一流の銅ヤロー   作:クロム・ウェルハーツ

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@65 動き出す者たち

ある森の中で広い大きな背中を見つける。俺に背を向けているそれに向かって声を掛ける。

 

「お久し振りです…自来也様。」

「ヨロイか…。何かあったのか?」

「はい。大蛇丸様が…死にました。」

「大蛇丸が!?」

 

自来也様の目が見開かれる。

 

「正確には封印されたというニュアンスの方が正確ですが。やったのは、うちはサスケ。」

「サスケ…か。」

 

顎に手を当てる自来也様。

 

「それで、サスケはどうなった?」

「イタチを殺すと“音”を抜けました。それからの消息は途絶えています。」

「なるほどのォ。」

 

以前、俺は自来也様、そして綱手様と大蛇丸様が闘った三竦みの戦いの後に自来也様と協力関係を結んだ。俺も自来也様も諜報は得意分野であり、双方、世界の暗い所とのパイプがあるので危険な情報を持っている。個人的な協力関係ではあったが、その情報のネタは暁といったテロリストの組織から五大国の世間に知られることがない動向などの、世間を大きく揺るがす情報の交換が主になっている。

大蛇丸様はその世間を大きく揺るがす情報に入る上に自来也様が、そして綱手様が長年追い続けていた男だ。このネタから木ノ葉に取り入ることができると踏んで、今回の接触を行った訳だ。

 

「詳しくは木ノ葉に戻ってから聞かせてくれるかのォ?綱手の意見も聞きたいし、何より…。」

「ナルト、ですか?」

「…。」

 

自来也様は無言で頷く。

 

「それと、お前も綱手と…いや、木ノ葉隠れの里と話したそうだしのォ。」

「バレてました?」

「お前のことだ。良からぬことを企んでいるのが見え見えだ。で、今度は何をしようとしておる?」

 

笑顔で自来也様の質問に答える。

 

「いや、大した事ではありませんよ。“音”と“木ノ葉”…同盟を結んで貰えないかと考えまして、ね。」

「それは、木ノ葉のメリットが見当たらんのォ。却下だ。」

「大蛇丸様の遺体を木ノ葉に渡します。」

 

自来也様は苦虫を噛み潰した様な表情で俺を睨む。

かつての友の遺体を同盟の条件にするのが認められない。しかし、友の遺体は他里からしたら宝の山と言える程の存在である。秘術や秘薬で人としての枠を超えた大蛇丸の遺体を解析すれば、自里の強化に繋がると考える里がほとんどだろう。ならば、木ノ葉で遺体を保管するのが望ましい。しかし、心情的には飲み込めない。

自来也様の考えはこんな所か。

そして、俺たち音としては大蛇丸様の死体について調べられることが少ない木ノ葉に渡して処理して貰うことが一番いい手である。綱手様、そして、自来也様にとって友であった大蛇丸様の体を切り刻むなんてことは心情的にできない。つまり、大蛇丸様の体を調べ上げられ、里の強化をされることがないと考えられる。

そういう訳で、大蛇丸様の遺体を秘密裏に処理するより交渉の手札に成り得るこちらで使った方が音隠れとしては大きな利益となる。

 

「……分かった。ワシが綱手を説得する。」

「ご協力、感謝致します。」

 

良い流れだ。

 

「それでは、自来也様。俺の手を掴んで下さい。飛雷神の術で飛びます。」

「ああ。」

 

森の中から一瞬で姿を消す俺と自来也様。着いた所は四代目火影の顔岩の上だ。

 

「じゃあ、待っておれ。綱手の説得が終わったら呼びに来るからのォ。」

「了解です。」

 

瞬身の術で俺の前から姿を消す自来也様を見送る。手持無沙汰だし、昨日の事でも思い出そうか。

 

+++

 

その部屋は赤く染められていた。…血だ。床も壁も天井にまで血がこびり付いている。空気に触れて赤黒くなった血溜まりの中心には、長い年月をかけて巨大な白蛇のバケモノと化した大蛇丸様の遺体があった。

印を組み、それに手を当てる。と、ズズズという音と共に白蛇の抜け殻から核となった人型の大蛇丸様が出てきた。再び印を組み、棺桶を口寄せしてその中に大蛇丸様の遺体を安置する。

 

