一流の銅ヤロー   作:クロム・ウェルハーツ

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以前上げていた断章を加筆修正しました。
第一部と第二部の間のストーリーになります。


断章 記憶、失われた頁 vol.1

夏!海!人魚!

最後変なモノが入ったと思った人は手を挙げて。ビシッと手を空に向かって掲げる。

 

「…。」

 

無口な女とツーマンセルで夜の海の上に立ってます。

シチュエーション的には、最高。ここで花火が上がれば最高潮!

な、ハズなのですが。

 

「一見、海上デート。しかし、これから船を強盗とかテンション上がらなくね?ねぇ、漁火ちゃん。」

「…。」

 

ちくしょう。だから無口キャラは嫌いだ、グスン。

この後、俺と漁火ちゃんは船を襲い、金を奪うこととなった。

 

+++

 

断章 記憶、失われた頁

 

+++

 

「ヨロイ、ここに。」

「大蛇丸様、一体どうしました?ハッ!いや、言わなくていいです。わかりますとも。転生直後の自分の体と精神がうまく合致していない感覚。まるで、性質の悪い夏風邪を引いたような気持ちの悪い感覚。そういう時には、人の温もりが欲しくなりますもんね。」

 

手を大きく広げる。

 

「さぁ、大蛇丸様。この腕の中に飛び込んでおいで!」

「海の国に行くわ。準備なさい。」

 

相変わらず、無視の仕方がキレッキレだぜ。このやろう。ここだけは、六道仙人の爺さんやダンゾウ様を遥かに上回る。

 

「ヨロイ、さっさと準備しろ。お前の馬鹿話にいつまでも付き合っていられるほど、俺は暇じゃない。」

「俺の話に付き合えるほど、気が長くないって話だよね、それ。もう少し根気強くなくちゃダメだっつーの、サスケ。」

 

写輪眼を発動させながら、俺を睨み付けるのは“うちはサスケ”。怖い。

話を戻すことにしよう。マジ、怖いしこのガキ。…昔はいい子だったのになぁ。

 

「大蛇丸様。で、なんで海の国なんかに?」

 

大蛇丸様に話を振る。

 

「ヨロイ。海の国であなたに判断を下してもらいたいことがあるわ。」

「わかりました。海の国って言えば、人魚計画のことですね。」

「…そんな名前の実験じゃないハズだけど、まぁ、合っているからいいわ。その計画ね、十年以上経っているのにまだ実績が出てないのよ。流石に時間が掛かりすぎている上に、そこまでの結果を出せそうにもないの。だから、ね…。」

「えー、やだー。」

 

大蛇丸様と目が合う。

 

「調子乗って、さーません。その計画を潰すかどうかって判断を俺が下す訳ですか。了解です。」

 

大蛇丸様に背を向ける。

 

「さぁ、行くわよ。」

「私の真似をするのはやめなさい。」

 

+++

 

それからそんなこんなで、海の国。

まぁ、計画自体は潰さないことに決定した。実験自体は最終段階に入ってるし、そこまで、悪い物じゃない。ま、これから資金が掛からなければまだ続けてもよさそうって報告してみた。

ら、資金がまだ必要だと、責任者のアマチが言いだしやがった。

こっちも、今、金欠なんだよ、カス!がんばってどうにかしやがれっていったら、御用金船、海の国が霧隠れに支払っている国防料をたんまり積んでいる船、を実験体に襲わせて金を奪い取るって言いやがった。

じゃ、がんばりなっていったら、この、アマチとかいう野郎。実験体が捕獲されでもしたらマズイってことでその警護の人員をくれって、大蛇丸様に言いやがった。

チラリと俺を見る大蛇丸様。首をブンブンと横に振る俺。ニヤリと笑う大蛇丸様。

転生直後で包帯ぐるぐる巻きの右目しか見える所がないミイラ男になっているのに、表情が分かるのはこれまでの経験からだ。そして、その後の展開が分かるのもこれまでの経験からだ。…まず、間違いなく俺が護衛として選ばれる。めんどくさい。

 

「推薦したい人物がいます!」

 

なら、身代わりを立てればいい。ビシッと手を挙げた俺に場の目が集まる。

 

「剣ミスミ。彼を推薦します!」

「わかったわ。…アマチ。その、漁火とかいったかしら?その実験体にミスミという私の部下を付けるわ。」

 

計画通り。

だーれが、あんな息の詰まる磯臭ぇ実験場で暮らしていけるんだよ。

 

「あと、責任者として、ここのヨロイを連れて行きなさい。ヨロイいいわね?」

 

大蛇丸様がとてつもないことを言い出す。このやろう。

ええー、って表情を向ける。

 

「いいわね?」

「はぁ、わかりました。」

 

あー、鬱だ。

あんなとこ、誰が好き好んで行くの?

