魔銃使いは迷宮を駆ける   作:魔法少女()

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第一三八話

 広大な広間(フロア)に並ぶ無数の賭博卓(カジノテーブル)

 一つ一つの卓に専用の進行役(ディーラー)。各所を回る監視人。飲み物等を配り歩く給仕人(ウェイター)。そしてそれらを厳しい視線を以て警備員として配置されたガネーシャファミリアの団員。

 『エルドラド・リゾート』娯楽都市サントリオ・ベガが投資し建設したオラリオ随一の賭博施設『最大賭博場(グラン・カジノ)

 その名に恥じぬ規模のこの賭博場に足を運んだ理由は二つ。

 

 一つ目はガネーシャファミリアが追っている『強引な人攫い事件』の主犯がここの管理者(オーナー)であるテリー・セルバンティスに()()()()()()()()()という人物の逮捕。

 

 二つ目は俺、ヘスティアファミリア所属の第二級冒険者【魔銃使い】ミリア・ノースリス宛に届いた招聘状の差出人であるサークリッジ公爵との会談。

 

 そして、今まさに二つ目の目的を成している所であるのだが。大問題が発生した。

 本来ならこの場に足を運ぶのはサークリッジ公爵家当主であるベディヴィス・サークリッジという人物だったはずが、何らかの不都合があってその娘であるクレイティア・サークリッジという童顔の女性が代役として現れたのだ。

 付け加えると、元ゼウスファミリア所属の第一級冒険者らしい【白い羽】なる護衛付きで。

 ここまでであればまだ何とかなったのだが、問題はクレイティア氏がギルド長に喧嘩を売った事である。

 

 進行役(ディーラー)によって配布された手役(ハンド)を見ながら、俺の横でニコニコ笑顔で賭博に興じるクレイティア嬢を伺う。

 賭博(ゲーム)の種別はファイブ・ポーカー。各々の参加者(プレイヤー)に5枚の(カード)が配られ、それで手役(ハンド)を作り、強い方が勝つという規則(ルール)そのものは質素(シンプル)なモノだ。

 無論、それだけではなく欺瞞(ブラフ)仮面(ポーカーフェイス)を駆使しての駆け引きを行うものである。

 何故それをクレイティア嬢としているのか、と言えば……ギルド長がキレて会話が成り立たなかったことで全部放り出して逃げ出してくれやがったからだ。あの豚許さねぇ。

 何が『お前は黙ってろ』だ。もう知らんとか言って逃げやがって。

 

「あ、(わたくし)の勝ちですね」

「おめでとうございます」

 

 手役開示(ショーダウン)で出た手役(ハンド)は此方がストレート。相手がフルハウス。相手の方が強いため負けで賭札(チップ)がとられてしまう。

 進行役(ディーラー)切札(トランプ)を返しながら、次の参加費(アンティ)置き場(ポット)に乗せようとしているクレイティア嬢に話しかける。

 

「そろそろ、本題をお聞かせ願えますかね」

「……本題ですか。もう少し遊んでいたかったのですがね」

 

 彼女の微笑みを見て、確信した。どうもきな臭い感じはしていたのだがなんか面倒事を持ってきてそうだ。

 

賭札(チップ)はお返ししますね」

「その必要はありません。どうぞお受け取りください」

 

 彼女の言葉に曖昧に笑い返しつつも、なんとか返せないかと問答を繰り返すが受け取って貰えなかった。

 俺の後ろで賭博卓(カジノテーブル)から回収されて台車の箱に入れられている山ほどのソレは彼女から受け取ったモノである。話の前に賭博(ゲーム)でもと誘われ、こっちの所持賭札(チップ)が少ないのを見て気を使ってくれたらしいのだが、それで台車一杯の賭札(チップ)を用意してくる辺り価値観がズレてる。

 シャクティさんが仮面越しでもげんなりしてる様子が確認できるが、声をかけずに目の前の貴族娘様の相手をしなくてはいけない。

 

「では、あちらのバーにでも」

 

 主広間(メインフロア)の一角に設けられたバーカウンター。各種酒類や軽く摘まめるモノ等を用意してもらえる場所らしく、一応は飲み放題らしいが俺には関係ない。

 隅の方の席に着けば、隣にクレイティア嬢。背後には各々の護衛として連れ歩いている『黒拳』に扮したシャクティさんと、彼女の護衛である【白い羽】。

 注文を聞きに来た給仕の人に軽いお酒を頼みつつ、彼女を伺う。

 

