一流の銅ヤロー   作:クロム・ウェルハーツ

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@64 非情に…

「これで全部か?」

 

血と呻きと刃の中、物足りなそうな声が響く。

 

「誰にも止めを刺していないわね。甘いわよ、サスケくん。」

「殺したい奴は他にいる。」

 

倒した男の背に座っていたサスケの目が細くなる。イタチの話題になると、サスケの表情はいつもこれだ。俺たちを睨み付けられても困る。

 

「非情にならなければ、イタチには勝てないわよ。」

「あいつの前では非情になるさ。否が応でもな。」

 

地面に突き刺していた草薙の剣を抜き腰に付けている鞘に納めながら、サスケはゆっくりと立ち上がる。サスケから目線を移し、自分の掌を見て人差し指と親指で丸を作った。

大きく息を吸い込んだ俺は指を口元に持っていき、思いっ切り息を吹く。指笛で甲高い音が周囲に響き渡ると、俺の後ろに100人程の忍がシュタッという音と共に現れた。

 

「回収。」

「ハッ!」

 

俺が指示を下すと蜘蛛の子を散らす様に一斉に移動する忍たち。彼らは音隠れの忍の中でも特殊な存在である。チャクラコントロールの精緻を極めた忍たち…医療忍者である。

とは言っても彼らはまだ医療忍者の卵。未熟者たちの集まりだ。その為、サスケには前以て後遺症が出るような攻撃はするなと伝えている。本当にできるとは思わなかったが。

察しのいい奴が俺に話しかけてくる。

 

「サスケくんの実戦形式の修業と同時に医療忍者の育成ができるカリキュラムですか。だから、サスケくんは一人も殺すことがなかった。…違いますか、ヨロイさん?」

「それと、今回サスケにボロボロにされた奴らの中で気概がある奴が居たら面白いことになることも期待している。」

 

たった一人に全滅させられた彼ら一般戦闘員の中で、今回のことをバネに修業に打ち込む奴が居れば、音隠れにとっていい結果になる。

カブトと話していると大蛇丸様から声が掛けられた。

 

「ヨロイ、アナタの差し金だったのね。」

「はい。」

「サスケくんは今のままじゃダメよ。もっと非情にしなくちゃ。」

「あー、大蛇丸様の趣味的に?そう言えば大蛇丸様、ヤンデレ系の美少年が大好物でしたっけ。」

「…。彼は今のままではイタチには勝てないわ。情は刃を鈍らせるものよ。」

 

大蛇丸様はこちらを見る事なく言葉を紡ぐ。三代目との闘いを思い出しているのだろうか?

実力を発揮し、その力をフルに使っていたならば、大蛇丸様が三代目に腕を封印されることはなかった。力を十全に引き出していなかったとはいえ、初代火影と二代目火影に大蛇丸様のスリーマンセルであれば、老いて全盛期の力を出せない三代目が手も足も出せずに負けるのが道理。それなのに、腕を封印されることとなった理由は戦力差による油断、慢心。そして、非情になれなかったことが原因だろう。それが分かっているからこそ、サスケには同じ轍を踏まないように非情になることを進めている。

しかし、それはサスケに情が湧いている証拠に他ならない。自分と同じタイプのサスケに知らず知らずの内に、そして無意識に情が湧き自分と同じ失敗をして欲しくないと考えているのだろう。

 

「何なのかしら、その目は?」

「いえ、別に…。」

 

大蛇丸様は不機嫌な様子で腕を組む。

 

「まぁ、いいわ。後、少しでサスケくんは私のモノになる。三年…長かったわ。もう少しであの子の体を手に入れることができる。」

 

一転して喜色に溢れた気色悪いことを言う大蛇丸様。転生忍術のことを知らない人が聞いていたら絶対、大蛇丸様から10mは距離を取ったに違いない。

 

「そして、私は全てを手に入れる。」

「あー、まぁ、頑張れ?あれ、デジャヴ?ちょっ!待って、大蛇丸様待って!話をしましょう、ねぇお願いですから!だから、蛇を俺に向けるのは止めてェ!」

 

+++

 

「ゲホッ。ゲホッ。」

 

咳き込む大蛇丸様。今の転生の器である幻幽丸の体と大蛇丸様の魂は合わず、拒否反応が出ている。前回の転生の儀式は三回目であり、このような拒否反応が出るのは初めてのことで対策も打てず仕舞いとなった。しかし、サスケの体との相性はデータ上、器として使った幻幽丸の前二人に近い物であり拒否反応は出難いと推測される。尤も、サスケが素直に大蛇丸様に体を明け渡すという前提があればという話ではあるが。

ちなみに、原作通りのストーリーを望む俺としては、この結果が出た時に『私とサスケくんの相性はバッチリね!』と叫んだ大蛇丸様を半目で見る事しかできなかった。

 

「もう限界ですね。」

 

過去に思いを馳せていた俺をカブトの声が現実に引き戻す。

 

「これだと、ランク10の薬を投与しないと体が…。」

「ハァハァ。」

「薬を取ってきます。カブト、行くぞ。」

「はい。大蛇丸様、少し待っていてください。」

 

カブトと共に大蛇丸様の居室を出る。ドアから少し離れた所で大蛇丸様の声が高らかに響いた。

 

「クハハハハハアァ!」

 

大蛇丸様の居室に振り返ったカブトはすぐに顔を戻し話し始める。

 

「流石の大蛇丸様と言えども、今回は参っているようですね。」

「そうだな。薬で誤魔化すのも限界に近づいている。明日か、早ければ今日にも転生の儀式を行った方がいい。」

「しかし、あのサスケくんが首を縦に振るでしょうか?」

「振らないだろうな。まぁそうなれば、実力行使になるだけだ。」

「そうですね。サスケくんと言えども、あの術には逆らえないでしょうから問題は無いですね。あ、ありがとうございます。」

 