この時までは、そう思っていた。しかし、この時の俺はまだ知らなかったんだ。“アイツ”に会えるなんて、思いもしなかったから。

 

***

 

少し時間が過ぎまして…。

さてと、一体どこに行ったのかな?民家の屋根の上で精神を研ぎ澄ます。研ぎ澄ました感覚にあるモノの存在が引っかかった。今まで閉じていた目をカッと見開く。

 

「見つけた。行くぞ、ミスミ。」

 

家々の屋根を飛び移る。

 

「ヨロイさん、何かいいことでも?」

「少し、な。木ノ葉を抜けてからは、3年後まで会えないと思っていた奴に会えるかもしれないからな。」

 

俺の顔の表情が変わったのを見て疑問に思ったのかミスミが尋ねてくる。俺の感覚に引っかかったのは、“あるモノ”だけじゃなかった。…随分と懐かしく感じられるチャクラだ。

 

「しっかし、今はそれより優先しなきゃいけないことがあるのが残念だけど。」

 

顔を引き締め、走るスピードを速めた。

なんつーか、感情的には会いたいけど、理性的には会いたくないしなぁ。どうするか…。

うーん。その場で決めよう。

 

+++

 

断章 記憶、失われた頁 @2

 

+++

 

先程俺が見つけたターゲットの目の前にスタッと軽い音を立てミスミが降り立つ。

ターゲットはかなり警戒しながら、後ろにジリジリと下がる。

 

「ミスミィ。やっぱお前、顔が怖いんじゃない?漁火ちゃんが脅えてるじゃん。ほら、笑顔の練習ぅ。」

 

俺もミスミに続いてターゲット、漁火ちゃんの後ろに降り立つ。

むっちゃ脅えた表情で見てくるんだけど、なにこの子?せっかく笑顔で笑いかけてるのに。

 

「ヨロイさん。あなたの場合は笑顔も怖いんですよ。なんというか、大蛇丸様の笑顔と同じ邪悪な感じがして。」

「くおらぁ、ミスミ!あんな変態と一緒にすんじゃねぇ!俺はどっからどう見ても笑顔が素敵な好青年だろ!だろ?」

「そうだったら、漁火がこんなに脅えませんよっと。」

 

漁火ちゃんが俺らの隙をついて逃げようとする。持っていた紙袋からリンゴが転がり落ちる程のスピードだ。しかし、正直、俺たち忍からしてみれば遅い。ミスミは軽いステップで漁火ちゃんの前に立ち塞がる。

 

「はぅあ。」

 

驚いたようで声を出しながら止まる漁火ちゃん。

コロコロとミスミの足元にリンゴが転がっていく。ミスミは足を少し上げる。

足を下ろすと同時に、グシャッと言う音が辺りに響いた。自分が踏みつぶしたリンゴを足でグリグリとするミスミ。そんな彼を目を細めて見る。

こいつ性格悪いなぁ。完璧に俺ら悪役じゃん。

少女を囲んで足でリンゴをグリグリとするシチュエーションとか、これから花の散るらむ的なストーリーが展開されかねない。俺はそんな犬畜生にも劣る行為はしたくないなぁって考えていたら、ミスミの腕が伸び漁火ちゃんの腹を思いっ切り殴った。

…The 悪役じゃん。悪い顔してるよ、ほんと。

JOJOの第一部でジョナサンが使った技で、間接を外して相手を殴りつけるズームパンチに似ている。ちなみに、こっちは波紋とか使えないんでチャクラでがんばっているバージョンだ。ワンピのゴムゴムのピストルにも似ているけど、あれはちょっと人間の限界を超えて伸びているしな。

 

「なぁ、女の子には優しくしろって習わなかった?」

「ふん、化け物に優しくしろとは習わなかっただけですよ。」

「全く…。そんなこと言ってるとヒーローが参上するよ。」

「こらぁ!お前ら何してんだぁ!?」

「ほら。」

 