「ヨロイさん…一体何を?」

「大蛇丸様の死体を持つのは俺たちには荷が重い。今までの様に暁だけじゃなく、他の里から狙われることになりかねないからな。」

「確かに…大蛇丸様の死体は他里にとっては喉から手が出るほど欲しい物です。しかし、大蛇丸様の死体を人型にした説明にはなっていません。」

「お前のことだ。分かっているんじゃないのか?」

「分かりませんよ!ヨロイさんが何を考えているのかボクには全然分かりません!大蛇丸様が死んだというのに、何故アナタはいつもと変わらずに飄々としていられるんですか!?」

 

声を荒げるカブト。滅多に見られない光景だけに驚いた。事実、カブトが激昂したことなど、俺は二度ぐらいしか見たことが無い。それだけ、大蛇丸様のことを想っていたということだろう。

 

「大蛇丸様が死んだからこそだ。大蛇丸様が死んだ今、俺しか指揮を取れる人間がいない。ここで動かなければ、音隠れの里自体を失うことになる。だから、今は動かなくちゃならない時期だ。その為に、使えるモノは全力で使う。それが、師の遺体であってもだ。」

「師の…遺体?……ああ、そういうことですか。大蛇丸様の死体を交渉の手札にしようという訳ですね。」

「ああ。…許せないか?」

「…少し。ヨロイさんの言っていることは理解できましたし、それが最善なのでしょう。ですが、上手く自分の気持ちに整理を付けることができません。あの日の様に。ボクには何もないと気付いた日の様に。」

 

カブトが言っているのは自分の手を恩人であるマザー、薬師ノノウの血で汚した日のことだろう。その日から、大蛇丸様に縋り付いていたカブトは自分をまた見失いかけている。しかし、縋る対象である俺が居る為に自分を見失うことはないだろう…。

大蛇丸様の遺体が入った棺桶を術で時空間に飛ばし、カブトに向き直る。

 

「カブト。お前に(いとま)を出す。」

 

…それじゃいけない。

俺はカブトには面をしたオビトと組んで戦争を起こして貰わなくちゃならない。だから、コイツを突き放さなくてはならない。

カブトの横を通り過ぎながら、そして目を合わさずに部屋から出て行く。

 

「ちょうどいい機会だ。お前は自分を見つめ直せ。そして、心の導くままに過ごしてみろ。そうしたら、きっと、見つかる物がある。このアジトはお前にやるから好きに使え。そして、お前が“自分”を取り戻した時にまた音に戻りたいと思ったら帰って来い。」

「…ヨロイさん?」

「カァー、似合わねェことはするもんじゃないな。本当はもっと突き放した言い方をしようと思ったけど無理だったか。ふー…そういうことだ、カブト。」

 

顔だけカブトに向け、口を開く。

 

「じゃあな。」

「ヨロイさん!ボクは…。」

 

その場から飛雷神の術で姿を消した為、カブトの言葉は途切れてしまった。

 

+++

 

自来也様が綱手様に話を付けてくれて、書類上での同盟の締結と大蛇丸様の遺体の受け渡しは終了した。ご意見番が出張るかと思ったが、今回の同盟は綱手様の一存で進めるらしい。なんでも、ご意見番の二人との意見のズレが大きくなってきたとのことであの二人には相談せずに決めたと言っていた。

ご意見番の存在がぞんざいに扱われているが、それはこちらとしても交渉が楽に進むので何も言わないことにする。そんな訳で交渉は楽に進み、時間はそれほどかからなかった。

 

「それじゃあ、俺はこの辺で…。」

「ヨロイ。もう少し待て。」

 

立ち上がろうとすると自来也様に止められた。

 

「何でしょう?」

「今、サクラにナルトを呼びに行かせている。お前の口からサスケのことをナルトに説明してやれ。」

 

自来也様の代わりに綱手様が言葉を繋いだ。

 

「ヨロイ、お前は隣の部屋で待っていろ。ナルトたちが来たら呼ぶ。」

「ういっす。」

 

+++

 

紙コップに入ったコーヒーを飲み干す。空になった紙コップを部屋の隅にあるゴミ箱に向かって投げる。

 

「左手は添えるだけ。」

 

添えてないけども。右手しか使っていないけども。それでも、言いたくなる魔力がこの言葉にはあるッ!

