封印した金角の封印架を銀角の封印架の隣にザクッと突き立てる。地面に差し易いように下の方を尖らせて置いて良かった。それにしても、十字架か…。大蛇丸様が生き生きしていた時を思い出すな。
人体実験が趣味の大蛇丸様は度々十字架に実験体を括りつけて、動けない実験体たちに色々な外傷を与えた後のデータを取っていた。重度の火傷でビクンビクン痙攣している検体のバイタルチェックをしながら俺は大蛇丸様に聞いたことがある。
「なぁ、大蛇丸さん。なんで俺は忍なのに人殺ししてんだ?」
「忍だからでしょ。」
そっけなく大蛇丸様は言い放った。きっとそんな大蛇丸様は家族とコーヒーを飲むくらいの幸せを願ってはいけない存在なのだろうと幼心に思ったものだ。
止めよう。これ以上思い出しても胸糞悪くなるだけだ。話を戻して…。
こうやって金銀兄弟の十字架を並べて置けば、オビトは分かり易いし神威でちょっとこっちに来てちょっと吸い込むだけで九尾のチャクラを手に入れることができる。そうすることで、外道魔像を戦場に投入しなくとも九尾のチャクラを取れるってことで、連合軍の被害を減らせる。
計画は順調に進んでいる。
笑みを浮かべた俺に向かって来るチャクラを感知した。これは…。
クナイを取り出し、両手に構えながら後ろに向かって振り下ろす。
「久し振りだなァ…アスマ。」
「悠長に挨拶している場合か!早くオレを止めろ!」
「俺が木ノ葉を抜けてから会ってないのに辛辣だな。」
アスマが振るうクナイをクナイで弾く毎に火花が散る。
「早くしろ!お前を殺そうとする体を止められん!くっ、避けろ!」
アスマは印を組み、口内にチャクラを溜める。
「火遁 灰積焼!」
俺の周りに灰が舞い、視界が白に染まる。カチンという高い音がしたかと思うと、白だった視界が赤になり轟音が響いた。
火遁 灰積焼。アスマの得意忍術の一つだ。広範囲に広げた灰に火を付け、粉塵爆発を起こす術。その威力は起爆札以上。普通に喰らったら、全身大火傷は免れない。
「ヨロイ!」
「ギャアアア……と言えばいいか?残念だが、チャクラの鎧を纏っている俺には効きはしない。」
チャクラの鎧を解きながらアスマに向かって言い放つ。
「違う!避けろ!」
「!?」
爆炎の中に影が躍る。
そうか!今のアスマは穢土転生体。多少のダメージは無視して行動できる。そして、俺はチャクラの鎧を解いている上に咄嗟のことで体が上手く動かない。脳だけが動きを早めるが、体の動きは緩慢だ。体は動かないのに、目の前の景色がゆっくりと動いていく。
既に目の前まで接近していたアスマは低い姿勢で俺の胸元にクナイを突き付ける。
クソッ!これは避けられない。間違いなく……死んだ。痛みが胸に走る。
「ウオオオオ!」
俺がそう思った瞬間、雄叫びと共に炎の中から岩石で覆われた腕がアスマを吹き飛ばした。
「ヨロイ!無事か!?」
「ナイスタイミングです……黄ツチさん。」
炎の中から現れ、アスマを殴り飛ばしたのは第二部隊部隊長の黄ツチさんだった。
黄ツチさんのフォローがなければ死んでいた。……油断したな。
相手はアスマ。火の国大名の直轄部隊、守護忍十二士の一人だ。
左手を右の胸に当てる。
深くはない、しかし、決して浅くない傷を、チャクラを込めた指でなぞっていくと傷が塞がっていく。
「ヨロイ、大丈夫か?」
「ええ…。少々ショックでしたが戦闘には問題ありません。」
右手を自分の背中に回してポーチから丸く、小さな玉を二つ出す。それを操作し、アスマに見えないようにゆっくりと足元に移動させながら口を動かす。
「アスマ、悪いな。これからは戦いに集中する。ああ、言い忘れていた。紅からの伝言だ。『ミライの顔も見ずに逝くアナタは許さない。謝りに来なさいよ。』だとさ。」
「…ヨロイ。紅にこう伝えてくれないか?『謝りに行ったらお前が泣いてしまうから行けない』と。」
「分かった。この戦争で俺が死ななかったら伝えておくよ。」
「ああ、頼むぞ。……ヨロイ。」
「なんだ?」
「“あの時”の答えをお前には伝えられずにオレは死んだ。」
アスマは崖の上を見上げる。
///
「なぁ、アスマ。将棋で“玉”、それを木ノ葉に例えると何なのか分かる?」
「は?」
「それが分かったらまた会おう。一応、ヒントとしては“それを守るために俺は動いている”。…じゃあな。」
///
「その答えが分かったってことか?」
「ああ。“玉”は木ノ葉のこれからを担う子どもたちだ。違うか?」
「…正解だ。お前の言いたいことが分かったよ。お前の覚悟を言葉ではなく心で理解できた。」
アスマに背を向け、黄ツチさんにここから離れる様にアイコンタクトで促す。俺の視線に気付いた黄ツチさんは一回頷き、瞬身の術で戦場の中心へと舞い戻っていく。浜辺には俺とアスマが残された。アスマと油断なく見つめ合う俺の背後でザッという音がした。
踵を返し、到着した三人の横を通り抜ける。
「お前たちは覚悟ができているか?」
「…ああ。」
「…ええ。」
「……うん。」
アスマは俺と戦うより、こいつらと戦いたい。そして、彼らの成長をその目に焼き付けたいのだろう。文字通り、アスマの後生の願いだ。シカマル、いの、チョウジの三人にアスマを任せ、俺は浜辺を歩き一人の男の前に立つ。
「金にならないことはしなかったんじゃないんですか?」
「フン。皮肉か?穢土転生で体を操られている今のオレは術者の操り人形だということもしっているだろう?」
「あまり操られていないように見えるんですけどね。心臓集めは趣味だったじゃないですか。」
「趣味とは言ってくれる。命の価値をその身に刻み込んでやろうか?」
一人の忍の背中から仮面を付けた四体の黒いバケモノが現れた。
「命の価値ですか。そんなものはないと前回の大戦で悟りましたよ。価値なんてのは他人から評価されるからこそ生まれる。その他人が死んでいく戦場で生き続けた者の価値はない。」
「そうだ。命に価値はない。そのことを一度死んだ俺が教えてやる。」
「一度って……。何度も死ぬことのできたアナタのセリフじゃないですね、角都さん。」