一流の銅ヤロー   作:クロム・ウェルハーツ

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断章 記憶 失われた頁 vol.2

「ミスミ。ミスミ。ミスミィィィイ!」

 

神隠しの被害が多い土地として恐れられた鬼界島に慟哭が響く。

 

「ミスミ。ミスミ。ミスミィィィイ!」

 

いなくなった者を悼むいくつもの悲しみの声を飲み込んできた島は、ただ悠然と佇むだけだ。いなくなった者は帰らない。

 

「ミスミ。ミスミ。ミスミィィィイ!」

 

どんなに望もうが…彼は帰らない。

 

「たしか、起爆札を起動させたのはお前だったよな?全て織り込み済みじゃなかったのか?」

「…。」

 

だって…ミスミなら大丈夫だって思ったんだもん。まさか、この程度の爆発でおっちんじまうとは予測ができなかった。

 

+++

 

断章 記憶、失われた頁 @6

 

+++

 

あーあ、日が昇っちまった。また徹夜かぁ。

 

「ミスミのことは残念だけど、俺たちは彼の犠牲を無駄にしないためにも任務を遂行しなければならない。徹夜だろうががんばろう!ミスミのためにも。」

「あいつとはあまり親しくなかったから、正直どうでもいい。」

「最低かッ!」

 

なんてことをいうんだ、このアマチッ!「俺もミスミとは1~2回任務でいっしょになっただけの仲でそんなに親しくなかったが、悲しもうとしてるんだぞッ!性格も趣味も嗜好も全然合わなかった、ってか、後輩のくせに生意気な所と性格がブラックだった所が嫌いだったのに俺は悲しもうとしてるんだぞッ!」

「…最低。」

 

漁火ちゃんがボソッと呟いた。グギギと首を回す。

 

「声に出ちゃってた?」

「思いっ切りな。」

 

アマチの言葉に漁火ちゃんも頷く。俺はフラフラと船尾の方に向かい、上半身を船から投げ出すようにしてしゃがみ込む。

 

「まぁ、落ち込むな。そんな日もある。」

「…船酔いだもん。変なことを口走ったのは船酔いのせいだもん。」

「船酔いで気は大きくならんぞ。」

 

アマチの言葉で少し泣きそうになった。

 

「ヨロイ。そろそろ作戦開始の時間だ。頼んだぞ。」

「りょーかい。」

 

空を見上げる。

 

「…ミスミを失ったというのに、空は青いままなんだな。」

 

漁火ちゃんの目が冷たい。それっぽい言葉を言ったのに全然信じてくれていない様子がビンビンに出てる。

 

「雨降らした方がいいかな?マジで。」

 

空は憎いほど青かった。

 

***

 

「木ノ葉の忍者からの連絡はないのか?船に同行するという話だったのに。一体どうしたんだ?」

 

髭面のおっさんがイライラした様子で部下に尋ねる。そこに、部下の一人が駆け寄ってきた。

 

「隊長!たった今、連絡が入りました。」

 

部下は情報が書かれた巻物を渡す。おっさんはそれを広げて目を通すと愉快そうに笑う。

 

「そうか!はっはっはっ!流石、エリート忍者たち。昨晩の内に海魔の討伐を終えたらしい。」

「おおー。」

「すごい。じゃあ、これで船は安全ですね。」

「もちろんだ。者ども、配置に付けぇい!出航だぁ!」

 

バサッと船の帆が上がる。次々と御用金船が出港していく。

…計画通り。そんな表情で笑う部下の顔はとても邪悪だった。

 

+++

 

断章 記憶、失われた頁 @7

 

+++

 

しばらくして、髭面のおっさんのトランシーバーに連絡が入った。

 

「隊長!」

 

声がくすんで聞き取りづらいものの、トランシーバーの向こうの船員が何かに脅えていることはわかる声色だった。

 

「どうした!?」

「何かがあります、船底に。う、うわぁあああ!」

「なっ!」

 

髭面のおっさんは慌てて回りを見渡す。

 

「敵の確認をしろ!」

「は、はい。」

「む!?何ぃ!」

 

髭面のおっさんは驚いたことだろう。目の前には暗礁に乗り上げた船が数隻。更に、その船に向かって、今、自分が乗っている船がドンドン近づいて行っているのだから。

 

