ミフネさんの『火影に忍連合軍の大権を任せてみてはいかがか?』という提案は会談の会場を色めき立たせるのに十分な効果があった。具体的には、その場にいるほとんどの人間の表情が『うそだろ、ミフネ』と語っていた。しかしながら、ミフネさんは全く動じず『ああ、うそだぜ』とも言ってくれなかった。
「私で良ければ、その任を請け負うつもりだ。」
ダンゾウ様が重々しく頷くが、それに反対する人間がいた。雷影だ。
「なぜ、火影だ!?こいつは“忍の闇”の代名詞が付く男だぞ!こんな男には…」
「雷影様ァ…。」
「…またお前か!?何だ?手短に話せ!」
「あのォ、とても言い難い事なんですけども…怒らないで聞いてくださいますか?」
「分かったから早く話せ!」
「雷影様って頭の中に何が詰まってるんですか?筋肉ですか?」
場が静まり返った。と、再び雷影のチャクラが急激に膨れ上がる。
「貴様ッ…!」
「だから、怒らないでくださいって言ったじゃないですか。ああ、そうそう。なぜ、ミフネさんが火影様を選んだのか俺から説明させて貰ってもいいですか?いいですよね?じゃあ、話します。まずは雷影様から。」
雷影の前の机を指差す。
「感情的になる人物は組織のトップとしてあまり良いとは言えない人材です。もちろん、周りを引っ張っていく力は必要で、雷影様はその力は十二分にありますが、そういう人物は相手の罠に気付かずに仲間を引き連れてその罠に飛び込んでいく可能性が高い。ですので、雷影様は忍連合軍のトップとして相応しくないとミフネさんは考えたのだと思います。」
俺は我愛羅へと目線を移す。
「風影様はこれといった実績がない。もちろん、砂隠れの里を今の規模まで発展させた実績は十分と言えますが、それは内政に限った話です。他国の忍までもを纏め上げるような単純な力の露出がほとんどないので、忍連合軍のトップを任せるのにはまだ早いとミフネさんは考えたのでしょう。」
続いて、水影を見る。
「水影様も風影様とほぼ同じ理由です。水影は戦闘能力が霧隠れの里で一番の者が就くという事実は他国にも知られていますが、その実力の割に水影様の実績は霧隠れのクーデターを成功させたという物ぐらい。他里の忍を納得させ得る物ではありません。」
土影の方向を見る。
「土影様のお力は他里にも響き渡っており、更に里の経営手腕なども問題はありません。しかしながら、“信用”という点で忍連合軍のトップを任せることはできません。土影様が“暁”を利用してきたということが他里の多くの人間に知られたら、不信感を産み、指揮系統が上手く機能しないことが予測されますからね。」
最後に雷影に視線を戻す。
「それに、雷影様は先程、ミフネさんに忍連合軍の大権を行使する人物の任命をお願いする際にこうおっしゃっていましたよね?『よかろう!四代目雷影・エーもミフネに任せる』と。トップに立つ者が簡単に意見を翻すのはいささか問題があると俺は思うんですけど、どうでしょう?」
「グヌヌ…。」
「いや、グヌヌじゃなくて人間の言葉で話してください。あなたに忍連合軍を任せることができないのはそういう所です。頭の回転が遅い。何か話掛けられたらパッと答えるのを求められるのがこの時代です。そんなんじゃ、就職氷河期を渡っていけませんよ。お祈りメールが何百通も来ることになりますよ。あ、さーません。脳みそが筋肉なアナタには所詮、何を言っても無駄でしたか。俺の話を理解しているかどうかも怪しいものですね。」
「ヨロイ殿、そのぐらいにして置かれるのが良いと…。それ以上は
「それもそうですね。まぁ、そういう訳で火影様に忍連合軍の大権を任せるということでよろしいでしょうか?」
「それは承服しかねる!」
「…水影様。部下の教育がなっていませんね。」
「これは済みません。しかし、私は部下を信頼しています。部下の言葉に耳を傾けていくことで信頼関係を深めることになる為、決して蔑ろにはできません。…青、どうしたの?」
「ハッ!…火影殿、その包帯の下の右目を見せて頂こう。」
「…。」
「どういう事じゃ?」
黙るダンゾウ様の代わりに土影が青に尋ねる。
