一流の銅ヤロー   作:クロム・ウェルハーツ

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@42 木ノ葉と音と砂と…!!

桔梗城、天守閣。その両端には巨大な(シャチホコ)があり、月夜に映えるその姿は威容を誇っている。目線を上げていくと、向かって右側にある鯱の上に小さな影がポツンとある。

 

「参ったな…。君は寝ないんですか?」

 

鯱に乗り、砂で出来た瓢箪を背負ったその小柄な影は自分に声を掛けてきた屋根に立つ人物に目線を向ける。

 

「…何の用だ?」

「寝込みを襲わせてもらおうかと思ったんですがね。…君をここで叩こうかと思いまして。そうすれば、一回戦…余り者のボクはサスケくんと戦える可能性もあるからね。」

 

小さな影は立ち上がろうとしているのか目線を自分の足元に戻す。それを見て、もう一つの人影は挑発するように言葉を紡ぐ。

 

「君の砂の攻撃は分かってるよ…。ボクの音とどっちが早いかなぁ…。」

 

それは自信。自分の実力に対して絶対の信頼を置いている者が放つ声色だ。しかし、その自信はここで完膚なきまでに打ち砕かれることになる。

 

「満月には…あいつ(・・・)の血が騒ぐ…。」

 

立ち上がった小柄な影はその姿形を異形のモノへと変化させる。

 

「な…何だ?お前は一体…!?」

 

慄く人影に向かって砂のバケモノが猛烈な勢いで向かって行く。おっと、このままじゃ間に合わない。シスイ直伝の超速い瞬身の術で闘う2人の間に躍り出る。

 

「!」

「あいたたた。重いな、これ。」

 

右手に伝わる衝撃はまるで砲撃。チャクラの鎧越しでも手が痺れるぐらいにはダメージを喰らってしまうとは予想外だった。自身の“チャクラを吸われている”のに気づいたのかバケモノが動く。砂でできた右手で俺の体を払おうとするが、俺の左手の方が早かった。チャクラでブーストを駆けた左手でバケモノの顔を殴りつけ、バケモノを桔梗城の屋根へと転がす。しかし、何事もなかったかのように立ち上がるバケモノを見て、思わず溜息をついてしまう。タフ過ぎんだろ、人柱力。

ふと、少し腹の方に違和感を覚え、視線を向けると服が破れていたのに気付いた。大方、奴の爪が引っ掛かったって所だろう。俺の攻撃はクリーンヒットしたというのに服とはいえカウンターで俺に攻撃を当てるとは大した奴だ。

 

「おう、ドス。助けに来たぞ。」

「ヨ、ヨロイさん…。なぜ、ボクを?」

「誰かを助けるのに理由がいるかい?」

 

砂を纏ってバケモノと化した我愛羅を見て震えていたドスの硬直がやっと解けたらしい。まだ、完全体じゃないのに、このビビりよう。こいつ、完全体を見たら気絶するんじゃなかろうかと思いながらも、それをおくびにも出さずに爽やかに、そして、優しく語りかける。ドスにとっては俺がヒーローに見えたに違いない。

 

退()け…。」

 

ドスとは別の方向から冷たい声が掛けられる。我愛羅だ。

 

「んー。一応、退いたらどうなるか聞いてもいい?」

「そこの“音”の忍を殺す。」

「ちなみに、退かなかったら?」

「お前を殺した後に、後ろの奴を殺す。」

「ってことは、俺が退けば俺を見逃す、と?」

 

砂で出来た狸っぽい我愛羅がニタァと笑う。狸のクセに器用な奴だ。

 

「ああ、お前は見逃してやるよ。」

「こ…ここを退けば…こいつを差し出せば…ほ……ほんとに…ぼくの“命”…は…助けてくれるのか?」

「ああ、約束してやる。…早く退け!」

「だが断る。」

 

俺たちの周りを木ノ葉が飛んで行く。

 

「この赤胴ヨロイが最も好きなことの一つは自分で強いと思ってるやつに『NO』と断ってやることだ…。」

「…貴様、巫山戯るな。」

「俺はいつだって真面目だぜ。」

 

俺がそういった瞬間、我愛羅のチャクラが膨れ上がり、周りを押しつぶす暴風となって俺たちを襲う。

 

