魔銃使いは迷宮を駆ける   作:魔法少女()

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第一三五話

 メインストリートから外れた裏通り。

 目深に頭巾(フード)を被った小人族(パルゥム)の少女が薄暗い魔石灯の明かりから外れた通りを歩む。肩から吊り下げた大き目のバッグを乱雑に揺らし、不機嫌そうに裏通りを睨んでいる。

 真夜中と言っても差し支えない時間帯。薄闇を見据えて歩む彼女の蒼と紅、左右で異なる色合いの瞳が見据えたのは半ば朽ち果てた酒場のものらしき看板。その入り口に迷うことなく足を進め、軋む音を響かせて酒場に足を踏み入れた。

 店内は薄暗く、薄汚れた吊り下げ式の魔石灯の明かりに照らされ、無数の人影がテーブルについている。軋む音を立てて開かれた扉の音につられて視線が入店した小柄な人物に向けられる。

 入ってきたのが子供の様な背丈の者だと気付いた男達が鼻で嗤い、野次を飛ばす。

 

「ここはガキが来る所じゃねえぞ」「さっさと帰ってママに甘えてな」

 

 下種な嘲笑が響く中、少女の歩みは止まる事無く一つのテーブルに歩み寄っていく。

 四人掛けのテーブルについている一人の男が場に似つかわしくない鼻歌を響かせながらグラスに注がれた蒸留酒を口にしていた。少女は迷う事無く彼の対面の席に腰掛け、口を開いた。

 

蒸留酒(ブランデー)、それと赤色の摘まめる物を」

 

 彼女の言葉に反応したのはカウンターから鋭い視線を向けていた店主ではなく、対面の席に腰掛けた男だった。

 

「ふむ、色は赤で良いのか?」

「やっぱ黄色で」

 

 あらかじめ決められていた合言葉を口にした彼女に、男は笑いかけた。

 

「ほう、久しぶりだな」

 

 周囲で沸いていた下種な嘲笑が一瞬で途絶え、幾人かの人物が立ち上がって店から出て行く。カウンターから歩み出てきた店主が無言で彼女の前に酒の注がれたグラスを置いた。

 視線を店主に向ける事無くそのグラスに注がれた酒を舐め、少女は溜息をつきながらバッグから小袋を取り出してテーブルに置いた。

 

「指定した情報。片っ端から出して」

「おいおい、もう少し遊びに付き合ってくれても良いんじゃねえか?」

 

 禿げ上がった頭の男が軽い調子で口を開けば、少女は無言でテーブルを二度叩く。

 

「かぁ~、小人族(パルゥム)はせっかちでいけねぇ」

 

 額に手を当ててこれ見よがしに呆れた表情を浮かべた男に対し、少女は再度テーブルを二度叩いた。

 

「はいはい、わかりましたよっと……これがお前さんの依頼した情報だ」

 

 鋭い視線に射抜かれた男がようやく差し出した紙束を少女はひったくる様に奪い取った。不機嫌さを微塵も隠しもしない彼女は紙束を捲って中を検めつつ口を開いた。

 

「次の依頼についてですが」

「おう、なんだ」

「ここらの裏通りの酒場、そこを仕切っている(かしら)の一覧を、この場で出せるなら、五つだしましょう。一日毎に二つ下げます」

 

 情報屋として活動している剥げた男────ダルトンと言う名を名乗っている彼は深い溜息を零すと、目の前の小人族の少女を見下ろして酒を呷り、口を開いた。

 

「嬢ちゃん、見た目に不釣り合いな交渉技術じゃねえか」

 

 見るからに蝶よ花よと育てられていそうな雰囲気を持つ、気の強そうな小人族(パルゥム)の少女。

 淡い金髪に左右で異なる彩光異色(オッドアイ)。不気味な程に白い右手で紙束を捲り、視線を情報屋に向けていなかった彼女は、苛立ち交じりの雰囲気で舌打ちを放った。

 

「それ以上余計な口を開くならこの取引は無かったことにしますが」

 

 余計な言葉は交わさない。最低限の情報のやり取りのみを行い、自身の目的を一切悟らせない様に振る舞う彼女に対し、情報屋の男は肩を竦めた。

 

