痛いほどピリピリとした空気が俺たちを包む。そして、その空気の中心にいる人物が口を開いた。
「ちょうどいい……。これぐらいでなければ試し甲斐がない。」
マダラの一言が開始の合図となった。
「土影と風影のチャクラを私とヨロイで回復させる!少しの間、時間稼ぎを頼む!」
「行くぞ、水影!」
「ハイ!」
すぐさま俺たちは行動に移す。俺は土影様の背に、綱手様は我愛羅の背に手を当て、チャクラを送り込む。
先ほどの食事でチャクラは回復した。これなら、大技を連発しない限りは大丈夫だろう。
腰の辺りを重点的に土影様を回復させていると、隣にいた四人の忍、ドダイを中心としたフォーマンセルが二代目土影を封印するためにこの場を離れた。それに続いて、次々と第四部隊の忍たちが戦場から離れていく。俺たちがマダラを止めている隙にオビトを狙うというシカクさんの作戦に従うためだろう。しかし、まだ残っている忍が一人いた。ナルトだ。
「綱手のバアちゃん!オレも回復、頼むってばよ!分身でもまだ消える訳にはいかねェ!…ここでオレもッ!」
「ナルト。ここは俺たちに任せとけ。お前の本体に伝言を頼む。マダラと名乗っていた面の男が自分のことを好きに呼べって言った時は『フレンチクルーラー』って呼んでやれ。」
「え?あ、うん、分かったってばよ。けど、何でオレはここで戦っちゃいけねーんだよ、ヨロイの兄ちゃん!」
驚くナルトに前を向いたまま土影様が答える。
「この戦争はもう“お前を守るだけ”のものじゃねーんじゃぜ。」
「?」
水影様の攻撃から須佐能乎で抜け出したマダラはこちらを見る。
「雷遁の瞬身に溶遁の血継限界か。攻めはなかなかだが…」
マダラの須佐能乎の手に青色の勾玉が数珠繋ぎとなって現れる。
「…守りはどうだ?」
ドドドという重く鈍い音が響くが、俺たちにはそれが届くことはなかった。飛来した勾玉は土影様の岩のゴーレムに我愛羅の砂の盾が防いでいた。
「この戦争はもう“皆で守り合う”戦いじゃぜ!」
「なら、オレだってここでマダラを!」
「砂と岩の二重防壁か…。これもなかなかだな。」
「来るぞ!ここからは攻めに回る!水影、雷影!すぐ耳を貸せ!」
ナルトの声は楽しみ始めているマダラには届かないらしい。すぐさま攻めてくるマダラを迎え撃つため、土影様は指示を飛ばす。
「水影!」
「水遁 霧隠れの術!」
視界が白い霧に包まれる。その中で土影様の声は響いた。
「やるぜ、雷影!」
「おう!」
雷遁チャクラモードと土遁 軽重岩の術で今まで以上の速さを手に入れた雷影様は邪魔だと言わんばかりに通り道にいたカブトin二代目土影を殴り飛ばし、一回、フェイントをかけ、マダラの背後へと回り込む。
「超加重岩の術!」
土影様の術で重みを増した雷影様の拳が須佐能乎を纏ったマダラを弾き飛ばす。
「聞け、ナルト!バラバラだった忍の里々も今、ワシと同じように連合として連合の仲間を守り合うため一つになり、これまでと変わろうとしている。ならば…憎しみを生んできた忍の世の
フワフワと浮きながらこちらに来た土影様がナルトに向かって話す。
「こっちのマダラはワシらにまかせい!必ずケリをつける!それが、これまでの憎しみの呪いを止める一歩となる!マダラと同じように、かつて憎しみを生み出してきたワシらには…そうしなければならない責任がある!ここは安心してワシらに任せろ!じゃから…あっちのマダラはお前に任せる!それが、これからの希望を進める一歩となる!」
土影様に続き、綱手様もナルトに言葉を掛ける。
「古い奴、新しい奴。どっちのマダラにも勝つことが、この戦争の終わりを意味する。私たちはこの戦場でお前を守る。だから、お前も向こうで戦い、私たちを守れ!分身ナルト…お前に私たち忍連合からこの言葉を預ける。」
ここにいる六人で一斉に言葉をナルトに授ける。
『勝つぞ!!!』
ナルトは一度、俺たちを見ると、影分身を消した。
「話は終わったか?」
俺たちの目の前にマダラが降り立つ。
「待ってくれてありがとうございます。待ってくれたついでにそのまま冥土にお帰り頂いてもよろしいでしょうか?」
「断る。」
マダラの目が細くなり、彼の両手が目にも止まらないスピードで動く。俺も同時に印を組む。そして、術の発動は俺の方が少し早かった。
「土遁 地動核!」
「火遁 豪火滅却!」
うちはマダラとはいえ、突然、足場が崩れたら術を外すのは自明の理。マダラの攻撃は空へと流れた。
