今日は約束の日だ。
大蛇丸様、そして、カブトと共に地下のアジトから地上に出る。地面を蹴り、木の上に飛び移り、更に次の木の枝へと飛び移る。
「…交渉中、邪魔が入ると厄介だわね。」
「では、シズネを神隠ししちゃいますね。」
大蛇丸様が目配せをしてくる。木の上で一旦止まり、進行方向を変える。行先は短冊街だ。
余談だが、神隠しとは俺たちにとって拉致監禁を意味する。その後は分かるだろう。大蛇丸様の人体実験用の検体となる訳だ。
とはいえ、ここで俺がシズネの事を買って出た理由は実に簡単なこと。実際にそんなことをしなくてもいいという話だ。原作では、カブトがシズネを殺す為に大蛇丸様と一旦別れ、短冊街に向かうと自来也様が居て引き返すことになっていた。今回、カブトを向かわせると、俺が大蛇丸様と居ることで護衛は十分と判断し、時間を稼ぐため自来也様たちと戦闘を行う可能性がないとは言えない。その為、カブトを向かわせることができない。
スピードを速め、木から建物の屋根へと跳ぶ。短冊街を見渡しながらチャクラを練り込む。
「さて、と。」
神楽心眼で感知範囲を拡げていくと、一際大きなチャクラを発見した。このチャクラはナルトだな。その横にシズネもいる。自来也様は、と。少し離れた所にやけに乱れた自来也様のチャクラを感じた。進行方向からして、ナルトとシズネに向かっているな。
自来也様のチャクラを確認したので、大蛇丸様に報告する為に飛雷神の術で飛ぼうとするが、下から良い匂いがしてきた。興味が湧き、道路に降り立つ。辺りを見渡すと、赤いノボリにこう書いていた。『朝定食10両!先着10名様!』と。懐から財布を取り出しながら暖簾を潜ると、そこは古き良き定食屋だった。
「らっしゃい!ご注文は?」
「朝定食お願いします。まだ、大丈夫ですか?」
「ええ、アナタが今日、最初でさ。…朝定、一丁!」
「朝定一丁かしこまりー!」
カウンター席に座る。カウンターの奥からご主人が手を伸ばし、おしぼりと水が入ったコップを目の前に置いた。それを取り、一口飲む。
…うまい。朝から走った体に冷たい水が染み渡る。心なしか目もシャキンとしてきた。
今日はいい日になりそうだ。
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「そう思っていた時が俺にもありました!ええ、ありましたとも!」
舌打ちをしながら、自分に向かってきた瓦礫を手で払いのける。
「ヨロイ、遅いわよ。」
「さーません。問題が起きてしまいましてね。」
飛雷神の術でカブトに持たせていたマーキング付きクナイに飛ぶと、下の地面が罅割れていた。綱手様が桜花衝でも使ったのだろう。小さい頃にあの拳を避け続けた俺には良く分かる。
「まだ本気ではないといえ、綱手様が攻撃してきたってことは、交渉はダメだったってことですか?」
「その通りよ。アナタの方の問題は?」
「短冊街で朝定食が10両でした。ごはんに味噌汁と漬物、そして、アジの開きで10両ってトンデモお得価格でしたよ。」
「で、何が問題だったの?これ以上ふざけているとアナタ、死ぬわよ。私か、綱手の攻撃を受けることになるわ。」
「さーません。自来也様がいました。」
「そう。自来也が…。なら、早く終わらせないとねェ。」
大蛇丸様は綱手様を注視する。どうやら、やる気になったようだ。
「…来い!大蛇丸!!」
「フフ…。そういえば、お前と殺り合ったことは今まで一度もないわね。」
「そうね!」
半纏を脱ぎ捨て、猛牛の様に綱手様が向かって来る。
「よく言いますね…。殺り合うのはボクらでしょ。」
ぼやくカブト。
「ろくでもねェーお前らは…今、ここで殺す!」
乗っていた壁が綱手様の拳で粉々にされる。壁が破壊される一瞬前に跳んでいたとはいえ、綱手様の拳の威力にヒヤッとする。
殺気をビンビンに張る綱手様。
「カブト、気を付けろよ。あれ、一発でも喰らったら殴られた部分が吹き飛ぶからな。」
「流石は伝説の三忍ですね。…場所を移しましょう。ここは間を取って闘うには少々窮屈です。」
「その方がいいわね。自来也が駆け付けるまでには終わりそうにはないからねェ。」
