ダンゾウ様の天幕から退出して木ノ葉の里を歩いていると、突然、影分身からの情報が還元された。なるほど…“印”は全て付け終わった上に“契約”も済んだか。
自画自賛になるが、なんて優秀な奴だ。ダンゾウ様の目を掻い潜りここまでできるなんて。
と、見慣れない後ろ姿が目に入った。
意識をこちらに戻す。俺の視界の中に木ノ葉隠れの忍ではない三人組が控えている光景が入ってきた。
「あれは…。」
金の髪が揺れ、こちらに目を向ける。
「おや、雲のサムイさんじゃないですか。こんな場所で会うなんて奇遇ですね。」
「アナタは…。」
三人組に近づきながら気さくに声を掛ける。その中で隊長と思われる人物、サムイに向かって話を振った。
「音隠れの長にこの様な所で会うなんて思いもしませんでしたよ。今度は一体何を企んでいるのですか?」
「やだなぁ。何も企んでいませんよ。」
「白々しいですね。雲にあれだけのものを売り付けておいて、木ノ葉にアナタが何もしないなんて考え難いのですが。」
気さくに、そして笑顔で話を返してくれるこの人は雲のサムイという上忍だ。クールビューティーを地で行くその佇まいと綱手様にも引けを取らないプロポーションから、老若男女問わず雲の忍たちから絶大な人気を集めている女性だ。
しかし、そんな人物は敵に回した時が厄介極まりない。常に冷静である彼女が慌てるという場面はほとんどなく、しかも頭脳明晰ときた。彼女の人格は、戦闘はもちろん、交渉事に対しても相性が抜群だ。
そして、俺はサムイを騙したり裏に潜ませたりということはできないと踏んだ為、彼女がいない時を狙って雲隠れと同盟を結ぶ交渉をしたことは記憶に新しい。雷影の秘書であるマブイも優秀な人物ではあるが、サムイと比べるとまだ取っ付き易かった。
「拡散チャクラ砲とか言いましたか。あれを発動する為には多量のチャクラが必要な上、発動までの時間が掛かるという説明を雷影には書面でのみ説明したそうですね?」
「ハハ、あの時は雷影様がパッパと同盟を進めてくれたので説明しなくていいかな、と考えましてね。」
「確かに雷影はクールに事を進めることができなかったことが問題の一つだと思います。ですが、最新式のトレーニング器具が無料で付いてくるなんて文句で釣るなんて…。いえ、話が逸れましたね。アナタは何をしにここに?」
「大した事ではありませんよ。木ノ葉との同盟を結びに、です。」
「なるほど。ダブルスタンダードというのはアナタの事を指すのですね。」
サムイの目が冷たくなった。そもそも、雲と木ノ葉は現時点では休戦状態ではあるがいつ何時、両国で戦争が起きるか分からない緊張関係にある。五大国の中でも特に強力な両国は、前世の世界で例えるとアメリカとロシアの様なもの。この二つが雌雄を決しようとした場合、世界を巻き込む世界大戦に規模が拡大し、例え勝っても疲弊することは避けられない。ついでに、勝利後の相手国に対しての支配も考えると、その国民や忍からゲリラ戦を取られ、長期化且つ泥沼化するのが目に見えているから戦争をしないだけだ。利益が見込めないことを態々する様な愚者がトップの位置に就いていないから、雲と木ノ葉の戦争が今だに起きていないとも言える。
そんな訳で、緊張状態にある両国のどちらとも同盟を結ぶ“音”はこの事が雲か木ノ葉にバレた時の報復が怖いというのが普通の状態である。どっちにもいい顔をする奴は嫌われる。というより、どっちにもいい顔をしなくてはならないから身動きが取れなくなり、利益が無い状態に陥るというのが一般的だ。
しかし、今の忍界を席巻している対“暁”の風潮を利用すれば五大隠れ里全てと同盟を組むように動いている“音”は先見の明があると見られるのは間違いないだろう。実際は後々、忍連合軍が作られるのを知っていたのを見越して動いていただけではあるが。