戦争遊戯(ウォーゲーム)の勝利、おめでとうございます」

「はい、ありがとうございます」

 

 彼女の目が此方を見つめているが特に探る気配はない。背後に立つ【白い羽】の方も違和感は無し。さっきギルド長に無駄に噛み付いて行っていたのでもっと荒々しい性格だと思っていたがどうにも違うらしい。

 場を弁えた言動が出来る人物、なのだろうか。だとするとギルド長に喧嘩を吹っ掛けて怒らせたのは意図的という事になるのだが。

 

「実は貴女にとてもお聞きしたい事がありましたの」

「私の応えられることならなんなりと」

 

 能力(ステイタス)とかは無理だけどね。当然、魔法やらスキルも無理だ。

 

「竜とお喋りできるとお聞きしましたが、本当ですか?」

 

 質問の内容自体に際立って不自然な所はない。無いのだが……それを真っ先に聞くのは少しおかしい。

 もっと『竜をどうやって従えたのか』といった方面の質問になるかと思っていたのだが……付け加えると、その質問を飛ばした彼女の視線が此方を見透かそうと観察する様な視線になっている所とか違和感が凄い。

 何かを探ろうとしているのは確定。ギルド長、俺はお前を恨むぞ、あれだけ頼りにする気満々だったのに裏切りやがって。

 

「ええ、少し曖昧ですが意思疎通は可能ですよ」

 

 フィン・ディムナ(フィッディムルア)とかガネーシャファミリア(グヌァセヘミスァ)とか。時として意味のわからない単語が出てくる事はあるがね。なんとかならんもんだろうか。

 

「そうですか…………」

 

 彼女が【白い羽】と目配せし合ってから此方を真正面から見つめ、護衛のシャクティさんをちらりと見た。

 

「そちらの護衛は、信用に足る方でしょうか?」

「腕は確かですよ」

 

 何せ現役のガネーシャファミリア団長にして、派閥内で最強の第一級冒険者ですし。

 

「言い方を間違えましたね。口は堅い方でしょうか」

 

 思わずクレイティア嬢を二度見した。こいつ本気(マジ)で言ってんのか?

 だとしたら不味いなこれ、絶対に秘密のお話じゃねぇか。貴族様の口から放たれる秘密のお話とか気分悪くなる奴多すぎんだよ。奴隷をもっと寄越せーとか、出来れば幼い少女が良いーとか、活きの良い悲鳴を上げる奴を頼むとか。聞くに堪えない秘密のお話は勘弁してくれ。

 とはいえ、ここで口が軽いだなんて言ってしまうとシャクティさんを外して話をしようってなるだろうし、護衛が離れるのは困る。今の所何を考えているのかさっぱりわからない貴族と元第一級冒険者の前に取り残されるとか恐怖でちびりそう。

 

「そうですね。支払いさえしっかりしていれば顧客情報を無暗にばら撒いたりはしないでしょう」

「……その言葉、信じさせていただきますね」

 

 神妙な面持ちになったクレイティア嬢。すると【白い羽】が此方をじっと見つめ────目を細めている。

 

「では、少し耳を貸してくださいまし」

 

 彼の反応に警戒しつつ、クレイティア嬢に耳を寄せると────彼女の口から信じられない名が飛び出す。

 

「リド、レイ、そしてグリス。後はグリュー、以上の名に聞き覚えはありませんか?」

 

 彼女の口から飛び出した名の数々。それらに関して聞き覚えがあるか無いか、どちらと答えるべきか一瞬判断に迷い────【白い羽】の呟きで現実に引き戻される。

 

「知ってるだろ」

 

 確信を得たという表情で此方を鋭く見つめる彼の視線に身を強張らせ、なんとか肩を竦める。

 

「聞き覚えはあります。が、サークリッジ様が知る者と同一人物かまでは断定しかねます」

「……では、リドは────蜥蜴人(リザードマン)です」

 

 続いて呟かれた言葉に喉が干上がる。目の前の女性、幼い童女にも見える顔立ちの女性から放たれたそれは、このオラリオの管理機構であるギルド、それを裏から取り仕切っているといわれる神ウラノスがひた隠しにしている迷宮都市(オラリオ)の秘された異端児(ゼノス)の事だ。

 

「レイは歌鳥人(セイレーン)、グロスは石竜(ガーゴイル)、グリューは緑竜(グリーンドラゴン)

 

 ………………。何処で、知った?