「それで、依頼を受けるのか否か、返答を」

「ああはいはい、受けますよっと……ちょっと待ってろ。直ぐ用意させる」

 

 ダルトンが手を振ると、数人の男が店の奥に駆け込んでいく。それを見届けてから、彼は目の前の取引相手を見て舌を巻いた。

 交渉の余地が無い。情報を引き出そうと軽口を叩いてみても無反応。表情は鉄面皮かと思える程に微動だにせず、ただただ鋭い視線を向けてくる相手────アポロンファミリアとの戦争遊戯(ウォーゲーム)で瞬く間に名を上げた偉才の小人族(パルゥム)。女神フレイヤからも気に入られているらしい、話題沸騰中の人物。

 【魔銃使い】ミリア・ノースリス。持ち得る異名は数知れず『竜を従える者(ドラゴンテイマー)』や『砲撃の魔術師』、『魔銃士』など、もはや一人が持つには不釣り合いなモノばかり。

 彼のガネーシャファミリアでも調教(テイム)の難しい竜種を二匹も従え、なおかつ自身だけではなく同派閥の者の言う事を聞くまでに明確に調教(テイム)しきっている調教師(テイマー)としての天才。

 射程距離は既存の魔法を凌駕し、K(キロル)単位での狙撃すらも可能な城塞すら穿ち貫く威力を持つ砲撃魔法を使える魔術師。

 それだけに飽き足らず、魔術師でありながら近接戦を挑み、数倍の数の相手を軽く捻り倒す魔法戦士。

 並べられた偉功の数々は、とてもではないが一人の人物に与えられた物とは思えない。────きっと、彼の戦争遊戯(ウォーゲーム)をその目で見ていなければ、情報屋ダルトンもそれを信じはしなかっただろう。

 

 十八階層で起きた異常事態(イレギュラー)。その際に活躍した冒険者の名の中に彼女の名も無数に出てきた────少なくとも、戦争遊戯以前にはただの噂話と切って捨てたそれらに真実味を持たせるには十二分に過ぎた彼の戦争遊戯(たたかい)

 しかも信じられない事に、彼の戦争遊戯(ウォーゲーム)の大逆転に至る作戦すらも【魔銃使い】が考案した物とも言われているのだ。

 小人族(パルゥム)であるか以前に、同じ人かどうかすら疑ってしまう程に多方面に秀でている。

 

「そういや、なんでイシュタルファミリア関連には触るななんて言ったんだ?」

 

 俺達なら上手く調べられる。娼婦の色仕掛けにも引っかかる事無く内部情報を調べられる。そう情報屋が呟くと、彼女は呆れの表情を浮かべて溜息を零した。

 

「確実に闇派閥に繋がってますし、調べるまでも無い」

 

 身を隠して活動していた情報屋であるダルトンを発見し、そのまま交渉に持ち込む観察眼と交渉術。

 情報屋とのやり取りを完璧に理解しきった態度。見た目にそぐわない危機管理能力。集めた情報を二つ三つ見ただけで何処の派閥が闇派閥(イヴィルス)との繋がりを持っているのかを見抜く頭脳。

 戦争遊戯(ウォーゲーム)以前は神々が面白半分に背ヒレ尾ヒレを付けただけの愛玩用の小人族(パルゥム)だと眼中に無かった彼女は、今や彼にとってのお得意様だ。

 

「ボス、用意できました」

「おう、ほらお前さんが望んだ情報だ」

 

 周囲一帯の酒場と、その酒場を仕切る(かしら)の一覧を書き記した羊皮紙を手渡すと、彼女は紙束をダルトンに放り返してバッグからヴァリスの詰まった小袋を五つ取り出すと、無造作にテーブルに放る。

 金貨の擦れる音を響かせて放り出されたそれを見て、部下が息を呑む。情報屋として酒場一つを貸し切ってのやり取りだが、目の前の少女は怯む様子は一切無い。むしろ堂々としており逆にダルトン側が圧倒される始末。

 もっと怯えた様な態度をとるのならやりようがあるのにと舌打ちを零し、ダルトンは笑みを浮かべた。

 

「他には?」

「…………まあ、これで十分でしょう。足りない分は他を当たります」

 

