魔銃使いは迷宮を駆ける   作:魔法少女()

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第百話

 『焔蜂亭(ひばちてい)』で発生した乱闘騒ぎについて。

 俺はヒュアキントスの蹴りを顔面に受けて昏倒。しかも『のろまだな【ドラゴンテイマー】。まるで虫けらの様だぞ』等と盛大に小馬鹿にされて、である。

 なんかベルも『まだ、撫でただけだぞ?』と煽られたっぽい。俺が倒されてヴェルフが挑み、呆気なく返り討ち。ベルも同じく返り討ちだそうだ。いや、当然だよなぁ……だって相手レベル3だし?

 相当上手く蹴られたのか一撃で意識を持って行かれて転がっていたのだ。んで俺が意識を失ってる間に、どうにもロキファミリアの一級冒険者【凶狼(ヴァナルガンド)】ベート・ローガがアポロンファミリアを追い払ったっぽい?

 詳しくはわからんが、酒が不味くなるから失せろといちゃもん付けたらしい。

 んでヒュアキントスが『ロキファミリアは躾も出来ないのか』と挑発したっぽいんだが……いや、わかるよ?

 一応、あの乱闘騒ぎはヘスティアファミリアとアポロンファミリアの『派閥抗争』だった訳だ。いや、正しくは違うかもしれんが、分類的に『派閥抗争』と言って差し支えない訳で……。

 ロキファミリアは敵も多く、隙を見せる訳にはいかない。

 そこで幹部の一人であるベート・ローガが『気に食わない』なんて身勝手な理由で『派閥抗争』に一枚噛んだとしよう。結果? オラリオ全土を巻き込んだ大騒動に発展する。

 ロキファミリアが気に食わないファミリアが手に手を取ってヘスティアファミリアとアポロンファミリアの抗争を支援し、それを妨害したというとってつけた理由をもってしてロキファミリアを糾弾し、最終的に最強派閥を巻き込んだ大抗争に発展しかねない訳で……。

 要するにベート・ローガは睨み付ける事は出来ても、手を出す事だけは決してできない場面だった訳だ。だからこそヒュアキントスは第一級冒険者相手に強気に出られたのだろう。

 ただ、変に恨みを買う可能性があるのにそこらへん考慮しないのはどうなの? 後から報復されない可能性はゼロじゃないんだけど……。むしろ迷宮内でいきなりやってきて襲撃受けたらヤバいんじゃない? まあ、ロキファミリアに限ってダンジョン内で闇討ちする様な真似はしないだろう。

 ……庇って貰ったとはいえ、お礼を直接言いに行こうものなら逆にぶっ飛ばされかねんなコレ。だって抗争を横から止めて貰った様なもんだしね。お礼言いに行ったら『ロキファミリアが抗争に介入しましたよ』と宣言してる様なモンだし?

 

「『癒しの光よ』」

 

 ヘスティアファミリア本拠、教会の隠し部屋で治療を受けているベルとヴェルフの背中を見ながらも、自身の鼻に回復魔法をかけていく。

 あの変態ホモ野郎、人の顔面を的確に蹴り抜いて来やがった。それも『マジックシールド』が発動しなかった辺り、かなり加減か技量を伴う一撃だったに違いない。目を開けた瞬間に目の前の足を押し出す様な感じで蹴られたのだ。ストロークの長さも全くない一撃だったというのに綺麗に意識を飛ばされ────ついでに鼻を潰され────ぶっちゃけ呼吸がしづらい。折れた鼻を元の形に戻し、回復魔法を何度もかけてようやく治った所で、俺はヴェルフの背中に出来ている大きな痣を指でどついた。

 

「いってぇっ!?」

「ミリア様、何をなさっているので」

「ミリア? どうしたの?」

 

 急に痣をどつかれた事で飛び上がったヴェルフの尻にスパーンッとビンタを叩き込めば、バランスを崩して頭から床に倒れかけて手を着いた。

 

「な、なにしやがる!」

「そりゃこっちの台詞ですよ!」

 

 よくもまぁ喧嘩を買ってくれたなぁ。あの場で喧嘩を買う意味を少しは考えたのか。

 

「なんで喧嘩を買ったんですか!」

「なんでって、お前……『怪物趣味』呼ばわりされてたんだぞ!」

 

 別に良いだろ。何が悪いっていうんだ。

 むしろ意味的にはアレだろ。半人半鳥(ハーピィ)半人半蛇(ラミア)をはじめとした()()モンスターに欲情してしまう異常性癖の事だろう?