 この情報を知る者はウラノスと、神ガネーシャ、後はガネーシャファミリアのごく一部の幹部。そしてウラノス直属の部下であるフェルズしか知らないはずだ。

 迷宮内で『大樹の迷宮で綺麗な歌声が聞こえるから調査してくれ』という調査依頼はあったが、それ以外に異端児(ゼノス)に関わる情報は各種情報屋を巡っても引っかかりもしなかったのだが。

 

「知ってるだろ」

 

 【白い羽】がいつの間にか俺の腕を掴んでいた。残された片方の目がじっとこちらを見据え────横から伸びた拳が彼の側頭部にひたりと静かに押し当てられる。

 

「手を放せ」

「……そう怒るな、傷付ける積りはない」

 

 静かに拳を押し当てたのは、仮面の傭兵。『黒拳(こっけん)』に扮するシャクティさんがらしい行動で彼をとめていた。

 掴まれていた腕を開放されると、その部分は赤くなっていた。何か、嫌な予感がするんだが。

 

「知っているのでしたら、冒険者依頼(クエスト)を受けて頂きたいのです」

 

 困った様に笑みを崩したクレイティア嬢が【白い羽】を一瞥すると、白髪交じりの男性である彼が無言で羊皮紙を俺の前に置いた。

 

「拝見いたします」

「どうぞ」

 

 内容を読む許可を得てから、その羊皮紙を見ると────冒険者依頼(クエスト)が記載されていた。

 依頼内容は、とある物品の輸送依頼。よく十八階層の冒険者の街(リヴィラ)に大量の物資を輸送してくれという依頼が張り出されるが、それと同じモノかと思えば────違った。

 

怪物(モンスター)に届け物、ですか」

「いいえ、彼らは怪物(モンスター)ではありません。異端児(ゼノス)という者達です」

 

 ああ、彼女は()()()()()人間だ。シャクティさんも知っている人間だから良いが、この冒険者依頼は面倒事にしかならんぞ。

 なんで知っている? 何処でそれを知った? 少なくとも面倒事の臭い以外がしない。神ウラノスに何とか連絡をとって知らせておくか。それよりも、だ……輸送? 何を彼らに?

 

「すいませんが、そういった依頼は受けておりません」

 

 怪物に届け物しますぅーとかやったら今まで否定してきた『怪物趣味』が本当の事になっちまう。それだけは回避せねばとお断りするが────【白い羽】が鋭い視線を向けてくる。

 

「ここで断ると、どうなるかわかるよな?」

 

 うわ、めっちゃ脅してくるんだけど。何コイツ、馬鹿なの? というかお前、普通に考えてくれよ、怪物に届け物する冒険者がどこに居るんですかね。

 

「もう少しだけ、話を聞いてくださいまし」

 

 第一級冒険者、元とは言え名を馳せた人物。

 レベルは一応、6らしい。つまりシャクティさんより格上────射手だったらしいので、近接格闘なら負けはないだろうが、それでも危険極まりないし此処でトラブル起こしたら追い出されて本題の方に支障を来す可能性が高い。故に穏便に済ませなくてはいけないので話を聞く姿勢にはなっておく。

 

「それで、どうしてこんな依頼を?」

 

 普通だったら奇人として避けられるぞ。

 

「はい、実は────」

 

 クレイティア嬢の血族。王族から派生したいわば分家の様な血筋らしい。

 そんなサークリッジ家の現当主ベディヴィス・サークリッジ。彼の父親であるグリディア・サークリッジは屋敷の地下に怪物(モンスター)を連れ込んであれやこれやをしていたらしい。

 ────既に嫌な予感がするが話を続けよう。

 グリディアの孫娘でもあるクレイティアは祖父が時折足を運ぶ地下室に興味を持ち、こっそり忍び込んだのだ。結果、地下に囚われていた怪物(モンスター)とご対面。既にボロボロの死にかけのモンスターの中に、一際目を引く固体が居た。それが、純白の歌鳥人(セイレーン)

 クレイティアが足を踏み入れた地下牢の中で鎖に繋がれた彼女────怪物(モンスター)でありながら会話が可能な異質な存在。

 祖父に秘密裏に忍び込んでは彼女との会話を進めていく内、彼女が迷宮(ダンジョン)の奥で密かにくらしていた異端児(ゼノス)の一員であったことや、彼らに関して知っていくことになる。

