「何者だ、お前?」
「赤銅一族のヨロイと申します。…金角様の曾孫です。」
金角の表情が驚きの表情に変わる。
「おお!曾孫か!おい、銀角。あれから、相当時間が経っているようだぞ。」
「ってことは二代目火影は死んでるってことか?」
「だろうな。こうなりゃ、穢土転生の術者を見つけてぶっ殺すしかねェな。…で、ヨロイとか言ったか?テメェはオレたちに協力するのか?」
「いえー。俺はあなたたち兄弟のことを結構恨んでいるので。あなたたち兄弟がしたことで赤銅一族は不名誉印を刻まれました。そんな一族の俺があなたたちに味方する訳がないでしょう?」
「フン、やはりな。…おい、銀角!やるぞ。」
「おうよ、金角!」
金角は口から忍具を取り出す。
「
「ほぉ、この忍具の名前を知っているとは。なら、この忍具の厄介さを知っているな?」
「そりゃ、もちろん。少し前までその忍具の管理をしていたんで…。口寄せの術!」
印を組み、術を発動させるとボンッという音と共に金角と銀角の手から宝具が煙に変わり、俺の背後に煙を伴って宝具が現れる。
「…は?」
「…え?」
金角と銀角は呆気に取られた表情を浮かべる。実に間抜けな表情だ。
「あなた方が死んでいる時にこの四つの宝具は赤銅一族の倉庫にあってですね。それを音隠れの里に移動させる時に失くしちゃダメだと思って口寄せできるようにしてたんですよ。」
懐から巻物を取り出す。
「そして、この四つの宝具を巻物にシュゥゥゥーッ!!超!エキサイティン!!」
「は?」
「え?」
煙を出して宝具たちが巻物の中に封印される。
「ふわぁ~はははははは!『この忍具の厄介さを知っているな』などと、その気になっていたお前の姿はお笑いだったぜ!」
「貴ッ様ァアアアー!」
銀角が何やら叫んでいるが、無視だ。次のステップに向かおうか。
ニヤリと笑って印を組むと、煙が多く立った。煙が風に流され、煙の中にいる者が露わになる。思い思いの楽器を身に着けた集団、楽団と言ってもいいだろう、が煙の中から現れる。
「さぁ、始めようか。」
手を掲げたヨロイが右手を軽く振ると、その手に中にペンライトが現れる。それを指揮者のごとく振り下ろしながら声を上げる。
「サックス!」
ヨロイの掛け声で後ろに控えていたサックスがソロで音を奏でると、それに続くようにギター、ベース、ドラム、カスタネット、トロンボーン、トランペット、ヴァイオリンが音を紡ぐ。
「いきなり何だ?戦闘中に演奏会を始めやがって。…音。まさか!幻術か!?」
銀角は意図に気付き、走り始める。と、視界が歪む。急速に幻術を掛けられ続けている際の特有の現象だ。
「ぐっ!」
唇を噛み、意識をはっきりさせる。あと、10m。銀角は地面を蹴り、自分の体を更に加速させ、ヨロイに肉薄する。手を伸ばし、ヨロイの頭まで、あと数cm。その短い距離が埋まらない。
銀角の体が止められる。それと同時に銀角の目の前の光景が変化した。ヨロイの後ろにいる楽団の姿が薄くなっていく。
「ククッ…ばぁーか。」
目の前でアホみたいなボケッとした表情の銀角に一言物申す。
「幻術が解けた…?どういうことだ!幻術に掛かる前にオレはお前を倒そうとしていたのに!」
「幻術の発動のメカニズムを知っていますか?」
「ハァ?」
「幻術とは人の五感…視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚に作用して幻覚を見せ、相手の動きをコントロールすること。では、俺が利用したのはどの感覚でしょうか?」
「…聴覚か?声のトーンの高低を使って…」
「ぶっぶー違います。」
「…黙れ!」
「正解は触覚。あなたたちが立っていた海面の波を利用しました。波にチャクラを乗せて触覚に作用させて幻術を掛けたって訳ですよ。」
「嘘を言うな!お前が海に手を付けた所を見ていない。」