乱入者に背を向けたまま、ミスミにアイコンタクトで引くように指示する。レンズ付けたままでもアイコンタクトで俺の意思を分かってくれるミスミは本当にいい奴だと思う。

瞬身の術で一気に離れる。夕日をバックにしてたから流石に正体はバレてないハズだが…。

それにしても、いいタイミングで来るもんだ。

なぁ?ナルト。

 

***

 

再び民家の屋根の上にて。船が母島に向かうのを男二人で見ています。ムサイ。

 

「木ノ葉の忍のおでましか。」

「海の国からの任務として海魔を退治にしに来たって所だな。」

「それは…精々歓迎してやらないといけませんね。」

「ほんとイイ性格してるよ、お前。あ、スルメ食べる?」

「結構です。」

 

ミスミの横にしゃがみこみながら、昼間にこの港町の人からもらったスルメを勧めてみたら、サクッと断られた。悲しい。

 

「行きますよ。」

「ちょっと待って。スルメがなかなか噛み切れない。」

 

+++

 

断章 記憶、失われた頁 @3

 

+++

 

「よっしゃ、よっしゃあ!母島に向かって全速前進!」

「…日も暮れたっていうのに、あんたのそのハイテンションはどっからくんのよ?」

「にゃっはー。こういうのは気分が大事なんだってばよぉ。」

「はぁー。サクラ、大変よねぇ。同情しちゃうわぁ。」

「…。」

 

なるほど。

うずまきナルト、山中いの、油女シノ、そして…みたらしアンコのフォーマンセルか。

 

「ふふふふ。」

 

アンコが笑うのと、俺がハンドサインで合図するタイミングは全くの同時だった。

 

「うわっ!」

「きゃっ!」

 

ナルトが必死に舵を切る。

 

「こりゃあ、岩かなんかにぶつかっちまったぞ。」

「しっかりしろ、ナルト。」

「ちょっとあんたたち!前見て、前!」

 

舵が利かなくなった船の前に術で渦潮を出す。

 

「ダメだ、オールが動かない。」

「手伝うわ!」

 

そういって立ち上がったいのに、伸びた手が向かっていった。

…あいつ、漁火ちゃんといい、いのといい、女の子を触るために軟の改造を習得したんじゃないだろうな?

邪推している間に、アンコが動いた。

 

「潜影蛇手!」

 

潜影蛇手。

袖から大蛇を呼び出し相手を拘束する口寄せの術の応用だ。誘導機能付きの拘束ロープと考えてくれればいい。それを避けるにはかなりの技量が必要となってくるのだが、いのを捕まえた腕は予測ができない動きで大蛇たちを上手く避けていく。

 

「チッ!」

 

いのを助けにアンコが船から飛び上がる。

そうこうしている内に、ナルトとシノを乗せた船が段々と俺が作った渦に近づいていく。飲み込まれたら小船など一溜りもないほどの渦を見たシノは判断を下したようだ。

 

「ナルト、ここまでだ。」

「わかったってばよ!」

 

シノに続いてナルトも船から飛び上がる。

やるじゃないか、シノ。周りをよく見ている。もし、中忍試験でキチンと評価されていたら、シカマルと同時に中忍になってたんじゃないの、こいつ。

 

「二人とも気を付けて。まだ水中から狙ってるわ。」

 

いのを抱えたアンコがナルトたちの横に降り立ち、二人に注意を促す。

 

「くっそ。」

 

アンコの注意を聞いたナルトは印を結んでいく。

…口寄せの術か。けど、海に蛙なんて淡水で生きている生物を呼ぶなんて、浸透圧とかそこらの問題も絡んでくると思うんだけど大丈夫なのかな?

 

「口寄せの術!」

 

更に、さ。言わせてもらうと、このパターンってガマ吉を呼ぶパターンだよね?

 

「何ぃー!?」

「こらぁ、ナルト!なんてとこに呼び出してくれるんじゃい!」

「なんでお前が出てくるんだってばよ、クソ蛙!」

 

再びナルトは印を組む。

あー、そのパターン。次はガマ竜だな。

 

「口寄せの術!」

「お晩でぇすぅ。」

「嘘だぁ!俺ってばオヤビン呼んでんのに!」

「あほう!こんなとこに親父呼び出したらエライことになるぞ!」

「え?なんで?」

「ワシら淡水生物じゃけ。塩水は合わんのじゃ。」

 

やっぱりか。

っと、ナルトがバカやってる間にアンコに感知されたな。

 

「びぃぶびぃ!」

 

