一流の銅ヤロー   作:クロム・ウェルハーツ

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@58 旅立ちの日!!

靴音が廊下に響く。扉の前に移動した俺はそれをゆっくりと開く。

その部屋に入ると、あらかじめ呼び出して置いた“音の四人衆”が居住まいを正す。

 

「待たせたか?」

「いえ。」

「それは良かった。…お前たちに頼みがある。」

 

無言で、そして真剣に俺の話を聞く四人。

 

「うちはサスケを“音”に連れてきて欲しい。いや、連れてくるというより、自らここに来させて欲しい。サスケが音に来たと同時に五人衆の復活だ。」

「…ヨロイさん。一ついいですか?」

「なんだ?」

 

四人の中で一番恰幅がいい男が尋ねて来る。

 

「うちはサスケ。それは大蛇丸様の器として本当に相応しいのでしょうか?」

「相応しいか、相応しくないか…か。」

「?」

 

黙った俺に訝しげに視線を向ける男。

 

「ククク…。クハハハハーハッハッハ。」

 

突然笑い出した俺をギョッとして見つめる四人衆。

 

「いや、笑ってしまって済まない。けど、バカにした訳じゃない。次郎坊…お前の質問があまりにも的を射ていたからな。流石は四人衆の中で分析力が一番あると俺が見込んだだけはある。」

 

見た目とは違って次郎坊は周りに気づかいができる数少ない音の忍である。それは翻って、周りを良く観察しているということに他ならない。だからこそ、サスケは大蛇丸様の器足りえるかという疑問を口に出したのだろう。他の三人も薄々心の中で思っていたのかも知れないが、サスケの名前を出しただけ、“五人衆”という単語を出しただけで器にするという結果に思い至ったのは次郎坊だけだろう。この分だと、五人衆の頭にサスケを据えるということも次郎坊は気づいているかもしれない。

性格的に他の三人はここまで深くは考えずに、大蛇丸様のお気に入りとして考えているとこれまでの付き合いで大体分かる。とはいえ、他の三人の分析力が低いという訳ではない。並の忍に比べると、こいつらの技術は隔絶しているがその中でも次郎坊は頭一つ抜けていたという話だ。

 

「サスケが大蛇丸様に相応しいか、それとも相応しくないか。それはYESでありNOだ。大蛇丸様すら超える才能を持つ忍がサスケだ。足元を掬われることがあれば、大蛇丸様は死ぬ。しかし、大蛇丸様が完璧にサスケを御すことができたなら…。」

 

ニヤリと笑みを浮かべて宣言する。

 

「大蛇丸様は更なる強大な力を手に入れることができるだろう。」

 

唾を飲み込む次郎坊。

 

「し、しかし、そんなリスクの高い方法を選ばなくても手段は他にあるハズでは?」

「いや、ないな。大蛇丸様は熱病に浮かされたようにサスケを求めている。実際に三代目火影の呪いで熱病に浮かされているしな。…で、お前はそんな大蛇丸様にサスケを器にするのは止めた方がいいって言える?少なくとも、俺は言えねェなァ。」

「そ…それは…。」

「言えないだろ?言わなくて正解。死ぬからな。」

「しかしッ!」

「黙れ、デブ。お前はヨロイさんの言葉が信じられねェのか?」

「…。」

 

多由也の一睨みで黙る次郎坊。この子もオブラートに包むってことを知らないなあ。

内心、多由也を怖く思っていると彼女の横の男が口を開いた。

 

「大蛇丸様の容態も良くないようだし、さっさとサスケを誘ってくるのがいいな。…行くぞ。」

「てめェが仕切んな、ゲスチンヤロー。」

「…チィ。」

「多由也。女がそういう言葉をあんまり…。」

「黙れって言わなかったか、クソデブ?」

 

口を開いた左近を汚い言葉で黙らせる多由也を見かねた次郎坊が注意するが一蹴される。可哀想に。

 

「鬼童丸。サスケの呪印を覚醒させておけ。」

「了解です。左近に道具を使って貰います。…左近、こいつを渡すぜよ。」

「ああ。」

 

これまで、一言も発していない男、鬼童丸に向かって必要な事を命じる。鬼童丸が左近に醒心丸の入った小瓶を投げ渡すのを見ながら思う。

これで準備は済んだ。

 

「最適のタイミングだ。…さぁ、木ノ葉へ迎え。」

『ハッ!』

 

勇ましく扉を開けて飛び立つ四人衆を見送る。四人衆を見送り、部屋に設置してあるテーブルの上に腰を下ろし、ドアに向かって話しかける。

 

「入れ。」

「バレてました?」

 

ドアを開き、入ってきたのはカブトだ。

 

「何も四人全員を行かせなくても良かったんじゃないですか?」

「まぁ、一人行けば事は足りるが…。それでも、木ノ葉からの引き抜きは今の状況ではあまり褒められた策ではない。条約を結んだばかりの今は、な。場合によっては木ノ葉の忍と戦闘があるかもしれん。」