 地下牢の奥に囚われ、祖父であるグリディアの性癖に基づいてあれやこれやされている彼女を哀れに思ったクレイティアは、父親であるベディヴィスに相談。

 王族の血筋に怪物趣味が居るとわかると不味いと青褪めたベディヴィスは即座にグリディアを糾弾。直ぐに怪物を処分しろと言い渡すも────グリディアはこれに反発。

 美しい純白の歌鳥人(セイレーン)を手放してなるものかと、対立してしまったのだ。

 

 以後、父と祖父の間で幾度かのやり取りの末、ベディヴィスは貴族の汚点となるグリディアの抹殺を決意。

 殺し屋を雇って送り込むも彼の護衛に阻まれ幾度となく失敗。

 そんな二人のやり取りを他所に、娘であるクレイティアは密かに鍵を入手して純白の歌鳥人(セイレーン)を密かに連れ出す事にし、成功したかに見えたが……父であるベディヴィスに見つかってしまう。

 まさか娘までもが怪物に魅入られるとは思っていなかった彼は驚き、自らの部下に娘を魅了した怪物の討伐を命令。

 そのベディヴィスの部下、というのが迷宮都市(オラリオ)を去ってからふらふらしていた【白い羽】だったらしい。

 

 此処で話が変わるが、一人の男が迷宮の怪物に恋に堕ちたらしい。

 男の名はカルロス。そう、背後から凄まじい圧で脅してくる男だ。

 端的に話そう、彼が恋に堕ちた相手は────純白の歌鳥人(セイレーン)。そう、件の異端児(ゼノス)だったらしい。そして、その異端児(ゼノス)もまた、彼を愛していたらしい。

 どうして恋に堕ちたのかなんかの恋愛語り(ラブロマンス)ははぶこう。興味ねぇし。

 

 異端児(ゼノス)は最期に愛おしい人に出会え────その男の放った矢で命散らした訳だ。

 

 彼曰く、気付いた時には手遅れだったらしい。片目をやられて視力も落ちた彼が放った矢は、クレイティア嬢が肩を貸して歩いていた純白の歌鳥人(セイレーン)の胸を穿った。

 彼女、純白の歌鳥人(セイレーン)が願ったのは迷宮に残る仲間の元へ亡骸を届ける事。

 魔石は砕けて消えたが、彼女の体の一部はしっかりと残った(ドロップした)

 それを、仲間の元へ届けて欲しいらしい。

 

「これだ」

 

 【白い羽】が取り出したのは、宝石箱。それを開けると中には『純白の風切り羽』が入っている。

 

「頼む、これをアイツの仲間に届けてやってくれ」

 

 涙あり、感動ありの悲劇の話とかされておいてなんだけどさ、断りたいんだけど。

 

「ご自分で足を運べば良いのでは?」

 

 腐っても第一級冒険者でしょ? いけるいける。

 

「無理だな、俺はクレイティア嬢を守らなきゃいけねぇ」

「お願いします。報酬は私が支払える範囲でしたらいくらでもご用意いたしますので」

 

 どうして俺にこの依頼を持ってきたかね。ちょっと正気を疑うんだけど。

 

「竜と話が出来ると聞いて、もしかしたら怪物と仲が良いのかと」

 

 頭の中お花畑かな? というか、待ってくれ。

 

「この話、ベディヴィス様はご存じなのですか?

「いいえ、知らせていませんので」

 

 いや、不味いでしょそれは。というか彼女が支払える範囲って時点で色々とおかしいよ。

 シャクティさんは【白い羽】と睨み合いの真っ最中だし。

 

「すいませんが、お断りします」

 

 ギルドを通さない依頼を受ける事自体は違反ではないが、その依頼の内容と報酬が釣り合っているかや、違法な依頼ではないか等の精査がされていない事もある。基本的にギルドを通さない依頼は相当に仲が良い派閥に頼むとか、そうした方が良い。

 

「今回の件については口外いたしません」

 

 無理無理、絶対に無理。確かにその純白の歌鳥人(セイレーン)の最期の願いってのは叶えてあげたいが流石にこの依頼はきな臭い。というか、だ……ベディヴィスさんが帰ったのって彼女らの所為じゃないの?