 

「暇だな。」

 

ゴミ箱から軽い音がした。俺が投げた紙コップは寸分違わずゴミ箱の中にその身を落とす。

待つこと一時間。軽食でも持って来ればよかったと後悔し始めていた所で隣の部屋、火影の執務室が騒がしくなった。

 

「遅い!」

 

綱手様の声が聞こえる。どうやら、ナルトたちが来たようだ。ソファから立ち上がり部屋から出る。そのまま、火影の執務室の扉の前まで歩き、その場で立ち止まる。呼ばれるまで執務室の中に入らない方がいいだろう。

 

「入れ!」

 

綱手様が俺を呼んだ。ドアを開けて中に入る。

 

「どーもー。」

 

ナルトとサクラの表情が変わる。

 

「二人とも落ち着け!」

「エロ仙人…?」

 

チャクラを練り始めた二人を自来也様が止める。

 

「さっき言った確かな情報スジ。それがアイツだ。大蛇丸についての情報を前からワシに提供していての。情報の正確さについてはワシはヨロイを信用しとる。」

「ってことはヨロイの兄ちゃんはオレたちの味方ってことか?」

「まぁ、概ねそうだのォ。」

「かなり胡散臭い人だと思うんですけど大丈夫なんですか、師匠。」

「今の所はな。アイツが何か行動を起こすことはないと私は見ている。自分にメリットがない限りは動かない男だ。」

 

なんか随分扱き下ろされているような気がする。

 

「なぁ、ヨロイの兄ちゃん。サスケはどこにいるんだってばよ。」

 

俺の後ろ側の方を、少し首を伸ばして確認するナルト。大方、サスケを俺が連れて帰ってきていると期待しているのだろう。

 

「そのことだが、サスケは木ノ葉に帰ってはこない。」

「どういうことだってばよ!?大蛇丸をサスケが倒したんだろ?なのに、なんでサスケってば里に帰って来ねェんだ!?そんなのおかしいってばよ!」

「お前はサスケのことを分かっていないな、ナルト。大蛇丸を倒した時点で木ノ葉に帰って来るならサスケは里を抜けてない。サスケの目的は大蛇丸を殺すことじゃない。」

「サスケくんの目的。それって…イタチ?」

「そう、サクラの言う通りだ。サスケはイタチを殺すまでは止まらない。復讐こそがサスケにとっての忍道だからな。」

「あのヤロー!まだ…。くそっ!」

 

ナルトは俺から綱手様の方に向き直る。

 

「綱手のバァちゃん!オレたちも小隊組んでさっさと行くってばよ!まだ“暁狩り”の任務は継続中なんだろ。」

「ああ。」

「なら、サスケに会う為に最も確率の高い“暁”のメンバーを探すってばよ!つまり、オレたちが狙うのは…うちはイタチだ。」

 

おお、ナルトにインテル入ってる。ナルトの頭の回転に内心戦慄していると、綱手様がナルトに答えた。

 

「うちはイタチか…。さて、どうしたものか…。」

「“暁”の身柄を一人でも拘束してしまえば、後はイビキさんが情報を聞き出してくれると思うんですけど。」

「確かに各小隊には可能であれば“暁”の身柄を拘束するように命じてはいるが…。」

 

後ろから声が響いた。

 

「奴らはそう簡単に口を割るような連中じゃないし、今までやり合った連中の能力を見れば、危なすぎてとてもじゃないが拘束なんて考えられなかった。」

「カカシ先生…。」

「じゃあどうすんっだってばよ!」

「ま…イタチと当たるまで根気良く探すしかないんじゃない?」

「二小隊、更にナルトの動きが分かっている感知タイプ重視のチーム編成ね。悪くない。」

「そ。ヨロイは感知して気づいたと思うけど、外に今回の任務に適した忍たちを呼んでいます。…入ってちょうだいな。」

 

ドアが開き、5人の忍が入って来る。ヤマトを先頭にサイ、キバ&赤丸、シノ、そしてヒナタだ。

 

「ふむ、ではお前たちに言い渡す。“暁”のメンバーの拘束、又はうちはイタチとの接触及び拘束。いいな!決して無茶はするなよ!」

「おう!分かってるってばよ、綱手のバァちゃん!それじゃ、行ってくる。」

「師匠、失礼します!」

 

ナルトとサクラを中心に外に出て行く彼らを見送る。その結果を知りながらも俺はまだ動かない。いや、その結果を知っているからこそ俺は動けない。

しかし、別件に対してはそろそろ動いた方が良さそうだ。

 

「そう言えば、自来也様。“暁”の情報の中でもこれはトップシークレットなんですが…彼らのリーダーは雨隠れの里に潜伏していますよ。」

 


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