 キューイが人型に見えるか? ヴァンが人型に見えるか? というか別に俺は気にしないってのにさぁ。

 

「ミリア君、『怪物趣味』だなんていわれたのかい?」

「え、えぇ……別に私は気にしないんですけど」

 

 地上においては最大級の蔑称を意味する言葉と言われてもなぁ。

 『チビ』とか『貧乳』とかの方がよっぽどムカつくんだが。

 

「というか、私の事は置いておいてですね。あの場で喧嘩を買う意味を少しは考えてくださいよ」

「あぁ? ありゃヘファイストスファミリアの鍛冶師が勝手にやらかしただけで────」

 

 ああ、そういう言い訳をする積りなのね?

 

「馬鹿ですか。あの場に()()()()()()()()()()()()()()()でその言い訳は通じませんよ。しかも()()()()()()()()()()()()です」

 

 つまり、リーダーであるベルが仲間の鍛冶師を(けしか)けたと断定されてもおかしくない処か、傍から見ればそうとしか見えないし、相手がそう言えばその通りになりかねない。

 其の上でヘスティアファミリアの責任問題となってくるのだ。

 

「というかベルは止めるべき立場でしたよ。あそこでヴェルフを横からぶん殴ってでも止めなきゃいけなかったんです」

「でも、ミリアが……」

「たかが侮辱されたぐらいで怒りませんよ」

 

 嘘です。めっちゃムカつくんで殴りたくなりますね。まあ、殴って良い状況じゃなきゃ絶対に手を出さないんだけど……。

 

「ともかく、リリでも私でも貴方でもベルでも、あの場で誰か一人でも喧嘩を買えばその時点で負けだったんですよ」

「待ってください。負けってどう言う事ですか」

 

 リリの言葉に思わず頭を抱えた。

 

「あのファミリアの事、知らないんですか……?」

「あのファミリア? あいつらの事知ってるのか?」

 

 結構有名、だと思っていたがそうか。ガネーシャファミリアと直接やり取りしてる俺だから知ってるだけで、ベル達は知らないのか。

 

「アポロンファミリア、気に入った眷属をしつこく勧誘し、余りにも強引な方法をとる為に街の住民からも数多の苦情がギルドに寄せられ、過去に起こした事件でギルドから受けた罰則数だけで言えばオラリオトップクラスのヤバい所です」

「アポロンだって? 不味いな、確かにアポロンならやりかねない……」

 

 ヘスティア様は知っているのか。だとすると話が早い。

 

「知っての通り、というか今ヘスティアファミリアは他ファミリアから見ると『金持ち』に見えてます」

「それは、むしろなんでそんなにお金が無いのか不思議なぐらいです」

 

 リリの言う通り。借金という不思議なモノさえなければ順当に資金を集め、下手をすれば資金力だけで数千万ヴァリスは余裕で稼げたはずなのだ。他のファミリアはそう思っている。

 

「資金目当てであれ、眷属目当てであれ、目を付けられた事にかわりはありません。面倒事に巻き込まれたんですよ」

「……もしかして、俺の所為か?」

 

 その通りである。言っちゃあなんだが、やはりあの場で喧嘩を買ったのは不味かった。アレの所為で間違いなく『口実』を与えてしまったのだ。それも『言い掛かりに近い正当な理由』を。

 

「はぁ……ともかく、これからアポロンファミリアが何か仕掛けてくる可能性が高いです」

「…………悪い」

「いや、鍛冶師君が謝る事は無いさ」

「ヘスティア様?」

 

 優し気な微笑みを浮かべ、ベルの怪我に丁重に軟膏を塗り込んでいくヘスティア様が小さく溜息を零し口を開いた。

 