 

「……どうしても、でしょうか」

「ええ、私の実力では不足していると判断いたしました」

「実力は足りてるだろ。戦争遊戯(ウォーゲーム)の動きを見るに大樹の迷宮ぐらいなら軽く踏破できるだろうしな」

 

 ……あのさ、普通に考えてくれないかな。

 

「それは派閥の構成員全員を入れて、という意味ではないでしょうか」

「ああ、あれだけ動ける面子なんだ、余裕だろ」

 

 無理なんだよなぁ、それが。

 だって俺以外全員異端児(ゼノス)の事知らないし。むしろ知られたら困るし。

 話を聞いて思った、このクレイティア嬢はまず箱入りの世間知らず。一応、怪物に届け物をするのが世間一般でおかしいという知識はあるみたいだが、断られたのが完全に予想外って表情をしている辺りちょっと箱入り。

 そして【白い羽】カルロス君。キミさぁ、ゼウスファミリアだって言ってたし、第一級冒険者って話なんでしょ? なのにちょっと頭固いというか、この人もしかしなくても戦い以外の事てんで駄目なんじゃねぇの? 

 

「私一人じゃ無理ですよ」

「仲間は?」

 

 ロキファミリアの増援の五人、ガネーシャファミリアの増援の三人は無理。知られたら面倒だし。

 ベルも無し。リリは……微妙。ヴェルフは頭を下げて黙っておいてくれって言えば口は堅い方だが、心境がどうなるかわからん。ミコトも無しだな。

 

「無理ですね。私はこの事情について最低限知ってますし、理解もあります。ですが他の皆がそうとは言い切れません」

 

 普通なら怪物に届け物するとか言い出したら狂人扱いされるだろうしね。

 

「……でしたら、どなたか届け物が出来そうな方にこの箱を渡していただけないでしょうか」

 

 いや、そっちで探せよ。面倒事だって断ってんのに妙な頼み方すんな。

 

「すいません、それも無理ですね」

 

 信用できるかどうか不明だろうに。むしろここで無理に受けさせても仕方ないと思うのだが。

 むしろ時間をかけてゆっくり探した方が良いのではないか? 紹介状ぐらいは……いや、面倒だし声をかけるだけにしとこう。

 

「知り合いに声をかけておきますのでそちらの方を訪ねていただけると」

「……それでは遅いのですよ」

 

 困ったようなクレイティア嬢の表情。なんか、背筋が凍り付く様な感覚がする。

 グラスを握る手が震えてきた、あぁ、なんかこの感じ滅茶苦茶懐かしいぞぉ? そう、あれは……アレだ、貴族の食事に招かれた時に『美味い肉だろう? 何の肉だと思う?』と問いかけられた時みたいだぁ。

 あの糞女と並んで貴族に招かれた食卓。変な食感の肉だなぁと思って食べたその肉は────いや止そう。

 ちなみに、その貴族の()()は幼い少女です。

 

「私はこの後直ぐに国に帰らなくてはならないのです」

 

 ふぅーん。ちなみにお肉は凄く妙な食感でねぇ、ヤバかったんですよぉ? 咄嗟に糞女が足を踏み締めてくれなければ迷わず吐いてましたねぇ。あいつも同じもん食ったのに平然としてたし、やっぱ化物だったんじゃね?

 

「どうしてか伺っても?」

「はい、実は今日、代理で(わたくし)が来た理由なのですが────父が殺されてしまったのです」

 

 …………なっ、なんだってーっ!? いや、いやいやいや!? ちょ、ちょっと待って。えっ? 殺された?

 

「あ、あのどういうそれは?」

 

 シャクティさんを思わず振り返ると彼女も驚いた表情してた。【白い羽】さんはどこ吹く風って感じなんだが、待て何が起きてる、っておい待て待て!! ベディヴィス・サークリッジ公爵死んでるって不味いだろ!!

 

 クレイティア嬢曰く。

 父と祖父の争いは未だ終わっておらず、祖父側から暗殺を何度も仕掛けられては撃退を繰り返していたものの、このままではいずれ死ぬかもしれないと判断したベディヴィス殿は、オラリオの冒険者を雇おうと出張ってきたらしい。

 現在彼の部下として活動している【白い羽】は元、という言葉の通り第一級冒険者といえどかなり老衰で弱くなっているらしく、レベル4程度の実力者が数人集まってくると流石に苦しくなってくるらしい。

 

 んで、戦争遊戯で活躍しており、元第一級冒険者【白い羽】お墨付きとしておすすめされた【魔銃使い】に声をかける為にギルド長に賄賂払って会える様に調整してもらったと。

 ────おーいギルド長、てめぇ賄賂貰ってんじゃねぇか。

 