「このために、条約に引き抜きに関して何も書かなかったのではなかったんですか?」

「クク。カブト…その通りだ。」

 

笑いを一旦収める。

 

「しかし、綱手様はそれを許さないだろう。サスケが拉致とは違い、自ら里抜けをしたとしても追い忍を差し向けるのは想像に難くない。サスケは最後の“うちは”であるし、何より…。」

「ナルトくんの友達、ですか?」

「ああ。綱手様はナルトのことを大切に思っている。だからこそ、ナルトを差し向けるだろう。あの人はそういう人間だ。その過程で戦闘が起きるのは間違いない。だから、四人衆を向かわせた訳だ。それに…。」

「それに…?」

「“呪印()”を教えるいい機会だ。サスケが呪印を使っても勝てない相手がいると中忍試験の予選で示したが、それをもう一度教え込むことで自分が全く成長していないと思い込ませることができる。そうなると、どうなるか分かるな?」

「すぐにでも、大蛇丸様に自ら力を求めるということですか。…ヨロイさん。ここまで卑劣な作戦を練るとは大蛇丸様に似てきましたね。」

「それはない!絶対ない!ないったらない!」

 

思わずカブトに怒鳴った俺は悪くないと思う。大蛇丸様と似ているなんて俺の人生で言われた悪口ブッチ切りでナンバー1だっつーの。

呼吸を整え、気を取り直してカブトに言う。

 

「話は変わるが次の“器”の準備をしておけ。俺の見立てでは大蛇丸様はもう持たない。」

「しかし、大蛇丸様がそう簡単に首を縦に振りますかね?」

「必要があれば、外導ノ印 乱を使ってでも転生の儀式をさせる。大蛇丸様のネームバリューで持っているようなこの里は大蛇丸様が死んだらこれまでの全てがパァになる。それは絶対に避けるべきだ。」

「分かりました。選りすぐりの手練れの中で更に厳選してきます。」

「後…。」

 

部屋から出ようとしたカブトを引き止める。

 

「“君麻呂”を出せ。今だしても一日は持つだろう。」

「ここで、君麻呂を使い潰す気ですか?」

「ああ。ここで使わなければいつ使う?今でしょ!」

「それもそうですね。」

「君麻呂のテンションが上がるように、大蛇丸様の転生後に向かわせろ。」

「はい。」

 

カブトがいなくなり、今度こそ部屋には俺一人となった。誰もいない部屋で一人考えを巡らす。

この世界にも前世に俺が散々読んできた二次創作でよくある世界の修正力というものがあるらしい。忌々しい。

しかし、これは逆に考えれば原作にある程度沿うことができるということだ。この世界の修正力は他のそれと違い強くはない。なぜなら、俺が“直接”行動したことは結果として反映される特徴がこの世界にはある。最近で言えば、木ノ葉崩しの際に俺自身と言ってもいい影分身が張った結界はキチンと世界に影響を与えたというのに、俺が20年以上支え続けた大蛇丸様は原作と全く変わりなく三代目に両腕を封印された。それだけではなく、その他の同じような経験から導き出される答えがこうだ。

俺が直接、それこそ、俺の目が届き、更に力を及ぼせる場所ならば世界すら改変できるということ。そして、原作通りに進んで欲しい場所は少しの干渉程度であれば、干渉しても何の問題もないということだ。

 

「後4年。」

 

宿命の名を口にする。

 

「待っていろ、十尾。そして…。」

 

使命の名を口にする。

 

「うちはオビト。」

 

+++

 

雨が降る森の中を右手に傘を持ち歩く。

前から濡れた木の葉を踏む軽い音がして立ち止まる。遠くの方に雨に濡れた小さな姿を見ることができた。

 

「皮肉なものだな。お前たち二人が闘うとは。」

 

一世代前のアシュラの転生者である千手柱間。一世代前のインドラの転生者であるうちはマダラ。

そして、今世のアシュラの転生者であるうずまきナルト。今世のインドラの転生者であるうちはサスケ。

流転する魂と闘い。それはなくなることはないのだろうか?いや、それは違うと俺は信じる。爺さんがこの二人でも魂の在り方が変わる事は無いと心配するのも無理はないが、俺は信じているんだ。

ナルトは忍び耐えることができる者。それに、サスケもまた…。

 

「ヨロイ…オレを大蛇丸の所まで案内しろ。」

「覚悟はいいんだな?」

「ああ。」

「フッ…。いいだろう。」

 

目的の(イタチを殺す)為とはいえ、これからの厳しい修業を忍び耐える事ができる者だ。つまり、こいつら二人は似た者同士だ。分かり合えないということはないだろう。

闇の中でも爛々と光る赤い眼を見て確信する。

俺の未来はこいつにある、と。

 

 

 

第1部 完

 


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