「アポロンは面倒な奴でね。しつこいんだ。今回の件が無かったとしても他の所で色々やってくるに違いないよ」

 

 まあ、確かにその通りっちゃその通りか。

 

「とりあえず、この件は此処でお終いにしましょう。他にもいろいろと話さないといけない事がありますし」

「他にもあるのか……」

「リリの件よ、ソーマファミリアが動く可能性が高いわ」

 

 リリがびくりと身を震わせるのを横目にベルを見据える。

 

「今の状況は最悪。ソーマファミリアが『正当な言い掛かり』を付けられる状況なの」

「……うん」

「警戒し過ぎでも足りないぐらい」

 

 アポロンファミリアに、ソーマファミリア。

 片やファミリア単独で階層主(ゴライアス)撃破を可能とする中規模の要注意ファミリア。

 片や規模だけで言えば大規模に片足突っ込んだグレーゾーンをぶっちぎる要注意ファミリア。

 どっちも要注意ファミリアじゃねぇか……。

 

「とりあえず、明日からは急な襲撃に気を付けないといけないわ。少なくとも()()()()()とはいえ()()()()()が相手にあるってのは覚えておいて」

 

 下手な抵抗は事態を悪化させかねない。むしろ『口実』を与える結果になる。

 

 

 

 

 

 コンクリート製の無機質な箱型の建造物、錆びた貯水塔、壊れたフェンス、ミサイルでも撃ち込まれたのか所々に穴の空いた廃ビルの屋上に俺は立っていた。

 

 ────これは、久々に見る夢だな。()()()()() まあどっちも変わりないんだが。

 

『さぁ始まりました決勝戦! 片や連戦連勝! 無敗を誇る最強の狙撃手! 対するは期待を背負う最強のドラゴニュート使いぃっ! 都度十度の決勝戦による彼らの対戦、なんとそのたびにドラゴニュート使いは涙を呑む事となっていた! 今度こそはと勇み挑む大会ぃっ、果たして勝利の女神が微笑むのはどちらになるのかぁぁああ!!』

 

 あぁ、相も変わらず五月蠅い実況だ。耳障りで、スピーカーの音が罅割れる程の大声量で実況する声。まあ、試合開始後は聞こえなくなるんだけど。

 

『では────無敗を背負う狙撃手と、期待を背負う竜人、今ここにミリカン最終決勝戦の開始を宣言しますっ!』

 

 視界に広がる廃ビル。唐突にUI(ユーザーインターフェース)が起動して体力とシールド数値、残魔力量やマガジン数、現コンディションが表示された。

 UI右上の簡易マップに一瞬だけ赤い光点(エネミー)が表示され、消える。方角は覚えた。

 一歩、足を踏み出す。小さな足で既に用を成していないフェンスの残骸を踏み越え、廃ビルの縁に足をかけ────そのまま廃ビルの縁から飛び出した。

 目の前に広がるのは半ば自然に飲み込まれた廃墟と化した都市の姿。ミリカンのステージ名『大自然の廃墟街』だったか。所々に爆発物を受けたのか穴の空いたビルの側面を落下しながら、詠唱を呟く。

 

「『ウィング・マジック』」

 

 魔力が減り、生み出されていく深紅の竜翼と、細くしなやかな尾。竜人としての力を解放し、一気に加速する。

 瞬間、破砕音が響き渡った。ズゥンッという腹に響く重低音、狙撃されてる。加速に加速を組み合わせ、不規則な飛行ルートを一気に駆け抜けながら、さらなる魔法詠唱を響かせる。

 すぐ後ろで響く廃ビルの壁面が粉砕される音。そして遠くから響く狙撃魔法の放つ重低音。風を切る音。狙撃の対象にされていることを知らせる警告(アラート)音。そして当たれば確実な死を与えてくる凶弾が空気を引き裂く音色。

 頭をガンガンとかき混ぜるような音の嵐の中、目を見開いて狙撃者と見つめ合った。────今日こそは勝たせてもらう!

