魔銃使いは迷宮を駆ける 作:魔法少女()
俺は悪くねェ。別に俺は何も悪い事はしてねェ……あ、嘘。詐欺やらなんやでお金がっぽり稼いでたけど……だってお金自体に興味あった訳じゃ無くて、糞女が要求してくる
ははっ、最期には惨めに嬲り殺され――――……って違う。あの糞女が自業自得で嬲り殺されたのは俺とは無関係だし。
其れとは話が違う。
俺の親父は『ミリタリーカントリーオンライン』と言うゲームの運営の人間だった。
あ、実際には
ともかく、ある日の会話を再現しようか……。
『なぁ。新しいコンテンツ考えてるんだが。なんか良い案ないか?』
『……ん? いきなりなんだよ親父……と言うかコンテンツ?』
『おう、最近ミリカンもマンネリ気味だろ?』
『いや、今のままで十分だろ。こんだけリアルに再現されたガチのVRオンラインゲーなんてミリカンぐらいだし』
『それじゃダメなんだよなぁ』
『……(面倒くせ)。 ……あぁ、じゃあこのミリカンのシステムのまま
『お?』
『ミリカンって近接戦闘もできるだろ? スコップとか軍刀とか。と言うか日本軍で軍刀突撃……カミカゼアタックだっけか? そう言うのできるし、
『おぉおおおお、良いぞ。良いなそれ。よしさっそく皆に相談してみるわ。サンキュー
『あいよ』
一体、だれが予測出来ようか。
俺はただ『システムをそのままに別の剣を主軸にした別のオンラインゲームつくりゃいいじゃん?』と言った積りだったんだが……。
有ろうことか親父以下運営チームは『ミリカン』に『大帝国』と言う剣と槍を主軸に据えた勢力を追加すると言う暴挙に出た。
…………いや、目新しいって事で一気に人気は出たけどさぁ……。
俺の所為じゃないよな? だって親父が勘違いしただけだもんさ。違うよね?
『魔法少女モノってのもあるんだな』
『ヤメロ親父、其れは地雷だぞ』
『ふぅむ……絶望系魔法少女か、オマエこういうの好きなのか? ミリカンにも……』
『ヤメロォ!? 人の本棚勝手に漁って何ヤベェ発想してんだ親父ッ!?』
『ちょっと皆に相談してくるわ』
『ヤメロォオオオオオオオ!!』
絶対、俺は悪く無い。絶望系魔法少女? 魔道国? 関係無いから。絶対関係無いから……無い……よな?
「う……うぅ……」
肌触りの良い、温かな感触に包まれて、微睡の中。この瞬間がたまらなく好きだ。
嫌な現実も忘れられる。悪夢を見て魘される訳でも無い。
ただ揺蕩う様な、温かな感触に包まれたこの微睡の瞬間が永遠に続けば――――あるぇ?
目覚めたら天蓋付きベッドで寝かされていた。
うむ。簡素に説明するとそんな感じだろうか?
えぇっと……何してたんだっけか? 酒飲んでー……ミリカンプレイしてー……うぅん?
違う、ベルくんのパンツ洗って、ヘスティア様が恐ろしいぐらいギリギリの下着でベルくんを攻めてー……じゃない。と言うか処女神って話だよな? ベル君を性的に襲う、もしくは襲われる事を望むって……いや、もはや何も言うまい。きっとそれだけベル君の事が好きなんだろう。だからと言って犯されたい願望を持つとは……神って業が深いんだな。其れでもヘスティア様の事は好きだけどなぁ……って違う。そうじゃない。
…………えっと、思考がぶっ飛んだけど。何処だここ。
目を覚まし、天井……と言うか天蓋を眺めつつぼんやり考えながら、身を起こしてみる。
半身を起して周囲を見回して首を傾げた。
質の良いシーツに、しっかり体を受け止めるベッド。しかも天蓋付き。天蓋のカーテンはしっかり閉じている。
何処だよ此処。
「キューイ、ここ何処かわかります?」
何時も服の中に隠している愛らしい相棒的家族に声をかけてみるが反応が――あるぇ?
……シーツに包まれたミリアちゃんの肢体をゆっくり眺めてみる。
一瞬だけ、太腿から先が変な方向にひん曲がった光景を幻視したが。それよりも衝撃的事実に精神が揺さぶられる。
「うぇあ?」
思わず変な声出た。と言うか、なんかすっげぇ可愛いお姫様の着てそうなヒラヒラのネグリジェ着てる。
え? 俺の改造ローブは? 古着屋で一着200ヴァリスとかなりお手頃な値段で買った古臭い茶色のローブは?
キューイをお腹の辺りに入れられる様に内側に布で袋を引っ提げて改造したローブは?
