そんなこんなで
しかしながら、大蛇丸様はいっしょに来てくれないみたいです。日付と時間だけ言って早々に新しく借りたアパートから出て行きやがりました。普通、二歳児を置いていくかよ。一人暮らしをするなんて早すぎませんか?放置プレイなんですか?
このドSめ…。
まぁ、そんなこんなで、走ってます。
「おい、急げ!」
「ハァハァ。もうダメだ。お前は先に行ってくれ。…俺の分まで、生きろ。」
「しょうがねぇな。これでいっしょに行けるだろ?」
そう言って二歳児を担ぐ五歳児。60歳が80歳の面倒を見る少子高齢化社会の日本とは違って、火の国では幼児が幼児の世話をするらしい。
え?なんで、死に掛けているのかって?
それは昨夜に遡る。
「ひゃっほー!やっと変態から離れられたぜ!」
大蛇丸様が貸してくれたアパートで今日から一人暮らしをすることになる。
しかも、家賃、生活費は大蛇丸様持ちだっていうなかなか素晴らしい特典だ。
初めて大蛇丸様に感謝したかもしれない。
「さて、引っ越しにあたってだが、拉致同然で連れてこられたので生活必需品は全くない。では、どうするか?買うしかないでしょう、最高級品を!」
拳を天井に向かって突き上げる。
「…。」
誰もいない部屋で。
…寂しい。
そんな訳で、昼間に新しい家具を新調したりしてたら、アッと言う間に夜になりました。
子供の体は少し動いただけで睡眠を必要とするらしくて新しいベッドに倒れこむようにして寝たんですよ。
これが昨夜の話。程よい疲れで気持ちよーく寝てたんですね。
…ただ、私はミスを犯しました。
目覚まし時計、買い忘れた…。
「ぎゃぁあああ!忍者学校初日から遅刻とか笑えねぇよ、マジで!大蛇丸様のバカァ!」
扉を蹴破る勢いで外に出つつ、大蛇丸様に責任を転嫁する。そもそも、大蛇丸様が俺を木ノ葉に連れてこなければ忍者学校に遅刻することもなかった訳で…。
そう考えると無性に腹が立ってきた。
大蛇丸様への呪詛の言葉を叫びながら走ってると、20mで息が切れた。
…きつい。
フラフラになりながら忍者学校に向かう俺。
はぁ。5m歩いた所でもういいやって気持ちになった。
帰ろうとしたところで後ろから肩を掴まれた。
「お前も入学式に遅刻か?」
「なんで…?」
「なんでって。思いっ切り叫んでたじゃないか。『目覚ましぐらいかけてくれてもよかったんじゃないですかねぇ、大蛇丸様!』って。」
いや、そうじゃない。
黒を基調とした服に、ダイビングで使いそうなゴーグル。
なぜ、お前がここにいるんだ?
うちはオビト!
ん?
あ!よくよく考えてみるとオビトは俺と三歳差だから居てもおかしくないのか。
っと、オビトが変な顔で見てくる。俺が驚いた顔で自分のことを見ているのを不審がっているらしいな。
「ごめん、少し考え事をしてて。それより、急がなくちゃ!」
「やべぇ!もうこんな時間かよ!おい、急ぐぞ。えっと、…。」
「赤胴ヨロイ。ヨロイって呼んでくれ。」
「ああ。俺はうちはオビト。よろしくな、ヨロイ。」
ニカッと歯を見せて笑うオビト。
互いの自己紹介が終わった俺たちは再び走り出す。
そして…冒頭に戻る。
「あー、もう。走りたくねぇ。」
「あと少しだ、がんばれ!」
無駄に熱血だなぁ、こいつ。そういうのはガイ一人で十分じゃない?
やれやれとため息をついて立ち上がる。あー、メンドっ。
俺たちが忍者学校に着いた時、ちょうど式は終わったらしい。新入生っぽいガキどもがワラワラと出てくる所で、更に、後ろの建物では教師っぽい人が『入学式』と書かれた垂れ幕が外される所だった。
それを見たオビトは肩を落とす。
と思ったら、今度は顔を新入生たちの方に向けて睨みつける。
オビトの目線を辿っていくと、そこには白髪に鼻まで覆う黒いマスク。
カカシ…か。
カカシが両手を上に挙げ、首を振る。
「なんだよ!」
「なんでもないよ。」
そっけないやり取り。
すぐに、二人は目線を逸らす。
オビトが目線を横に移動すると、横にいた女の子が封筒をオビトに渡した。
一瞬でオビトの顔が綻ぶ。
「ありがとう、リン!」
「どういたしまして。」
微笑む女の子、リンを拝むようにしてオビトは手を合わせる。
「ん?オビト、この子、お前のこれ?」
小指を立てながらオビトと肩を組む。
「ち、ちげーよ!俺とリンはそんなんじゃなくて。…友達!そう、友達なんだ。」
意味がわからないと思ってしてみたら案外、知ってた。
このマセガキめ。
首を傾げながらリンが尋ねてくる。
「これって何?それより、あなたは?」
「ああ、ごめんね。まだ名乗ってなかったね。俺は赤胴ヨロイ。さっきここにいるオビトと友達になった男さ。で、これっていうのは、むぐ!」
小指を立てたら、いきなりオビトに口を押えられた。
「なんでもないんだ、なんでも。」
慌てて誤魔化してるけど、あまりにもひどいぞ、その誤魔化し方。
「そう、ならいいや。私はのはらリン。よろしくね、ヨロイ。」
リンは手を打ち自己紹介を始めた。
「ぷはっ。よろしく、リン。」
オビトの拘束から抜け出して、リンに笑いかける。
じーっとオビトが見てくるけど、無視だ無視。
「ヨロイ。こんな所でなに油を売っているの?」
俺の天敵の声が背中の方から聞こえた。同時にリンに向けていた笑顔も消えた。
襟首を掴まれ持ち上げられる。
「ははは。さーません、大蛇丸様。」
「まぁいいわ。ところで、あなたが遅刻したのは私のせいだったかしら?」
「滅相もございません。全ては小生の不徳の致す所でございます。」
性格が悪いな、この男。俺が叫んでたことも知っているなんて。
大蛇丸様はジロッと一睨みしてから俺を地面に下ろす。
「受け取りなさい。」
差し出される茶封筒。
その裏には忍者アカデミー入学書類と書かれていた。
「次からは気を付けなさい。これから、あなたも忍になるのだから。」
「大蛇丸様、大好き!」
つい、感情が抑えきれなくなって変態ドSツンデレ男に抱きついたのは、俺の一生の不覚と呼ぶに相応しい出来事でした。