漆塗りの黒い丸テーブルに世界を象徴する忍が着いている。雷影の招集で集まった面々は五影を中心として、ミフネさんとその六人の付き人、そして俺と後ろに控えるドスだ。
「皆、早かったな…。」
「急を要する状況だからな。」
「しかし、綱手姫よ。お前はもうええのか?この機会に若いもんと代わればええものを…。お前も歳じゃぜ!」
「アンタには言われたかないね、両天秤のジジイ!」
「ダンゾウの件はさておき、綱手様が火影に戻ってこられて安心しました。」
「挨拶はこの辺にして、さっそく会議を始めるでござる。」
ミフネさんが会議を進めるべく皆を促す。彼に続いて俺も口を開く。
「では、まずは八尾と九尾の人柱力の事。そして、敵の本拠地と戦力などの情報の詳細についてですね。」
今回の会議の焦点は二つあり、一つはまだこちらの手にある人柱力の隠し場所。そして、もう一つが敵の本拠地についてだ。一つ目はこれから追々決めていくとして、問題はもう一つの方。
事前に木ノ葉と共有した情報によると敵、つまり、オビトの本拠地については木ノ葉の忍が突き止めているらしい。隊長をアンコとしたフォーマンセル。俺が直接介入していないため、原作通りの展開になっていることだろう。
「敵の本拠地らしき場所はウチの者が突き止めている。ただ、罠かもしれん…。もう少し情報を集めるしかない。」
「こちらも偵察部隊を編制して情報集めを行っているところだ。各里の情報を迅速に照らし合わせていくほかない。」
そして、他里も本拠地を突き止められてはいないものの、怪しい場所の捜索を行っている。それによって、情報を精査しようと言う訳だ。
「なら情報を統括する部隊を連合で別に組織しましょう。」
「では、本部にその部隊を置きましょうか。情報をすぐに処理できますし。…そうですね、各里から感知能力に秀でた忍のリストの作成をお願いします。そのリストを元に情報統括用の組織を組んでおきますので。」
「それがええじゃろ!…で、人柱力共はどこに隠す?」
「隠すぅ!?」
綱手様が眉を顰める。
「何だ!?」
「ナルトとビーも大きな戦力だぞ!隠してどうする!?」
「ワシもそう思ったが今回の戦争はその二人が敵の目的じゃぜ。もしもの事を考えて出陣はさせん…。前の会議でそう取り決めた。」
「敵はうちはマダラだぞ!戦力を出し惜しみして勝利の機を失ったらチャンスは二度とない!全ての戦力をぶつけ…」
「今回はその二人を守る戦争。火影一人が勝手を言ってもダメだ。多数決で決める。」
「…この若僧が!ナルトはな…」
「あいつのことならよく知っている…。仲間の為なら無茶をし過ぎる。だからこそ、だ。」
「…。」
我愛羅の言葉に口を閉じる綱手様。我愛羅の言い分が分かったのか、それ以上の言葉は綱手様からは出なかったが、苛立っている目付きを我愛羅に向けている。
その様子を見たミフネさんが綱手様を諌めた。
「戦力を問題にする前に五影が纏まらなければ、それこそ勝利はないでござろう。」
「私も皆に同感です、綱手様。」
火影の付き人として控えている木ノ葉の奈良シカクも綱手様に進言する。
「チッ…!もういい…。」
「減らず口のナメクジ姫は健在じゃな。元気になった証じゃぜ。」
「八尾、九尾の隠し場所を決める。異論はないな、火影?」
「分かった。さっさと先へ進めろ。」
「フッ…。隠し場所は決めてある。取って置きの場所だ。“暁”メンバーの出ていないここ雲隠れにある場所が妥当だろう。ビーと一緒に修業に励んだこともある孤島だ。」
雷影はキメ顔でそう言った。
+++
忍連合の準備が着々と整う。本部もあらかた完成し、後は人員が揃うのを待つだけだ。
そろそろ最後の一人を迎えに行こう。
「シカクさん、少しよろしいですか?」
「なんだ?」
“音”が集めた“暁”の情報に目を通しているシカクさんに声を掛けると、そっけない返事が返ってきた。
「少し本部を離れます。俺が必要な事態が起きたら、ドスに話を付けてくれれば俺まで届くようになっているので。」
「ああ、わかった。」
再び情報が書かれた巻物に目を通すシカクさん。俺の行動について突っ込まれなかったのは良かった。正直に言ったら反対されるのは目に見えている。それの言い訳を考えていたけど、嘘を使わないことに越したことはない。