 羊皮紙を舐める様に見回し、彼女は無造作にそれを投げ返した。短時間しか見ていないにも拘わらず内容を全て暗記したらしい彼女は目を瞑って顎に手を当てて考え込み、顔を上げてバッグから小袋を二つ取り出した。

 

「手切れ金です。よくやってくれました」

 

 テーブルに無造作に放り出される小袋。締め方が甘かったのか一つは中身が零れだし、ヴァリス硬貨が羊皮紙を覆い隠す様に広がった。

 

「おいおい、俺達けっこう相性良かったじゃねえか。なんでまた────」

「貴方の事、そこそこ出来る方だと勘違いしてたんですよ」

 

 まさかこんな無能だとは思わなかった。彼女がそう呟くと同時────店の扉が蹴破られ、無数の冒険者がなだれ込んできた。

 

 

 

 

 大通りを歩みながら溜息一つ。二つ……そして三つ。

 情報屋ダルトン。キミは非常に優秀だった、と勘違いしていたが実際の所は人海戦術使いの間抜けであった。

 彼の集めた情報の殆どが噂話に毛が生えたモノ。情報量こそ多いモノの、ぶっちゃけ無駄な情報が溢れ返ってて使いづらい事この上ない。しかも調査した相手に気取られて襲撃されちまうし。

 人海戦術は悪くはないのだ。数が多ければそれだけ情報は沢山集められる────問題は、部下の数が多ければ多いほど、相手に気取られやすくなる。当然だが、情報収集してる奴が居たら警戒するし、もし知られたくない情報を知られたら襲撃してでも消そうとする。

 先ほどの襲撃。襲撃犯そのものは大したことも無く鎮圧できた。せいぜいがLv2程度のゴロツキかチンピラ程度。ぶっちゃけ敵じゃなかった。

 問題は……調べてた相手に気取られた事だ。あのダルトンと言う男、そこそこ頭は回る方なんだが部下の方がへまやらかしたらしい。

 情報屋のご利用はご計画的に。()()()()()()という情報も時として致命傷になるんだから、頼むから情報屋が情報を軽く扱わないで欲しいモノだ。まあ、彼らは再起不能だろう。

 使える情報屋の一人……いや、情報屋集団『ダルトン』が潰れたのは痛いが、同時に相手の手の内もなんとなく理解できたので収穫がゼロではなかったのが救いか。

 とはいえ、だ。こっちが得た情報から察するに大賭博場(グラン・カジノ)の経営者テリー・セルバンティスは────()()()()()()()()()()()。本人は、既に殺されている可能性が高い。

 

 理由は、いくつかある……出国記録、人事記録、そして強引な手腕の誘拐の発生日時。

 本来の帰還予定よりも一週間程遅れて迷宮都市(オラリオ)に帰還したらしいセルバンティス氏は、帰国と同時に人事入れ替えを行っていた。

 彼の右腕として知られていた執事や、親友とまで謳った事のある部下。そういった親密な仲にあった者達が片っ端から退職または転属となっている。しかも────退職、転職後の行方は不明。多分、全員死亡済み。

 そして、本来なら足を踏み入れる事を許可される事のないはずの、雇われ傭兵が幾人も出入りしている事。

 おおよそ一ヶ月ぐらいだろうか。それらの出来事が収束して安定した頃から、人攫いが始まっている。

 

 セルバンティス氏に忠誠を誓っていた者。親密な者は全て排除。残っている者は金にモノを言わせて賄賂で黙らせる。内部から侵略して乗っ取る常套手段ともいえるやり口だ。

 立場を乗っ取るという行為自体は、俺も同じ様な手口でやった事がある。本人を暗殺部隊辺りに始末させ、自身は変装で成り済まし、親密な関係だった奴は片っ端からそれっぽい理由をでっち上げて周囲から飛ばし、組織の人間を役職に捻じ込む。会社そのものを乗っ取ってから後は組織の方で全てを吸い上げて、ぽいっと捨てる。

 正直、乗っ取った後の維持の方が大変だし、吸えるもん全部吸い上げてさっさと捨てて身軽になっとかないと足が付くはずなんだが、テリー・セルバンティスに成りすましてる誰かさんはよほどその金と権力の集まる立場に執着してしまっているらしい。

 