 

「『ガトリング・マジック』『ベルト・マガジン』『リロード』『リロード』」

 

 1マガジン辺り100発。2マガジン同時セットで200発の弾帯式に変化を遂げ、分解されたマガジンが帯状の弾帯となって俺の周囲を漂う。まるで羽衣の様に弾帯を纏い、狙撃位置を睨みつけた。

 一瞬だけ見えた、森に飲まれた民家の間から此方を鋭い目つきで睨みつける狐耳の女性の姿。クーシー・スナイパーのキャラを使っている対戦相手の姿を視認。右手を其方に向けた。

 

「『ファイア』」

 

 放たれるは魔弾の雨、120発/秒という馬鹿げた連射速度(ファイアレート)に強化された最大装弾数200発のガトリングによる掃射。飛行姿勢が大きく崩れかける程の反動を浴びながら────威力・連射に極振りした特化強化の為、反動が劣悪になった影響────まるで雨の様に相手に降り注ぐ魔弾を見るでもなく、僅か1.66秒足らずの射撃で弾丸を撃ち尽くし、空になった魔法が空回りしてキュインキュインと妙な音を響かせる。

 相手の居た位置に大量の土煙が吹き上がり、姿が見えなくなった。────相手をキルした際に響くはずの音はしない。つまり殺せていない。カスっただけで肉体がミンチになる程の威力をもった豪雨に打たれてなお、相手は死んでいない。

 

「『リロード』『リロード』」

 

 装弾しつつも舌打ち。一斉掃射が可能なのは後2回のみ。それ以上撃ちたければ一度引くべき────だが、引けば負ける。

 クーシー・スナイパー相手に姿を晦まされたら後は一方的に狙撃されるのみ。今までずっと、何度も、同じように負けてきた。

 

 ────あの人に会いたい。其の為に勝たなくてはいけない。

 

 瞬間、悪寒を感じ取り翼を大きく羽ばたかせ、横回転。バギィッという激しい接触音と共に翼の耐久が減った。ギリギリ間に合った回転による弾丸弾きによって逸れた魔弾が空の果てに消えて行く。

 急な回転によって視界がグルグル回り────それでも加速する。目標は、殺し損ねた狙撃手。

 腹に響くような重低音、どんなカスタムをすればそんな音になるのか────威力と貫通特化だ。俺の竜翼による防御を難無く突破できるようにカスタムされた、俺を殺す専用の魔法。歯を食いしばった。

 何度も負けた。三年間、一年に4回ある大会。全てにおいて決勝戦に進む度に、お前に堕とされてきた。涙を呑んだ回数なんて覚えてない。今この瞬間に考えるのはただひとつだ、おまえを蜂の巣にして、あの人に会いに行く。

 相手のスナイパー・マジックの装弾数は五発だ。威力と貫通力に極振りしてるなら、それ以上はあり得ない。

 既に一発撃たれ、残りは四発。回避しろ、防げ、全弾無力化しなくていい。最後に体力が1でも残っていれば、俺の勝ちだ。

 

 響く重低音。横回転を交えた飛行で弾丸を弾く。翼の耐久が6割を切った。

 

 響く重低音。翼の先端が大きく弾け飛び、耐久は4割を切った。

 

 響く重低音。尻尾が付け根から引きちぎられ、粒子を撒き散らしながら落ちていく。

 

 響く重低音。最後の弾丸だ、これを回避して、接近して────

 

 ズゥンッと胸を穿たれる感覚。口元が引き攣った。回避できなかった。

 胸から噴き出す様に溢れた光の粒子。その向こう側で相手の狙撃手が肩や胴体から光の粒子を零しながら安堵の表情を浮かべている。

 ちくしょう、あと、相手の残り体力面はわずか3%、幸運の女神に微笑まれたのは、相手の狙撃者だったらしい。

 相手の銃撃が直撃した。心臓を穿ち抜くハートブレイクショット、耐久の低いドラゴニュートでなくとも即死判定待った無しの、完全無欠な敗北。

 

