魔銃使い】殿の美貌も彼女には負けていないと思いますぞ」
「ええ、私もそう思いますぞ」
口々に俺の容姿を褒め始める
「マクシミリアン殿も随分と熱心に眺めておられますな」
獣人の貴族の言葉にマクシミリアン殿、リューさんに視線があつまる。変な事言わないで欲しいのだが。
「いえ、ただ…………彼女と似ている
おい、変な事言わないでくれって祈ってるんだけど? っていうか
テリー・セルバンティスに扮しているテッドの表情が固まり、
テッド、知っているか? 沈黙は是成りと言うんだぞ? これ、演技か? 演技だとするとこのテッドと言う男は食えないどころか最悪の敵なんだが。どっちかわからんくて怖い。
「……というと?」
「とある知人の話なのですが。彼は悪漢達の誘いに乗ってしまい、賭博に手を染めて財産を奪われた挙句は……」
まるで賭博に手を染めさせられたかのような言い方だが、そもそも賭博癖があったんだよなぁ。
「自慢の一人娘を攫われてしまったのです」
言外に『その娘がその一人娘です』と真正面から喧嘩吹っ掛けるリューさん。ちょっと、ちょっとだけ考えれば今喧嘩吹っ掛けるのが不味いとわかるはずなんだが。
あからさまに反応したアンナさんはわかる。だがテリー・セルバンティスも目を見開いて驚いているのは演技か? こいつ本当に演技か? 演技なのかどうかわからん。
「賭博に応じてしまった父親が間違いなく愚かだったのでしょうが……」
愚か過ぎて爆笑モノです。いや、本音を言うとリューさんに殴られそうだし絶対に言わないけど。
「いざ詳しく調べてみると、どうやらその一件は
おい、リューさん
いや、俺一人で六人相手にするより、リューさんと連携とって六人を相手にする方がまだ
「
『え……?』
まあ、それが今となっては飴と鞭で言いなりになってるので救えないが。
「心が痛む話でしょう?」
もう本心を隠す気が微塵も無いのか、下種を見る様な瞳で
完全に、敵対したな。もう手遅れだ、この後の
とりあえずアンナ・クレーズの姿は確認したので後は脱出するだけなんだが、無理だろうなぁ。
「私はその少女の身の上を案じ、今でも行方を追いかけています」
リューさんのその言葉は、言外に『アンナを取り返す』と言っているも同然。もう、頼むからやめてくれ。
「…………ノースリス、今のは
耳元でシャクティさんに囁かれ、思わず言葉を失う。今のが宣戦布告ではなく牽制だと?
面白い冗談だ。アレを牽制と言い放つのなら、相手の顔面に右ストレートぶち込んで『軽い
「……もう一度言うぞ、あれはリオン流の牽制だ」
あっはっは、笑えない冗談はやめてくれ。いくらリューさんがポンコツでも宣戦布告の台詞を牽制として使ったりはしないだろう。
「………………」
…………
「
おい、おいおい! 本気かよ!? そんな牽制聞いた事ねぇぞ!?
真正面から喧嘩吹っ掛けて牽制とか口が裂けても言えないぞ! もうこっから正面衝突不可避な案件だろ?!
リューさんもう少し考えて発言してくれよ、ポンコツ過ぎるにも程がある!!
「興味深いですなぁ。マクシミリアン殿?」
場を見回し、
やる事がいちいち小物臭いのが、演技なのか本性なのかわからん。
「ちなみに、今更ではありますが。貴殿は彼のフェルナスの伯爵と聞いておりますが……」
「ええ、ただの田舎貴族です」
「融通が利かず、道を踏み外した行いを看過できない……頭の固いエルフです」
要するに『お前のやってる事は知ってるし、絶対に許さない』って事でしょ? リューさんこわーい。
いや本当に怖いなこの人。
つか、此処まで喧嘩売ってるならもうどうしようもないな。
「……どこの何方と勘違いされているのかしりませんが」
「勘違い? 何を言うのかと思えば冗談は止して頂きたいですね。
リューさんがここまで場を搔き乱した訳だし、今更喧嘩売ってもかわりゃしない。片田舎の貴族と言う肩書を持つマクシミリアン伯爵より、
「先ほどはつい誤魔化してしまいましたが、彼女の顔に何処か見覚えがあったのです。花屋で
俺の指摘にセルバンティス氏が固まる。その反応は、わざとらしいな。むしろわかってて招待したんじゃないのか? だって
この驚き方も素に見えるし、此処で驚く必要性が一切感じられない。何か俺にはわからない高度なやり取りでもしてるのか? とりあえず喧嘩吹っ掛ける以外に無いし、むしろ相手の足並み乱す意味でも荒立てておくか。
「誤魔化しも不要です。不愉快極まりない虚言の数々に反吐が出るってモノですよ」
「……私が嘘を口にしていると?」
「其方の美女、帝国で知られる歌姫でしょう? そちらの娘は隣国で知られる宿屋の看板娘」
お前の悪行全部知ってるぞ。ほらどうすんだ? 此処で取り押さえるか?
