一流の銅ヤロー   作:クロム・ウェルハーツ

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@93 うちはマダラ 6

きっと、この場にいる五人はそう思っていただろう。

 

「柱間が使っていた木遁分身だ。よくできていてな…かつて、敵としてこれを見抜けたのはオレだけだった。この瞳力でな。」

 

木から浮き出るように隣に現れたマダラが身を“く”の字にしている俺を見下ろす。

 

「ん?信じられないという表情をしているな。だが、これが現実だ。輪廻眼を持っていても、避けようのない攻撃は避けられない。この力を上回る者には勝てないのさ。…それに、オレはお前に言ったハズだ。“殺す”、と。」

 

そう言ったマダラの顔は得意げになっていた。

 

「さて…これで他の奴らも終わりだな。」

「『殺す』…そんな言葉は使う必要がねーんだ。なぜなら、オレや、オレたちの仲間は、その言葉を頭の中に思い浮かべた時には!実際に相手を殺っちまって、もうすでに終わってるからだッ!だから使った事がねェーッ!……と、言って俺がお前の後ろから襲い掛かると思ったのか?」

「ほぉ、よく分かっているな…ヨロイ。そして、その通りに動かなかったお前を誉めてやろう。」

 

写輪眼持ちに、いくら速い動きで変わり身の術をした所で見破られるのが道理。しかも、今回は丁寧に1/1スケールの俺の人形を使った“ただの”変わり身の術。会得難易度が最低の術がマダラに効くとは最初から考えていない。ただのお遊びだ。

後ろに居た俺に向き直るマダラ。しかし、それが命取りだ…ってそうじゃなかった。

 

「塵遁 原界剥離の術!」

 

後ろから土影様が放った術を餓鬼道で吸収するマダラ。

 

「ボケたか、オオノキ。輪廻眼は全ての術を吸収する。オレのその手の忍術は通じない。オレを殺るなら直に殴り倒し、封印するしかないと分かっているだろう?」

「さっきはワシの塵遁でお前の左肩をかすめた。これで殺れない訳ではない。」

「あれか…。あれは柱間の顔をお前らに見せつけたくてな。お前らの士気を下げてやるつもりだったんだが…逆に士気を上げてしまったようだな。」

「一つ質問をする。」

 

綱手様がマダラに尋ねる。

 

「木遁分身で私たちを出し抜いたことには変わりはないが…」

「俺は出し抜かれてませんよ。俺は。」

「…変わりはないが、見方を変えれば分身をして身代わりを出さなければいけないほどに追い詰められたとも言える。違うか?」

「……流石に六対一だからな。」

 

俺の発言を無視して話を進める綱手様とマダラさん。何か悔しい。

 

「六対一でも勝たなくてはならないの!卑怯とは言わないでくださいよ…。それだけアナタの強さを認めてあげてるってことですから。アナタはうちはマダラです。」

 

暗殺、諜報、恐喝など後ろ暗い任務を行ってきた俺には耳に痛い水影様の言葉だ。多人数で一人を狙うことなど、あまり卑怯に感じなかった俺は少し凹む。

 

「卑怯とは言わぬ。六人で一人。遊ぶにはちょうどいい数だ。…多重木遁分身の術!」

 

総勢37人のマダラが俺たちの前に現れる。そして、六体1チームとして、俺たち一人一人の前へと移動してきた。

 

「これで六対一だ。…卑怯とは抜かすなよ。お前たちを認めてやっているということだからな。…さて、一つ質問をする。」

 

マダラは養豚場のブタでもみるかのように冷たい目で上の方から俺たちを見下ろす。

 

「おまえの次のセリフは『そいつら分身が須佐能乎を使う使わない…どちらがいい?』という!」

「そいつら分身が須佐能乎を使う使わない…どちらがいい?…貴様、またか。」

「またまたやらせていただきましたァン!」

 

つって、マダラをおちょっくっても状況は変わらない。

そう…。もう既に結末は決まっている。

 

+++

 

「穢土転生の術者を殺してしまっては術は永久に解けない。まずはこいつをオレの月読に掛け、その術を止める方法を聞き出す。…そして、月読に嵌めたままこいつを操りオレがこの術を解く!」

「流暢にボクの倒し方を喋ってくれちゃって。口ほどうまくいくといいけど、この術には弱点もリスクもないってさっき…」

「どんな術のも弱点となる穴がある。この術の弱点とリスクは…」

「…?」

「このオレの存在だ!」

「そして、俺の存在だ!」

「馬鹿言え。この俺の存在だろう。」

「お前みたいな奴には任せておけない。…代われ。そう、この俺の存在だ。」

 

前の三人が驚いた表情で見てくる。そんなに驚かないでも…。

 