やっべ、水の中だからしゃべれない。ミスミが呆れたような目で見てくる。それでも、腕をまた伸ばしてくれるいい奴だ。

ニュルルと伸ばしたミスミの腕がアンコを捕えた。腰に腕をグルグルと巻きつける。

…ちょっとイラッとしたのは俺だけの秘密だ。

 

「火遁 龍火の術。」

 

かなりチャクラを練り込んでやがる。広範囲に火遁の火が広がっていく。

ミスミが水分身を使ってなきゃ、火傷で酷いことになっていた。

アンコがミスミの水分身が崩れるのを見ている間に、後ろに回り込んだミスミは伸ばした腕でアンコの首を絞める。

…だから、わざとしてない、それ?俺、額にそろそろ血管が浮き出るよ、マジで。

 

「ふふふ、油断したなぁ。」

 

ホント悪役に徹してるなぁ、アイツ。

だが、そんな悪役には、裁きが下るのが世の常で。

ミスミの背後にオレンジの影が躍る。

 

「お前もなぁ!」

 

ナルトがミスミの背中を蹴り飛ばす。

ナイス、ナルト!よくやった!

心の中ではスタンディングオベーションでナルトの活躍を讃える。ざまぁみろって言ったガマ吉にはMVPをあげたい気分だ。

ナルトが水面に着地した瞬間、無防備になったナルトの足首を掴み水中に引きずり込む。悪いけど、今は敵同士だからなぁ。残念だけど、攻撃しなくちゃならない俺の気持ちを分かってくれ。

…絶対わからないだろうけど。

ナルトの動きが段々弱まっていく。

捕まえた瞬間からチャクラ吸引でチャクラを吸い取っているとはいえ、4秒持つなんてチャクラ量が多すぎる。流石はうずまき一族といったところか。

チャクラを吸い取り動けなくなるところまで追い込み手を放す。海面に向かって浮いていくナルトの姿を確認して、少し離れた所にいたミスミに上に上がるように指示して海面に浮上した。

海の上に立ち、ナルトを見つける。うつ伏せで浮かんで来ているのは予想外だったな。このままだと死んじまう。

 

「にいちゃん!」

 

せめて仰向けに浮かべてやろうと、ナルトにミスミと二人で近づくと俺たちの姿に気づいたガマ竜が声を上げる。

漫画ならドドンという文字が入っただろう。それぐらい、今の俺たちは存在感があった。大事なことだからもう一度言う。今の俺たちには…存在感があった。

 

「ナルト!」

 

ナルトに近づこうと一歩足を踏み出した時、アンコが叫ぶ。

ゆっくりと顔を向ける。

 

「やっぱりアンタだったか…ヨロイ!」

「久しぶりだな…アンコ。」

 

印を組む。

 

「けど、話はまた今度にしよう。水遁 大瀑流の術!」

 

俺の前に渦ができる。

それに飲み込まれていくナルト。

…ナルトがいたこと、すっかり忘れてた。どーしよ。

ま、いいか。近くに漁火ちゃんがいるし。助けようとしてくれてるし、大丈夫だろう。

 

「じゃあな。」

 

瞬身の術で俺とミスミは移動する。

アンコの目元が少し光ったが、それは海水なのか、それとも、涙なのか、俺にはわからなかった。

 

***

 

次の日!

袋を破り、スルメを取り出す。

なかなかおいしくて、昨日貰った人の店で今度は何袋か買ってきた内の一つだ。

 

「遅いなぁ、漁火ちゃん。」

 

遠くで爆発音がした。それと同時に崖が崩れる音も。あそこは確か、漁火ちゃんの更衣室、もとい、変身場所だったハズ。ってことは、変身シーンを見られて正体がバレたか。

で、さっきの爆発は相手が起爆札で崖を崩して、漁火ちゃんの出口を塞いだって所か。

 

「しゃあねーな。スルメ食ってる暇はなさそうだ。」

 

+++

 

断章 記憶、失われた頁 @4

 

+++

 

俺が着いた時には、漁火ちゃんはすでに捕まっていた。ワイヤーでグルグル巻きにされて身動きがとれないんだろう。助けてやらないとな。

クナイを投げ、シノの手に繋がるワイヤーを断ち切る。ワイヤーの縛りが弱くなったのを見計らい、水分身を漁火ちゃんの横に出現させ、彼女を抱えてその場から離れる。

 

「てめぇ!姉ちゃんを離せ!って、ヨロイの兄ちゃん?」

「よお、ナルト。元気にしてたか?ところで、スルメいる?」

「いや、いらねーってばよ。それより、なんで兄ちゃんがこんな所にいるんだってばよ!?」

 