「では…。」
「少し待て、ヨロイ。」
「何でしょう?」
飛雷神の術で飛ぼうとした瞬間、シカクさんに呼び止められた。
「簡単な質問があるだけだ。」
「その質問とは?」
「今回はお前のことを信頼していいんだな?」
「もちろんです。」
目と目で通じ合う俺とシカクさん。おっさんとじーっと目を合わせているのは精神衛生上あまり良くないのでシカクさんに見えるように印を組む。
「では、数日後に帰ってきますので。」
「ああ。」
今度こそ飛雷神の術で飛ぶ。目の前に写る景色は雨隠れの里からほど近い湿原地帯だ。
+++
シカクさんと話した時から数日後。
雨隠れの里の雨が上がった。止むことが無いと言われるほど雨隠れの里の付近の降水量は多い。珍しいこともあるものだと、朽ちかけた小屋の中から上を見上げる。
小屋の中はボロボロで、しかも、攻撃を受けたのか天井には大きな穴が開いていた。そこから見える空は雨が上がり輝いて見えた。
目を細めて空の向こう側を見る。虹がかかる雨隠れの空の向こうから赤い紙がこちらに向かって飛んで来ていた。俺の目の前までフワフワと飛んで来たそれを右手で捕まえる。
「終わったか…。」
赤い紙を握り潰し、目線を左右に向ける。左には“自来也”と書かれたネームプレートの下にカエルが描かれた掌サイズの板。そして、右には“小南”“弥彦”“長門”と書かれたネームプレートの下にカエルが描かれた掌サイズの板。
もうここには用はない。
小屋の屋根に大きく開いた穴から跳び出す。走りながら、懐から取り出した専用の巻物を取り出す。湖の上を走って渡り、目的の人物が浮かんでいる場所に辿り着く。
「もう聞こえてないっぽいですけど、一応、挨拶はさせて貰いますね。……お久しぶりです、小南さん。」
+++
「機は熟した…。」
アジトのソファに座り、前に立つ六人を見る。噛みしめるように、彼らの名前をそっと出す。
「無、持地…橙ツチ。」
あの時からもう20年が過ぎた。随分待たせたな。
「蒼、除蓋障…うずまきクシナ。」
息子と会う事も許さなかったのに、俺の指示を全て聞き入れてくれた。本当に頭が下がる。
「赤、檀陀…うちはシスイ。」
付き合いがこの中では一番長い。それなのに、真実を話したのは死んだ後になってしまった。
「白、宝印…自来也。」
師だ。俺が忍としての心構えを学んだという点ではこの人の影響が最も大きいのだろう。
「黄、日光…弥彦。」
平和を望み“暁”を立ち上げた人物だ。夭逝した彼が見つめる現実は彼が思い描いていた未来とどれだけ違ったのだろうか?
「黒、宝珠…小南。」
友の夢を守るために儚く散った一輪の花。造花となった今でもその心は散っても、枯れてもいない。
ソファから立ち上がり、六人のちょうど真ん中に向かって歩く。六人の真ん中に立ち、七人となって黒レンズを外す。
「行くぞ…開戦だ。」
『ああ!』
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「負けんじゃねぇぞ。」
何に対して負けるんじゃねぇぞっていったのか解らないけど、この言葉をオビトの小さくなっていく背中に送るのがなんとなく正解だと思った。
夜空に向かって手を伸ばす。
「何一つ諦めて生きていくつもりはない。これが俺の忍道だ!」
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あの日決めた忍の道はここで全てを取り戻す事で貫徹する。
眼を開け、前を見据えると六人が俺よりも前に立っているのが見えた。数歩下がり、ソファに腰を下ろす。
「そうは言っても、出番はまだ先なんだけどね。」
目の前の六人が一糸乱れぬ動きでズッコケた。
「せっかくカッコ良かったのに。」
クスクスと後ろからリンの笑い声が聞こえる。
「カッコイイだけじゃ物足りねェだろ?」
「それもそうだね。」
第四次忍界大戦直前。
俺への怒鳴り声と、俺とリンの笑い声が部屋に響いていた。
また、この人たちとそれから外にいる大切な人たちと笑い合うためにがんばるとしますか!
第2部 完