 手を伸ばした。これは夢だってわかってる。それでも手を伸ばした。手を伸ばせば届く距離に、あの人に会いに行けるだけの『理由』があった。

 会いたかった。あの人に、会いたかった。けれど────会いに行けなかった。会えなかった。

 

 

 

 

 

 ギルドのエントランスは珍しく冒険者以外の住民の顔が多くみられた。乱闘騒ぎの次の日に顔を出したギルド内では不安そうな表情を浮かべている者も居れば、目つき鋭くギルド職員を睨みつけて怒鳴っている者も居る。

 カウンターから出てきて笑顔で迎えてくれたエイナさんと談笑するベルを眺めつつも窓の外をちらりと見ていた。漂う焦げ臭い匂い。朝から最悪な夢を見た事で最悪の気分であるのに、更に焦げ臭い匂いで不快度は天元突破する勢いである。

 

「それじゃあ、もう体は大丈夫なの?」

「はい、すっかり良くなりました」

 

 二人の視線も俺が見ている物に向けられたのを見て、口を開いた。

 

「あの、なんか小火(ぼや)騒ぎでもあったんですか?」

 

 オラリオの街並み。何時も通りとはいかず、所々に小火(ぼや)騒ぎでもあったかのように街中の至る所で焦げ臭い匂いが漂っていたのだ。ギルドに来るまでの道中もそこら中とまではいかないものの、結構な頻度で小火騒ぎがあったかのような場所が幾つも散見された。

 

「昨日の夜から朝にかけて、夜中に騒ぎになってたみたい。見ての通り、不安がった住民がギルドに詰めかけちゃって……」

「それで冒険者以外の人が多いんですね」

「犯人は捕まって……ないみたいですね」

 

 何らかの策略を感じる放火だ。この、感覚を……知ってる。あの糞女が敵として動いてる時の感覚だ。

 

「ミリアちゃん? 大丈夫……顔色悪いわよ?」

「え? あぁ、そうですね。あまりにも焦げ臭い匂いが漂い過ぎて、気分が悪くなったかもしれません」

 

 昨日の夢の所為か、朝からあんまり気分が良くない。それに加えてこの焦げ臭い匂いだ。嫌でも気分は悪い方向に転がっていっちまう。

 ────糞女が何処かに居そうな、そんな考えが脳裏に浮かんだ。俺が訳も分からずに憑依転生したんだ、居てもおかしくはない……はっ、笑えない冗談だ。あの糞女がこの世界に? ありえんだろ……ありえんよな?

 

「ミリア、本当に大丈夫? そこの椅子に座った方が良いんじゃ……」

「……すいません、お言葉に甘えます」

 

 ベルに先導されて椅子に腰かけ、エントランス内部を見回す。なんとなく、の行動だ。

 きっと、あの糞女ならこのタイミングで……あぁ、居た。いた、いる、予想通り────記憶の通りだ。不味い、不味すぎるぞ……きっと、この小火(ぼや)騒ぎは仕組まれたモノだ。

 カツカツと、小気味良い足音を立て此方に近づいてくる二人組の女性。

 片や吊り目で気の強そうな短髪の女性。片や垂れ目気味のあどけなさの残る女性。

 ────アポロンファミリアの上級冒険者二人だ。

 肩に着けている腕章。太陽に弓のエンブレム、彼女らはそれなりに名の売れた冒険者だ、知っている。

 吊り目の女性がダフネ・ラウロス。

 垂れ目の女性がカサンドラ・イリオン。

 

「ベル・クラネルとミリア・ノースリスで間違いない?」

「は、はい」

「…………」

 

 喉がカラッカラに乾いて言葉が出てこなかった。

 この、女性を、俺は知っている。アポロンファミリアの冒険者? 違う、前世で糞女が右腕として使っていた奴だ、良く似てる、いや似てない。そもそも別人だし、あの糞女が死んだと教えたら、あの右腕は何処かに消えて行ったし、死体の引き上げでもしてたんだろ。報復も何も、俺が殺した訳じゃないから、恨まれる事なんてありゃしない……助けなかった事で恨まれ……でもそれは……。