 まあ、全部推測でしかないんだが。ここまで徹底して情報が揃ってしまっている時点で、怪しい。

 むしろこれが欺瞞(ブラフ)で実際にはセルバンティス氏本人が見染めた女性を囲おうとして周囲から反対され、激昂した挙句に排除。それを他人の所為にする為に────にしては、なんか杜撰な計画だな。

 

 

 

 

 

 夜中に活動していたせいで眠気の残る頭を振るいながら目の前に置かれた手役(ハンド)を見て、溜息。

 

「ミリアさん、また私の勝ちですね」

「ええ……そうですねぇ」

 

 開店前の豊穣の女主人。リューさんが店の裏庭で鍛錬してる音を聞きながら、シルさん相手にポーカーを行っていた。

 俺の後ろ側には誰も居ない。他の店員がシルさんに手役(ハンド)を教える可能性があったので『私の後ろに立つな』と最初に宣言させてもらったのだ。その上で不正(イカサマ)の発覚し次第、行った参加者(プレイヤー)の敗北とすると規則(ルール)も設けた。

 当然、進行役(ディーラー)不正(イカサマ)はシルさん側の敗北条件に含まれる。

 だが、まず一つ言わせてくれ、欺瞞(ブラフ)とか仮面(ポーカーフェイス)とか以前に引きが悪すぎてどうにもならん。一番強い手で『スリー・オブ・ア・カインド』とかなんだよ。

 情報屋を一つ潰されて傷心だってのにさぁ。

 

「良い感じニャ!」「このままミリアを潰すニャ!」

 

 其処の猫二匹。少し黙ってくれ。

 進行役(ディーラー)のルノアさんをジーっと睨んで不正(イカサマ)をしていないかを確認してはいる。しかしそういった気配は一切感じない。シルさんが何かしているかと睨むも、其方も無し。

 単純に今日は運が悪いみたいで手の打ちようがない。

 配られた手役(ハンド)を確認すれば────げぇっ!? 『ハイカード』じゃん……運無いなぁ……あ。

 

「やった、同じカードが四枚もあります」

 

 俺の手役(ハンド)は『ハイカード』……役無し。ノーペアである。

 しかし、絵柄(スート)が同じカードは四枚あった。後一枚あれば『フラッシュ』なんだが、それでも欺瞞(ブラフ)として使わせてもらおうじゃないか。

 ニコニコ笑顔で全力で仮面を被ってシルさんを見れば、彼女はジィーッと此方の心の内を暴き立てる様に見据えてくる。ちなみに嘘は吐いてないのでバレる事は無いだろう。

 

「…………」

「…………?」

 

 小首を傾げて反応を伺いつつ、シルさんを見据えると────若干の動揺有り。少なくとも『フォー・オブ・ア・カインド』と同じ、または強い手ではないのだろう。というかそれより強い手なんて『ストレートフラッシュ』しかないんだからまずないだろう。

 

上乗せ(レイズ)

 

 さあ、ベッティング・インターバルの時間だ。乗るか降りるか選ぶが良い。

 俺の賭札(チップ)は既に限界ギリギリ。乗ってくればお終いだが降りてくれれば首の皮一枚で繋がる。

 

「……降りる(フォールド)

 

 たっぷりと時間をかけて此方を読もうとしたが、()()()()()()()()上に胸を張って笑みを浮かべてシルさんを見つめていた甲斐もあってか彼女は迷いながらも降りた。

 よし、シルさんが降りた。なんとか首の皮一枚で繋がったな。

 

「ふぅ、あ、私『ハイカード』です」

「え? ああっ! 同じカード四枚ってそういう!?」

「ミリアが騙したニャ! 卑怯ニャ!」

「いやそういう賭博(ゲーム)だからこれ」

「これだからアーニャはだめニャ」

 

 ────なお、この後また『ハイカード』が出た挙句、一度使った欺瞞(ブラフ)が通じるなんて都合の良い展開はなく、普通に負けた模様。

 

 

 

 

 

「────いらっしゃいませー!」

 

 元気一杯の声が響き渡り、客が来た事が店内に知らされる。

 豊穣の女主人。メインストリート沿いに存在する酒場だ。

 酒場とはいえ、カフェテラスも備えられており昼間は冒険者ではない一般人や、女性客が主な客層となっている、昼と夜で客層が変化する店である。

 やってくる客は主に女性だが、この店のかわいらしい女性達を目的にやってくる神々も数多い。

 