「そう…。確かに、波を利用するためには直接、体の一部を付けてチャクラを流さなくてはならない。で、す、がッ!…影分身を海の中に潜ませて置けば問題はありませんよね?」
「影分身…。いつの間に…?」
「始めに雷遁 黒斑差を俺とダルイさん、二人で放ったじゃないですか。あの時、俺は黒斑差を撃っていません。俺が使ったのは影分身の術。その影分身体が黒斑差の姿に変化して海に跳び込んだって話です。ちなみにですけど、俺、変化の術は大蛇丸様に鍛えられたので、見せる目的以外の変化は早いんですよォ。」
銀角の頬に怒りで朱が差す。
「殺してやる!」
「でも、動けないでしょう?実は、動けないのは幻術の効果じゃないんです。他の術の効果なんですよ。そして、幻術の中で幻術に掛けようとしている様子を見せたのはアナタをこの場所に誘導するためです。そもそも、幻術使いが『これから幻術を掛けますよ』って分かり易くアピールする訳ないじゃないですか。」
「この三下銅ヤローが!」
「俺に罵声を浴びせても意味はないです。まぁ、動けないアナタができることはそれぐらいでしょうけど。」
前触れもなく大大叔父さんの体に赤い光が巻き付く。
「何だ、これは!?」
「結界拘束封印。結界術と封印術を組み合わせて呪印に落とし込んだ術です。呪印を刻んだ場所を中心とした一定範囲に踏み込んだ者に対して結界が発動して、その結界が対象の動きを拘束します。」
大大叔父さんは俺を睨む。
「それは封印ッス。アナタが穢土転生された場合、アナタを殺すことはほぼ不可能になるだろうと考え、アナタを封印するために開発した新しい術ッス。」
「この程度の封印術で!オレが封印できると思うなァ!」
俺に向かって伸ばしていた大大叔父さんの右腕の全てが赤い光に包まれる。
「なにッ!」
「この程度とは心外ですねェ…。この封印術は四象封印をベースにしています。非常に強力な封印術ですよ。そして、対象のチャクラを使い、対象を封印架に変化させ続ける封印術です。普通の人に使うとチャクラを使わせ続けるので3日程で死に至りますが、アナタたち穢土転生組はチャクラが無限。死ぬことはないでしょう。」
右腕だけではなく、大大叔父さんの体全体に赤い光が広がって行き、術は銀角という人の姿を変貌させていく。
「た、助けてくれ…金角。」
「もう遅いですよ。百年後まで御機嫌よう。」
夕日が完全に落ちる瞬間の様に、一際赤く光る大大叔父さんの体。光が収まった後に残っていたのは白い十字架となった銀角の体だけだった。
「銀角ゥー!!」
ちなみに、大大叔父さんとおしゃべりする前に感知して分かったことだが、同時に曾爺さんである金角にも俺の影分身は幻術を掛けていた。大大叔父さんとおしゃべりしている間、曾爺さんは幻術の中にいたという訳だ。
そして、彼が幻術から解かれたということは、もう終わりだということを意味する。
銀角が封印され、怒りを露わにし前傾体勢を取り戦闘準備をした金角の足元の海面が水飛沫を上げた。
「憎み給え、許し給え、諦め給え。忍界を護るために行う我が蛮行を。……ブレングリード流血闘術式、
海面から飛び出した俺の影分身が金角の腹に拳を当てると金角の動きが止まった。ブレングリード流血闘術式とか言っているが、実は先程、銀角に使った結界拘束封印である。呪印を中心として結界を張るので、飛雷神の術のように呪印を直接相手に刻むことでも発動は可能である。
瞬身の術で金角の傍まで近づくと、彼と目が合った。
「雲に二つの光ありと謳われたこのオレたちがテメェみたいな三下銅ヤローに!!」
「確かに、金色、銀色の光は綺麗ですよね。ですが、ここは戦場。価値や美麗は投げ捨てられた場所です。…知ってます?硬度で言えば、金、銀、銅の中で一番高いものは銅っていうことを。」
赤い光に包まれた金角を見下ろす。
「……脆いんだよ、あんた等の覚悟は。」
「クソがァアアア!」
一際輝く赤い光。光が小さくなっていくと共に濁声が消えていき、静かになった海面には白い十字架が浮いていた。