 落ち着け。あの糞女がいる訳ない……逆に考えろ、あの糞女がこっちの世界に来てるなら、あの人────父親も来てるかもって……いや、無理。

 

「ウチはダフネ、こっちはカサンドラ。お察しの通りアポロンファミリアだよ」

 

 わざわざ腕章を見せつけてくる女二人。弓矢に太陽のエンブレム……気配は、普通だ。ただ、憐れみを感じた。

 …………気に食わない目だ。

 

「あの、これ……」

 

 差し出されたのは一通の手紙……上質な紙を使った封筒には封蝋。刻印されている徽章は、やはり弓矢と太陽のエンブレム。察するに、招待状か。

 背筋が泡立つ。地獄への招待状だろこれ……。

 

「あの、案内状です。アポロン様が(うたげ)を開くので、も、もしよかったら……べ、別に来なくても結構なんですけどっ……」

 

 阿呆かこの女は。カサンドラだったか? この招待状を破り捨てたらテメェら実力行使に出るだろ。糞、断るっていう選択肢が無い。その上────他の選択肢もことごとく潰して来てる。

 何するにしても、リスクが上回るぞ畜生。自らのファミリアより規模が大きい所相手にする場合、どんな行動もリスクばっかだ。相手の狙いは何だ? 金か? それとも、俺達か?

 

「必ず、貴方達の主神に伝えて。いい、渡したからね?」

 

 念押ししてくるダフネを見上げ、舌打ち。この女、ダフネとかいう奴、前世で糞女が部下として使ってたやつに似すぎだろ。胃がひっくり返りそうだ。

 こちらをちらりと見た彼女の瞳には────憐れみの色が見て取れた。

 

「ご愁傷様」

 

 あぁ、なるほど……()()()()()()()()()

 前世でも、あの糞女の部下の一人に、同じ目で見られた。確か────『抵抗すると被害が広がる。()()()()()はやめた方が良い。諦めて』だったか……。

 日付は、近々……つまり猶予はある。打つ手を何か考えないと……。

 あぁ、畜生。回避しきれない。どう足掻いても力業で押し通される。どうする? どの手を打つ? いや、まだ決まった訳じゃない。とりあえず打てる手は全部打つ、それで……それで?




 毎度、感想・評価の方ありがとうございます。

 ちょっとした連絡というか注意事項。今後、戦争遊戯編が本格的に始まりますが、そこでミリアちゃんの前世の話がいくつか出てきます。
 ついでにいうと、前世のトラウマに近い状況に陥っていきます。

 思いつく限りの抵抗を試み、全てを嘲笑わう様に無力化され。
 最終手段として殺そうとして、呆気なく返り討ち。
 精神的に追い詰められ、最終的に悪魔に魂を売る契約を結ばされる。

 今のミリアちゃんのオラリオ内での噂は『弱い小人』『竜が居て一人前』『竜も実はたいしたことない(ゴライアスに負けてるので)』『竜の素材は高値で売れていくらでもとれる』
 総合評価として『金の生る木』というモノになります。
 前世のミリアちゃんは『金稼ぎの道具』として狙われましたが……今世では……()

 精神的ダメージが大きくなるでしょう。せっかく手にしたモノを、狙われてる訳ですし。しかも一度盛大にぶっ壊されて無くしてますから……。

 とりわけ、アポロンの言動が大きく突き刺さる事になります。シリアスが続きますので注意を。

 最終的に乗り越えて一段と強くなるイベントですのでご安心ください。
 オリ主の精神面強化の為にぶっ叩かなきゃ(使命感)

 ついでにベル君イケメン化するし、もし恋愛√ならここでミリアちゃんが堕ちるんじゃないですかね? 
 ※本作では恋愛√には入りません。

 恋愛√希望の方は別売りのDLCを導入してください

家族√か恋愛√かその他か(※実際に書くのは家族√のみで、アンケートのみの実施となります)

  • 家族√(正規)
  • 恋愛√inベル・クラネル
  • 恋愛√inヘスティア
  • 恋愛√inフィン・ディムナ
  • 恋愛√inその他

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