「ミリアちゃんこっち見てー!」「きゃー可愛いー!」「首輪付けて飼いたい……」

 

 おい其処の男神。前も首輪云々言ってた奴じゃねぇか。生憎と飼育される願望なんて無いんだから他を当たれ。

 いくらヘスティア様やベル相手でも首輪付けられての愛玩動物(ペット)扱いは嫌だぞ。

 

「ミリア人気だね、っといらっしゃいませー!」

 

 シルさんに揶揄われながらも首輪云々言ってた神から注文をとろうと注文表(メニュー)片手にテーブルに向かおうとすると、横からリューさんに止められた。

 

「彼の相手は私がしましょう」

「むしろよく近づこうと思ったわね」

 

 ルノアさんに首根っこ掴まれ、子猫の様に別の場所に運ばれながら溜息。小人族(パルゥム)用、というより既に俺専用ともいえる給仕服の裾を摘まんだ。

 こんなかわいらしい服装だから妙な事を言われるんだ。客がしきりに頭を撫でようとしてくるわで面倒くさいし。

 まあ、俺目当ての神々まで来てて普段よりも客入りは良いみたいではあるが、それでも夜に比べれば雲泥の差だ。その所為か店のカウンターで二匹の猫がだらけた雰囲気でぐでっとしている姿が見受けられる。

 

「朝はまだましニャんだけどニャァ~」

「これが夜になると酒に飢えた冒険者どもがなだれ込んできて……」

「はぁ~、憂鬱ニャア」

 

 ルノアさんの袖を引いて指さした先。豊穣の女主人に住み込みで働く同僚の猫人二人がサボってだらだらしているのに気付いて俺を手放し、彼女たちの元へ向かう背中を見送ってから他のテーブルに注文を取りに向かう。

 

「いらっしゃいませー、ご注文はお決まりですか?」

「うーん、迷っちゃうなぁ……とりあえずキミで」

 

 藍色の髪をした清楚そうな女神の言葉に溜息を零しかけ、なんとか笑みを浮かべて口を開く。ちょっと清楚そうな見た目して妙な事口走るのやめてくれ、本気で驚くわ。

 見た目と中身が違う神多すぎる。

 

「私は売り物ではありませんので無理ですねぇ。今日はグラタンとかおすすめですよー」

 

 ミアさんの作る料理はどれも美味しいからね。特に今日のグラタンはエビたっぷりでチーズもたっぷり。賄いとして少し分けて貰ったけど本当に美味しかった。

 だからグラタン頼め、『キミで』とか気持ち悪い事言ってないでグラタンを頼むのだ。

 

「じゃあミリアちゃんおすすめのグラタンで」

「オーダー入りまーす。グラタンをひとつー!」

 

 これ以上この女神とは付き合いきれん。清楚な見た目とは裏腹にその目にはいたずらっ子の様な色合いが宿ってる。揶揄う積りなのか割とガチで俺を狙ってるのかわからないし。

 ふわっと笑顔を浮かべて別のテーブルに向かおうとした所で、店内に似つかわしくない男女を見つけた。

 くたびれた様子の男と、恰幅の良い女性。どちらもヒューマン。四人掛けのテーブルに二人で座っており、どちらも暗い表情を浮かべている。にぎやかな店内に似つかわしくない為に余計目に着いた。

 美味しく料理を食べる人はミアさんに歓迎されるが、あんな暗い表情を浮かべてる客はなぁ。下手すると摘まみだされるし、とりあえず注文を聞くか。

 足を向けて近づこうとした所で、女性の方が男性を睨んで口を開いた。

 

「────じゃあ何かい……あんたはアンナを売ったってのかい!