……と言うかキューイ何処行きやがった……。
…………あ、待って、待て。とりあえず状況の整理だ。最後の記憶が曖昧でどうなってんのかわかんないけどこういう時は深呼吸。ひっひっふー……別に妊娠してねェよ。
えっとー……最後の記憶ー……朝からヘスティア様が『行ってきますのチューが欲しいな』とか寝言をほざいたので羞恥でベル君が階段駆け上がって行って、んで俺が代わりにほっぺにキスしたんだっけっか。ヘスティア様はベル君にもして欲しかったみたいだが喜んでくれた様子で何よりだ。ぶっちゃけ俺如きが神様にキスだなんて……まぁ、神様が喜んだのなら良いか。
んでー……本拠の上の廃教会の所で待ってたベルと合流してダンジョンに向かったんだっけか。
確か、『神様もキスぐらいは出来る様にと気を使ってくれてるので、少し頑張ってみては?』と、ハーレム目指すならキスの一つ二つ軽くさっと出来るぐらいになったらどうかとベルをからかったら、顔を真っ赤にしてベル君が恥ずかしくて出来ない的な事を言って……
んで、二人で今日は沢山稼ごうねと談笑してる内にバベルに到着して……。
………………。
ダメだ、思い出せない。
マインドダウンを起こすと人によっては前後の記憶が曖昧になったり、暫く思い出しにくくなったりするらしいし、多分ソレの影響か?
って事はだ、俺は多分だがマインドダウンを引き起こしてぶっ倒れたのだろう。んでベル君が担いで……バベルに運んだ……
無いな。
ここは絶対バベルじゃない。だって天蓋付きベッドだよ? 実際に利用した事はまだないから内装なんて知りもしないが、いくらなんでも冒険者向け施設であるバベルの医療機関に天蓋付きベッドとか……
……あ、ヤバイな。バベルかもしんない。だって
神様のノリは割とヤバイしな。バベルの冒険者関連の施設が
…………いや、無いな。流石に無駄金過ぎる。
かなり質も良さそうだし、もっと安価なモノで十分だ。
それに……このかっわいいネグリジェ。ぶっちゃけて良い? ミリアちゃんに超似合ってる。
ただ、バベルの医療機関の服ってもっと簡素な貫頭衣みたいなのじゃね?
そう考えると、このネグリジェが着せられてる意味がわからない。
それに……ベル君が傍に居ないのも気になる。
ここは何処ぉ? 私はだれぇ? ……うっそぴょん。ちょっとネタに走り過ぎたか。
まずは冷静に、この天蓋付きベッドから出るか。とりあえず手足を拘束されてるなんて事は無いから……室内程度なら自由に動き回っても問題ない筈。部屋から抜け出すのは流石に……?
カーテンを開いて部屋を確認する。
ふふぅむ? ほほぉ。
客室……? 客室で良いのか? 豪勢と言う程でもないにしろ、質の良い家具でまとめられた客室の様な部屋があった。
「あ、キューイ」
「キュイ? キュイキュイ!」
おぉ、キューイがテーブルの上に置かれた
天蓋付きベッドから抜け出してキューイに近づく。
「えっと、キューイ?」
「キュイキュイ!」
嬉しそうにキュイキュイ言ってるが。ふぅむ? 意味はー……目が覚めた? 良かった。って感じか。
「キューイ、ちょっと現状が把握できないのですが何か知っていますか?」
そう言いつつも籠を観察する。キューイ自体に何らかの拘束具が付けられてる訳じゃない様子だが……はて?
一応キューイはワイバーンで竜種。子供とは言え危険度はそこそこ……鳥籠に大人しく入っていたとは言え……オラリオに置いてワイバーンの子供を見つけたらどう扱うのかわからんが。
売りとばされて見世物小屋にーってのが異世界での基本だと思うんだが……。
「キュイ? キュイキュイ、キュイ、キュキュイ」
ほうほう、ほう、ほぉー……ちょっと待ってね。えっとだな……襲われた、死にかけた、助けられた。フィッデムルア? っていうミリアの男が――――
………………………?
フィッデムルア? 誰だソイツ……。と言うかミリアの男ってなんだ? え? ベル……じゃないよな? ミリアの男……ミリアの男? もしかして……
「私の男……って言うのは、もしかしてパルゥムの男性と言う事ですか?」
「キュイ!」
そうだと力強く頷くキューイ。パルゥムの事を『ミリアの男』とか……こいつ役にたたねぇぞ……キューイから情報貰っても逆に混乱しそうなんだが……。でも情報源コイツしかいないしな。部屋の内装見た限り監禁されてる訳じゃないっぽいし、どうにも捕縛や監禁と言った雰囲気では無く、客を迎える様な感じがする。下手に動かない方が良いか?
「えっと、キューイ、此処は何処です?」
「キュイ! キュイキュイ!」
ほほー、ロゥキィヘミスァ? のフォーム? ……えっと、ごめん、意味がわかんない。
キューイの入った籠には、丁重に籠の底には布が敷かれ、その上にキューイが鎮座している。嬉しそうに首を上げて翼を動かそうとするが、狭すぎて動けないっぽい。
ちょっと可哀想かなとは思うが……
「キューイ、今出しますね」
鍵かかってないし、簡単に開きそうだ。とりあえずだしとくか。
「キュイ」
うん? ダメだ?