「…………いやはや、可憐な容姿をしているかと思えば、随分と早合点をするご様子」
いくら何でもここで喧嘩は買わないか。
「ならば、
いや、しねぇよ。ギルドとガネーシャファミリアに報告すれば終わる案件だし。って言っても聞き入れられないんだろうなぁ。周囲の黒服がそれとなくこの
「勝者は敗者の願いを聞き入れてもらうのです。そう、【魔銃使い】殿が先ほどまで行っていた
……ああ、俺が『なんでもする』ってのを
「更に、
手際よく、と言うか既に用意されていた最高額の
「お二人にお貸ししましょう。こうでなければ我々の求む
我々、の中に対立している俺とリューさんが入っていない事は明白。一方的に叩き潰して命令を聞かせ、ついでに借金という名の首輪まで付ける気か。
「富や地位、名声をも勝ち得た私たちが真に欲するモノ……それは命懸けの緊張感。違いますかな?」
違います。むしろ命懸けの緊張感ならいつも迷宮で味わってます。
何の変哲もない、山も谷も無い平穏な日常の中でヘスティア様やベル、リリ達とまったり日常を味わっていたいですが、なにか?
「……いいでしょう。その
リューさんの即答。迷いがまるで無い。これは、罠を見越した上でか? それとも罠に気付いてない? リューさんと協力して相手を潰せればいいが、リューさんが罠に気付いていない場合は洒落にならん。リューさん庇いながら戦うとか不可能だぞ。
「【魔銃使い】殿はどうです?」
「……受けましょう」
むしろ受けなかったらタコ殴りでしょ? 既に周囲から殺気が向けられててヤバい。魔術師とはいえ冒険者、それもアポロンとの
「皆様もどうですかな! ここは
死ね。
「流石にお前の命が欲しいなどと物騒な事は御免ですがな」
流石に死ねは駄目だったか。まるでこっちの内心を読んできた様な発言しやがって。しかもこの流れだと
不味い、リューさんが相手の罠に気付いて無いっぽい。俺とリューさん以外の全員が結託した敵だぞ、早めに気付いてくれないと元手の
「お二人は何か希望はありますかな? 無ければポーカーを行おうと思いますが」
「構いません」
「……ええ、まあ良いですよ」
リューさんに熱い視線を送ってみるが、彼女の視線はセルバンティス氏に固定されていて気付いてくれない。
ヤバい、詰んだかもしれん。
「では、勝敗は
リューさん気付いてー、めっちゃ罠。これ凄く罠だから! セルバンティスだけじゃなくて他参加者全員が協力者で叩き潰しに来てるから!
『リューさん√』は、ミリアちゃんが今より前、アストレアファミリアにリューさんが入団した頃に拾われた形で、彼の正義の派閥に所属してた感じでしたね。
壊滅以前に『悪であっても改心して正義に成れる』と言われ、アストレア様に陶酔して所属し、仲間との信頼関係を手に入れて、最終的に壊滅してリューさんと二人で復讐にひた走ったミリアちゃん的な。
リューさんが無関係な人を襲撃しない様に手綱を握りつつ、闇派閥ぶっ殺す小人族として血眼になって闇派閥の残党狩りする狙撃手……。
途中、リューさんが負傷したため、彼女一人を逃がす為に囮になって敵を引き付けた後、自身が死亡したと偽って身を隠した感じ。リューさんは逃げる途中で力尽きて豊穣の女主人へ……リューさん視点だと自身を庇い、傭兵に追い詰められて自決した感じで、ミリア本人は死亡偽装後にリューさんを捜索して豊穣の女主人までは辿り着いたけど、なんか普通に店員として働いてるのを見てこれ以上復讐に突き合わせるのも悪いなと一人で復讐に戻る、と。
んでベル君が迷宮決死行して十八階層に行った際に、リューさんが仲間の墓を訪れるタイミングで、ミリアも墓を訪れていてー、みたいな感じで再開して~……。
ミリアが未だに生きていた事、そしてその後(ソード・オラトリオの方のストーリーで)闇派閥の残党が未だに残っているのに気付いたリューさんが復讐を続けるミリアの後を追う的な?
って考えたけど面倒だったので没です。短編に纏められないし、しょうがないね。