「面舵いっぱい!」

「…舵が、利きません!」

「なんだとぉ?」

 

船員は慌てて舵を取ろうとしているが舵は利かない。なぜなら、漁火ちゃんが船の舵にワイヤーを巻き付け船上からのコントロールを受け付けないようにしたからだ。

更に、前の船も同じ状況にした。後は、放っておけばいい。勢いはそのままに、暗礁に乗り上げ動きが鈍った前の船に近づいていく。

 

「ダメです!動かない。」

「くっ!ぶつかる。全員何かに掴まれ!」

 

船がぶつかった。

腹に響く重低音が辺りに木霊する。それと同時に木と木、鉄と鉄が擦れる高音も聞こえてくる。ぶつかった揺れが収まった後、おっさんはゆっくりと立ち上がった。

 

「海魔の襲撃か…。」

「ふふふふふ。御用金の運搬ご苦労。」

「お前は…さっきの!?」

 

先程、木ノ葉の忍が海魔を倒したと嘘の情報をおっさんに渡した船員が変化の術を解く。術を解いた際に出る白い煙が晴れた後に立っていたのは、我らがアマチだった。

 

「何者だ?」

「おとなしくこの船を渡せば、命は助けてやってもいい。」

「ふざけるなぁ!」

 

おっさんが目で合図をする。アマチの死角にいた船員が刀を彼に向かって振りかぶる。が、その刃はアマチに届くことはなかった。

 

「うぁあああ!」

 

横から突然噴出してきた水流に船員は流される。水流の勢いで流され、床に頭をぶつけたその船員はそのまま意識を手放した。おっさんは船員の様子をチラリと確認し、その水流がどこから来たのかと探す。

おっさんの目線が海魔と化した漁火ちゃんの黒い瞳と合わさった。『しゃー』って威嚇する漁火ちゃんはかわいいのに、船員たちはそうは取らなかったらしい。

 

「海魔だ!」

「化け物だ!」

 

おっさんにつられて漁火ちゃんを見てしまった船員たちは騒ぎ出す。その混乱に応じて、アマチが少し遠くの岩場にいる俺に向かって首を振った。合図だ。

あ、ちょっと待って。今、鼻くそほじってて指を海で洗ったら印を結ぶから。

…アマチの呆れたような目が心に深く突き刺さる。生理現象だ、仕方ないだろ?海水で指をしっかり洗って印を組む。

 

「魔幻 地獄業火の術。」

この術は上空から巨大な火の玉を落下させ周囲一面を火で覆う忍術だ。ただし、炎は本物の炎じゃなくて、幻術。

 

「な、何!?」

「あれは!?」

 

だけど、幻術耐性皆無の一般ピーポーには超の字が付くほど効果的だ。

 

「火攻めだぁ!」

「逃げろぉ!」

 

船員たちは火ダルマとなった船を見捨て、次々と海に飛び込む。

 

「ヨロイ!後始末を。」

 

アマチが俺に命令する。アマチの得意げな顔に少しイラッとした。俺は三白眼の奴は越前リョーマみたいなイケメンしか認めなくないっつーのに、コイツは。しかし、それをおくびにも出さずに頷き、印を組む。一応、不細工でもここの責任者だ。

印を組み上げ、掌を海に浸ける。海に渦潮が現れた。“水遁 大爆流の術”。決して、ポケモンのうずしおとかいう秘伝技ではない。この術は渦潮を作ることしかできないし。

俺が渦潮の行方を見守っているとクナイが飛んできた。

 

「Trinity! Help!」

 

クイッと上体を逸らし、それを避ける。いわゆるマトリックス避けだ。そのままの体勢を維持しながら、顔の方向を変えてクナイを投げてきた人物の方に向ける。そこには、サングラスを掛けた少年がいた。

 

「お前の相手は俺だ。」

「決め台詞を言う前にこの体勢に対するツッコミが欲しかったんだけど…。」

「俺は本当に面白いものにしか笑わない。」

「いや、お前が笑う所なんて想像つかねーよ。シノ。」

 

