『戦場で会った時が貴様らの最期だ!』と捨て台詞を残して姿を消した自称マダラこと身分を詐称するオビト。三十路男の泣きべそ程、嫌になるものはないと思わされた今日の一シーンだった。
「さて…どうしたもんかの?」
オビトを見送った後の静寂の中、土影が呟く。
「忍連合軍を創るしかない。七体もの尾獣の力に対抗するにはな。」
「…。」
「雷影様は反対してましたが?」
土影に言葉を返す我愛羅を見遣る雷影に水影が疑問を投げかける。
「弟は無事だったようだが……これ以上“暁”にダラダラと振り回される訳にはいかん!忍連合軍を創り、一気にケリを付ける!」
「木ノ葉はどうするんじゃ?火影が逃げたままじゃぜ。」
「木ノ葉には俺が伝えておきます。ダンゾウ様は五影会談で忍術を使った件でおそらく失脚するでしょうから、一旦、ご意見番の人に伝えた後に、上忍帥の奈良シカクという人物に伝えて善後策を練って貰う事にしたいと思います。それから…。」
「なんじゃ?」
「これはあくまで俺の予測ですが、木ノ葉ははたけカカシを臨時としてトップに据えるでしょう。」
原作でも上忍帥であるシカクから六代目火影への推薦があったことを覚えている。あの時、ダンゾウ様が自分の意見を押し通さなかったなら、六代目は十中八九、カカシに決まっていただろう。政治手腕は置いといて、他国への影響力であるその勇名は無視できない。その上、四代目火影の弟子であることから木ノ葉の里の忍からの期待も寄せられることは簡単に想像できる。
日本人というのは変化を好まないもので、一度成功した手段を何回も繰り返す傾向があるという。そして、日本人である岸影様が創り上げた木ノ葉は里の運営に関して言えばその傾向が顕著に見られる。つまり、初代火影の弟子の弟子のそのまた弟子が火影の座についているという現状である。
カカシも漏れる事なく、この流れに沿うだろう。
「はたけカカシ、か。…ここで来る道中ではたけカカシと九尾の人柱力に会った。まだ鉄の国にいるかもしれん。」
「わかりました。では、俺から伝えておきますね。」
影分身を二体出し、一体は木ノ葉へ、もう一体は鉄の国の宿場町へと向かわせる。
それを見送った後、シーが声を上げた。
「雷影様、すぐにでもキラービーを捜す手配をつけましょう!“暁”が八尾と九尾を狙っているなら、奴らもまだビーを執拗に狙っているハズです。」
「うむ!シー、すぐに捜索隊を編成してビーを捜させるように里に連絡しておけ!」
「ハッ!」
「サムイ小隊にもすぐに知らせてやんなきゃな。オモイもカルイも落ち込んでたからさ。」
表情を少し柔らかくしたダルイがシーに言う。冷静なシーと気配り上手なダルイ。なかなかいいコンビだ。
「マダラの“月の眼計画”とやらを阻止するためには、絶対に八尾と九尾を渡してはダメです。だから、八尾と九尾をこちらの連合軍で先に見つけ出して隠して置くのがベストだと思われますが…。」
水影が真面目な顔で話を元に戻すために述べた。
「そ…その通りです!もし、“十尾”とかが復活した日には…。」
「世界が滅びますね。」
全員の目線が俺に集まる。
「十尾の詳細については赤銅一族にも伝わってはいないのですが、単純に一から九までの全ての尾獣のチャクラを合わせたと考えたら、その力は恐ろしい物となります。それこそ、本当に世界を滅ぼすことができるぐらいに…。」
「そうじゃな。今、マダラが持つ七体の尾獣ですら、その力を想像することもできん。そう考えると、ワシら忍連合軍も八尾と九尾の尾獣は戦力として計算した方がいいのではないか?」
「それはダメだ。これは二人を守る戦争でもある。」
土影の意見に我愛羅が反対する。
「マダラが集めた七体の尾獣で戦争を仕掛ける理由。おそらく、弱っている今のマダラや残りの“暁”メンバーだけでは八尾と九尾を捕えることが難しいからだ。できたとしても、リスクが大きすぎると考えた。……それに、戦争で二人を誘き出す為かも知れない。」
「風影様の言う通りですね。九尾の人柱力であるナルトは仲間、例えば風影様が危機に陥っていたと知ったら、すぐにでも駆け付けようとするでしょう。マダラは戦争自体、ナルトを誘き寄せる為のエサとして使う腹積もりなのでしょうね。」
「私も風影様の意見に賛成です。」
「ワシも風影の意に同意だ!もしもの事を考えれば、敵の前に八尾と九尾をおいそれと出す訳にはいかん!」
俺と水影が我愛羅に賛成する。それに続いて、雷影は苦虫を噛み潰したような表情で言葉を続けた。
「そもそも八尾であるワシの弟は作戦などと言う言葉には縁遠い奴だ。何をしでかすか分からん…。逆に戦場が混乱するかもしれんしな!」
「九尾のナルトも同じだ。」
「言えてるじゃん。」