親指で額を指す。

 

「俺は音隠れの忍。…分かるだろ?これは大蛇丸様の命令だ。」

「兄ちゃん。額当てしてないからカッコついてねぇってばよ。」

「…それは言わずとも、察してくれないか?」

「なんなのよ、このふざけた人。でも、どっかで見たことがあるような…?」

 

いのが呆れ顔で聞いてくる。

 

「奴の名は赤胴ヨロイ。元木ノ葉の忍で、昔からの大蛇丸の部下の男だ。油断するなよ。あいつは…私よりも強い。あいつもこの前の中忍試験に参加していてな、それで見たんだろう。」

「紹介ありがと、アンコ。ちなみに、俺は3次試験の予選でサスケに負けた奴ねー。あの時は顔が隠れてたからわかんねぇのも仕方ねぇよ。」

 

雰囲気が変わった。いのとシノの目つきが変わる。

 

「兄ちゃん。どういうことだってばよ?ホントのホントに大蛇丸の部下なのかよ?」

「そゆこと。」

「なんでだよ、兄ちゃん!俺ってば、そんなの信じられねェ!」

「俺にもイロイロと事情があんの。」

 

チャクラを練り込むと俺を中心にして漣が立った。

 

「今は漁火ちゃんを守るっていうのが俺の仕事。もう、邪魔すんなよ。」

 

海の中に少しづつ沈んでいく俺たちを追いかけるようにナルトが走り出す。

 

「待ってくれってばよ!」

「深追いはするな、ナルト!」

 

一瞬、アンコと目が合った。寂しそうな目だった。

 

「一体どうなってるんだってばよ?」

 

***

 

ナルトたちから逃げて少し経った。

俺の前を漁火ちゃんが泳ぎ、それを俺たちが追う形となっている。漁火ちゃんが引っ張ってくれたらいいのになぁ、と思いながら泳ぎ、海底の洞窟から島に入る。

鬼界島。地元民から神隠しが起こると恐れられている島だ。しかし、その実態は大蛇丸様の重要ではない研究施設の一つ。人体実験として捕まえられた人たちは地元の昔話と合わさって神隠しと呼ばれている。

 

「塩水でベトベトするなぁ。今から風呂入りに行くけど、いっしょに入る?」

「嫌です。」

「そう。」

 

そんなに嫌がらなくても。悲しい。

少し落ち込む。

 

「漁火ちゃんも早く風呂入って、腕の傷を消毒したほうがいいぞ。」

「!気づいて…?」

「そりゃ気づくよ。忍嘗めたらあかんよ。」

 

手をひらひらと振りながら階段を上がっていく。

少し、決まったと思いながら。

 

***

 

さて、襲撃です。

俺は襲撃者の前に姿を現す。

 

「やめてくれよぉ。風呂上りに運動とかしたくねぇんだけど。」

 

風呂上りは冷たい牛乳が飲みたい今日この頃。

 

+++

 

断章 記憶、失われた頁 @5

 

+++

 

話は少し飛ぶが、ここ、鬼界島は天然の温泉が出る。そして、近くには岩がたくさんあって危ないものの、豊かな漁場がある。

つまり、だ。設備だけは高級料亭並みのスペックだ。

ただ、一つ問題なのが、全てを自分でしなければいけないって所だ。朝に魚や貝を採って、昼に食料の買い出しに行き、夕方に風呂を沸かして飯の準備をし、夜にゆっくりできるための準備が必要となる。だるい。

正直、めんどくさかったが慣れてくればなかなかいい生活だ。半月も居れば、生活のコツが掴めてきて楽しくなった。

ちなみに、今日は夕方から魚を採りに行く予定だった。海魔騒動が起こる前は夕方にうまい魚を取っていたと、最近仲良くなった店の店主から聞いた。余談だが、俺がスルメを買ったのはこの店だ。

で、その魚を採るのと同時に、漁火ちゃんの変化後のスペックを確かめようとしてたんだ。

そろそろ、最終的な判断を付けなくちゃならないし。ただ、変化して落ち合おうとしていた所を、見事、ナルトたちに邪魔された訳だ。更に、リラックスタイムもナルトたちに襲撃されて邪魔された。悲しい。

 

「ヨロイの兄ちゃん!?」

 

ナルトの声で回想から戻る。

 