ザワワという音を出しながらまた蟲がゾロゾロと出てくる。きしょい。

シノがここにいるってことは…。感覚を拡げる。

いのが、さっき俺が溺れさせた船員の救助、更に、ナルトとアンコが漁火ちゃんとアマチと対峙している。

 

「いいね、お前ら。」

 

笑顔を浮かべて褒め称えたハズなんだが、シノは足を一歩後ろに下げ、焦った顔つきで俺を見てくる。やっぱり、俺の笑顔は怖いのだと思い知らされた。

 

***

 

海坊主。

その体は巨大で黒く船を飲み込むこともあるらしい。竜神の零落した姿であり、生贄を求めるともいうがその正体は謎に包まれている。

と、いう話なんだけどさ、あれはどう見ても…。

 

「スライムだよなぁ。ドラクエに出てこない感じの。」

 

デフォルメされていないドロドロした、これぞスライムって感じのバケモノが現れた。バケモノは傍にいたナルトを掴んで、口の中に放り込んだ。歯はなくて咀嚼はされないし、服や皮膚にも何も影響がない所を見ると溶解液で体ができているという訳でもないらしい。それでも、あのまま居たらまず間違いなく溺れ死ぬ。

 

+++

 

断章 記憶、失われた頁 @8

 

+++

 

口寄せ生物は多種多様だ。実際に見ることができる一般的な生物から実験の検体にされたようなありえない生物まで、契約を結べば呼び出すことができる。で、その中に海坊主って生物かどうかわからないようなものまでいるんだけど、それ、今俺の目の前に居たりするんだよね。

 

「ナルト!」

 

シノが叫ぶ。放っておかれるのは少し悲しかったりするんで説明してやるとしよう。

 

「聞け、シノ。あれはアマチの口寄せ、海坊主。アマチ曰く、“動く水牢の術のようなもの”らしい。で、奴は弾力性のある体で物理攻撃はほとんど受け付けない。つまり、ここでナルトを助けることができるのは…。」

「俺の奇壊蟲…か。」

「ご明察。」

 

スライムに奇壊蟲を取りつかせて、そのチャクラを吸ってしまえばいい訳だ。そういう攻撃なら通る上に、チャクラを通わせた水でその体のほとんどが構成されている海坊主は、チャクラを失い水に還るって寸法だ。

 

「だが、俺をナルトの助けには行かせないためにお前は俺と闘っている。違うか?」

「ご明察。つか、あいつに助けは必要ないと思うし。」

 

俺がそうぼやくのと、ナルトのチャクラが一気に膨れ上がったのは同時だった。

 

「うおぉおおお!」

 

朱いチャクラがナルトの体を覆う。ナルトの体にも変化が現れる。犬歯が鋭くなり、頬の線が濃くなる。そして、目の瞳孔が縦に切り裂いたような文様に変化した。

九尾の状態変化だ。

九喇嘛モードとは違う、九尾の力をコントロールできていない状態だ。チャクラの衣も不完全で九尾とのリンクがほとんど繋がっていない状態変化である。

ナルトのチャクラが物理的な勢いをもって海坊主の体を内側から吹き飛ばした。痛そう。

 

「引き時だな。」

 

ボソッと漏らした言葉にシノが敏感に反応した。

 

「お前は逃がさない。」

 

シノの腕の一振りで蟲たちが一斉に襲い掛かってくる。きしょい。

 

「悪ぃけど、さ。逃げさせてもらう。水遁 水陣壁!」

 

蟲が来る前に術を発動させて身を隠す。俺にはまだ仕事が残っているから、ここで遊んでいるのはダメなんだよなぁ。正直、もっと遊びたかったんだが仕方ない、か。

 

+++

 

アマチが変身してナルトと闘うものの結果は負け。さらに、漁火ちゃんも闘う気が起きなかったみたいでアマチは結構あっさりと捕まってしまった。だが、彼は諦めずに海坊主に指示を出す。なんでも、海坊主は海水さえあればいくらでも復元可能らしく、ナルトのチャクラで吹き飛ばす攻撃は効いていなかったらしい。

しかし、ナルトとガマブン太のコンビ攻撃で跡形もなく蒸発させられて、アマチは手札を全て使い切ったようだ。

結論を出そう。

海から跳び上がり、アマチが縛り付けられている丸太の上に降り立つ。

 