「いい機会だ。お前の性能調査をしてやるよ。…来い、我愛羅!」

 

一つ咆哮が響き、我愛羅が攻撃を始めた。両腕を交差させ、一気に開くと砂でできた手裏剣がいくつも向かってくる。

 

「甘ぇ。」

 

ドスを引っ掴んで変わり身の術で我愛羅の攻撃を受け流し、彼の背後へと回る。そのまま、蹴りを背中に食らわせてやると意気込んだ瞬間、背中に冷たい物が走った。本能に身を任せ、その場から飛び退く。一瞬前までいた場所から砂が天に向かって突き上がった。いつの間にこんな(トラップ)をしかけてやがったんだ、こいつ!

我愛羅に注目する。すると、尻尾が屋根に埋まっていることに気づいた。

つまり、こういうことだろう。変化し、尻尾が生えた我愛羅はその尻尾で一旦、屋根を突き破り、タイミングを見計らって屋根の下から突き上げた。先日、俺が大蛇丸様にしたチャクラの鎧を形態変化させて地面から突き出した攻撃と同じようなものだ。

 

「甘いな。」

 

振り返り、体をこちらに向けてニタァと笑う我愛羅。何が『寂しそうな目をしてるってばよ』だ!無茶苦茶嬉しそうだっつーの!絶対、この時のこいつ、性格悪い!

…よし、いいこと思いついた。綱手様直伝の技を食らわせてやる。考えを纏め、それまで掴んでいたドスの服を離す。

 

「てめえは消えろ、ドス!目が届かなくなってもまだ遠くへな!四方三里いる内は…巻き込んで殺さねえ自信はねえ!………ドス?」

 

ドスのチャクラは全く動かない。後ろを振り返ると、ドスが震えたまま目を見開いていた。

 

「おーい、ドス?起きてる?…ドスさん、どないなさったん?」

「可哀想に。そこのザコ…俺を見て震えているじゃないか。」

「あっちゃー。んーと…影分身の術。」

 

印を組み、影分身体を隣に出現させる。俺の前からドスを掴んだ影分身体が瞬身の術で姿を消す。同時に俺も瞬身の術で我愛羅の目の前に現れる。

 

「!」

「気を抜いたらダメだろ。」

 

完全に我愛羅の虚を突いた攻撃。俺の中指が我愛羅の額を射抜こうとする。

 

「『獲物は常に気を張って逃げ惑うものよ』…らしいぞ。」

 

ピストルが鳴ったような音が夜の帳に響いた。同時に傷ついた獣のような鳴き声も。

 

「…ふむ。防御性能はなかなかだな。俺の本気のデコピンを受けてまだ立てるとは…。本来なら、額から上が吹っ飛んでいるハズなんだが。」

「グウゥ。」

 

理論値では、先程俺が言ったように額から上が吹っ飛んでいた。尤も、“普通の忍”が受けたと仮定したらという但し書きが付くが。砂の盾を使わずにこの防御性能は素晴らしいの一言だ。そして、攻撃性能は言うに及ばず。俺に攻撃を食らわせた体術、そして、後ちょっとで俺を捕まえることのできた戦略。素晴らしい。贅沢を言えば、術の運用についても見ていきたいが、そんなことをしたら建物が傷つくし計画に入っていない人間に気取られる可能性が跳ね上がる。

 

「我愛羅。」

 

軽い脳震盪を起こしている様子の我愛羅に声を掛ける。

 

「そう睨むな。お前にこれ以上危害を加える気はない。」

「ガァアアア!」

 

我愛羅が腕を振るう。チャクラを纏った腕は斬撃を発生させ、それは裂傷を桔梗城の屋根に付けながら俺に向かって来る。

 

「…だから、話を聞いてくれると嬉しいなーって。」

「!」

 

瞬身の術で我愛羅の横に移動しながら、我愛羅と肩を組みながら彼の右肩に右手を張り付ける。我愛羅と“眼”を合わせながら口を開く。

 

「今までのことは水に流して仲良くしようや、な?この戦いはお前の力を見るための模擬戦。だから、許して欲しいなぁ、我愛羅。」

 

