「綱手様の事なら私も少々知っていますよ。何せ…私も医療班の端くれでしたから。」
「…フン。」
「今じゃ常識とされている
「その考え自体は昔からあったらしいぞ。勇者、戦士、黒魔、そして白魔のパーティーバランスは黄金比だしな。神様より上の存在と言われる方はドラクエもFFも好きだっていうし。」
「そうですか。この案は大変画期的なことです。応急医療技術を持たないただの戦闘小隊が戦場でどうなるか…それは火を見るより明らか。」
サラッと俺の話を流したカブト。スルースキルが上達したじゃねェの。可愛くない奴め。
「フン…。数多の戦争経験がそれらを準備し得るだけの知識となった。…幾人もの犠牲がそのスタイルを作っただけよ。」
「…。」
「人は何かを失って初めてその物事の本質に気付く。そして、医療スペシャリストと呼ばれた伝説の三忍をこの世に作り上げたのは…。」
顔を上に向けると、一匹の蝶が蜘蛛の巣に開いた穴を通っていくのが見えた。その蜘蛛の巣には仲間である他の蝶が何匹も引っかかっており、その糸の場所が分かるようになっている。…犠牲、か。
そう、犠牲だ。犠牲なしでは何も得る事ができないのが世界の掟。前世でも、今世でもそれは変わることはない。ただ、この世界は犠牲となるのが命というだけだ。前世では、金や時間、そして努力が犠牲になっていたが今世では命という違い。その違いが俺には大きく感じるだけ。だから、何も問題はない。仕方のないことなんだ。
そう結論づけた俺は前の二人に習い、歩みを緩めた。
+++
指を噛み、印を結ぶ。
「口寄せの術。」
大きな音とともに城が崩れていく。
砂煙が晴れた後に見えるのは太陽をバックにして大蛇に乗っている俺たちだ。登場シーンはマジでカッコイイ。
「!」
「!」
大蛇の上から驚愕の表情を浮かべた二人組を見下ろす。
「あれは…!?」
黒髪の女が呟く。それに一拍遅れて大蛇丸様が邪悪な顔つきで言う。
「見つけたわよ。」
大蛇の頭から二人組の前に跳び、次いで声を掛ける。
「お久し振りです、綱手様。お元気でしたか?」
「ヨロイ…。アンタ、やっぱり大蛇丸の…。」
「まぁ、そうッス。」
「あれは演技だったのか?」
ドスの効いた声で尋ねて来る綱手様。ガキの頃だったらまず逃げの一手を打っていただろうが、あれから20年。もう綱手様から逃げる事はない。怖いもんは怖いけど。
「さー、どっちでしょう?どっちでもいいんじゃないッスか?演技が本気になれば、それは本気になりますし、本気なら本気で変わりはしませんし。ちなみに、俺は何にでも全力投球ってのがモットーなんで。」
あれっていうのはアンコが呪印を大蛇丸様に刻まれた時のことだ。その時は綱手様が里にいて、アンコの治療を引き受けてくれたことがあった。その時の狼狽した様子から大蛇丸様に付いている今の状況が理解しにくかったのだろう。
「ヨロイ、挨拶はもういいわ。…綱手、かなり探したわよ。」
「今更、私に何の用なの?昔話でもしようってんじゃないわよね…。」
「実は少々お願いがあってね。」
綱手様の視線が大蛇丸様の腕に止まった。綱手様が大蛇丸様の今の状況が分かったと判断したのだろう。カブトが口を開く。
「綱手様…アナタならもうお分かりのハズだ。」
「他を当たりなよ。私はもう医療は辞めたわ。」
「そうはいかない…。この傷の重さはアナタなら分かるハズだ…。誰にも、この腕の傷は治せない。アナタの弟子であるヨロイさんでさえ、匙を投げるしかないほどのこと。この傷は、医療スペシャリストとしてその名を馳せた“伝説の三忍”綱手姫。アナタ以外には治せる者はいない。」
「…その腕…ただの傷じゃないわね。いったい何したっての?」
「なに…。三代目を殺した時にちょっとね…。」
大蛇丸様が衝撃のカミングアウトをしてくれやがった。
「何、余計なことを口走ってるんですか!三代目を殺したとか言ったら、交渉がスムーズにいかなくなること請け合いですよ!言葉を考えて話してくださいよ!」
「私は嘘がキライなのよ。」
「はい、ダウト!言葉巧みに田の国を奪い取ったのはどこのどいつですかって話ですよ!嘘を愛しすぎてるアンタがそんなこと言っても、説得力ないですから!」
「…アンタ、ホントに…。」
綱手様が俺たちを信じられないといった顔で見つめる。
「フン…。そんな怖い顔しなくてもいいでしょ…。形あるものはいずれ朽ちる。人も同じよ…。あなたも分かってるハズ。」
邪悪な顔で大蛇丸様が最後の言葉を紡ぐ。
「なにせ最愛のヒトを二人も死なせたんだから…。」