 が、俺と会う前にコロコロされてしまったらしい。残念ですねぇ。

 ただ、殺された事が(おおやけ)になると今は不味いから隠してる、と。

 

 でも、オラリオの冒険者を雇うって……無理なんだが。

 

 オラリオの冒険者って言うのは強い。それこそ他の都市で強者と謳われているのがレベル2~3程度である事や、都市外のレベル2と都市内のレベル2を比べればわかるが、ステイタスに歴然の差がある。

 ダンジョンで得られる上質な経験値(エクセリア)を得て育ったオラリオの冒険者と、ちんまい雑魚をちまちま倒してギリギリランクアップにこぎつけた程度の都市外の冒険者では差が酷いのだ。

 んで、ここからが本題だが、この都市には管理機構『ギルド』が定めたとある規則(ルール)が存在する。

 『戦力流出禁止令』である。簡単に言うと都市内でも上級冒険者になった冒険者がオラリオの外に行くことに制限をかけている代物だ。

 これを行う理由はいくつかあるが、大部分を占めるのは迷宮都市(オラリオ)の戦力低下を避けるため。

 そして何より、都市外の混乱を引き起こさない為だ。

 

 迷宮都市でランクアップを重ね、強くなった第一級冒険者が都市外へと足を運べば────それこそ迷宮都市(オラリオ)以外の国々が兵力を集めても敵わない化物である彼らは、好きに暴れればそれだけで国一つを滅ぼせる。

 そして、その第一級冒険者の力を持つ国が現れれば────対抗する為に他の国々も次々に第一級冒険者を有そうとする。

 都市外で第一級冒険者を有する国々の争いが起きれば、それこそ世界を滅ぼしかねない。

 そういった世界の混乱を防ぐためにも、第一級冒険者の都市外への出向は厳密に管理されている訳だ。無論、派閥に第一級冒険者を有する神もまたしかり。

 

 当然の事ながら、第二級冒険者である俺も都市外への出向、ましてや政治的な理由からの戦闘への参加なんてもってのほか。間違いなくギルドから賞金賭けられてブラックリスト入りである。

 

 んで、気付いた。目の前の【白い羽】君、きみさぁ……もしかしなくても違反してね?

 元とはいえ第一級冒険者が貴族の部下になってあれやこれやしてたんでしょ? ぶっちぎりで違反行為じゃね?

 

「あん? 別に派手に暴れなきゃ良いだけだろ?」

 

 あっ、なるほどぉー。ちょっと関わっちゃいけないタイプの人達だったかぁ……っておいマテ。

 これ、不味いよな。不味すぎるよな? いや、ギリッギリで大丈夫かこれ? 祖父のグリディアさん次第かな?

 

「一つ、質問良いですか?」

「何でしょう?」

「……貴女に対して、その……暗殺計画とかあったりとか?」

 

 無いよな? あったらアウトなんだけど。

 

「ありますよ。ついさっきもカルロスが撃退してくれたばかりです」

 

 アウトォォォォォッ!?

 彼女と密会した時点でアウトじゃねぇか、何してんくれてんじゃボケェッ! っていうかギルド長はなんでコイツら入国許可出してんだよォッ?!

 

 あ、そっかぁ、賄賂貰ってたんだねぇ。

 

「ギ、ギルドにはなんと言ってオラリオに?」

「普通に戦争遊戯(ウォーゲーム)の観戦に来た、と」

 

 うんうん、そっかぁ。ギルド長に嘘吐いてきちゃったのかぁ。あはは……はは…………。

 …………あのさぁ、暗殺対象が戦力過多な迷宮都市にきて冒険者と密会なんてしてたらどう思うよ。しかも誰にも言えない秘密の依頼なんかも頼んじゃってさぁ。

 普通に雇ったって思われね? しかも俺って戦争遊戯(ウォーゲーム)で『透明化』とか使ってんじゃん? 暗殺向き過ぎて笑えるぅー…………。

 

 自走式爆弾がいきなり突っ込んできたんだがどうすんだよこれ。ガネーシャファミリアの依頼どころの話じゃねぇんだけど。

 

 ヘスティア様助けてぇ……。




 トラブルは向こうからやってくる。
 時として、箱入りは無自覚に核弾頭を放り込んでくる訳です。ミリアちゃんの胃が死ぬぅ。



 コラボ小説できたぁ。
 これ投稿したら最終修正して正式投稿するんだぁ(グルグル目)

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