薬剤庫の扉を開け、中に入るようにカブトを促す。俺に礼を言った後に、カブトはテーブルの前に向かい、その上に置いているいくつかの粉末を擦り合わせ始めた。俺もカブトに続き、まだ粉になっていない材料を乳鉢の中に入れて擦り始めた。

 

「カブト。お前…いや、何でもない。忘れてくれ。」

 

カブトに、もし大蛇丸様がサスケに負けたらどうするか聞こうかと頭に過ったが何も言わないことに決めた。沈黙は金という言葉もある。藪をつついて蛇を出すことはしなくてもいいだろう。

 

「どうしたんです?言葉を切り上げるなんてヨロイさんらしくないですね?」

「何、下らない胸騒ぎがしただけさ。」

「…。」

 

部屋の中は静まり、俺たちは作業を黙々と進めた。

 

「今日の分は終了ですね。」

「ああ。」

 

何回も調合したので手慣れた俺たちは5分も掛からずに作業を終わらせた。終わらせてしまった。嫌な事が待ち受けていると時間が経つのが早く感じる。

…嫌な事と俺は思ったのか?

大蛇丸様を見捨てる事を嫌な事だと。そんな訳はない。大蛇丸様には散々振り回され、危険な目にも合わされた。それなのに、なぜ俺は大蛇丸様がいなくなることを嫌な事だと感じたのだろうか?

 

「共依存…か。」

「何かおっしゃられましたか?」

「いや、何でもない。」

 

薬を持ち、薬剤庫の扉を開けたカブトから尋ねられたが、その質問に答えずカブトが開けた扉を潜り抜ける。廊下を歩きながら、先程考えていた事に頭を切り替える。

共依存。

DVを受けた妻が夫から離れられないことがそれの一例だ。その人が自分を必要としているので、どんな目に会わされようがその人から離れられないこと。

モヤモヤとしたこの気持ちの正体に当たりを付け、この事から現実に目を戻す。

大蛇丸様の居室の近くまで戻ってきた俺たちは、扉が無くなり血が噴き出た大蛇丸様の居室を目の当たりにした。

 

「これは…。」

 

カブトの目が鋭くなる。壁に張り付くカブトを横目に、廊下の真ん中を通りドアが在った場所から部屋の中を見る。そこには、地に伏した大きな白蛇の抜け殻とそれを鷹の様な目付きで見下ろすサスケが居た。

 

「ヨロイか?」

 

無言で頷く。スッと横にカブトが付いた。

 

「それと、カブトか。」

 

それ以上、言葉を発しないサスケは俺たちの横を通り廊下に出た。それを追いかけるようにカブトが質問を投げかける。

 

「今の君は…一体どっちなんです?」

「愚問だ。」

「ヨロイさん?」

「考えてもみろ。今、俺たちの前に立っているのが大蛇丸様だったなら、俺たちの顔を見た瞬間、『ククククク、遂に手に入れたわ。サスケくんの体が私のモノになったのよ。ハハハハハハハーッハッハッハッハッハ』とか叫んでいるに違いないだろ。で、そんな反応が無いってことは…。」

 

首を少し傾げ答えを言う。

 

「アイツはうちはサスケってことだ。」

「ヨロイの言う通りだ。」

 

サスケはカブトの目に目線を合わせる。写輪眼を発動させたサスケはカブトを自分の幻術の中に引きずり込んだ。

時間にして十数秒。一分にも満たない時間でカブトは理解したらしい。

 

「大蛇丸様が死んだ…。いや、これではまるで…。」

「オレが奴の全てを乗っ取ったのさ。」

 

サスケが今度は俺に目線を合わせる。

 

「ヨロイ。これから、俺はイタチを殺す。お前も着いて来い。」

「逆に俺から提案する。“音”に残れ、サスケ。」

「“音”に?」

「ああ。音隠れの里は大蛇丸様のネームバリューと工作で持っていた里だ。大蛇丸様が居たからこそ、どの里も手出しをしなかったという一面がある。言ってみれば、大蛇丸様は楔…要だ。だからこそ、音はお前を必要としている。大蛇丸様を倒したと言う箔が着いたお前を、な。」

「フン。俺には関係のない話だ。」

「“音”の忍として動くという条件を飲めば、可能な限りバックアップはする。どうだ?悪い条件じゃないだろう。」

「機動力が削がれる。論外だな。それに、お前がオレの下に就かなかったときのプランも考えている。」

「やはり…か。そう言うと思ったよ。サスケ…。」

「何だ?」

「前に言ったことを覚えているか?」

 

少し考える素振りを見せるサスケ。

 

「イタチを殺すのは勧めないという話か?それこそ、論外だ。オレはいままでイタチを殺す為に生きてきた。これからもそれは変わらない。オレは…復讐者だ。復讐が終わるまで立ち止まる事はできない。」

「じゃあ、ここで別れることになりそうだな。俺は大蛇丸様が死んだ後の処理をしなくちゃならないし。」

「そうか。じゃあな、ヨロイ。アンタには世話になった。」

 

目を見開く。あのサスケが俺に感謝の言葉を述べた。あり得ないことだ。慌ててサスケの後姿にピントを合わせる。

離れていくサスケの姿に大蛇丸様の姿が重なる。

あれは、サスケの言葉だったのか、それとも…。

 

「どういたしまして。こっちも楽しかったですよ。」

 

思わず、口からそんな言葉が出てきた。

これから忙しくなる。いつかきっと手に入れる未来の為に踏んばらなくちゃならない。その為の駒を三つ手に入れる準備が必要だ。まずは…。

 

「木ノ葉だな。」

 


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