 

 にぎやかな店内に響き渡る女性の声。その内容に店内に居た客も、店員も、誰しもが動きを止めた。

 一瞬の静寂、それに気付いていないのかその二人のやり取りは続く。

 

「売ったんじゃねぇ……取られたんだ」

「同じことだよ!! だから賭博なんて止めろって言ったのに! この駄目男!」

 

 激昂し叫ぶ女性。不倫による痴話喧嘩かとも思ったが、だとすると『アンナを売った』と言う言葉が若干引っかかる。それに『賭博』という単語。

 アンナ、アンナ…………情報屋から買ったモノの中に似た名前が挙がってたな。『アンナ・クレーズ』と言う女性。ヒューマン、神々に交際を申し込まれる程に美しい人物。

 交易所で取引予定として名が挙がっていた女性だ。確か、決行日は、昨日。日時的に、多分そのアンナ・クレーズの両親だろうか。えっと、記憶違いじゃなけりゃ男性の方が『ヒューイ・クレーズ』、女性の方が『カレン・グレース』と言う名だったはず……主要人物じゃないからうろ覚えだけど、確かそんな名前だったはず。

 しかし、だとすると、なんとも…………まあ…………間が悪い。この店で騒ぎを起こすとヤバいんだよなぁ。

 

「実の娘を質に入れる親がどこに居るっていうのさぁ!!」

 

 女性の叫びが静まっていた店内に響き渡り、ざわめきが起こる。

 穏やかな内容とは言えないそれに動揺した気配が広がり始め、その男女に注目が集まる。ふと、男性の方と視線が合った。

 

「……何見てやがる」

 

 鋭く睨みつけられたため、軽く肩を竦めて近づいて刺激しない様に微笑む。

 

「いえ、何かご注文がおありかなぁ~と、グラタンとかおすすめですよ?」

 

 何処か抜けた、天然っぽい性格を装って宥めようとしたが。彼の額に青筋が浮かび────グラスを引っ掴んで怒声を上げた。

 

「見世物じゃねぇぞ!」

 

 ばっと中身の水がぶちまけられる寸前、注文表(メニュー)を盾にして構えるも余計に飛び散るに終わる。直撃こそしなかったものの、手にしていた注文表(メニュー)はびしょ濡れ。序に飛び散った水が床を盛大に濡らし、俺の給仕服も少し濡れた。

 下手に声かけなきゃよかったかもしれないなぁ。若干後悔しつつも溜息を零す寸前、男は禁句を口にした。

 

「てめぇらは不味い飯でも食ってろ!」

 

 きっと、不幸な事でもあったんだろう。けれど、だからと言って、ミアさんの店で『不味い飯』なんて言っちゃ駄目なんだ。うん……まあ、なんだ……来世では強く生きろ。

 

「お客さぁん……」

 

 ガシィッと力強く彼の手を掴んだのは、ルノアさん。店員としての微笑みが消え去った、怒りの表情で彼を睨んでいる。

 

「騒ぐ様だったらお金置いてさっさと帰ってくんないかなぁ」

「いでででででっ!?」

 

 ミシミシッと骨の軋む音すら響く程の力強さで腕を握られ、男の手からグラスが滑り落ちたのでそれを受け止めてテーブルに置く。その間にも彼の両肩を左右から二人の猫人がガシッと掴んでいた。

 

『おうおう、この床誰が拭くと思ってるニャァ』

 

 サボってる猫人二人ではないのは確かですね。と突っ込みを入れたらきっと流れ弾がこっちに飛んでくるのでとりあえず距離をとって避難。あ、シルさん? 大丈夫大丈夫、ちょっと飛沫が当たっただけでほっとけば乾く程度だよ。

 

「人様んちの食べ物や水を粗末にする奴は────」

「神様に呪われて地獄に落ちれば良いニャ」

 

 肩を掴んだ二人が同時に彼の足を後ろから蹴っ飛ばし、そのまま床に転がした。きっと彼は何が起きたのかわからないだろう、少なくとも俺から見てもかなりの速度で動いてるし、恩恵を持ってない一般人らしい彼では状況の移り変わりが理解できないはずだ。

 

「な……なっ……ぁ!?」

 

 いきなり床に転がされた彼が何が起きたのかわからずに驚愕の表情を浮かべる中、満を持して女将(ボス)が登場した。

 床に倒れた男の首根っこを掴んで持ち上げ、真正面から額を突き合わせて鬼の形相で睨む。

 

「へ……?」

「うちの飯を食ってもないのに不味いなんてケチつけるとは、いい度胸してるじゃないか」

「ひぃぃっ?!」

 

 ミアさんの威圧感に恐れ戦きガタガタと震えだす男性。しかし、気付くのが遅すぎた。既に逆鱗に触れた彼に出来る事は、歯を食い縛る事だけだ。

 

「他の客の迷惑なんだよ、この────アホンダラァッ!!