我愛羅の体にこびり付いていた砂が剥がれ落ち、次いで背中に独りでに移動し瓢箪を形作る。こっちに興味を持ったな。

 

「俺たち“音”は君たち“砂”と手を組んでいる。このことは君の親父さんも了承していることだ。もうすぐ君たちの担当上忍のバキさんから詳しい説明があると思う。とりあえず、これからよろしく、我愛羅!」

「…ああ。」

 

言葉ではそういうものの、まだ心の中では不信感は拭い切れていないな。まぁ、それでいい。忍を相手に無条件に信用するのはバカのやることだ。この程度で十分だろう。

立ち上がると同時に我愛羅の右肩から右手を剥がす。

少し歩いて我愛羅から離れ、瞬身の術で我愛羅の目の前から姿を消す。行き先はカブトの所だ。

 

+++

 

「アンタ…大蛇丸の右腕と聞いたが…。木ノ葉やつらに顔まで明かしてノコノコ俺に会いに来るなんて…とんだうつけだな。」

 

カブトの所に行くと我愛羅たちの担当上忍であるバキさんがカブトを非難していた。彼らの右側から近づき、声を掛ける。

 

「バキさん。そのことなんですが、正体をバラしたんですよ。木ノ葉がどれだけ動いてくるか計る為にね。」

「そうとはいえ、かなり危険な賭けではないか?もし、アンタらがしくじるようなら“風”はすぐに手を引く。元々、“音”の方が持ちかけてきた計画だ。」

「大丈夫ですよ。俺は三代目火影に信用されているので。バレることはそうありませんよ。」

「それでも、砂はギリギリまで表にはでない。これは風影様の御意志だ。」

「わかりました。…カブト、計画書をバキさんに渡した?」

「いえ、これから渡そうとしていた時にヨロイさんがいらっしゃったので。…バキさん、これが音側こちらの決行計画書です。」

 

カブトは一巻きの巻物をバキさんに手渡す。

 

「それと…そろそろ彼らにも、この計画を伝えておいてください。」

「ああ…。」

「それじゃ、俺たちはお先に失礼させて頂きます。我愛羅くんにこっ酷くやられたので体の節々が痛いんですよ。」

「よく言うな、アンタは。こちらからはアンタの方が我愛羅を軽くあしらっているようにしか見えなかったが…。」

「そんなことないですよ。…カブト?」

 

カブトに呼びかける。

 

「私が後片付けをしておきますので…。どの程度の奴が動き回っているのかしっかりと確かめておきますから。」

「イヤ…。私がやろう。“砂”としても同志のために一肌脱ぐくらいせんとな。それに…。」

 

バキさんの首が回る。

 

「ネズミはたった一匹。軽いもんだ。」

 

そう言い残し、バキさんは瞬身の術で姿を消した。それにしても、あの人の顔…怖かったなぁ。心の中でも“さん”付けが取れない程である。もしバキさんに繁華街であったら、無言で財布を渡すね、俺ァ。

 

「ヨロイさん。」

「なんだ?」

「我愛羅くんの様子が…。」

「ああ、信じられないぐらいに強い。あれは大物になるぞ。」

 

実際、今から数年後には風影になるしな。

 

「いえ、そうではなくヨロイさんが彼に近づいた「カブト。」っつ!」

 

桔梗城を見ている顔をゆっくりとカブトに向けながら、チャクラを練る。

 

「知らないでもいいことは突っつかないべきだと俺は考えているけどお前はどう?聞かれる方は何も言わなくていい、聞く方も…。Win-Winの関係だと思うんだ。」

「おっしゃる通りです。」

 

カブトは唾を飲み込む。

 

「ありがとう、カブト。」

 

チャクラを練るのを止めると、カブトが大きく息を吐いた。

 

「お前の観察力、情報収集力、分析力には期待してるよ。願わくば…それで身を滅ぼすことのないように気を付けな。」

「ハイ。」

 

この世界には語られなかった謎がいくつかある。それを指摘して鬼の首を取ったように振る舞うのは下賤だと思わないか?

あー、ごめん。爺さんのやったことで色々謎っつーか矛盾があるよね。まぁ、その謎を楽しむよ。それが、転生者の愉しみだし、ね。


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