「!…ヨロイ。」

「うっす。アンコ、こいつと話をさせてもらっていいか?」

「ダメに、くっ!」

「金縛りの術。」

 

アンコも含めたその場の全員に術を掛ける。

 

「か、体が動かねぇってばよ。」

「金縛りの術か。」

「なんなのよぉ、これ。」

 

ナルトたちに顔を向ける。

 

「少し、黙ってろ。」

 

三人は体を震わせ、口を閉じる。大蛇丸様流の脅し方を習っといて良かった。これでスムーズに話ができる。

 

「で、アマチ。ご苦労だった。」

「挨拶はいらん。早くこの縛りを解け!」

「そうはいかない。」

 

アマチは驚いた顔で俺を見上げる。

 

「まずは話を聞いてもらう。お前の研究だが、正直、使えない。海戦ではそこそこ使えるものの、海魔の技術に精通しているお前が変化して下忍に負ける程度の戦力ならいらない。検体の数を揃えようが、実力のある忍や賞金稼ぎだったら一蹴されるだけだしな。」

 

右手をアマチの頭に置く。

 

「検体を海魔にするための資金もかかる上、そこから修業を付ける手間暇も考えたら戦力になるまでかなりの金と時間が必要になる。そこまで、“音”は待てない。つまり、お前と手を切る。」

「そ、そんな!?」

「そういう訳だから、さよなら。」

 

アマチの顔から表情が消えていく。沈黙したアマチを見てナルトは声を振り絞った。

 

「何を…何をしたんだってばよ!?」

「殺した。」

 

驚きで広がっていたナルトの目が更に大きくなる。

 

「任務で大きな失敗をした忍や、重要な情報を持ちながら敵に捕まった忍は消すのがセオリーだ。木ノ葉は違うけどな。アマチの情報を木ノ葉に持ち帰らせる程、俺たち“音”は甘くない。本来なら、ここでお前たちを殺すべきなんだけど、さ。」

 

四人とも顔が青くなってる。ここまで脅せばそうなるんだろうけど、まぁ。

 

「殺さない!」

 

笑顔で言う。それとついでに金縛りの術を解く。

 

「なぜ、だ?」

 

アンコが尋ねる。当然の質問だよな。絶好のチャンスというのに敵に何もしないなんて普通考えられないし。

 

「お前らが好きだから。」

 

はい、そこー。蛆虫を見るような目つきでこっちを見なーい。いの、お前のことだぞ。

 

「まぁ、そういう訳でまた逢えたらよろしくな。」

 

さよならの言葉を残し、アンコたちの前から姿を消す。

そして、目の前に写ったのは大蛇丸様だった。

 

「うぎゃぁあ!」

「私の顔を見て驚くなんて随分と失礼ね。」

「さーません、大蛇丸様の顔が怖くって。けど、なんで俺がマーキングした所に立ってたんですか?」

 

朝、目が覚めたら大蛇丸様の顔がすぐ傍にあった時と同じ衝撃を受けた俺を放って、大蛇丸様は椅子に腰かける。移動した瞬間にあの顔を見るとかマジねーよ。

 

「半月も経ったのだからそろそろ帰ってくる頃と思ってね。早く報告が聞きたくて椅子をここまで持ってきたって訳よ。それで、アマチをどうしたの?」

「殺しました。計画は無理があるものでしたし、アマチは木ノ葉に捕まったので。」

「…ミスミは?」

「殉職しました。」

 

背筋をシャキンとして答える。

 

「まぁ、いいわ。アレ程度ならいくらでも補充は利くしね。で、ヨロイ。早速だけど、サスケくんに修業を付けてあげてくれない?あの子、強くなりたくてウズウズしてるみたいだから。」

「了解です。」

「ああ、それと、紹介するわ。入ってきなさい。」

 

後ろの扉が開く。白い髪の少年が脅えた様子で入ってきた。

 

「水月よ。この子にも修業を付けなさい。」

「了解。」

 

ため息をついて肩を竦める。

俺の計画も少しずつ進めるとするか。

笑顔を浮かべた俺を見て、水月が泣きそうになっていたのはまた別の話。

 


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