「大きい……。」
「こ…これが…本当の須佐能乎…。」
俺たちの前に現れた巨大な青いチャクラの塊。胸の辺りがブルルと軽く数回震えた。
「まだだ…。」
マダラが呟くと不安定で揺らめいていた青いチャクラは急速に安定し、形を作っていく。
「…。」
土影様の手がゆっくりと下がる。それも仕方のないことだろう。目の前にあるのは巨人。見た感じ100m以上はある。超大型巨人でも相手にならないだろう。
「くっ…。」
「ここまでの差が…。おじい様はこんな奴を相手に…。」
様々な感情が混じり合った綱手様の声は逆に感情を感じさせないものだった。
ただ、目の前に現れた災厄を見ることしかできない俺たちに向かってマダラが声を掛ける。
「オレを止められるのは唯一、柱間だけだと言ったハズだ。だが、奴はもういない。…それも、お前らにとっては却ってよかったとも言えるかもしれない。なぜなら……。」
須佐能乎は左の側腕で持っていた刀を引き抜き、振り切る。空を切った青い刀はズコドドドドという音を立てながら地面を裂き、山を砕く。
「キャッ!」
「ぐあ!」
その衝撃で俺以外の五人は受け身も取れないまま地面にその身を投げ出す。
「オレ一人分なら…地図を書き直す範囲が狭くて済みそうだからな。」
須佐能乎の中から俺たちを見下ろすマダラの目はとても冷たい。
「これが…うちはマダラ…。なら、何故あの時、ワシらを前に手を抜いた!?」
過去に捨てた己はマダラの全力に全くと言っていいほど届いていなかったことを悟った土影様がマダラに向かって尋ねる。
「砂利と本気でケンカする大人がいるか?そんなことより…もう終わりか?」
マダラは須佐能乎の足を一歩前に進める。そのプレッシャーに耐えきれなかった水影様は後退る。が、一人、マダラに向かって前進した忍がいた。土影様だ。
「ワシらはまだ道に迷うてばかりじゃが、今、やっと道を見つけられそうなんじゃ!こんな所で…。」
「この須佐能乎は破壊そのもの…。その一太刀は森羅万象を砕く力を持つ。あの尾獣にすら匹敵する、な…。お前らの道、諸共砕け散れ。」
須佐能乎は天に向かってその右手を掲げる。その手に持つ刀を振り下ろせば、俺たちの体はバラバラになるだろう。
「土影様…。残念だけどここまでのようです。」
「黙れ、水影!」
諦めの言葉を口にした水影様に雷影様は怒鳴るが、その声はいつもと比べて少し小さい。彼もまた、この状況は敗北に繋がっていると分かっているのだろう。
「ワシはまだ諦めんぞオオ!」
自らを鼓舞する雷影様の横で綱手様は印を組み、迎撃態勢を取る。流石は木ノ葉の三忍。雷影様より長く生きているだけはある。
今にも振り下ろされそうだった青い刀。しかし、その形が揺らめいたかと思うと、その体は崩れていく。
「ん?どういうことだ?…術者に何かあったか?」
須佐能乎が完全に崩れ、その中から光を発したマダラが現れる。
「穢土転生破れたり。」
マダラに向かってニヤリと笑みを見せる。
先ほどの携帯電話のバイブレーションで穢土転生が解術されたという連絡が影分身体から来ていた。それにしても、少しタイムラグがあるのは厄介だな。すぐに消えてしまえばよかったのに。
「何だと!?」
「一体、誰が…?」
「うちはイタチです。詳しいことは戦争後に説明しますので、今は前を。」
促すと五影全員は俺からマダラへと視線を移す。
そう…。穢土転生が解けたからといって終わりじゃない。追加の連絡がないということは、原作通りに進んでいるということ。戦争はまだ終わっていない。
そして、それは俺の計画の流れに完全に沿う状況だ。次のフェーズへと移行しているハズだ。こちらも作戦通り進めて置かないとな。
マダラに向ける視線をより強いものにする。
「お前の側にもやれる忍が居たようだな。…仕方ない。」
足元を軽く蹴り、宙へと跳び出したマダラはすぐに術を発動させる。
「火遁 龍炎放歌の術!」
マダラの口から龍の形をした炎が六つ飛んでくる。俺が印を組む前にタンッと後ろから音がした。綱手様だ。
俺たちの前に踊り出た綱手様は素手で龍炎放歌の炎を殴り飛ばす。
「火影様!」
「大丈夫!」
綱手様の身を投げ打つ攻撃で時間は切れた。マダラの穢土転生の体から魂が抜け出ていく。と、思ったが抜け出た魂はすぐさま穢土転生の体に戻り、須佐能乎を展開させる。
「!?」
須佐能乎を動かし、チャクラが切れた綱手様に攻撃を仕掛けるマダラ。目の前まで迫ったマダラの須佐能乎が持つ刀が綱手様の体を貫こうとする瞬間、チャクラが切れていた綱手様の体に魂が入り込み、チャクラを得た綱手様の体はその攻撃を軽々避ける。
「今のは…?」
「完全に意識を失っていたハズじゃ…。」
綱手様を助けようと飛び出した雷影様と土影様は不思議そうに綱手様を見る。
「生気が戻ったな…。チャクラを貰ったか?」
「ちょっと昔の知り合いに会ってな。」
会う前に鬼籍に入られていたダンさんのことだろう。シズネの叔父だということと綱手様の恋人ということで会ってみたかったが、時の流れには輪廻眼といえど逆らうことはできない。残念だ。
「…ヨロイ!一体、どうなっている!?」
睨み合うマダラと綱手様を横目に雷影様が俺に尋ねる。大方、穢土転生の解除についてだろうと当たりを付け、俺は口を開く。