「全ては“暁”に対抗する為ですよ。サムイさんたちもこれまで交流がほとんどなかった木ノ葉に来たのもそういうことでしょう?」
「どうやらアナタは知っているみたいですね。…雲隠れが保有している尾獣が暁に拉致されました。音にも追って通達を送る予定です。」
「もちろん、こちらも全力でサポートさせて貰います。で、下手人はうちはサスケでしょうか?」
「アンタ、なんでサスケって分かったんだ!?」
サムイの後ろに控えていたくノ一が前に出る。そのくノ一に向かってサムイの後ろに佇んでいたもう一人の忍が口を開く。
「師匠が捕えられたことを知っていたんだ。この人の情報網なら犯人が誰なのか知っていてもおかしくない。」
「なかなか頭の回りがいいな。お前、名前は?」
「雲のオモイ。隣のこいつはカルイ。俺たちはキラービー様の弟子だ。」
「あ、自己紹介の時にキラービーの弟子とかいう情報はいらないかな。」
「テメェは何、余計なことを口走ってんだ!」
ショックを受けた様な顔つきで俺を見るオモイ。なにやらブツブツ呟いている。怖い。隣のカルイがオモイを罵っている光景もそれに拍車を掛けて怖い。
「ついでに言うと、木ノ葉出身で暁に関係していてまだ生きている奴がサスケだけっていう所からも推測できるね。何て言うか、アレだ…強く生きろ。」
「ありがとうございます。」
カルイの言葉で場が凄く重い雰囲気になってしまったので、思わずオモイを慰める。しかし、オモイの表情は硬い。ウチの里に勧誘してきた奴らとは違ってそう簡単には心を開いてはくれないみたいだ。
「サムイさん。」
「何でしょう?」
二人からサムイへと視線を移す。
「木ノ葉との同盟の件は相応しい場所で相応しい時に雷影様に直接お話ししたいと思います。」
「それは我々の様な下っ端に情報を教えたくないという風にも取れますね。」
「それは深読みし過ぎですよ。ただ、情報というモノは中々厄介なものでして…。知るべき時に知る事をしないと身を滅ぼすことになりかねません。今の場合は老婆心から来るお節介ですよ。」
「教える気は全くないということですね。では、別の情報を教えて頂きたい。」
懐に手を伸ばす。緊張した顔付きを俺に向けるサムイだったが、俺が取り出した巻物を見てその表情が困惑に包まれる。
「サスケに付いてはこれに記しています。」
「…随分と、準備がいい方ですね。」
「俺としても暁は邪魔なので、それに敵対する勢力に肩入れをするのは当然です。敵の敵は味方って言葉もありますし、それに何より“雲”とは同盟を結んでいるので。」
巻物をサムイに手渡す。
「なるほど、確かに。では、私たちはそろそろ。…カルイ、オモイ!行くよ。」
二人を促し、火影の顔岩の方向に向かって行く三人。彼らを見送り、再び木ノ葉の里を歩き始める。
「しっかし、何もかも壊されてんな、こりゃ。」
かつての里の面影はなかった。幼少期から過ごしていた里が全く違う姿に変わった光景なんてできるなら見たくないものだ。それなりにキツイものがある。歩いている内に頭の中はこれまでの出来事の反芻になった。
“雲”とは兵器関連で。“岩”とは資金援助で。“木ノ葉”とは復興で同盟を結ぶことができた。後は“霧”と“砂”だが、水影も風影も甘い人物だ。五影会談で話を出せば簡単に同盟を結ぶことが予測される。そして、“鉄の国”とも“和”という理念で持って同盟を結んでいる。そして、備蓄も進めている。戦争に向けての準備は着々と整っている。
「ハァ…。」
足を止め、今まで歩いてきた道程を振り返る。
「あと“二人”か。」
天道と餓鬼道。二つの道に交わるまでまだ時間は掛かりそうだ。