瞬身の術で移動する。行先は短冊街から少し離れた荒地だ。戦隊モノの撮影で選ばれそうな土地で綱手様と向き合う。
「カブト、綱手様と闘ってみる?」
「ボクが闘ってよろしいのですか?」
「いいッスよね、大蛇丸様。」
「ええ、構わないわ。」
「嘗めるな!」
話合っている俺たちに綱手様が殴りかかってくる。それをヒラリと躱してカブトを一人、前に置いて俺と大蛇丸様は少し下がる。
「では、胸を借りさせて頂きます。綱手様。」
カブトが自然体で構える。手を口元に持っていき、メガホンのようにする。
「胸を借りるって言っても、パイタッチはダメだぞー。」
「しません!」
思わずこちらを振り向いたカブトの頭を綱手様の拳が捉えた。ズドンという音と共に地面にめり込むカブトの体。しかし、綱手様はすぐに後ろに振り向く。そこには、地面に打ち付けたハズのカブトの姿があった。変わり身の術だ。地面にはカブトの代わりに丸太がめり込んでいた。
「ヨロイさん。あまり余裕がある訳じゃないので話掛けないでください。」
綱手様は再びカブトに向かって接近し、拳を振るうがカブトも暗部を超えるレベルの忍。ギリギリで綱手様の拳を避けていく。空を切る音が何度もする。初めてなのに上手く避けているな、カブトは。綱手様の攻撃を避け続ける修業の初めての時は俺なんか一回目で当たって右肩が外れたっていうのに。
「ハァッ!」
綱手様はこのままじゃ埒が明かないと思ったのか足を振り上げる。それを避けるカブトだったが、振り下ろす足はカブトを捕えていた。地面から煙が上がる。しかし、その煙は砂煙だけではなかった。白い煙、チャクラを基にするモノが上げる煙も上がっていた。素早く目を動かす。前、右、左、上、後ろ。しかし、カブトの姿は見えない。ということは…。
綱手様が拳を地面に突き刺した。今まで以上に大きな破壊音が周囲に響き渡る。大きく地面を陥没させた場所から黒い影が跳び出し、俺たちの前に姿を表した。
「結構キツイだろ?あの攻撃を避け続けるの。喰らえば致死量の攻撃を避け続けるのは普通の攻撃を避け続けるより6倍の疲労度が掛かるぜ。ちなみに、これは俺の経験則な。」
「…。」
カブトは返事を返さない。息を切らしている為、俺に返事をする余裕もないのだろう。その代わりとしてか、カブトではなく大蛇丸様の声が聞こえた。
「だいぶ息が切れてきたようね、綱手も。そろそろよ。」
「体術の方はあまり得意じゃないんですけどね。」
息を整えたカブトは腰のポーチから兵糧丸を取り出して、それを口に含む。兵糧丸を噛み砕いたカブトは印を組んだ後、掌にチャクラを集める。
と、カブトの体が煙に変化した。綱手様からだと、カブトが瞬身の術を使ったように見えるだろう。しかしながら、俺たちの場所から見るとカブトが居た所には人間が通れるような穴が開いていた。
次の瞬間、綱手様の足元の地面から手が伸びた。上に跳ぶことで、綱手様はその手を間一髪で避ける。跳んだ勢いを使い、拳をその手に振り下ろすが拳は地面を砕いただけだった。綱手様の拳が地面に入る前に黒い影がその場から跳び出す。土遁の術で綱手様の足元に移動したカブトだ。
カブトの追撃から逃れる為、綱手様は傍の岩を蹴り砕き弾幕とする。けど、甘い。カブトには感知忍術をも仕込んでいる。この程度の弾幕はカブトにとっては何の意味もない。カブトの両の掌が綱手様を捕える。しかし、綱手様も然る者。カブトにタックルを喰らわせて無理やり距離を取らせる。
「
綱手様が思わず声を上げる。カブトは立ち上がり、綱手様を正面に捉える。
「上腕二頭筋と大腿直筋を少しばかり切断しました。これでもうバカ
「…チャクラの
「確かに、この
カブトは体を前に傾ける。
「まぁそれでも相手の首を狙えば、全然問題無いんですけどね!」
駆け出したカブトは首をガードした綱手様の胸元に手を当てる。“言葉”を上手く使い、ミスディレクションで誘導するとは…。大した奴だ。
目を細めて観察する。あの位置だと外肋間筋だろう。これで綱手様は息を吸うことが難しくなり、戦闘に支障が出る事は請け合いだ。
「パイタッチじゃねェか…。カブト、お前…熟女趣味かよ。」
「違います!ぐっ!」
綱手様の腕がカブトの頭に当たる。油断しやがって。動きが固まったカブトを続けざまに綱手様が殴り飛ばす。