「ハハ……だな…。」
雷影と同じような表情をしたカンクロウとテマリがお互いの顔を見合わせる。
「分かりました。では、八尾と九尾は保護拘束という事でどうです、土影様?」
「うむ…。」
「岩・霧・砂・木ノ葉、そして音にはキラービーの情報を提供する。それを元に捜索チームを編制し、すぐに動け!八尾は見つけ次第、ワシの所へ連絡が来るようにしろ。弟はワシの言う事ぐらいしか聞かん!」
「了解です。…ドス!」
「はい。すでに今までの情報を音隠れの忍に伝えています。最優先はキラービー殿の捜索とし、見つけ次第、自分に連絡が来る手筈を整えています。」
俺の後ろからドスが姿を現す。
「仕事が早いの。…そろそろワシらも行くことにするか。」
重い腰を上げた土影に一人の男が声を掛ける。
「あ…あの…ちょっといいですか?」
霧の忍、長十郎だ。
「何だ?」
「あ…ハイ………あの…その…。」
「さっさと話せ!」
自分の意見をはっきりと言うことが苦手な長十郎と竹を割ったような性格の雷影は相性が悪い。モゴモゴした長十郎の言いように雷影は苛立ちをぶつけるように次の言葉を促す。
「あ…“暁”にはまだボクと同じ忍刀七人衆の干柿鬼鮫がいます。その人は…人柱力並のチャクラ量と……七人衆の刀の中でも最悪な“鮫肌”を持っていて…刀と融合すると人間でありながら、人柱力に近い力を発揮する尾を持たない尾獣だって…先輩たちから、そう聞きました。あいつは特別だって……決して嘗めない方が…。」
「そんなことは分かっとる!それより…本当にそれでええのか?マダラの操るであろう七体の尾獣の力は未知じゃぜ。もし、八尾と九尾を拘束して、ワシら忍連合軍が二人を守った所で…その連合軍が全滅しては意味がない。だったらじゃぜ…。
「それはどうかな?」
渋い声が響いた。ミフネさんだ。
「ここに世界初の忍連合軍が出来つつある。その力もまた未知数…。マダラが七体の尾獣の力を使用するにもリスクがあるハズだ。でなければ、ここへ来て態々交渉を持ちかけたりはしない。向こうにも不利な条件があるのでござろう。それに…。」
ミフネさんは一際、力強く言い放った。
「この戦争、我々、侍も参戦する!土影殿…これでもまだ心配事がおありか?」
「それに、もちろん音も参戦します。」
「フン。お前たちが推していたダンゾウはこの様。忍連合軍の大権を誰に任せるかがまた問題となるじゃろ!今の“影”に適任はおるのか?ワシを含め、五影をボロクソに言ったのはお前じゃぜ、ヨロイ。」
ダンゾウ様め。大層な置き土産を置いて行きやがって。
そもそも、あの人が幻術を使ったりしなければ、そのままダンゾウ様が忍連合軍のトップになれたというのに、余計なことをしやがって。
……仕方ない。第二のプランに変更するしかない。
「雷影様が適任と言えるでしょう。」
「ほぉ…。雷影は筋肉バカではなかったのか?」
「確かに短気な所が先程まで目立ちましたが、この中では一番若い風影様の意見を素早く、そして正確に判断し取り入れることができています。つまり、冷静な人が周りに居れば雷影様が突っ走ることはないと思われます。それ以外の不安な面は雷影様はありませんし、以上の点から雷影様が忍連合軍のトップに相応しいかと…。」
「ミフネもヨロイと同じ意見か?」
「左様。」
「……水影、風影はそれでええのか?」
「今はここで揉めている場合ではありません。私は雷影様を信じます。」
「雷影に任せよう。」
会場の中心に居るのは雷影。彼の目線の先には土影。
この次の意見交換で忍連合軍についての問題はケリが着くだろう。
「両天秤のオオノキ。うちはマダラと唯一戦った戦歴を持つアンタの情報が必要だ。…協力しろ!」
「相変わらず命令口調で上からモノを言う奴じゃぜ。」
「オレを信用しなくてもいい…。だが、このままでは忍の世界自体が無くなる。今は私情を抜きにして協力せざるを得ないぞ!」
「……この戦争に負けるよりはマシじゃな。忍の世がなくなれば、お前とケンカどころではないからの。……協力してやる。」
土影の言葉で決まりだ。一度、手を叩いて俺に注目を集める。
「では、忍連合軍結成ということで。」
この場に居る全員が神妙に頷く。
何の因果か今回の会談は“本当の”五影会談になったようだ。初代火影が願っていたと言われる忍の五大隠れ里の友好。手を取り合う世界の創造。
過去の状態に戻った隠れ里が目指すのは何なのだろうか?
柱間が目指した友好か、それとも自国の里の利得なのか?人の心を何も無しでは覗くことができないちっぽけな俺の疑問は鉄の国に降り続く雪に覆い隠された。
願わくば……雪解けになることを初代火影と同じように、爺さんと同じように心から祈ろう。