「そんなこんなで、俺はもう動きたくない、だらだらしたい、リラックスタイムを満喫したい。そんな訳で…いっしょに寝る?」

「嫌だってばよ。なんか危ない香りがするし。」

「誰も男に言ってないっつーの。いの。どう?」

「嫌。絶対に嫌。」

 

絶対零度の視線が突き刺さる。死にたい。

いや、気を抜いたら死ぬな、こりゃ。

横に跳ぶ。跳んだ瞬間、天井から黒い塊が落ちてきた。

黒い塊がバラけていく。数千の羽音が聞こえてくる。いきなり、秘術 蟲玉を使ってくるとはやる気満々だな、シノ。

 

「シノ。まだ、話してる最中じゃねぇか。少し待ってくれよ。」

「残念だが、いのが断った時点で話は終わっている。違うか?」

「嫌よ嫌よも好きの内って言うじゃん。」

「本当に嫌だから。」

 

再び絶対零度の視線で見つめられる。

 

「しゃあねぇ。ヤルか!」

 

俺が凄むと、シノがナルトといのを守るように一歩前に出る。

 

「シノ!」

「先に行け。どうやら、奴の相手は俺のようだ。アイツの術は接近戦タイプのお前には不向きだ。三人で足止めを食う訳にはいかない。」

 

一瞬の逡巡の後、ナルトは頷く。

 

「わかった。頼んだぜ、シノ。」

「気をつけてね。」

 

シノに能力を見せたのは、中忍試験の時だけだというのによく覚えてやがる。俺の術を分析して、俺に対して自分が一番適していると判断するまでの時間も短く、素晴らしいの一言だ。

俺はナルトといのが走り出すのを見ているしかなかった。

 

「なぜ追いかけない?」

「追いかけようとしたら、お前の蟲たちが襲い掛かってくる。違うか?」

「その通りだ。」

 

シノは両腕をこちらに向ける。

 

「だが、何もしていなくても俺の蟲たちはお前を襲う。」

 

先程、俺のいた所を襲った蟲に加えて、シノの両腕から飛び出した蟲がこちらに凄い勢いで飛んでくる。きしょい。

 

「水遁 水乱波!」

 

天井に跳び上がりシノの攻撃を避け、反撃に転じる。強い水流で蟲たちのいくらかを流したが、数が多すぎる。

 

「おっと。」

 

天井から柱、柱から床に跳び移る。蟲が俺の後を追って来ているのを横目で確認し、床に着地する。蟲の動きは速く、着地して動きが止まった一瞬でかなりの距離を縮められた。

あと、5m、3m、1m、30cm…5cm!

 

チャクラを一気に練り上げ…脚へ。

練り上げたチャクラを使って一気に加速し、シノに肉薄する。

 

「なっ!?」

 

シノが驚き、声を上げた瞬間。俺の右手がシノの腹を突き抜けた。

そのままの勢いで腕を振り切る。腹を貫いた腕は、絡みつく肉を簡単に引きちぎる。

 

「やるな、シノ。」

 

後ろを振り向くとシノの体が崩れていっていた。

蟲分身で俺の隙を作るとはなかなか考えやがる。

 

「けどな。俺も下忍に負けるほど弱くねぇよ。」

「何が言いたい?」

「つまり、こういうこと。」

 

印を結ぶ。体がボンッという音と共に、煙となり掻き消える。

 

「影分身…か。足止めを食らっていたのは俺の方か。急がなくては。」

 

+++

 

所、変わりまして脱出のための小船の上。影分身が蓄積した情報が還元される。

…足止め成功っと。

後はミスミとアマチと漁火ちゃんを拾って逃げるだけ。思い返すと、色々楽しかったこの島ともさよなら、か。そう考えると寂しくなるなぁ。

 

「ヨロイ、足止めご苦労。」

「ういーっす。もうすぐ爆破するから早く乗っちゃって。」

 

足早に小船に乗り込むアマチと漁火ちゃん。

 

「ん?ミスミは?」

「足止めをしてる。早く出せ。」

「あいつならなんとか脱出できるか。りょーかい、出すよ。どっかに捕まってて。」

 

術で海流を起こして、小船を発進させる。

一つの爆発を契機に、起爆札が連鎖的に爆発を起こして行く。

段々と潰れていく研究所の中、ミスミのチャクラが突然消えたことを感じ取った時に、やっとこの判断が間違いだったことに気づいた。

 

「ミスミィ!」

 

叫んだ声は彼にはもう届かなかった。

 


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