アジトの中でも一際大きな部屋である大広間。そこには、木の幹を何本も束ねたような巨大な胴体を持つ蛇の抜け殻が飾られている。悪趣味だ。
その蛇のオブジェの前に少年が座っていた。
「遅かったな。午後から新術の修業に付き合うって話じゃなかったか…ヨロイ、大蛇丸。」
「わりーわりー。少し予想外な事が起こってな。時間を取られちまったんだよ。」
「フン…。さっさと準備しろ。」
「またそんな言葉遣いを…。」
「もっと言ってやれ、カブト。」
さっとカブトの後ろに体を移動させる。
「え!?ヨロイさんが言えばいいじゃないですか。」
「ダメ。あいつ、俺の話をほとんど聞かねェもん。真面目に聞いてくれんのは修業の解説をしている時ぐらいだな。…えーと、あれだ。反抗期か?」
「テメェが聞く価値がないようなくだらない事をペラペラ話しているからだ。」
「ねー、反抗期でしょ、この子。この後、水鉄砲を構えながら『木ノ葉を潰す』とか言っちゃうんだよ、きっと。」
「はぁ、そうですか。」
大蛇丸様が俺たちの前に出て話を遮る。
「サスケくん、そう怒らないで。代わりに今日はちょっとしたプレゼントが手に入ってね…。アナタと同じ木ノ葉出身の忍。懐かしい故郷話でもできるんじゃなくて?」
「フン…。」
「初めまして。ボクはサイと言います。君がうちはサスケくんで…。」
「失せろ。」
「………。」
逆光で姿がシルエットだけになっているサスケは目線をサイに向ける。暗闇の中でも猫の様に爛々と光る赤い写輪眼は拒絶の色を示していた。
「笑顔を作ってはみても、ボクは何かと嫌われやすいタイプみたいだ。ナルトくんにも嫌われたばかりだっていうのに…。」
「いや、俺はお前のいつも笑顔な所、嫌いじゃないぞ。あと、サイ。それ禁句だから、もう言わない方がいいぞ。」
「ありがとうございます。後、禁句とは?」
「うん、そういう素直な所もいいね。サスケ、お前も少しは見習え。はーい!そんな目ェしなーい!おにーさん、そんな目で睨まれると怖いよ。」
サイをフォローしたらサスケに睨まれた。だから、友達できないんだよ、こいつは。
「ナルトくんと比べれば、他人を必要以上に踏み込ませない君との方が仲良くできそうなんだけどな。」
あーあ、サイめ。禁句を二回も言ってしまったか。
サイが床にへたり込む。
「サスケくん!」
カブトが声を荒げ、サスケを止める。サスケもそれ以上サイを痛めつけるつもりはなかったのだろう。目を閉じた。
「あいつ、ナルトの名前を出すとイライラするからもう止めとけ。殺されるぞ。」
「サスケくんをおちょくらないことをお勧めするわ。私より厄介だからね。」
俺と大蛇丸様はサイに注意する。
「そんな奴はどうでもいい。行くぞ、大蛇丸、ヨロイ。」
「君の事はナルトくんから色々聞いてます。」
俺たちの注意は意味がなかったようだ。サイはサスケに話し続ける。
「君の事をずっと探していたみたいだ。この三年間…。」
「いたな…そんな奴も。行くぞ。」
「ナルトくんは君のことを…君の事を本当の兄弟の様に思っていると、そうサクラさんから聞きました。」
「………オレの兄弟は…殺したい男、ただ一人だけだ。」
サスケはサイを一瞥すると、その場から姿を消した。
「じゃあ、私たちも行くわ。カブト、これでビンゴブックを作っておきなさい。…行くわよ、ヨロイ。」
「また先に言われた。」
「元々、私のセリフじゃない。…サスケくんが待ちくたびれてイライラしているからさっさと行くわよ。」
「了解。」
瞬身の術で大広間から修練場へと移動する。先に発ったサスケがそこには待ち構えていた。
「遅い。」
「お前が早いから。少しは周りに合わせるってことを覚えようぜ。」
「周りに合わせることで強くなれるのか?」
「フフ…サスケくんに一本取られたわね。」
「いや、取られてないですし。これから、20ぐらいの反論をしようと思っていた所ですし。」
「聞いてあげる時間がないわ。サスケくん、来なさい!」
サスケは俺に向かって対立の印を組む。
「…はいはい。いつも通りの組手形式ってことですね。俺が闘うんだから来なさいって言うのは止めてくださいよ、ホント。」
しぶしぶサスケの近くに移動し、程よい距離になった所で歩みを止める。
「行こうか。」
「ああ。」
対立の印をサスケに向ける。一瞬の静寂。そして、両者ともに動いた。
まずは小手調べ。俺はポーチから手裏剣を三枚取り出してサスケに投げる。手裏剣はぶれることなく、まっすぐサスケに向かう。
「フン。」
それをサスケは草薙の剣を一回振るだけで全て叩き落とした。次いで、サスケは左手の小手の下に右手を入れ、手裏剣を口寄せすると俺に向かって投げる。印を組み上げそれを迎撃する為にチャクラを練り上げる。
「水遁 破奔流!」
手裏剣ごとサスケに攻撃を加えるが、サスケの姿はそこにはなかった。
チャクラ感知を行う。斜め後ろ。
手首を振り口寄せした黒刀に風の性質変化を行ったチャクラを纏わせ、頭の上に掲げる。バチッと放電したような音が辺りに響く。サスケの刀と合わせたまま前に行くと、放電音が何回もするとともに、火花が散っていく。刀の接触が終わるタイミングで、俺の背中にサスケの足が掠った。刀と蹴りの二段構えとは中々やるな。