 

 一人の男が店の正面の大通りに投げ飛ばされる。ゴシャッと盛大に叩き付けられ、勢いのままゴロゴロと転がって大通りの中央で動きを止める。

 一瞬の驚愕に包まれた大通りは、ミアさんの姿を見て直ぐに収まった。この豊穣の女主人という店ではよくある光景だと受け入れられている証拠だろう。

 

「ミリア、怪我は?」

「いや、あの程度で怪我する程じゃないんですけど……」

 

 一応、俺って冒険者だし? Lv.3だし? なんの恩恵も受けてない一般人の攻撃なんて痛くも痒くも無いよ。

 

「流石ミア母さんニャのだ」

「ざまぁみろニャのだ」

「お前達、さっさと片付けな」

『ちぇっ』

 

 猫人二人が片付けを命じられたので、俺は濡れた注文表(メニュー)を日当たりの良い所に置いてから、女性の方に話を伺うべく足を向け────既にシルさんが彼女に話しかけている姿が目に入ってきた。

 

「あの、ちょっと物騒な話が聞こえてましたけど……何があったんですか?」

「…………」

 

 噂好き、というかなんというか。余計な事に首を突っ込みたがるのはどうかと思うんだがね。

 まあ、好奇心旺盛なのは悪い事ではない。好奇心猫をも殺すというし、あんまり物騒な話に近づくべきではないんだがなぁ……。

 シルさん、妙に幅広い伝手があるし、変に関わってこられても面倒といえばそうだが……うぅん。とりあえず話を聞いて、シルさんに釘差しておくかなぁ。後リューさん。

 ガネーシャファミリアの作戦については話せないせいで説明が難しいが、面倒事が起きませんように……。

 




 挿絵ください(ド直球)

 お気に入り、感想、評価、そして推薦。この四つはもう貰ったし、後貰ってないのは挿絵(支援絵)とかですし、絵も欲しいなぁと思いました(小並感)
 まあ、ただでくれって言うのもアレなのでー……そうですねぇ。
 ミリアちゃんの絵をくれた人が望んだ短編を一本書くとか? 例えば、『フィン√』とか、後はー……フレイヤ様の魅了にとろとろにされたミリアちゃん(R18)とか……。希望するシュチュエーションを教えて貰えれば……ガンバリマス(震え声)
 まあ、R18作品は一度も書いた事がないのでクオリティは保証できませんが。

 もし絵を描いたからこんな短編書いてーって人が居たらツイッターの私のアカウントまで連絡いただければぁ……。『レイントード @P38_Lightning_L』までお願いします。



 後はコラボ小説書きたいな、と。オリ主だらけの戦争遊戯? あれは諦めますわ。無理。
 それとは別にオリ主同士の雑談みたいなやつ。どちらかというと、なりきりチャットを小説風に書き直す感じで作るコラボ小説、って言えばいいのかね。
 原作は同じでも違ってもどっちでもオッケー。夢で異世界のオリ主同士が雑談する感じで、目が覚めたら『なんか変な夢見た気がする……』って忘れちゃう感じのふわっとしたやつ。

 同じ原作である『ダンまち』なら

「十八階層では大変だったわ。黒い階層主とか……」
「あー、あれかぁ」
「結晶竜まで出てきて本当に死ぬかと思ったわ」
「え? 結晶竜?」
「ほら、なんか蒼い炎出して結晶化させて殺しに来るヤバい奴よ」
「ナニソレ知らない」
「え?」

 って感じで原作知識有りオリ主が『結晶竜? ナニソレェ!?』となったり。
 オリ主同士、それぞれあった出来事(ストーリー)から差異に関して話したり、どこの世界のベル君も同じ感じだなぁってほっこりしたり。まったりした奴。
 戦闘? 絶対に無しで、おはなしするだけ

 他原作なら『ファミリアって何?』『二つ名? なにそれ痛い』とか話が弾みそう……オリ主が生きる世界観について雑談したりとか。読んでみたいと思ったのでぇ……。

 もしコラボオッケーって人が居たら、ツイッターの方で連絡くださいぃー。

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