「気付いたようだな。」
綱手様がカブトに話しかける。
「そう…神経だ!チャクラを電気質に変え、電界を作りお前の神経系に流し込んだ。」
「綱手様ぁー。」
首元に手を当て治療を行っている綱手様に向かって言う。
「そいつ、
「…何が言いたい?」
「神経系を混乱させるぐらいの術じゃあね…。そいつを止める事なんてできないッスよ。」
クナイを取り出し、綱手様に向き合うカブト。
「このボクを…嘗めるな!アンタ、血が怖いんだろ!今から見せてやるよ!死なない程度にアンタの血を撒き散らす!」
時間切れだ。
飛雷神の術でカブトの隣に飛んでカブトの腰を掴んでその場から離れる。奇しくも、俺とカブトがそこから離れた時とボフンと煙が立つのは同じ時だった。大蛇丸様の隣に立ち、薄れてきた煙に目を向ける。
「久し振りね、自来也。」
「おーおー。相変わらず目つきワリーのォ、お前は。」
「お久し振りです、自来也様。」
「ヨロイ、お前も相変わらずレンズ付けとるのか。ワシは似合ってないから外せと言ったハズなんだがのォ。」
「久し振りっていうのに相変わらず口が悪いッスね。」
「あー!?」
久し振りの再会で懐かしくなっている所に驚いた声が響いた。
「ヨ、ヨロイの兄ちゃん…?それに、カブトさん?」
「なるほど、顔見知りか。」
「どけ!」
「ぐっ!」
訳知り顔で頷く自来也様を綱手様が突き飛ばす。自来也様がカッコつけるといつもこうなんだよな。間が悪いというか周りに邪魔されることが多い。かわいそうに。
隣で切り裂く音がした。血が周りに飛び散る。
綱手様の動きが止まり、カブトの拳は何のガードもなく綱手様に入った。
「ヨロイさん、助かりました。神経系の綱手様のチャクラを吸収して頂いたお陰で体の動きが戻りました。」
「ああ、気にするな。」
カブトから綱手様たちの方に目を移すとナルトがキョロキョロと顔を動かしているのが見えた。
「あのさ!あのさ!何がどうなってんだってばよ!何でカブトさんが綱手のバアちゃんと!?」
「君も鈍いね、ナルトくん。だからサスケくんに敵わないんだよ。」
「!」
「額当てをよ~く見てみい!こいつらは大蛇丸の部下だ。」
「そう…。ボクとヨロイさんは音隠れのスパイだったんだよ。」
「あと、ミスミもだ。」
「…!」
ナルトの目が開かれる。
「な…何言ってんだってばよ。ウソだろ、カブトさん、ヨロイの兄ちゃん。」
「残念ながら嘘じゃない。けど、もしかしたら、嘘かもしれない。嘘か真かどっちかっていうのは立場によって変わってくるものだし、それはそれでいいものだとは思わねェか?」
「何言ってんのか分かんねェってばよ!」
「つまりは、自分で考えろってことだ。お前から見て俺はどう見える?敵か味方か?」
「…わかんねェ。ヨロイの兄ちゃんが何、考えてんのか全く分かんねェってばよ!」
「だから、君はサスケくんには敵わないのさ。」
カブトが一つ頷いて言う。
「君に忍の才能はない。自分を律することができない忍は戦場で簡単に命を落とすよ。」
ナルトがカブトを睨む。
「そんな怖い顔しても、君は場違いな可愛い下忍なんだよ。確かに、君の中に棲むバケモノには期待してたけど…今、伝説の三忍を目の前に君じゃ物足りない。今の君はちっぽけな虫けらみたいなもんだから、でしゃばるなら…殺すよ。」
「珍しく饒舌じゃねェか、カブト。もしかして、ナルトのこと気に入ってる?」
「…まさか。ただ、伝説の三忍が一堂に会する場面に立ち会って興奮しているだけですよ。」
「ついでに、綱手様にパイタッチしちゃったもんな。」
「…。大蛇丸様、左腕の包帯を外してください。」
「やっと無駄話が終わったのね。待ちくたびれたわ。」
大蛇丸様が包帯を外している間に、自来也様が指示を飛ばしたようだ。シズネが綱手様を一旦、後ろに下げて再び前に、自来也様の後ろに付く。
睨み合い、一瞬でカブトと自来也様が動いた。
『口寄せの術!』
二匹の大蛇が口寄せされる。その前には、自来也様が口寄せした一匹の蛙が居た。ただし、サイズは掌サイズだ。
「よォ!」
「なっ…なにィー!」
「あーっ!」
それを見た大蛇丸様の目が細くなる。
「バカはまだ治ってないようね、自来也。そろそろ…私が行く!」