「まぁ、穢土転生をマダラは解除したのでしょう。穢土転生は印を組めば、術者のコントロールから抜け出すことができます。穢土転生が解けた後、コントロールが解け穢土にいられなくなる前に印を組めば穢土転生のコントロール権を自分に移行することができるので、マダラはそれを利用したって所ですね。」
「そうだ。…死なぬ体、無限のチャクラ。それが制御不能で動き出す。…術者に言っておけ!禁術を不用意に使うべきではないとな!」
マダラの体が罅割れていた肌、酷い乾燥肌かな、からキレイなものへと変わっていく。より緻密にチャクラをコントロールし、生前と変わらない肌の質感を取り戻したマダラ。世の女性たちの憧れだろう。
「…こんな…ことって…。」
「この程度の術で縛られるオレではないことは、闘っているお前らなら納得いくハズだが?」
水影様を見遣るマダラ。水影様から視線を外したマダラは言葉を続ける。
「さて…。須佐能乎完成体。アレを目にした者は死ぬと言われている。一度引っ込めてしまった以上、二度も出すとなると…少しみっともないな。」
マダラは少し目を閉じ考え込む。
「邪魔が入って興が削がれた。そろそろ九尾を取りに行ってもいいのだが…。」
その言葉を聞いた土影様はマダラの目の前へと自らの体を浮かび上がらせる。
「土影様!もう私たちでも太刀打ちできる相手ではありません!」
「それでもやるんじゃ!ここでこいつを止めねば……。」
マダラは不遜にも両手を腰に当てる。
「醜いな……。」
「同感だ。」
マダラはゆっくりと俺に顔を向ける。
「『勝てない、諦めよう』とか『勝てなくても、諦めない』とかそんな意識はいらない。『勝つまで諦めない』ってことが大切なのに、負けることが前提となっているのは精神エネルギーに響きます。忍は常に冷静でなくてはならない。…違いますか?」
「…。」
「俺が陽動として攻めます。…この攻撃が最期になるでしょう。俺の攻撃の後、すぐに封印に入ってください。では…」
右腕に銀色のカラクリを纏わせる。マダラに向かって地面を蹴り出しながら声を上げる。
「地獄行きのチケットをご用意しております!是非、ご利用くださいませェ!」
+++
「サスケェ…。オレオやるよ、オレオ。」
「いらん!」
サスケが俺を怒鳴りつける。
「…ヨロイ。オレはどうしたらいい?」
「それは自分で考えな。しっかり考え抜いて行動しないと後悔するぞ。」
「…。」
宙に視線を巡らすサスケ。
すると、何の前触れもなくドカッという音と共にサスケの近くの洞窟の天井が崩れた。
「見ィーつけた!…ってヨロイさん!?」
「久しぶりだな、水月。それに重吾。五影会談以来か。あれ?久しぶりってほどじゃないな。」
「あ、そうですね…ってそうじゃなくてェ!なんでヨロイさんがサスケといっしょに!?」
「ん?やきもちか?」
「違います!」
流石、音隠れでも数少ないツッコミ属性持ち。ガンガンツッコんでくれる。
「ヨロイさん。アンタ、オレたちの敵でしょ?なんでサスケといるんですか?」
「共通の敵が居たからな。そっち見てみ。」
「うげ!大蛇ま…ん?カブト?」
「そう、カブト。“暁”にカブトまで入りやがった。しかも、カブトのヤロー、穢土転生まで使ってくるときた。それで、穢土転生を止めようとカブトの捜索をしていたらサスケとイタチがカブトを追い詰めている場面に出くわした訳だ。」
「…それで、ヨロイさんはサスケに手を貸さずに後ろの方で見ていただけですか?」
「お前、エスパーか!?」
「やっぱり…。」
ハァと呆れたように肩を落とす水月。ちょっとイラっときた。
エメラルド編集部にぶち込んで恋愛漫画の編集にしてやりたい。
「水月。今更、何の用だ?」
まぁ、それは置いといて、だ。
サスケが水月に問いかける。
「うん!そうそう、それがその…。凄いのアジトで見つけちゃってさ。君に渡しに来たんだよ。」
「イタチとお前がカブトの穢土転生を止めたということで間違いないか?」
「ああ。」
「だが、マダラとかいう穢土転生は止まっていないようだぞ。」
「!…そうか、止まっていないのか。」
重吾は傍に来た鳥を見ながらサスケに言う。
ちなみに、重吾は呪印の力で聴力を強化することで動物とのコミュニケーションが取れるという特殊能力まで持っている。小さくなったり大きくなったりと体は変化するし、まるでどこぞのチョッパーのようだ。
「ボクとサスケが話してんの水差さないでくれる?」
「やっぱりやきもちじゃねェか。」
「違います!…ってそんなことより、コレ!見てみてみ!」
水月は巻物をサスケに差し出す。
それを広げ、目を通していくサスケに水月が興奮しながら言う。
「なっ!凄いでしょ!?これがあれば、ボクたち“鷹”がこの忍の世界を…。」
「…これだ。」
「?」
「全てを知る人間。…取り合えず、会わなければならない奴ができた。オレは行く。」
「え?…誰?」
「大蛇丸だ。」
「はぁ?」
「ん?」
慌てた声で水月はサスケに身振りを交えながら反対する。
「何、言ってんの?大蛇丸は君がぶっ殺したハズじゃ…。ボクは君がこれを…。」
「あのしぶとい男のことだ。あれくらいで消え去るものか。そうだろ、ヨロイ?」
「まぁ…大蛇丸様を生き返らせる方法は少ないがあることにはある。」
「あの胸クソ悪い大蛇丸に会ってでも、やって貰わなければならないことがある。……一族、里、全てを知る人間に会いに行く!」