「これはヨロイさん。お久しぶりです。」

「おう!久しぶりだな、カブト?すっげー顔、変わっちゃってるけど…歯に衣着せぬ言い方をするとブサイクになっちゃってるけど、整形に失敗でもしちゃった?」

「アナタが大蛇丸様の遺志を裏切り、保身に血道を上げている間、ボクは修行を続け大蛇丸様の遺志を完全に継ぎました。その成果がボクの体に顕れています。」

「そうか、頑張ったんだな、カブト。まぁ、お前は一旦、置いといてイタチ。お前も顔、変わったな。まるで死人みたいな顔色をしているぞ。」

「…オレは穢土転生された死人ですので。」

「それに、生前は『このオレの存在だ!』って自分アピールするような奴じゃなかったのに。でも、自分をアピールすることも必要だしな。…忍以外の職に就くような奴ならな。」

「…。」

「そして、サスケ!」

「なんだ、ヨロイ?」

「一目見たら分かった。お前強くなったな。」

「…は?」

「チャクラの質が格段に良くなっている。熟練の忍と比べても遜色ないほどだ。だから、ここはお前に任せていいか?いや、お前とイタチでカブトを止めて欲しい。」

「お前はどうする?」

「俺は飛雷神の術でここから出る。アンコと一緒にな。」

 

長々と時間を稼いでいたが、それももう終わりだ。カブトの後ろのアンコの体が消える。それと同時に俺の横にいた二体の分身の術も煙となって消えた。

 

「何ッ!?」

 

ここに入る前に予め作っておいた影分身が人間道の気配遮断を使い、土の中を土遁 土中映魚の術でアンコの近くまでカブトに感知されないように進み、アンコに触れたと同時に飛雷神の術で時空間移動したという訳だ。

感知系の忍術ではチャクラ感知しか行うことのできないカブトにとっては何が起こったのか完璧に把握するのは難しいだろう。だが、彼とて一流の忍である。俺の後ろにいる俺の影分身とアンコを見て“誰が”原因なのかはキチンと把握することができたらしい。

 

「やれやれ、兄弟と…そして、師弟で仲間外れですか。面白い。」

 

蛇を巻き付け、長い舌を口から出すカブトの姿は純粋な子どもが見たら間違いなくチビる。それぐらいの迫力が彼にはあった。それに気が付いたのか、カブトはフードを深く被り直し、自分の顔を隠した。

 

「ボクみたいなインテリはじっと見つめられるのに慣れてなくてね…。」

「行動派なインテリもたくさんいるからインテリが人見知りだというのはやめた方がいいと思うけどなァ。どっちかっつーと…お前、根暗じゃないか?」

 

蛇が俺に向かってシャーッと牙を向く。

 

「あの蛇たちの動き、オレたちをちゃんと感知しているぞ…。」

「蛇は体温感知と舌で匂いを口内に送り嗅覚感知もする。」

「随分、勉強したな。まるで蛇博士だ。」

「調べたさ…。大蛇丸を倒すためにな。」

「でも、ただの蛇博士じゃあないよ。ここのカブトはただの蛇博士じゃあないよ!」

「?」

「ヨロイがこう仰々しく身振りをしている場合は意味のない行動だ。おそらく、アンタの蛇博士というワードが気に入ったのだろう。気にするな。」

 

サスケめ。的確に俺の行動を読んできやがる。敵じゃなくて良かったよ、ホント。

 

「さて、ここはうちはの兄弟に任せるとして、俺は外で待っておく。お前たちがカブトを倒した後に戻ってくるから後は頼む。」

 

影分身からアンコを受け取り、肩に担ぎ直す。すると、イタチが振り向いた。

 

「ヨロイさん。一体、アナタはどちらの味方なんですか?」

「イタチ、お前のことだ。俺がカブトたちか、それとも、カブトたちと敵対する側かは分かっていると思っていたけどな。」

「ええ、分かっています。これまでの会話から、アナタがカブトと敵対していることを。しかし、オレにはまだアナタが隠していることがあると考える。ヨロイさんとチームを組んだのは随分と昔のことですが、アナタが自ら前線に出る時は決して一人では行動しなかった。それなのに、今はこうして一人で行動している。何か他人に知られたくないことがあるから一人で動いている。」

「…。」

 

そこまで分かっているとは…。確かに連合軍からすれば、俺が企んでいること、ぶっちゃけると大蛇丸様の復活は認められないことだろう。あの人は“暁”の正メンバーで更に大犯罪者。戦争が始まる前から連合軍のために働いていた俺とは背景が違う。大蛇丸様を信用して共に戦うということは軍の士気的にも決して認められない。

俺が隠していることを見抜くとは大した奴だ。

 

「違いますか?」

 

イタチが俺に問いかける。誤魔化そうと口を開くと、サスケの声が俺より早く飛び出た。

 

「イタチ、目の前に集中しろ。ヨロイのことだ。オレたちがカブトを倒すことで何らかのメリットが奴にあるんだろう。そして、ヨロイはメリットがある限りは裏切らない男だ。奴の策に乗るのは癪だが、ここはカブトを倒すぞ。」

「そうだな。…行くぞ!サスケ!」

「ああ!」

 

二人の体から噴出したチャクラを見て、俺は瞬身の術で洞窟の外へと向かう。

 

「さて、と。後は結果が出るまで待つだけだな。」

 

洞窟の中から聞こえる音を聞きながら、俺は笑みを深めた。


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