「キュイキュイ」
なんか出そうとしたらキューイに断られた。
「え? 何でですか?」
「キュイ、キュイキュイ」
リヴァラ・リコゥ・アーベル? ってのが『大人しく入ってろ』みたいな事を
赤くて甘くて酸っぱくておいしい果物も貰ったから、約束は守るだそうだ。
リヴァラ・リコゥ・アーベルって人名だよな? …………これ、人名は期待しない方がよさそう。
キューイ、食い物で買収されてんじゃん……
「キュイ? キュイキュイ」
誰か来た。足音的や雰囲気的にリヴァラとか言う……耳の長い、あぁエルフか。エルフの……女性? が部屋に近づいてきてるらしい。
……何コイツ、有能なのか無能なのかはっきりしねぇなおい。
そんな風に籠の中で小さく丸くなったキューイを眺めていると、部屋をノックする音が聞こえたので一応返事をしておく。
「はい」
「ん? 目覚めていたか。調子はどうだ?」
扉を開けて入ってきたのは眉目秀麗な麗人の女性。
一瞬、見惚れてから質問の意味を理解して頭の中で質問の内容を纏めて置く。
「えっと、マインドダウンしていた様子で……ダンジョンに入った事は覚えているのですが。以後の記憶が曖昧でして……何があったんでしょうか?」
ここで慌ててキューイを隠すなんて必要は無い。と言うか籠に入れられているとは言え、丁重に扱われている様子だし。食べ物で買収したりしてきて俺と同じ部屋にキューイを置いていた辺りこの相手方は此方に対する害意や悪意を感じない。
「ふむ、覚えていないのか?」
「そうなりますね。ファミリアの仲間と一緒にダンジョンに入ったのは覚えているのですが……」
もう一度思い出そうとしてみれば、今度はダンジョンに足を踏み入れている記憶がぼんやりと浮かんだ。
一時的記憶の混乱が回復してきたっぽい? まだ全容は掴めないがダンジョン内でへまやらかして保護されたのか?
「そうか、一応此方が把握している範囲だけだが説明するが……その前にこれだけは質問させてもらう」
ふむ? 訝しげな感じ。なんか疑われてる? 俺、この人と会うの初めてだよな? と言うかこの世界に来てまだ人を騙すなんて……ベルとヘスティアには色々黙ってる事はあるが、明確に騙して損させたなんて事は無い筈なんだがな……。
「そのワイバーンの幼体はお前がテイムしたモンスターで良いのか?」
あぁ、成程。ワイバーンの幼体、キューイをテイムしたのかどうか。
そりゃ気になるよなぁ……モンスターのテイムって基本的に強い冒険者が弱いモンスターを嬲って『俺の方が強いから言う事聞け』ってのが普通っぽいしなぁ。懐いてるキューイを訝しげに見るのも普通か。
「詳しくはステイタスが関係するので説明できないですが、キューイは安全ですよ。少なくとも私が命令しない限りは人を襲ったりはしませんし」
……キューイに冒険者を襲えって命令してもガブガブーって噛みついたり、ちょっと火を吹く程度でぶっちゃけゴブリンにも勝てないぐらいだから、戦闘能力はお察し。
「ふむ……フィンも安全だとは言っていたが……」
ふぃん? 誰だソイツ……いや待て、もしかしてキューイが言っていたフィッディムルアとか言うのがイコールでフィンとか言う奴なんじゃ……じゃあこのエルフがリヴァラ・リコゥ・アーベル? 多分、絶対、発音が違う。
話題のキューイは籠の中で大人しくつぶらな瞳でエルフの女性を見上げている。なにその期待の眼差し……っておいキューイ、テメェもしかしなくてもまた果物貰えないかなって期待してんだろ。完全に食べ物で買収されてんじゃねぇぞ。俺の相棒だろおまえェ……
「ふむ。わかった。ステイタスに関係するのなら詳しくは聞かない」
常識的行動に感謝。エイナさん曰く、ステイタスはその人の人生や経験を表すモノで、弱点等も分ってしまうのでファミリア内部の仲間同士でもステイタスの開示を行わない所も珍しくないのだと言う。後序に他のファミリアの眷属のステイタスを聞く事は冒険者的に非常にマナーが悪く、最悪の場合はファミリア同士の戦争に発展する程の事なのでむやみやたらと聞かない方が良い。自分から同じパーティーに参加するメンバーに教える事はあるが全てをあるがままに教えるのではなく、ふわっとしたさわり部分、どんなことが出来るかだけを教えるのが普通だと。
ここで強引にキューイを人質……? 人質で良いのか? にとられて聞きだされるとかなったら……いや、ソレ以前に今の俺は駆け出しも駆け出し。非力過ぎるから強引に聞き出そうと思えばできる。ソレをしない辺りやっぱり害意がある訳では無く、保護されている形なんだろう。
「それで、現状の説明だったな。ここは【ロキ・ファミリア】の本拠だ」
ロゥキィヘミスァは【ロキ・ファミリア】で、フォームは
成程、キューイの言う名詞をそのまま鵜呑みにするのはやめよ。危うく恥じ掻く所だったぜ……。