目的地に着いたのは、日が完全に落ちてからだった。
「大蛇丸様ぁー。来ましたよー。」
大蛇丸様の家のドアをノックするとすぐに大蛇丸様が現れた。まるでドアの内側にスタンバっていたと思えるような速さだ。
「付いてきなさい。」
ドアから出てきた大蛇丸様は言葉少なめに俺を促す。言葉は少ないものの機嫌がいいことがわかる。足取りが軽く今にもスキップし出しそうだ。なんだか、薄気味悪い。
そんないつも以上に薄気味悪い大蛇丸様に付いていくとなにやら薄気味悪い建物についた。怖い。
「入りなさい。」
前世から俺は幽霊とかいうものが苦手だ。俺の目の前の建物は富士急ハイランドの超・戦慄迷宮を彷彿とさせる。少し目を潤ませ、大蛇丸様を上目づかいで見上げる。もちろん、服の裾を掴むことも忘れない。そして、行きたくないよー怖いよーという雰囲気を出す。
「早くなさい。」
だぁあ!ちくしょう!血も涙もない蛇のような奴め!
心の中で毒づくが、大蛇丸様は俺には全く目も向けず建物の中にズンズン入っていく。
「わかりました、入ります、入りますよぉ。だから、置いてかないでっ!」
大蛇丸様に付いていくと、階段を上がっていって、その先の一つの扉の前で立ち止まった。この建物は本当の病院みたいに廊下にいくつものドアがあって、そのドアには番号がそれぞれに振られている。日が落ちてから歩いていると薄暗くてマジ怖い。電気代ケチんな、バカ。怖いだろ。
「ここよ。」
扉を開けて大蛇丸様が俺に入るように促す。
「…これ、は?」
促されるままに入っていくとそこには目を疑うような“モノ”があった。
「安心しなさい。アレは岩隠れのスパイでね。情報は全て吐かせたから後は処分するだけなのよ。それで、処分をあなたにお願いするわ。」
そこにあったのは、目を虚ろにした女性だった。あれは俺が木ノ葉に来た時の話だ。
『「大蛇丸さん!今度、修業に付き合ってください。できたら、その、夜も…。」』
歳は十代後半から二十代前半の女の子だった。大蛇丸様に担がれてこの里に来た時に出会った女の子だ。しかし、これは…。
四肢は切り取られたのかなくなっていて、さらにその傷口には包帯が巻かれているものの、その包帯を止めているのが千本だ。おそらく、腕、そして脚を貫通している。着物がはだけ、そこから見える肌は火傷の後を多く見ることができる。
目の前の凄惨な拷問の光景に、ごくりと喉を鳴らす。この空間を占めているのは痛みと狂気。そして、恐怖だ。
「ヨロイ、チャクラの吸引術でコレを殺しなさい。」
大蛇丸様の有無を言わさない声に背中を震わす。印を結ぶ手がどうしようもなく震える。
どうして、ここに入るのを躊躇っていたのかわかった。本能でここには近づきたくないと思わせるほどの、死の気配があったからだ。
入口で大蛇丸様の裾を掴んだ右手をソロソロと目の前の女の子の頭に伸ばす。彼女がふいに顔を上げて俺と目を合わせた。
「殺して。」
『助けて』じゃなく、殺して。ギリッと唇を噛んで彼女の頭に触れる。元々、チャクラがほとんど残されていなかったのか、全て吸い取るまで時間はかからなかった。
ガクンと彼女の頭が俺の手から離れる。
「終わりました。」
床を見ながら報告する。
「よくやったわ。ヨロイ、これであなたも一人前の忍よ。」
大蛇丸様の声がずいぶん遠くに聞こえる。それから大蛇丸様の下らない演説を延々と聞いたような気がする。ふっと意識が戻るとそこは一年近く世話になってる自分の家だった。
何もやる気になれず、ベッドに倒れ込む。右手を見てみる。綺麗な手だった。傷も血も付いていない。それが恐ろしくなり、右手から顔を背ける。
左に顔を向けると彼女の最期の顔がチラついた。ベッドから慌てて起き上がる。何もない。何もないんだ、そこには。思わず目を擦る。目を擦った左手はしっとりと濡れていた。次いで、頬に一滴、水が流れているのに気付いた。
…わかってた、いや、わかっていたつもりだったんだ。俺は…。
忍だ。
これから、こんなことが日常茶飯事な事になってくる。慣れなきゃいけない。慣れなきゃ成れない。人を殺すことに慣れなくちゃ、忍になれない。大蛇丸様に会った時から逃げ道なんてないってわかってただろ?
「俺は…。」
ベッドに再び横になる。布団を引き寄せ、その中で丸まる。
「なんのために生きているんだ?」
突然湧いた疑問に答えてくれる人はもちろんいなくて、俺は目を閉じた。
「決まっているだろう?十尾を止めることを約束してくれたではないか。」
目を開けて広がる世界はまたしても白く、どこまでも広がっていた。
「だったな。そのために俺を赤銅ヨロイに憑依転生したんだろ?…爺さん。」
振り向くとそこには前世の俺を殺した張本人、つまり、六道仙人がいた。