「その右目…うちはシスイの眼を奪って移植したようですな。シスイの瞳術は相手の脳内に入り、あたかも己の意志であるかのように疑似体験させ操る術だった。操られている事にすら気づかない…瞳術でも最高クラス!」
「火影…まさかミフネを…!!」
ふむ…。
ダンゾウ様の為にお膳立てをして上げたと言うのに勝手に動かれて墓穴を掘られてはどうしようもない。以前、ダンゾウ様とした約束は『俺がダンゾウ様を忍連合軍のトップに据える為に動く』というもの。一応、その約束を違えてはいない。結果はダンゾウ様のミスでそれを自ら逃すというものではあったが…。
「私の右目もかつての日向と戦った貴重な戦利品…。あなたと同じで人の事は言えませんが…四代目水影に掛けられた幻術を解いたこの私の眼はごまかせませんよ。そしてその…。」
「貴様ッ!!」
「ハロ~!」
ごちゃごちゃだなァ。二転三転する状況の中でそれでも眉を顰める程度の表情の変化で済ませるダンゾウ様の胆力に驚きながら、床から生えてきた白ゼツを見つめる。
「次から次へと何だ!?」
「“暁”か?」
「じゃな!」
ニュキッと生えてきた白ゼツは衝撃の事実を口にした。
「うちはサスケが侵入してるよ。さて、どこに隠れているんでしょ~か?皆でサスケを探してみよ~!オー!!」
「何だとオオオ!!」
「白ゼツとか言ったっけ?取引しない?死を懇願する様な目に合ってサスケのことを話すか、それともサスケのことをすぐに話して一瞬で死ぬかどっちがいい?俺としては…」
「うちはサスケはどこだ!?ハッキリ答えろ!」
「後者がオススメ…だったんだけど、前者になりそうだね。ゴメン。」
俺が話している間に雷影は一瞬で白ゼツの首を掴み締め付ける。
「答えぬなら容赦はせん!」
「しょうがないなぁ…。じゃあヒントでも…。」
ゴキという音が部屋に響いた。白ゼツの首の骨が折れた音だ。堅気の人間なら、思わず目を背ける凄惨な光景。しかしながら、この部屋にいる者は忍、そして侍。全て一流の武芸者であり、敵の一人が死ぬ程度で落ち着きを失う様な初心者じゃない。
雷影はすぐに命令を飛ばす。
「シー!始めろ!!」
「ハッ!」
しかし、それに疑問を呈す人間もいた。
「何も殺す必要はないでしょう!」
水影だ。
「捕まえて尋問すれば“暁”の情報が手に入ったかもしれないのに…。」
「“暁”に口を割るような奴はいない。筋金入りの奴らだ。」
「オキスケ、ウラカク。すぐにサスケを捜すよう命を出せ。それと第二戦闘態勢を発令だ。」
「ハッ!」
刻一刻と動く状況の中、俺はその様子を冷やかに見つめていた。
水影に賛成する俺としては今の状況はあまり好ましくない。鳴かぬなら、どんな手を使っても泣かせてみせようという俺からしたら、まずは拷問。その後、殺害が効率的な流れだ。時々、泣くばかりで鳴くことがないまま死んでいったボケナス共もいることにはいるが、最終的には殺すことになる相手なのだから、ベストとは言わないでもベターであると考えている。
そう、色々言ってきたが、重要なのは“効率性”だ。
「霧の隻眼。お前は火影を見張ってろ!」
壁に向かう雷影を見ながら考えを巡らせる。
「シー!ダルイ!行くぞ!」
壁に大穴を開け、そこから飛び出していく雷影に対し思うことは効率的じゃないなという思いだった。
スマートにいかなきゃねェ。
「ヨロイさん。」
ドスが俺に耳打ちをしてくる。
「サスケ、前方約20mの地点です。」
「ああ、わかった。…それでは、皆様。白ゼツがもう使い物にならなそうなので、新しい“暁”の捕虜を捕まえてくることにします。」
椅子から立ち上がり、印を組む。
「うちはサスケを、ね。」
飛雷神の術でマーキングの位置に飛ぶ。目の前にはサスケが居た。
「おう、久し振りだな。…サスケェ。ん?」
後ろから風切り音がした。次いで、ピッと言う音と共に俺の頬から鮮血が飛び散る。
目の前のサスケが幾度か刀を振り、俺の後ろから飛んで来た斬撃を一つ残らず弾く様子を見て俺は心に決めた。
ドスの野郎…。下手したら俺が死ぬようなヘマしやがったアイツは今まで以上に扱き使ってやる、と。