マダラの攻撃で五影たちの目が真剣な物に変わる。次いで、全員が散開し、マダラの次の攻撃に備える。俺は一人その場に残り、ポーチから特殊な造形物をマダラに向かって投げた。
「!」
「喝!」
「くっ!」
マダラに“それ”が気づかれた瞬間、遠隔操作でそれを爆発させる。
昔、俺が“暁”に居た時にデイダラから貰った一品だ。爆発で生まれた衝撃はマダラを吹き飛ばすが、マダラは修羅道の
「土遁 地動核!」
土影様が術を使うと、地面が持ち上がり戦場を変える。これまでの平面での戦いから立体への戦いへの移行。それは、死角が多くなり写輪眼の長所を潰す結果となる。しかしながら、相手は歴戦の忍。すぐに体勢を立て直したマダラは大きくせり上がった地面の上に立つ土影様に顔を向ける。
「火遁 豪火滅却!」
「土影様!危ない!」
「!」
俺の忠告よりも先にマダラの術が土影様の足場となっている巨大な土の柱に当たり、それを焼き壊す。
「そんなものか、オオノキ?」
「まだじゃぜ!」
足場を失い、宙に放り出された土影様だったが、投げられた石のようにくるくると舞う自らの身を顧みずに印を組む。
印を再び組んだ土影様が術を発動させると、マダラの足場が地動核で動き始めた。
「飛雷神の術!」
予め五影には俺のマーキング付きクナイを持たせている。土影様の元に飛び、彼の体を受け止めて地面を足で削りながら着陸する。
マダラの方を見ると、白い線が岩を砕きながら彼に襲い掛かっていた。地動核でマダラの死角に入っていた水影様の水遁 水断波だろう。
咄嗟のことで餓鬼道ではなく、須佐能乎を使い自らの身を守るマダラ。…これは使えるな。
土影様を下し、印を組んで術を発動させる。
「水遁 爆水衝波!」
口から大量の水を出し、辺りを水場に変える。これで、火遁を好んで使うマダラには不利なフィールドになった。
須佐能乎を維持したまま水面に降り立つマダラの周りには、いくつもの八坂ノ勾玉が浮かんでいた。
「フン!」
放たれる八坂ノ勾玉は、砂に乗りマダラに近づいていた我愛羅に襲い掛かる。
「くっ!」
乗っていた砂を操作し、円を描くようにマダラから我愛羅は距離を取る。空気との摩擦で熱を持ち、オレンジ色に光る八坂ノ勾玉を避ける我愛羅が移動した軌跡を描くように水面に白い波が現れる。
「なかなか素早いな。」
自分自身に注目させた我愛羅は右手をマダラに向ける。
「砂を遠距離忍術で当てようというのか?その位置からでは届かんぞ。」
何を仰るウサギさん。我愛羅が狙っているのはそうじゃない。我愛羅が右手を上に向かってくいっと上げると、水中から大量の砂が飛び出た。
「!?」
その砂は動きを封じるように須佐能乎の両手を覆い、二本の砂の帯がクロスしてマダラの須佐能乎に取り付く。そして、動きを止めた須佐能乎の前に閃光が降り立った。
「オラァ!」
雷影様がマダラの須佐能乎に拳を繰り出すが、青い壁に目立った変化は見られない。
「オラッ!」
右手を握りしめ、飛雷神で雷影様の元に飛び、目の前に立ちはだかる青い壁に俺も拳を突き出す。
「オラ」「オラ」「オラ」「オラ」「オラ」
俺と雷影様の掛け声が
『オラオラオラオラオラオラオラ』
『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァーッ!!!』
最後に雷影様と同時に須佐能乎を蹴り上げ、その場を離れる。と、余裕を保っていたマダラの表情が少し強張る。
「!」
今頃気づいても少し遅い。
「ハァアアアアア!」
綱手様の雄叫びが木霊する。上から綱手様の桜花衝が須佐能乎の背中に入り、それを水面、そして、水で覆われていた地面へと叩きつける。
攻撃が終わった綱手様が上から俺たちの横に降り立つと、その衝撃で水が円形に弾けてその下の地面が一瞬だけ現れた。
「やったか!?」
…綱手様。それ、やってないフラグッスよ。
「その程度ではないだろう?もっと俺を楽しませろ!」
愉悦に震えた声が通る。
声の方向を見ると、色々と凄い笑顔のマダラが立ち上がっていた。
修羅道の
⇒地面に打ち込むことで体を固定する効果がある術。ナルトのオープニングで使われていたニワカ雨ニモ負ケズのアニメーションでマダラが使っていた術を自分なりに解釈し、名前を付けた。名前は日本神話の
土、そして、解釈によっては耕作の神ということで鍬に似た使い方もできるこの術の名前に決定したが、この神の産まれ方は現代人には少し受け入れがたいものかもしれないので検索は非推奨である。