サスケに向き直り、少し離れた距離を瞬身の術で詰める。刀を振り下ろすが、サスケは余裕がある動きで俺の刀を受け止めた。
「そんなもんか?」
「本番はこれからだろ?違うか?」
「フン。」
お互いに腕を振るい、刀を十数合打ち合う。
一旦距離を取る為に後ろに下がる。サスケも同じことを同じタイミングで考えたらしく後ろに下がり、俺とサスケの間には大きく距離が開いた。
印を組む。
「水遁 水弾の術!」
「火遁 豪火球の術!」
俺の水弾の術とサスケの豪火球の術がぶつかり合い、辺りにスチームを発生させる。性質変化の優劣関係ではこちらが有利だというのに、それを力技で押し切るとは大した奴だ。
再び印を組み、影分身を二体作り上げ俺の前に置く。そして、本体の俺は土遁で床の中に潜り込む。
準備を終えた瞬間、目の前の蒸気の中から黒い影が俺に向かって飛んで来た。サスケだ。左手に青い雷光を乗せながら、俺の影分身に向かって突き出す。
「千鳥!」
スピード、威力。どちらを取っても一級品だ。しかし、この程度じゃ、まだ俺は殺れない。近距離限定ではあるが、チャクラ感知でサスケの動きの一つ一つを分析することができる。両手に風の性質変化を行ったチャクラを纏わせ、サスケの手首を捕まえる。
もう一体の影分身が動きの止まったサスケの首元にクナイを振り下ろす。これは、影分身で攻撃をする意味がなかったかな?
サスケの首元にクナイを当てる。
「俺の勝ちだな。」
「いや、俺の勝ちだ。」
この期に及んで減らず口を…。本体の俺が心中斬首の術でサスケを床に埋めてやろうかと考えていると、サスケの体が揺らいだ。水面に
「これは…雷遁影分身の術!?」
俺の影分身が呟いた瞬間、サスケの雷遁影分身が弾けた。俺の影分身の動きが雷撃により止まった。
サスケの本体は…あそこか!影分身たちの頭上にサスケが居た。左手に着けたステッカーに指を這わせたサスケを見て、俺も慌てて印を組む。
サスケの体から下に向かって雷が落とされる。
「
雷は俺の影分身たちを飲み込み煙へと変化させ消失させる。
床へと降り立ったサスケは雷を纏った左手を上に掲げ、一言だけ呟く。
「雷鳴と共に散れ…。」
「“
「麒麟!」
写輪眼相手に土遁で隠れても意味がないな、やっぱ。真っ直ぐ俺の方を向く麒麟を見ていたら、そう結論が出た。それでも、つい土遁を使ってしまうのは癖なんだろう。直さないといけない。
麒麟の発動の一瞬前に床から頭を出し、麒麟の進行方向に盾として風遁 真空大玉で攻撃をする。攻撃は最大の防御なりというが、防御足りえなかった訳で…。
「のわぁあああ!」
地面ごと麒麟の餌食になり、宙に飛ばされる。ペッシャッと地面に叩きつけられた俺はすばやく起き上がり、サスケに向かって怒鳴る。
「殺す気か!」
「殺す気で来いと言ったのはお前だ。」
「言ってないし、そんなこと!」
「俺とお前の初めての組手の時に言われた。」
「よくもまぁ、そんな昔のこと覚えてるよな!ってか、もう状況違うし!お前、あれからかなり強くなってるし、下手したら死んでたし!」
「まだ呪印は出してない。」
「呪印よりミスティッカー使われた方が厄介極まりないってこと分かって言ってんのか、それ?」
サスケが使ったのは、ミスティッカー“神立”と呼ばれる兵器だ。これも、ナルトとの戦闘に使ったオーパーツと同じ岸本聖史先生が書いた物語、ブレイザードライブで出てくる物を万物創造の術で作り上げた一品物で逸品物。
この一枚しか作っていない神立は少々特殊で、流し込まれた少ないチャクラを増幅させて多量の電力を生み出すことができる。コスパで言えば、最上級の代物だ。ただし、それは雷の性質変化をさせたチャクラに限る。普通のチャクラで扱えば、チャクラ消費量はそれの十数倍。とてもじゃないが、戦闘で使用できるレベルじゃない。しかし、使いこなすことができれば、今のサスケの様に大技を少ないチャクラで連発することも可能になる。我ながら、厄介なモノを厄介な奴に渡しちまったよ、全く。
「閑話休題。…話を戻そう。神立を上手く扱える様になったな。新術の麒麟も申し分ない威力だ。」
「ああ。」
「それじゃ、修業を終了しよう。俺はあちこち擦り剥いてもうヤル気が出ない。」
「…いいだろう。ヨロイ、一ついいか?」
「何だ?」
「今の俺と…ナルト。強いのはどっちだ?」
「お前だ。かなりの差があるな。」
「そうか。」
なんだかんだ言っても気になるようだ。それがライバルというものか。
サスケが俺に背を向ける。
「先に戻る。」
さっさと歩いて行くサスケ。
それに続いて、修練場から出る。それにしても…。
「正直、『雷鳴と共に散れ』はねーよ。」
そんなことを言っている時間があれば、さっさと発動させればいいのにと思うが、態々そういうセリフを言うサスケのことは嫌いにはなれなかった今日この頃である。
「あ!大蛇丸様、マジ空気でしたね。」
「黙りなさい!」